When the Music's Over

音樂の話とゲームの話

No Man's Sky #1

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ねんがんの No Man's Sky をてにいれたぞ!

No Man's Sky といふゲームをご存知だらうか。 それなりにゲームが好きな人には知られてゐると思ふが、このゲームは、もともとは惡い意味で有名だったゲームである。

内容は宇宙探索サバイバルゲームなのだが、 發賣した當初は、デベロッパによる大言壯語に比べてゲーム内容があまりにお粗末な上、 かなり強氣な値段設定だったため、非難轟々だったのだ。

で、それにもめげず精力的かつ意欲的なアップデートを續けた結果、 現在では Steam での評價が「やや好評」にまでなった。 かつて「不評」だったものがここまで盛り返した例を、おれはほかに知らない。

興味がある人は、Automaton の記事を讀んでもらひたい。

さて、サバイバルクラフトゲームが大好きなおれではあるが、 正直、かつては No Man's Sky にそれほど興味を持ってゐなかった。

なんでって、宇宙を舞臺にしたサバイバルクラフトゲームって、いっぱいあるんですよ。 有名所だけでも、 AstroneerSpace EngineersEmpyrionOsiris: New Dawn とぱっと思ひ浮かぶだけで 4 つもあり、 しかも最初の 3 つはすべて持ってゐる(最後の 1 つは、友人が遊んですぐ飽きてゐたので、今後も買ふつもりはない)。

この中で、おれが最も注目してゐたのは Empyrion だったのだが、 ある時期を境に、おれの興味は No Man's Sky に移った。 それは、No Man's Sky が、 2019 年 12 月 16 日のアップデートで、なんとゲーム内にミュージックシーケンサを導入したからだ!

大型パッチ、Beyond の第 5 段としてリリースされたこのアップデートは、おれの心を鷲摑みにした。 だってさあ、シーケンサですよ? 自分の據點にシーケンサ置いて、自分の作った曲を流せるんですよ?  しかも、動畫を見る限り、それなりにちゃんとしてゐる。 こんなもんやるしかねえだろ。

ってんで、ずっと購入の機會を窺ってゐたのだが、このゲーム、値引きが澁くて、 どうがんばっても $21 ぐらゐから下がらないんですよ。 今年は $21 になることすら稀で、さすがに我慢できなくなって買ってしまった。 なんか、期間限定だったミッションが今だけ復活してるっていふしさ…。

で、先日からちまちま遊んでるんですけど、 これはだめですね、時間がいくらあっても足りないやつですわ。

一應、まだ最初なのでやるべきことが右下に表示されて、 その目標をちくちく達成していくプレイではあるんだけど、 その邊にいろんなものが落ちてるんですよ。 そしたら、調べたり拾ったりしちゃふぢゃん?  さういふことをしてると、目標の達成にえらく時間がかかってしまふのだ。

しかもこのゲーム、まだ序盤だからってのもあって、セーブがなかなかできない。 具體的には、自分の宇宙船のあるところとか、ビーコンの立ってるところとかぢゃないと無理。 お蔭で、昨日も今日も、うっかり死んでしまった所爲でセーブしてた地點に戻され、 それを區切りにゲームをやめることになった。 死ななければずっと續けてたかもしれない。危ない。

でも、實は、携帯できるセーブポイントの作り方を憶えてしまったんですよね。 明日からはまめにセーブしてがんばりたい所存。

まだ始めたばかりなのでゲーム内容で書くことはないんだけど、 ちょこちょこプレイ日記を書かうかなと思ふ。 今年はあんまりゲームを熱心にプレイしてなくて、音樂の記事ばっかりになっちゃったし。

ちなみに、いろんなプラットフォームで遊べる No Man's Sky ですが、 どのプラットフォームでも一緒に遊べる機能は既に實裝されてゐる。 一番安く遊ぶなら、Xbox Game Pass がサブスクリプション方式で一ヶ月なんと 100 圓。

異星人と話すには、まづ言葉を憶えるところから始めなくてはならない No Man's Sky、 あなたもどうですか。

bandcamp volume

先日、Windows Update に卷き込まれて Firefox が強制終了されて以來、 いくつかのアドオンが全く機能しなくなってゐたので、 仕方なく Firefox をリフレッシュしたのだが、 なんと、長年愛用してゐた bandcamp volume を再インストールしようとしたら、 もう公開されてない!

いやいや、待って。 bandcamp はヴォリュームを調整する機能がないし(デフォルトだとすごくうるさい)、 つける氣もないと公言してゐる(いつの間にか FAQ から消えてゐたので、「公言してゐた」が正しいかもしれない)ので、 おれみたいな bandcamp ヘビーユーザーには必須のアドオンなんですけど?

もちろん、代替アドオンはいくつかあるのだが、 どれもこれも、獨自ドメインを採用してゐるサイト(Opal Tapes とか)で動作しない!

仕方ないので、Internet Archive の Wayback Machine から xpi を引っ張ってきてインストールした。 問題なく動きますね。いやー、よかったよかった。

で、また同じやうなことがあったときにやきもきするのは嫌なので、 ここにメモしておくことにした。 twitter にでも貼っておかうかと思ったのだが、絶對に忘れるのでこっちにしておく。 下にリンク貼っておくので、必要な人はどうぞ。

salvaged bandcamp volume

Acid Mothers Temple

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このブログで、唯一交流があると云っていい hiroshi-gong さん が、 最新記事ではてなブログ 10 周年企劃である「好きな◯◯ 10 選」に答へる形で、 「Gong および Daevid Allen の好きなアルバム 10 選」といふ記事を書かれてゐる *1

で、おれは Gong についてはそれほど熱心なファンではなく、 当該記事で紹介されてゐるほとんどのアルバムは未聽なのだけれど(すみません)、 好きなアルバムがないわけではない。 それは、Acid Mothers Gong 名義のアルバム、Live in Tokyo である。

理由は單純で、これは、おれが會場にゐたライヴだからだ。 つまり、生で Daevid Allen と Gilli Smyth を見ることができたライヴなのである。 選ばない理由がないですよね?

名前からわかる通り、Acid Mothers Gong は Acid Mothers Temple(以下、AMT)と Gong との融合バンドで、 結成の經緯などについては、河端さんが AMT の公式サイトに書いてゐるブログに詳しい。

そのブログにも書かれてゐる通り、Acid Mothers Gong のアルバムは、賛否両論ある。 舊來の、それこそ hiroshi-gong さんが敢へて外した Radio Gnome Invisible 三部作を愛するファンたちからは 「こんなの Gong ぢゃない!」と非難轟々、 昔の Gong だけに拘らないファンからは「これぞ Gong だ!」と歡迎されてゐて、 評價が兩極端なのだ。

でも、個人的に、AMT と Gong は、すごくよく似たバンドだと思ふ。 音樂が、ではない。バンドとしての有り樣が、である。 どっちも、バンドといふより、ヒッピーのコミューンみたいな共同體と云ったはうがよささうな繋がり方をしてゐる。

hiroshi-gong さんの記事にも書かれてゐる通り、 Gong には派生バンドが山ほどある。 Daevid Allen も Gilli Smyth もゐない Pierre Moerlen's Gong だとか、 Daevid Allen はゐるけど Gilli Smyth はゐない New York Gong だの(Bill Laswell がゐる)、 Daevid Allen はゐないけど Gilli Smyth はゐる Mother Gong だの、 Gong と名がつくバンドだけでもいくつもあって、どれもこれもカヴァーするにはかなりの熱意が要る。

AMT もさうだ。 Acid Mothers Temple のあとに來る名前は、編成によって異なる。 宗家と呼ばれるのは Acid Mothers Temple & the Melting Paraiso U.F.O. だが、 ほかに Acid Mothers Temple & the Cosmic Inferno、 Acid Mothers Temple SWR、Guru Guru の Mani Neumeier とやるときの Acid Mothers Guru Guru なんてのもあり、 メンバーも流動的だ(常にゐるのは河端さんだけ。東さんも SWR 以外はゐると思ふけど)。

Gong については hiroshi-gong さんがたくさん書いてくださってゐるから (どれも Gong 愛に滿ちたすばらしい記事だ)、 AMT についてはおれが書かう。 まあ、おれは AMT の大ファンでもなければ、思ひ入れがあるわけでもないんだけど。

Acid Mothers Temple といふバンドが、どういふ來歴を持つバンドなのか、などといふことは割愛する。 公式サイトに行けば詳しく書いてあるし(英語だけど)、知りたい人は勝手に調べるでせう?  そんなことより、AMT がどんな音樂をやってゐるのか、といふ話をしよう。

AMT をジャンル分けすることは容易だ。 サイケデリック・ロックである。それ以外の何物でもない。

一口にサイケデリック・ロックといっても、樣々なサブジャンルがあるのだが、 數あるサイケデリック・ロック・バンドの中でも、隨一のサイケさを放ってゐるのが、AMT である。 ギラギラぐにゃぐにゃ、一から十まで、どこを聽いてもサイケ! それが AMT だ。

AMT を聽いてゐると、これぞサイケだ!といふ氣分になるのだが、 實際にサイケデリック・ロックを漁ってみると、AMT のやうなタイプのものは寧ろ少ない。 例へば、ドリーム・ポップやシューゲイザーはもっとぼんやりとした、幻想的サイケだし、 クラウトロックやテクノは同じことの繰り返しで眩惑する感じだ。 サイケの祖ともいへる The Grateful Dead も、緩くふんわりとした、惡い云ひ方をすればダラダラとした音樂である。

それに對して、AMT の音樂は實にハイテンションだ。 中心人物の河端さんの擔當がギターに加へ speed guru とクレジットされてゐることからもわかる通り、 AMT は怒濤のスピードでぐいぐいと前進していく曲が多く、 音樂的にはハードロック寄りである。Hawkwind がちょっと近いかもしれないが、 これはきっと、河端さんが云ふやうに Deep Purple からの影響が強いのだらう(でも、Deep Purple よりずっとスピーディーだ)。

どのアルバムが入門に最適かと問はれれば、 きっと定番曲だらけの 1st が一番だらうが、 あれは PSF から出てゐた、つまり廃盤なので入手はちょっと面倒かもしれない(中古で賣ってると思ふが)。 それに、こんなこと云ったら怒られるかもしれないが、 AMT の音樂は發展性なんてまるでないので、Melting Paraiso U. F. O. 名義の好きなやつを買へばよろしい (ライヴ盤がおすすめ)。 實際、おれだってタイトルが氣になったやつとか、ジャケが氣になったやつしか買ってゐない。 で、いつも中身は大體同じだし、そのくせ、どれもかっこいい。

だから、どのアルバムを買ってもいいし、可能なら、ライヴに行くのがいい。 やっぱり、かういふ派手なバンドは、生で見るのがいいですよ。

それともう 1 つ、ele-king によるこのインタヴューがすばらしいので、これは是非、讀んでほしい。 ぶっちゃけ、おれが ele-king で一番好きな記事なので、AMT に興味がない人でも讀んでもらひたいぐらゐだ。

AMT がけっこう商賣的なことを考へてゐることがわかるのも面白いが、 何より、音樂といふものへの考へ方に同意できるところがたくさんある (ジャズについては、全然贊成できないけど・笑)。 例へば、5 ページ目にあるこの下り。

もともと音楽にメッセージを乗せないというのが俺の主義なんで。音楽は音楽でしかないから。歌詞らしきものが乗っていてもそこに意味はないし。何語で歌ってようが、内容はどうでもいい。ヴォーカルっていう楽器が入ってるっていう。音楽にメッセージを乗せなあかんようだったら、メッセージを直接話せよと。人のやってることは構わへんけど、「音楽で世界に平和を」とか、お前らアホかと。

たとえば反原発とかでも、俺も意見はあるよ。でも音楽を手段に使うなと俺は言いたい。音楽好きな人でも原発推進派の人もおるやんか。それを反原発に使われてしまうと、原発推進派の人は「ええー、何なん?」てなるでしょ。音楽はそれに対して責任はないんで。音楽はその音楽を好きな人に対してシェアされるべきやから、政治的な理念とかそういうことでシェアされるべきではないんですよ。

全くですよ!!!!!!!

もうこれは、おれが常々思ってゐることで、讀んだときには感激した。 自分以外にも、さういふ風に考へてゐる人は確かにゐるのだ、と。

あれ、でもちょっと待って。 このインタヴュー讀んだら、おれが書いたことはほとんど書いてあるんぢゃあ…。

*1:その前は「はてなブロガーに 10 の質問」で 「好きなはてなブロガーは?」のところに名前を舉げてくださった。光榮の極みだ。ありがたうございます!

JPEGmafia: LP!

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Ornette Coleman の代表曲、Lonely Woman が收録されたアルバムには、 『ジャズきたるべきもの』といふ、實にかっちょいい邦題がつけられてゐる。 が、おれはこれを誤譯だと思ってゐる。

もともとのアルバムタイトルは、The Shape of Jazz to Come だ。 しかし、『ジャズ來るべきもの』といふタイトルは、「ジャズ=來るべきもの」としか讀めず、 それだと「これからジャズが來るぜ~」みたいな意味になってしまふ。

Ornette Coleman がこのアルバムを發表した 1959 年は、 「これからジャズが來る」時代ではない。 なんせ、1959 年はジャズ史に殘る大傑作、Miles Davis による Kind of Blue が出た年で、 ジャズはまさに成熟のときを迎へんとしてゐたのである。

だから、Ornette Coleman が云ひたかったのは「これからのジャズはかうなる!」といふことであり、 アルバムタイトルは、『來るべきジャズの形』と素直に譯されればよかったはずだ。 事實、Ornette が提示したジャズの形はフリージャズといふ一大潮流を産み、 それは今に至るまで續いてゐる。

かういったものをこそ「前衛」と呼ぶのだとおれは思ふ。 「前」であるからには、その後に續く者が出なくてはならない。 單に人と違ふ奇抜なことをやったからといって、 それがすべて前衛になれるわけではない。

例えば 20 年前、Autechre の音樂は確實に異質であった。 それが今や、當時の Autechre のやうな音樂は當たり前に存在する。 なんなら、そこに歌まで入ってしまふ。 Autechre が前衛的であるといふのは、さういふことだ。

さて、JPEGMafia といふ、巫山戲た藝名を持つヒップホップアーティストがゐる。 彼の名が廣く知られるやうになったのは、2018 年のセカンド、Veteran からである。

その JPEGMafia が今年リリースしたアルバムこそ、LP! だ。 これは彼にとって 4 枚目のアルバムであり、また、ユニバーサル傘下である Republic から出る最後のアルバムでもある。

JPEGMafia 的に、このアルバムはかなりしんどい状況で制作されたやうだが *1おれからすれば、これぞ The Shape of Hip-hop to Come である。

このアルバムに入ってゐる曲は、どれも普通のヒップホップではない。 1 曲ごとにいろんなアイディアが散りばめられてゐるし、1 つとして同じものはない。

なのに、奇を衒ったものだといふ印象は全くない。 恐らく、ここに提示されてゐるヒップホップの形は、 將來的に特に珍しいものでもなくなるだらうと豫感させる力がある。

今のところフィジカルでのリリースがなく、 bandcamp、YouTubeSoundCloud のヴァージョンと、 Spotify を始めとするストリーミングサービスでのヴァージョンとに異同があることも (前者は offline version、後者は online version と名付けられてゐる)、 無料で最高音質のものがダウンロードできてしまふことも、 來るべきリリースの形と云はんばかりだ *2

本來なら、1 曲づつレヴューでも書くべきなのかもしれない (それこそ、Veteran のときの ele-king のやうに)。 だが、おれの感想文など讀む暇があったら、とにかくこのアルバムを聽いて、 リアルタイムで前衛に触れられる歡びを味はってほしい。 なかなかできる經驗ぢゃありませんよ。

ところで、收録曲の中の GOD DON'T LIKE UGLY!Im a young frank Zappa って詞があるのには少し驚いた。ヒップホップの人でも Frank Zappa 聽くんですね。

*1:でかいレーベルからアルバムを出すのはかなりのストレスだったらしく、 bandcamp のページには「やっと自由だ!」みたいなことがつらつらと書かれてゐる

*2:尤も、かうした形式でのリリースは現代でもさう珍しいわけでもないが

bandcamp daily: October, 2021

實は 10 月はチェックをサボりまくってゐて、 後半になってから處理し始めたので、えらく時間がかかってしまった。 その間、ローテーションに入れてるものはあまり聽けないし、 なのにほしいものも買ったものもどんどん増えていくし、悲慘な日々であった。 でも遂にこれで追ひつく。 やうやく餘裕を持った生活が送れるんだ!

10 月 1 日の album of the day は Dark Entries といふレーベルからリリースされたコンピ、 Back Up: Mexican Tecno Pop 1980–1989 の紹介。

2005 年にメキシコの AT-AT records からリリースされた 13 曲入りコンピ Backup Expediente Tecno Pop からの 8 曲に 2 曲を加へ、 レコードにプレスしてしまった、どえらいマニアックな作品。

タイトルにはテクノポップと謳はれてゐるが、音はニューウェーヴ寄り。 クソみたいにチープなシンセがみょんみょん鳴りまくる、キッチュな曲がずらり竝ぶすばらしいコンピで、 8 曲目の Escuadrón Del Ritmo なんて、まるで Suicide だ。 どうせ再發みたいなものなんだから、もっと發掘して 2 枚組とかにしてくれればよかったのになあ。

10 月 1 日は the best albums of summer 2021 特集も。 よかったのは 3 枚(かなりたくさん紹介されてたけど…)。

まずは昨年、ラッパーの片割れ Stepa J. Groggs が亡くなってしまった Injury Reserve の新譜、By the Time I Get to Phoneix。 ってまあ、Injury Reserve のことなんて知らなかったんですけどね。 聽いてみたら、IDM のやうなズタズタなリズムの曲が多くて最高。 もっと早く知っておきたかった。これ以前のアルバムがどんなものだったのかはまだ知らないが、 一人亡くなってもこんなアルバムを作ってくれるなら、これからも安心して追っかけられるな。

2 枚目は Low の Hey What。 スローコアなるジャンルを作ったと云はれる人たちなんですってね。 同時代のロックをほとんど聽かないのでこれまた全然知らなかった。 でもこれ、ポスト・ロックとさして違はなくない? Mogwai に歌が入ったらこんな感じかなって印象 (まあ、Mogwai も聽かなくなって久しいので、この印象が現在の Mogwai に合致してゐるかどうかもわからんけど)。 もちろん、まんま Mogwai なわけではないが、美意識が Mogwai と同じ方向を向いてるなと感じさせる音作り。 人氣ありさうだなあとは思ふものの、自分では買はないやつ。懷かしいものを感じさせてくれたのはよかった。

3 枚目、Yola の Stand for Myself はあまりによすぎて、 聽いた瞬間に虜になってしまった。 ちょっと調べてみたら、2019 年にデビューしていきなりグラミー賞の 4 部門にノミネートされてるわ、アルバムは Warner から出てるわ、 超メジャーアーティストぢゃないですか。 でも、ソウル色の強い 70 年代ロックにソウルフルなヴォーカルが乘ってる感じで、正直たまらん…。くそ…。

10 月 4 日の featuresNumero から出た驚愕の 5 枚組リイシュー、Pastor T.L. Barrett の I Shall Wear a Crown に伴っての Pastor T.L. Barrett その人へのインタヴュー記事。 Numero から出るソウルのリイシューものはいつもすばらしいものだらけだが、これまた珠玉の逸品。

ジャンル的にはゴスペルといふことになってゐて、確かにコーラスワークはゴスペルなのだが、音樂は完全にソウル。 既に Numero からリイシュー濟みの Like a ShipDo Not Pass Me by Volume 1 に加へ、 Do Not Pass Me by Volume 2I Found the Answer、 ボーナス・ディスクにシングルなどなど代表作の詰め合はせ。 詳しくは、なんと萩原健太さんがブログにて取り上げてゐるので、そちらを參照していただきたい。

デジタルならたった $40。レコードも 5 枚組にしては送料が安く、日本のレコード屋に注文するよりずっと安い。 Numero の作品はレコードで持ってゐたい、といふ拘りがないから買ふならデジタル、と云ひたいところだが、 これ、デジタルだと CD 4 枚分しか入ってないっぽいんだよね。フィジカルで買ふしかないの? マジ?

10 月 4 日の album of the day は、 なんと Black Dice の新譜 Mod Prog Sic について。

何が驚いたって、Black Dice の名前を聞いたのがそもそも久しぶりすぎるってこと。 しかし、Black Dice の bandcamp を見ると、最近になって細かいのをちょこちょこリリースしてたみたい。 アルバムとしては、2012 年の Mr. Impossible 以來だから、なんと 9 年ぶり。 そりゃ懷かしく感じるわ。

Black Dice の音樂をポップと評するのは確實に間違ひだらうが、 Black Dice にはポップとしか云ひやうのない輕さがある。 もっと云へば、Black Dice の音樂は巫山戲てゐる。アホの作った音樂ではないか、とすら思ふ。 當然、そんなことはないんですけどね。

細かく計算されたものなのかどうかはわからないが、巫山戲てゐるやうでも Black Dice 以外の何物でもなく、 おれはその Black Dice の作る音樂が好きなのである。 別のバンドが似たやうなことをやっても、それはきっと Black Dice のやうにはならないし、それをおれが好むかどうかだって全然わからないのだ。

10 月 5 日の best experimental はよかったのが 4 枚。

1 枚目は Olivia Block の October 1984。 2017 年に eBay で買ひ漁ったカセットの中に、1984 年 10 月に録音された病院で亡くなった父のことを語ってゐるものがあり、 2017 年に同じく父を亡くした Olivia Block がそれに共感を持ってこの曲のアイディアになったらしい。 元のカセットの語りも使はれてゐるやうだが、たまに遠くから微かに聞こえる程度で、 あとは電子音だったり環境音だったりで、これぞミュジーク・コンクレートといった感じの作品。 電子音樂は全般的にどう紹介していいのかわからないので、これについても聽いてほしいとしか云へないが、 やっぱりかういふ、靜謐とした中で、ガサゴソ音が鳴る感じのやつ、好きですね。 派手なのも好きだけどさ。

2 枚目は Norman W. Long の Black Brown Gray Green。 bandcamp に賄賂でも拂ってんぢゃないの、と思ふぐらゐ bandcamp daily で紹介されることの多い Hausu Mountain レーベルの作品だが、 ここがこんな電子音樂をリリースするレーベルでもあったとは。 前に紹介した Prolaps もこのレーベルから出てる(vol. 3 が出たので、また bandcamp daily で紹介される豫感)。 蟲や鳥の鳴き聲を用ゐたコンクレートものがメイン。 最初に入ってるライヴのトラックが派手な電子音なんかも入ってゐて一番面白い。 あとの曲は、ちょっとつまらない繰り返しが多いかな、といふ印象。

3 枚目は Sarah Terral の Le Ménisque Original。 Rafael Toral の Jupiter and Beyond を出したレーベルなんですね。スイスのレーベルってのは初めて見たな。 短い曲が多い分、いろんなタイプの電子音樂が入ってゐるのがいい。 バキバキタイプ、みょんみょんタイプ、ガサゴソタイプ、グシャグシャタイプなどが 1 枚で樂しめるアルバムはあんまりない。 なんならちょっとだけエレクトロニカっぽいのだってある。 Sarah Davachi みたいに短いドローンをポップに聽かせるアーティストも出てきてゐる昨今だが、 これもドローンではないにせよ、さうしたポップな印象を受ける。 もっと電子音樂をポピュラーにしていけ。

最後は RN White の Cerebral Split。 ハーシュノイズの人らしいが、別にハーシュってほどぢゃなかった。 2 曲目とか綺麗なドローンだし(おれのあんまり好きぢゃない感じのやつ)。 ノイズまみれの電子音樂といふ感じ。 普段はノイズをほぼ聽かないおれだが、まあこれぐらゐのならいいかな。

10 月 5 日の best beat tapes は當たりが多かった。

dakim の regos_chillin' はインストもので、 キックをジャストなタイミングに入れずずらすことによってガクガク感を持った曲ばかりなのだが、上モノはチル。

GRAYMATTER の Tao Te Gray もチルい作品だが、 こちらはソウル色の強い曲も。半端なところで切られたループを用ゐることでビートにフックを與へてゐる。

L'Orange の The World Is Still Chaos, But I Feel Better もソウル色が強い。 上の 2 作ほどリズムが變だったりはしないが、こちらは 1 曲に使はれてゐる曲が多く、切り替へが早いため、1 曲のうちでもテンポが變はったりする。 L'Orange は前にも bandcamp daily で紹介されてゐたから、聽くのは初めてぢゃないけど、これが一番好き。

で、上に舉げた 3 枚はどれもいいんだけど、缺點は短いこと。特に GRAYMATTER と L'Orange は曲が短いからその部分で欲求不滿になる。 その點、Dome of Doom レーベルの設立 10 周年を記念したコンピ Decade of Doom は 4 ~ 5 分の曲がたくさん收録されてゐてよい。 コンピだからいろんな曲が入ってゐて、上に書いたやうなリズムが普通とはずれてゐるもの、ソウル色の強いものなんかもばっちりある。 ここまでの 4 枚のうちどれか 1 枚なら間違ひなくこれだが、問題は 30 曲で $30 と、bandcamp の相場からするとちょっとお高いこと。うーん。

10 月 6 日の acid test でよかったのは 2 枚。 plunderphonics のタグがついてゐるが、 1 つは Suite 309 の Titanic II。 ビデオ(VHS)が現役だった頃のハリウッド映畫で使はれた歌によるループ作品。 確かに John Oswald 作品を思ひ起す、メジャーどころの音樂がズタズタに引き裂かれてつながれてゐる作品。 John Oswald 好きだし、デジタルだとたった $1 だから買ってしまった。

もう 1 つは Helena Celle's Correspondence Table の Glasgow DecentralSpeaker Music を想起させる、ストイックで偏執的な、細かいリズムが襲ひくる作品。 すべて 4 分きっかりなのもパラノっててよい。 なかなかいいなとは思ったのだが、10 ポンドはたけえなあと思ってゐたら、 リリース元のレーベル Fort Evil Fruit では、デジタル版 5 ユーロ、カセット 6 ユーロ(+ 日本への送料 3 ユーロ)で賣られてゐる。 こっちのが全然安いぢゃん! ってんで、これまたデジタル版を買ってしまった。

10 月 6 日の best hip hop でよかったのは、 Common の新譜 A Beautiful Revolution (pt 2) だが、 まあこれは 9 月にも特集されてたので省略。

10 月 7 日の album of the dayJerusalem in My Heart の新譜。 發賣元の Constellation Records をフォローしてゐるからリリース自體は知ってゐたが、知らないバンドなのでスルーしてしまってゐた。 正直、Constellation をフォローしてゐるのは、かつてよく聽いたなあといふ懐かしさのみが理由だったので、 こんなバンドと契約してゐるなんてびっくりした。

いや、バンドではないか。 レバノン系カナダ人の音樂家 Radwan Ghazi Moumneh とモントリオール在住の映像作家 Erin Weisgerber による a live audio-visual performance project らしい。 なんだかよくわからんが、映像とのインスタレーションを重視してゐるみたいですね。 電子音とアラビア音樂との混淆って感じだが、1 曲目のインパクトがすごい。 ほかの曲はおとなしめのものばかりで殘念だが、 去年すばらしい電子音樂アルバムを出した Fly Pan Am の Roger Tellier-Craig がゲスト参加してゐる曲はグリッチノイズ風の電子音をうまく装飾に使ってゐてさすが。 Moor Mother との共演作は期待はずれ。 全部 1 曲目あるいは 7 曲目みたいので占めてくれれば迷ひなく追っかけるんだけどなあ。

10 月 11 日の記事 は、 The Caretaker のことについてのエセー。 おまへの話なんか知らんがな…、とは思ったが、 The Caretaker が bandcamp でも買へる(しかもめちゃんこ安い)ことの宣傳と割り切ればまあ…。

個人的に、The Caretaker は限定でレコードを出す→すぐ賣り切れて discogs に轉賣屋が高値で出品って流れが新譜出るたびに繰り返されるのが嫌になって追ひかけるのをやめたアーティストで、 James Leyland Kerby にとって The Caretaker はもう終はったプロジェクトだらうし、 最後の 6 部作も最後のはうは The Caretaker 名義といふより James Leyland Kerby 名義の作品に寄っていってたから、 また新譜を出してほしいとは思はないが(それに、どれもこれもおんなじだしね)、 まあ、bandcamp で安く買へたのは個人的にもありがたかったので (發賣當時から賣ってたのは知ってたが、かつては bandcamp で買ふことに抵抗があって値段すら見てなかった)、 これでおれみたいな人が増えるのなら喜ばしいことだ。

10 月 11 日の best soul でよかったのはなんといっても MMYYKK(これでマイクと讀むらしい)。 アホっぽいシンセ入りまくりなのがとにかくいい。しっとり系のソウルなのに無駄に宇宙音入れちゃふところとか、もうたまらない。 なんでメロウな氛圍氣を自分から壞してんの? 最高だあ。脱力系ソウルの名盤ですよこいつぁ。 ただ、EP で曲が少ないのがなあ。レコード買ふか、デジタルで買ふか…。

10 月 13 日の best jazz は途中でチェックをやめたくなるほど多量のアルバムがリストアップされてゐたが、 氣になったのは New York United の Volume 2 ぐらゐ。 このバンドの面白いところは、ロックバンドである Blue Foundation のヴォーカルやギター、プロデュースを務める Tobias Wilner が參加してゐることで、 Tobias Wilner のお蔭でどの曲にもぼんやりと靄のかかったやうな、幻想的な空氣が賦與されてゐること。 ジャズといふ音樂は、曲のアンビエンスをほとんど問題にしない音樂なので、 かうやって曲が獨自の空氣をまとってゐるのは珍しく、未開拓の部分を見せられた感じ。

10 月 13 日の lists では、maloya といふ、レユニオンの傳統音樂が紹介。 でも、せっかく知らない土地の音樂なのに、豫想を超えてくるやうなのは特になし。 Nyege Nyege から出てる Jako Maron The electro Maloya experiments of Jako Maron はさすが Nyege Nyege だけあってちょっと面白かったが、わざわざ買ふほどぢゃあないなあ。

10 月 13 日もう 1 つの lists は變態電子音樂作家 Felix Kubin の作品紹介 。 電子音樂といっても現代音樂系ではなく、わかりやすい單純なリズムにチープな電子音の乘った、ポップな類のやつだ。 といって、テクノ系やエレクトロニカ寄りなわけでもなく、ニューウェーヴやポスト・パンクに近い。 一番近いのはテクノ・ポップかな? 歌の入った曲も多いし。ヒカシューとか、こんな感じぢゃないですか。 記事にある通り、最初に紹介されてゐるコンピ、Axolotl Lullabies が入門には最適だらう。

10 月 14 日の features はジャンベ奏者 Weedie Braimah のインタヴュー。 紹介されてるアルバムで聽けるジャンベは、確かにめちゃうまなんだけど、どれも曲がそこはかとなくだせえ…。 音色のチョイスは惡くないんだけど、ギターのフレーズが、過剰なオシャレ感を演出しようとして失敗した、まるでフュージョンのやうなものばかりで赤面してしまふ。 もうちょっとほかにこのジャンベの腕前を活かせる音樂あったでせうに、もったいない…。

10 月 15 日の lists は Parliament/Funkadelic のキーボード奏者として有名な Bernie Worrell のソロ作品紹介 なんだけど、旧譜はどれも無駄にたけえ! これなら CD 買ったはうがいいんぢゃないのか。 新しめのは安いけど、そこまで追っかける人は、きっといくらだらうと買ふよ、きっと。 おれも P ファンクは好きだけど、わざわざ Bernie Worrell のソロを最近のものまで買はうとは思はない。 Sun Ra のカヴァーやってたのはちょっと意外だったけど。

10 月 15 日のもう 1 つのリストは、ゼルダの伝説に影響を受けた、メタルアーティスト。 なんでメタル限定なんだ…。長らくゼルダやってないけど、ゼルダってメタル要素ありましたっけ???

10 月 20 日の features は、 およそ 10 年ぶりとなる Pepe Deluxé の新譜、Phantom Cabinet vol. 1 の紹介。 Pepe Deluxé の何がすばらしいって、音に對するフェティシズムだ。例へば、この PV を見てほしい。

おれは PV といふものを見ることがほとんどない。 YouTube で動畫を再生することがないわけではもちろんないが、 再生するのは音を聽くためであって、映像を見るためではないから、 再生ボタンを押したらあとは別のタブを開くなりして、余所事をしてゐる。 音が聞こえればいいからだ。

でも、上の PV は違ふ。 本來の音樂に、餘分な効果音が附け足されまくってゐる。 コーヒー豆がカラカラいふ音や、魔法を出すときの音、液體を注ぐ音や肖像畫の出す聲は、もとの曲には入ってゐない、 この PV だけの音である。 かういふ、ちょっとした拘りを見せてくれるアーティストっていいですよね。

では、その PV が最高でアルバムに入ってゐるはうはどうでもいいのかといふと、そんなこともない。 YouTube の音質なんてたかが知れてゐて、Pepe Deluxé の凝った音響をフルに樂しめはしないのだ。 音の定位を氣にするだけでも面白いので、 Pepe Deluxé の魅力を最大限に堪能したいなら CD やレコードを入手するか、 ロスレス音源を入手するかしたはうがいい。

親しみやすいキッチュな曲に加へ、音に耳を傾ける樂しさも味ははせてくれる Pepe Deluxé の新譜、是非あなたもどうぞ。

同日の lists は exploring the world of indie pop on Bandcamp と題されたちょっと古いインディー・ポップの紹介。 さすがにもうインディー・ポップで新しいものもないだろ、と思って適當に飛ばしまくって聽いてゐたのだが、 唯一、おっこれはかはいくていいな、と思ったやつが日本人のバンドだった。 フラワーベルカウといふんださうな。 リリースはこの 7 インチだけ!  紹介されてゐるアーティストは、どれもこのフラワーカウベルに劣らぬ愛らしさを持ったバンドばかりだったが、 なんでこれだけ妙に引っかかったんだらう。 しかしこれ、7 インチは賣り切れてるわ、デジタルでは賣ってないわで入手手段がないぢゃん!  もっと商賣に貪欲になって。

10 月 21 日の album of the day はフロリダの兄弟デュオ Tonstartssbandht の最新作 Petunia の紹介。 おれは全く知らなかったのだが、このデュオは 2008 年から活動してゐるらしい。 それにしちゃあ、そこはかとなく下手ぢゃないすか? 特にドラムが。

長く音樂を聽いてゐると、もちろん下手な演奏を耳にすることもある。 The Shaggs とか The Portsmouth Sinfonia なんかは、音樂好きなら一度は聽いたことがあるはずだ。

でも、さういふのが面白く感じるのは、やっぱり一瞬なんですよ。 ずっとそんなものばかり聽いてはゐられない。 頭の中の音像を具現化するには、演奏力だけでなくアレンジ能力や録音に對する拘りだって必要だし、 現代の音樂って演奏技術の平均水準は(録音後の修正技術込みで)非常に高いので、下手な演奏はやはり目立ち、 單純に不快であることが多い。

なのに、このデュオの場合はさういふ不快感がない。 どことなく不安定なリズムが、ミニマルな曲のスタイルに合致してゐて、 寧ろそれが獨特の味を作り出してゐると云ってもいいほどだ。 ほんのり感のあるサイケ。さすがにわざとではないと思ふが、 下手な音樂を嫌ってゐたおれには、新鮮だった。 大仰に云ふほど下手なわけでもないけど。

10 月 21 日の lists は a brief guide to African disco なんだけど、アフリカならではの部分は特になく、 どれも普通にディスコ。 まあ、ディスコ好きだからいいですけどね。 ディスコのいいところは、ファンクの爛熟期に生まれたこともあって、ファンク要素の強いものが多いこと。 例へば、上のリストで紹介されてゐる作品のひとつ、 Jo Bisso の African Disco Experimentals (1974 to 1978) なんかはまさにそれでファンキーな曲目白押しだ。

Brecker Brothers が參加してゐる Sidiku Buari の Disco Soccer もワウギターとブリブリしたベースだらけで實にいい。 ストリングスがたっぷり入ってることもあって、ブラックスプロイテーション映畫のサントラに使はれててもおかしくない感じ。 bbe はほんと、いいものどんどん發掘してくれてありがたい限りだ。アフリカ要素どこなの?と思はなくはないが。

10 月 21 日の features は Radiohead のアルバムが Bandcamp で買へるやうになったよ! って宣傳。 なんか Kid AAmnesiac を合はせたデラックス版みたいなのが出たんですよね(これ書いてる時點ではまだ出てないけど)。 兩方ともうちには 10 インチレコードがあって、發賣當時に買ったんだけど、それはおれが買った最後の Radiohead のアルバムでもある。 でも、今でも大人氣バンドみたいですね。 ちょっと前に Pitchfork が 25 周年を記念して讀者の選ぶここ 25 年のアルバム、ベスト 200 って企劃をやってて、なんと 1, 2, 4 位が Radiohead のアルバムで占められてゐたので驚いてしまった。 假にも Pitchfork の讀者ならもっとインディーから選べよ…。 まあ、おれは Pitchfork とは好みがずれてゐるので、構はないっちゃあ構はないんだけど、なんだかなあ。 しかし、Radiohead なんてどのストリーミングサービスでも聽けさうなもの、 わざわざ bandcamp で買ふ人間がそんなにゐるとは思へん。さして安くもないし。 なんで bandcamp に進出してきたんだらう。

10 月 21 日の lists は the tape label report; October 2021 といふことで、 カセット専門レーベルからいろいろ紹介されてゐた。 まづ目を引いたのが Rosali の Chokeweed。 Rosali といへば、今年 5 月に出た 3rd アルバム No Medium がファズの効いた見事なサイケロックで、こんな人がゐたのかと感心したのだが(詳しくは bandcamp daily 5 月分まとめをどうぞ)、 こちらは歌なし、ファズなしの No Medium とは全く違ったサイケギター作品。 歪みのないギターを何本も重ねた、空間的廣がりを感じさせる曲ばかりで、こんな曲もできるのか、と驚かされる。 ググってわかったことなんだけど、この Rosali って人、ドラマーの Jayson Gerycz って人とのデュオ Monocot 名義で Direction We Know ってインストアルバムを Feeding Tube から出してんですね。 そっちはこのアルバムと違ひ、歌はないものの歪んだギターによる演奏で、No Medium のイメージからそれほど離れるものではないし、 まあすごくいいわけでもないのでスルーするつもりだが、Chokeweed はカセットで持っておきたかったなあ。 圓安傾向が落ち着いた頃にでもデジタルで買ひませう。

ヴェイパーウェイヴのサブジャンル、mall soft の代表的存在である猫 シ Corp. の News at 11 のリマスター版のカセット版、なんてものもある。 ヴェイパーウェイヴについては、okabeweb さんに恐ろしく詳しいまとめがあるので、それを參照してもらひたい。 TABI LABO といふウェブ雑誌(たぶん)には、ずばり猫 シ Corp. のインタヴューもある。 おれがこのジャンルを知ったのは、James Ferraro の超名盤 Far Side Virtual からだが (James Ferraro については、なぜか洋服屋のサイトにおれの云ひたいことが全て書かれてゐたすばらしい記事があるので、是非是非是非是非讀んでほしい)、 わざわざ作品にはしない音を作品にしてしまふ諧謔精神が最高で、つい聽いてしまふ。 カセットおよびレコードは賣り切れてゐるので、デジタル版でもいいやといふ人は geometric lullaby のページから無料でダウンロードできるので、そっちがおすすめ。

猫 シ Corp. の次に舉げられてゐる Dan Mason の Miami Virtual 2.0 もヴェイパーウェイヴで、 こっちもいいんだけど、ヴェイパーウェイヴについてばっかり書くのもなんなので、こっちはパス。 これまたカセットは賣り切れだが、無料でダウンロードできる。

Sleep Center™ の Disk 1 は、 よくある「眠るための音樂」ではなく、なんと「寝てゐる間に聽くための音樂」。 もともとは 2014 年にリリースされたものらしいが、 デジタル音源だけだったものを、なぜカセットにしてしまったのか。しかも 6 本組のボックスである。 ご丁寧に大文字で DO NOT LISTEN WHILE AWAKE との注意書きまであるのだが、 寝てたらカセット入れ換へられないじゃん。 寝てゐるときに聽くための音樂とあって、音量はかなり絞られてゐる。 なかなか面白い試みだとは思ふが、どうせなら好きな音樂をかけたい。 寝てる間に好きな音樂をかけとくと、たまに夢の中でライヴ見られて得した氣分になるんですよね。

10 月 25 日の big ups は Dummy のお氣に入り紹介。 この、さっぱり知らないアーティストのおすすめを紹介されるコーナー、 大抵はおれと趣味が合はないので、特に參考になることはないコーナーなのだが、 今囘は最後の 1 つだけよかった。 Pablo's Eye の Balod for Paldo である。

Dummy のメンバーによるものであらう、アルバム紹介の文章がこのレーベルおよびアルバムのことをわかりやすく説明してくれてゐるので、 いつもはやらないことだが、紹介文を飜譯しよう。

Stroom は型に囚はれない活動をしてゐるレーベルだ。リイシューに關する不文律を拒否してゐるらしく、獨自の音樂繪卷を作るために、アーティストのディスコグラフィーを跨いで曲を選ぶ。文字通り、他の誰もが近づかないやうな作品をリリースしてるんだ。無名の、忘れ去られたアーティストだけぢゃなく、スタイルの全く違ふ、マニアックで抽象的なものを山ほど紹介してくれる。ここ數年、ぼくたちが熱心に追っかけてるレーベルで、おすすめできるものがたくさんあるよ。このベルギーのデュオ Pablo's Eye の LP は彼らの 90 年代の作品と、未発表曲で構成されてるんだけど、それら全部が一體になって、頭のとろけるトリップホップの旅に連れてってくれるんだ。

10 月 25 日の resonance は Battle Trance といふ、 サックスカルテット(つまり 4 人ともサックス)の新作 Blade of Love の紹介。 だったんだけど、サックスカルテットと云はれてすぐ思ひ起すのはやっぱり Rova Saxophone Quartet 改め Rova ですよ。 久しく聽いてないなあと思ってググったら、10 月に新譜リリースしたばっかぢゃん!  しかも、bandcamp にアカウントある

昔、愛聽してたアルバムのタイトルすら忘れてしまふぐらゐ Rova から離れてゐたが、 なんとおれの大好きな Steve Lacy のアルバム Saxophone Special のカヴァーやってるなんて!  Lacy の Saxophone Special は Derek Bailey、Evan Parker が參加した豪華アルバムなのだが、 このアルバムの何がいいって、アナログシンセ奏者がゐるんですよ。 これがもうアホみたいな音ばっかり出してて最高。 Lacy は大好きなのでかなりたくさん聽いてゐるが、アナログシンセが入ってるのはこれだけだと思ふ。 Rova のはうも、しっかりシンセ入りだし、ギターは Henry Kaiser!  しかし、bandcamp で買っても權利の問題でデジタル音源はついてこないらしい。殘念。 まあ、Spotify で聽けるみたいですけど。

10 月 26 日の album of the dayHelado Negro の新作 Far In。 いやまあ知らない人だったんですけど、これは 7 枚目のアルバムで、4AD へ移籍して初の作品らしい。 で、4AD の前はどこにゐたんだ?と思ったら、なんと RVNG Intl. にゐたらしい。

RVNG Intl. の作品は、10 年ほど前はちょこちょこ買ってゐたので、たぶん今でもメルマガがうちに届いてゐるはずだが、 最近は全く目を通してゐなかったので、こんなアーティストがゐたなんて知らなかった。 bandcamp にアカウントがあったのも知らなかったし、 おれの大好きな Julia Holter の Ekstasis が bandcamp がカタログにない理由も不明だ。

で、Helado Negro は RVNG Intl. から出した前作 This is How You Smile が名盤とされてゐるみたいだったので、そっちを聽いてみたんだけど……、めっちゃいいぢゃん。

RVNG Intl. らしい、浮遊感のある、曖昧な夢のやうなポップス。 現實とは、薄皮一枚で隔たった場所で鳴ってゐるやうな、フィクショナルな響き。 長らく聽いてゐなかったけど、今でもかういふ音樂を出してくれてゐるのだなあ。 なるほどこれは名盤ですわ。

10 月 26 日の lists は A guide to the music of musical experimentalist Phew といふことで、 Mute から新譜を出したばかりの Phew のアルバムガイド。 まあ、おれは今さら讀まなくても知ってゐるが、直近の話なら、やっぱり新譜 New DecadeAunt Sally の 1st がアナログで再發されたことですね、話題なのは。 殘念ながらといふか當然といふべきか、 紹介されてゐるのは近年のリリースばかり。 最も古いもので 2017 年だから、Phew が電子音樂路線になってからのものしかない。 まあそれはそれで、どれもすばらしくていいんだけど、 どうせなら權利關係で再發が絶望的らしい Novo Tono とかが聽けるやうになってくれればいいなあ。 存在すら忘れられちゃふよ。おれみたいに CD 持ってれば別だけど(自慢)。

10 月 29 日の seven essential releases から氣になったのは 3 枚。

まづは Eris Drew の Quivering in Time

音樂的には普通のハウスで、特筆すべきことがあるほどではないんだけど (8 曲目はハウスには珍しくオルガン入ってたのと Primal Scream の Loaded がサンプリングされててびっくり)、 この人、Octo Octa のパートナーなんですってね。 テクノやハウスといったジャンルも發展のなさはすさまじく、 新譜を買ふ動機は昔からよく知ってる人のリリースか、それなりに革新的なものがあるやつ、知らなかったけど好みにドンピシャなやつぐらゐのもので、 これはまあ、その 3 つでいへば最初のやつに近い。 おれが Octo Octa を知ったのはもちろん 100% Silk レーベルを追っかけてたからだが、 Octo Octa は 100% Silk からリリースした人たちの中では、恐らく出世頭だもんね。 そんな人のパートナーがデビューって云はれると、やっぱりちょっと氣になってしまふ。

2 つ目は Lil Ugly Mane の Volcanic Bird Enemy and the Voiced Concern

なんで氣になるかって、下部の「LIL UGLY MANE が好きな人におススメ」のところが、Jpegmafia だらけだったから。

で、ヒップホップなのかなと思ったら、全然ヒップホップぢゃねえ!  ちょちょっとググってみたら、この Lil Ugly Mane こと Travis Miller はいろんなスタイルの音樂をやる人らしく、 今囘のこれがたまたまロック寄りなだけで、作品によってスタイルは違ふんだとか。 まだあんまりリリース多くないみたいだし、ちょっといくつか漁ってみようかな。

3 枚目は Phương Tâm の Magical Nights ってコンピ。 リリース元はもちろん世界各國の知られざるポップスおよび傳統音樂の發掘ではお馴染みの Sublime Frequencies

2010 年リリースの名コンピ Saigon Rock & Soul に續くヴェトナムのポップスものだが、 あちらが樣々なアーティストの作品を集めたものだったのに對し、こちらは單一アーティストによるもの。 Saigon Rock & Soul は 1968 年から 1974 年の作品だったが、 こちらは 1964 年から 66 年のものとあって、サイケ色は全くない。 副題に Saigon Surf Twist & Soul とある通り、音樂的にはロックではなく R&B 寄り。 といふか、ブルーズや R&B のカヴァーが多かった當時のロックですね。 サイケさがないから、買ふまでではないかなあ。

かなり長くなってしまったが、 10 月分はこれで終はり。いやー、やっと追ひついたな。

bandcamp daily: September, 2021

昨日に續いて bandcamp daily のまとめ。どんどん行かう。

9 月 1 日の best contemporary classical は、全然コンテンポラリーでない 3 つが氣になった。 現代音樂はそれなりに好きなんだけど、マイナーすぎてリアルタイムのものはどんな潮流があって、どんな作家がゐるのかをさっぱり知らない。 どこで情報を集めればいいのかすらわからないレヴェルなので、どうしてもよく知ってる古いやつに目が向いてしまふ。 こんなことではいかんのになあ。

1 枚目は Alvin Curran の Flori Chiari, Flori Oscuri

Black Truffle からの再發で、もとは 1978 年のアルバム。51 分の曲が 1 つ入ってゐるだけなので、 レコードで買ふよりデジタル音源を買ったはうがよささう。レコードだと途中でフェードアウト、B 面フェードインだらうからね。 Curran といへば、個人的にはやっぱり MEV の一員なので、ソロ作品は知ってはゐるけど持ってはゐない人なのだが (他の面々、Frederic Rzewski や Richard Teitelbaum のアルバムも持ってゐない)、 このアルバムはシンセが曲の中心に据ゑられてゐるのと、序盤のジャジーなピアノとで、かなり好み。機會あったら買はう。

2 枚目は Apartment House による John Cage Number Pieces

John Cage は 4′33″ ばかりが有名だが、 ライヴ・エレクトロニクスやテープ音樂、プリペアド・ピアノのための曲など、 すばらしい作品が山ほどある。 このアルバムで Apartment House がリアライズした數字のみを曲名とする number pieces は晩年の作品群で、 タイトルになってゐる數字は、パート譜がいくつあるかを示すものでしかない(から、同じ數字を持つ曲が複數ある)。

これは 4 枚組で、number pieces の中から中ぐらゐのサイズのアンサンブルで演奏できるもの(5 ~ 14)をすべてやってくれてゐる。 number pieces は全然知らないので、ありがたくはあるんだけど、ドローンっぽいのばっかりだあ。 どうせならもっと派手なやつがいいな…。

3 枚目は Bernard Parmegiani の Stries

Parmegiani といへば、近年はパリの Transversales からリイシューが積極的に行はれてゐる印象。 もちろん、これまでにもいろんなレーベルから作品は出てゐて、好きな作家でもあるんだけど、いまいち全容が把握できない。 現代音樂の作家って、クラシックと違って全集みたいなのが出ることはほぼないのに多作だから (超有名人の Boulez や自分で作品をリリースできる力があった Stockhausen レヴェルでないとない)、 時系列に沿って作品を把握するのが難しい。 電子音樂の人の中では Parmegiani はかなりの大家だが、それでも知らないものが毎年ばんばんリリースされてる氣がする。

Parmegiani で一番好きなのは、やっぱり當時のポップスをコラージュしまくった 1968 年作品 Pop'eclectic

今囘のこれは、かつて INA/GRM から一部がリリースされてゐただけの作品の全長版。 さういふのをフルでリリースしてくれるのは大變にありがたい。

9 月 2 日の the acid test, august 2021 で氣になったのは 2 つ。

1 つは Toad Blood とやらの同名アルバム で、何が氣になったって、 下部のタグのところに「dungeon synth」って書いてあったから。 なんだよ、ダンジョン・シンセって。

でもこれ、聽いてみたら確かにダンジョン・シンセって言葉がぴったり。 だって、Wizardry とか、ああいふ古いダンジョンクロールゲーにぴったりな音なんだもん。 かういふの、ヴェイパーウェイヴのサブジャンルにあったやうな…。

もう 1 つはもちろん Mike Cooper の Cane Fire

Mike Cooper は 60 年代から活動を續ける大ベテランだが、初期と現在とでやってゐる音樂が全然違ふ。 初期は、60 年代に珍しくない、カントリー・ロック、あるいはフォーク・ロックをやってゐたシンガーソングライターだったのだが、 80 年代あたりからジャズとポリネシアン音樂(ハワイアンな感じのあれ)に傾倒し始め、 と思ったら、いつの間にか音響派ギタリストとしか呼びやうのない作品ばかりリリースする人になってゐた。 しかも、これがどれも滅法すばらしい。

Mike Cooper に關しては、またいずれ機會があれば詳しく書くとして、 今囘はこれまでも Mike Cooper のアルバムをいくつもリリースしてきた Room 40 から、 Cane Fire といふドキュメンタリー映畫のサントラがリリースされた。 映畫自體は昨年のもので、ハワイはカウアイ島の過去と現在を描いたものらしい。 なるほど、ハワイなら Mike Cooper はうってつけの人物だ。 どの曲もコンパクトにまとまってゐるが、Mike Cooper のいろんな側面が凝縮されてゐて、 Mike Cooper がどんな音樂家なのかを知るにもよいアルバムだと思ふ。

9 月 2 日の features はなんと The Mystery of Cyber-Occult Maestro Henry Kawahara と題したヘンリー川原の『電脳的反抗と絶頂:エッセンシャル・ヘンリー川原』特集!

おいおい、やべーの持ってきたな。すげーな、bandcamp daily は。 ヘンリー川原については TURN柴崎祐二さんによる「90 年代オカルト・ミュージックの極北、ヘンリー川原の世界が今蘇る」と まさにこのアルバムをリリースした EM Records のオーナー江村幸紀さんによる「立体音響と 90 年代のイルカ、ヘンリー川原論考(時代考証資料編) 」に詳しいのでそちらを讀んでもらふとして(特に後者は誰がそこまで詳しい解説を望んでるんだ?ってレベルのすさまじい論考)、音樂については、先入觀なしで聽くと、それほどオカルトでもサイバーでもない氣がする。 面白いことは面白いし、ダウンロード版よりずっとトラック數の多い CD 版も氣になる。それに、なんたって EM Records からのリリースだし。 でも、買ふかどうかはまだわからない。

9 月 3 日は best beat tapes。 beat tape ってのはインスト中心のヒップホップで、大抵はちょっと聽いてパスしてるんだけど、 今囘は MentPlus の UndeniableSVRS の同名アルバム がよかった。特に後者は發賣元のレーベル Fuck Tapes が氣に入ってしまって、これまでリリースされてるやつを全部買ってしまった。まあ、ひとつ 0.5 ポンドしか拂ってないんですけど。

9 月 8 日の The Best Jazz on Bandcamp: August 2021 はなんと 16 枚ものアルバムが紹介されてゐて、チェックするだけで大變だった。氣になったのをいくつかピックアップするに留める。

Ishmael Ensemble の最新作 Visions of Light は、ジャズとエレクトロニカを融合させたやうな、前作 A State of Flow の発展型と云ってよからう。 詳しくは ele-king にレビューがあったので、そっちを讀んでください。 とはいへ、かういふジャズが斬新かといはれればそんなことはなく、20 世紀末の時點で Rob Mazurek が Chicago Underground Duo なんかでやってたからなあ。當時から今に至るまで、Rob Mazurek がすごすぎて、こっち系はよっぽど好みでない限り買はない。

Adi Meyerson の I Want to Sing My Heart Out in Praise Of Life(なんで Of だけ大文字から始まってんの…)は、ジャズとしては普通なのだが、2 曲目に日本語でかぼちゃへの熱い思ひが語られてゐてくすりとしてしまった。

Trondheim Jazz Orchestra & Ole Morten Vågan の Plastic WaveBalimaya Project の Wolo So はどちらもビッグバンドもの。 前者はまあ普通のビッグバンドものだが、おれにとっての普通のビッグバンドものは Count Basie だったり Glenn Miller だったり、あるいはちょっと時代を下って Gil Evans だったり Quincy Jones だったりではなく、East Asia Orchestra だったり Willem Breuker Kollektief だったり、渋さ知らズオーケストラだったりなので、これもさういふやつ。新しさはないけど好きなんだから仕方ない。

後者はマンデ人が中心になってゐるバンドらしく、われわれがアフリカと聽いて安易に思ひ浮かべてしまふ、多彩なパーカッションを軸としたジャズ。 最後の曲なんか見事なアフロビートでめちゃくちゃかっこいい。 アフロビートものだけでなく、どの曲もパーカッションが複雑かつ輕やかにフィーチュアされてゐて、音樂を形容する言葉ではないが、實にカラフルな印象。 パーカッションでこれほど豊かな表現をしてゐる音樂は珍しく、聽いてゐるだけでウキウキする。

9 月 9 日の album of the day は コロンビアのデュオ、Jaguar のデビュー作 Madremonte

これ、ググるといくつか日本のレコード屋に入荷豫定なのがわかるのだが、どこもかしこもこれは最高! コロンビアのデュオによるデビューアルバム! サイケデリックなサルサからタイトなクンビア・ディスコ、チャンペータのグルーヴ、ズークの祝祭性などが混然一体となった超絶ダンサブルな一枚!と書いてあるのが笑ふ。 たぶん、ディストリビュータが考へた煽り(といふか、bandcamp の紹介文にあるa debut album that veers between psychedelic salsa, taut cumbia-disco and zouk party jamsあたりを譯したもの)をその儘採用してるんだらうけど、殘念ながらそこまでダンサブルではない。 實際、南米のダンス・ミュージックが混じり合った感じなのは面白いが、別に革新的なわけではないため、そこまで購買欲はそそられない。

Together Again は Truth Revolution Records によるコンピで、いろいろな有名クラシック曲をジャズにしたもの。

ジャズは要するにテーマ(といふ名の曲の構造の提示)とアドリブさへあれば成立するから、テーマが何でもいいのはわかってゐたが、クラシックもしっかりジャズになるんですねえ。 まあ、Black Sabbath ですらジャズにされるぐらゐだもんな。クラシックぐらゐちょろいか。 Debussy の Clair de Lune みたいに、さっぱり元曲がわからないやうなのもあるが、どれも面白く仕上がってゐる。 Stravinsky の The Firebird からは 2 曲も採られてゐるが、同じプロデューサーが手掛けてゐるのに氛圍氣は全く違ったりして、いろんなやり口があるものだと感心させられる。 ちょっと目を向けるものを變へただけでジャズがまだまだ面白い音樂だと思はせてくれる好盤。

9 月 13 日の features は Kraig Kilby のインタヴュー

この Kraig Kilby といふ人は、1973 年に Herbie Hancock の Head Hunters を聽いてぶっ飛び、 それに憧れまくってなんと Headhunters(バンドのはう)のベーシスト Paul Jackson およびドラマー Michael Clark と 1977 年にスタジオでセッションし、 そのときの録音を元に 2006 年までかかってアルバムを完成させ、アルバム Satori をリリースした、 かなり氣合ひの入った Headhunters フォロワーである。 この度、めでたくレコードで再プレスのを記念してのインタヴューなんだけど、肝心のアルバムのはうはあんまり Headhunters してないんですよね…。

9 月 14 日の album of the day は Common の新作、A Beautiful Revolution (Pt 2)

めちゃくちゃよくてすぐ買ってしまったやつ。昨年 Pt 1 が出てゐるので、これはその續篇だが、かういふの聽くと、やっぱりヒップホップの有名所をちゃんと履修しないとなあ、と思ふ。 でも、周りにヒップホップに詳しい友人もゐないし、そもそもヒップホップってのが歌詞が理由で殺し合ひの抗爭が勃發したりする、おれにとって理解に苦しむ文化である。 音樂に不要なものを持ち込むなよ…。

この Common はデビューが 92 年でアイス・キューブとビーフしたりもしてるから、まあかなりのヴェテランである。グラミー賞 3 囘も取ってるし。 まあ、そんな人のアルバムを初めて聽いたんですけど、いやいや、アフロビートとか入っててかっこいいぢゃん。ヴェテランだからオールドスクールな感じなのかと思ったけど、びっくりしてしまった。 今さらひとつのジャンルを一から勉強するのはとても億劫だが、やっぱり勉強しないとなあ。 しかしこれ、リリースが billboard japan でも記事になるほどなんだけど、billboard japan ってこんな偉さうな記事書くんですねえ。笑っちゃったよ。 f:id:nomoneynohoney:20211108151540p:plain

9 月 14 日の label profileThree Lobed Recordings の 20 周年を祝った記事。

Three Lobed は昔から世話になってゐるレーベルなので、bandcamp にあるのも當然知ってゐたし、ロゴに使はれてるフォントが、うちで使ってるフォントと同じなのも知ってゐるが、20 年もやってるのはちょっと驚いた。 おれが Three Lobed の出すレコードを買ひ始めたのは GHQ のアルバムを出した頃だから、2006 年あたりのはず。それでも 15 年前なんですねえ。

記事ではいくつかのアルバムが紹介されてゐるが、やっぱり個人的には GHQ を推したい (ホントは Jack Rose についても語りたいが、Three Lobed から出てる Jack Rose の作品は他レーベルから出たやつの再發もあったりするので、別の機會に譲る)。 GHQ は Marcia Bassett、Pete Nolan、そして Steve Gunn の 3 人によるトリオだが、 Marcia Bassett がぶっちぎりにサイケな人で、この 3 人のうち未だにおれが追ひかけてゐるのは Marcia Bassett だけである。 Pete Nolan のアシッド・フォーク的な路線も、Steve Gunn のブルーズ路線も好きは好きなんだけど、Marcia Bassett のヤバさがひとつ拔けてるんですよね。 どのアルバム聽いてもどサイケだもん。

GHQ は、その Marcia Bassett のサイケ加減がいかんなく發揮されたラリパッパバンドで、Marcia Bassett のソロと違ひ、Pete Nolan のフォーク要素および Steve Gunn のブルーズ要素が加はってゐるのが持ち味。 Marcia Bassett のソロや Zaïmph 名義のものはドローンとノイズが主體なので、それに比べればギタリストがゐる GHQ はまだわかりやすい、はず。 サイケと一口に云ってもいろんなサイケがあるが、かつて The Tower Recordings のことを書いたときにも述べたやうに、酩酊っぷり、へべれけっぷり、いや、もっと云ふなら廃人っぽさでは、The Tower Recordings とこの GHQ が雙璧だと思ふ。

どのアルバムもすばらしいが、ここはやっぱりジャケが一番かっこいい Crystal Healing を推しておかう。 このアルバム、豫約限定で CD がついてたんだぜ~と自慢するつもりだったんだけど、bandcamp で買ふとその中身もしっかりついてくるのね…。 唐突に Pelt の新作がリリースされたりもしたし(もちろん Jack Rose はゐないけど)、これからも MV 關聯のリリースは買ふだらうから、健在でゐてほしいレーベルのひとつ。20 周年おめでたうございます!

9 月 17 日の features その 1 は Robert Aiki Aubrey Lowe による Candymanサントラ

Robert Aiki Aubrey Lowe は Lichens 名義でも活動するモジュラー・シンセの使ひ手だが、 モジュラー・シンセ使ひの中ではサイケ度の高さが特徴的。 それも、Popol Vuh 的なサイケさで、ニューエイジ要素が強いので、おれはあまり積極的に聽かない(もっとぐにょぐにょしてたりバキバキしてたりするのが好きなので)。

この Candyman もさうした色合ひが強くはあるが、 サントラといふことで曲が短い所爲なのか、それともホラー映畫だからなのか、 これまでの Robert Aiki Aubrey Lowe の作品とは違ひ、どんよりと暗い不氣味さが際立つ。 それでゐて、聲とモジュラーの融合といふ、Robert Aiki Aubrey Lowe の持ち味も發揮されてゐるのが面白い。 8 曲目とか、サントラだと知らなければ普通のモジュラー曲だが、サントラだと知って聽くと怖さを引き立てる音に聞こえるから不思議なものだ。 映畫を見たはうがこのアルバムは樂しめるだらうが、ホラー映畫を見に行く氣にはなれないから、おれにはこのサントラを存分に味はふことができなさうなのは少し殘念 (でもホラー映畫には全く興味がわかない)。

9 月 17 日の features その 2 は Shackleton 特集。 昨年リリースされた Waclaw Zimpel(ポーランドのクラリネット奏者で、ソロでも面白い作品を出してゐる)とのデュオ Primal Forms は Shackleton の特徴的なドラム(トライバルな音ばっかり使ふ)と、Waclaw Zimpel による樣々な生樂器の演奏が見事に調和して Shackleton の新たな地平を感じさせてくれた傑作だったが、 今囘は新譜 Departing Like Rivers のリリースに伴った特集。 Primal Forms を經たことで表現の幅は廣がってるなと思ふが、いかんせん 1 曲しか試聽できないのではなんとも云へませんね。

9 月 17 日の album of the dayKondi Band の 2nd、We Famous の紹介。

Kondi Band といへば、2016 年のデビュー EP Belle Wahallah のドープさには度肝を拔かれたものだが、こちらは 4 年ぶりの新作。 今作も Sorie Kondi によるトライバルな親指ピアノの響きと歌唱と DJ Chief Boima によるハウスの混淆っぷりは見事だが、前作に比べるとドープさは控へ目で、 爽やかさ、陽氣さが強い。 もともと、親指ピアノの響きは祝祭的イメージが強いため、それを活かした方向に振り切ってゐるとも云へよう。 個人的には前作のはうが好みだが、アフリカの音樂って先入觀の所爲なのかアフリカ要素が前面に押し出されるのに、Kondi Band はさうしたあざとさみたいなものがあまりない貴重なバンドなので、これからもリリースを續けてほしいものだ。

9 月 24 日の label profile は Heimat der Katastrophe のダンジョン・シンセ特集

9 月 2 日の acid test でもダンジョン・シンセのアルバムは紹介されてゐたが、 こちら Heimat der Katastrophe はダンジョン・シンセに特化したレーベルで、2017 年からダンジョン・シンセものばかりをリリースしてゐる。 どれもカセットリリースなのも特色の 1 つで、ジャケといふか、カセットと一緒に入ってるあの厚紙もかなり凝ったデザインで痺れる。 まあ、どれもファミコンの BGM みたいなもんなので、買ふかって云はれたら買はないんだけど、 専門レーベルがあるほどのジャンルだとは知らなかった。 日本人のリリースもあってびっくり。

9 月 24 日の lists は、新譜を出したばかりの RP Boo、Jana Rush、DJ Manny による、フットワークの紹介

ジューク/フットワークといふジャンルが確立されてからもう何年にもなるが、實はおれ、フットワーク大好きなんですよ。 何がいいって、踊りがいい。だってあれ、JB ぢゃん。 フットワークと呼ばれるダンスは JB が 1960 年代からずっとやってゐたものだ、とおれは勝手に思ってゐるが、 音樂としてのフットワークは JB とは全く違ふ、2 つのテンポを行き來する、忙しない音樂だ。 おれが落ち着きのない人間だからなのか、この忙しなさがたまらない。

どれもこれもかっこいいのだが、最新の RP Boo はタイトル通り establish されすぎてて初心者にはわかり辛いと思ふので、2013 年のデビュー作貼っときます。 これももちろん最高だが、RP Boo の最新アルバム、Jana Rush の最新アルバムともに初期フットワークとは比べものにならないほど進化/深化してゐてすばらしいので、いいなと思ったら是非(DJ Manny のは特に新しさを感じなかったけど)。

9 月 27 日の features はまさかの Henry Threadgill 特集

確かに、2016 年に Zooid 名義の In for a Penny, In for a Pound でピュリッツァ賞を獲ったのは記憶に新しいが、Threadgill っつったら、Anthony Braxton や Art Ensemble of Chicago の面々とともに AACM を立ち上げたおじいちゃんですよ。 ジャズ・ファンなら紹介されるまでもなく名を知ってるビッグネームで、今でも Zooid で元氣に活動してゐるが、まさか新譜を出すからって bandcamp で特集されるとは…。

9 月 29 日の album of the day は Hayden Pedigo の Letting Go

記事にも書かれてゐる通り、アメリカのフィンガーピッキング・スタイルによるギターもので、 John Fahey や Robbie Basho、新しめなら Jack Rose や James Blackshaw の流れに屬する感じのあれ。 このスタイルの音樂はかなり好きなんだけど、おれが好きなのは John Fahey とか Jack Rose みたいにブルーズ色が強いやつなので、 ブルーズ感があんまりないこのアルバムは、そこまで好みでもない。 でもまあ、かういふアーティストが出てきてくれるのは嬉しい。

9 月 29 日の best dance 12”s はタイトル通りテクノやハウスの EP およびシングルをずらずらっと紹介。 どれもこれも紹介されるだけあって結構いいやつばっかりなのだが、いかんせん EP やシングルってやつは買ふ氣がしない。殘念。

9 月分は以上!

bandcamp daily: August, 2021

いつの間にか 1 年が終はりかけてゐる…。 おれがまとめる bandcamp daily の記事に速報性を求めてゐる人がゐるとは思へないが、 ほぼ書き上がってゐるのだし、ちゃちゃっとあげていかう。

8 月 2 日の best electronic は相變はらず進歩のない音樂がずらずら竝んでゐるばかりで、興味を惹かれるものはほぼなし。唯一 Box N Lock レーベルのアルバムだけ氣になったが、まあ氣になる理由は日本人なら仕方ないといふか……、リンク先に飛べばわかります。そのアーティスト名、正氣か?  しかし、こんな似たやうなのばかりがリリースされるこのジャンル、bandcamp のスタッフはどうやって best を選出してゐるのか。賣上ってわけでもなささうだしなあ。謎だ。

8 月 3 日の bandcamp navigator で氣になったのは Zaya T.A の i aM a viBe。 何がって、やっぱりヒップホップのバックトラックってどんなのでもいいんだな、といふ思ひを新たにさせられたから。買ふかって云はれたら買はないけど、ヒップホップのバックトラックってつまんないものだらけだから、ほかとはちょっと違ふ感じでやってる人たちにはがんばってほしい。

Marný Ňežný の Ani Metr Ženy も面白い。こんなこと云ったら本人はむっとするかもしれないが、ある種の懷かしさすら感じる。でも、インプロっぽいのばかりかと思へばそんなこともない。Name Your Price だから買っちゃったよ。

しかし、Name Your Price だからってみんな無料でダウンロードしてるっぽくて、お金拂ったのがおれ一人なのは申しわけないが笑ってしまった。おれだって、最低價格 20 CZK 拂っただけなのに。コレクションに追加されるのが嬉しい、みたいな感覺はないのかな。

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ヤバいのは IZ Band の IZ: 路过旧天堂书店 Drop by Old Heaven Books。 何がヤバいって音樂がサイケでめちゃくそカッコいいだけでなく、ジャケ、ボックスの仕樣すべてがカッコいいこと。でも送料込み $75 はたけえ~。デジタルなら $29 だけど、ボール紙に入ったボックスほしいんぢゃあああ。CD のくせにこんなカッコいいとか、ひどくない?

このレーベルの他の作品を見ててわかったんだけど、ここ、おれがかつて三上さんのカセットを買ひ逃したレーベルぢゃねえか。 んぎぎぎぎ。今月は高い買ひ物しちゃったからスルーしとくけど、そのうち買ってやるからな。賣り切れずに待っとけよ。ほんと、お願ひします。bandcamp のウィッシュリスト、初めて使ったよ。この記事が公開される頃には購入してるだらうなあ(別のものばっかりバカスカ買ってまだ買ってません)。

8 月 4 日の The Best Hip-Hop on Bandcamp: July 2021 でよかったのは Bernz の Yacht Club Vol. 1 だけ。 ほかのはまあ、普通のヒップホップで、特に面白くもなんともなかったが、これはほぼソウル。ソウル要素が強いものはそれだけで氣に入ってしまふが、なんでもかんでも買ふと金がなくなるので、取り敢へずはここにメモっておくだけ。

同じく 8 月 4 日の A Guide to Newcastle's Improvisational Scene は、最初に紹介されてゐた Mariam Rezaei の Wolf's Tail が一發で氣に入って買ってしまった。なんせたった 1 ポンド!  中身は 4 臺のターンテーブルによる演奏で、一トラック 25 分のみになってゐるが、4 つのパートに分かれてゐて、内譯は bandcamp のページに詳しい。 ターンテーブルものといふと、やっぱり Christian Marclay と大友良英なんだけど、その 2 人がターンテーブルを演奏してゐたのはもう 20 年ほど前ではなからうか。最近はあんまりターンテーブルものってリリースがないので、懷かしいかんじもする。ほかのもまあまあ面白かったけど、これが一番だったので、殘りは割愛。

8 月 6 日の seven essential releases はどう見ても 6 つしかないんだけど、氣になるものは多い。

まづはもちろん Pink Siifu の新作 GUMBO'! 。リリース精力的すぎる。單純な構成の曲が多いものの、バックトラックがどれも昔の甘ったるいソウルを思はせる氛圍氣をまとってゐるのがいい。デジタル版のジャケがダサいのどうにかしてほしい。カセットのジャケは Pink Siifu っぽくていいのに。

その Pink Siifu の新作で最後のトラックにゲスト參加してゐた (Liv).e の新作 CWTTY+ もめちゃくちゃいい。昨年の Couldn't Wait to Tell You の 1 周年を記念して、Couldn't Wait to Tell You とこの新作 EP のセット仕樣でレコードがプレスされたみたい。今から買ふ人にとってはお得だが、昨年の Couldn't Wait to Tell You を持ってる人はどうするんだよ…。でも、この高度に發展したソウルは買はずにゐられないし、マンガっぽいジャケもいい。どっか入荷してくれんかなー。そしたら送料のこと考へなくていいから迷はず買ふのになー。去年のアルバムは普通に日本で買へたんだから、こっちもなんとかお願ひしたい。

Your Grandparents の Thru My Window も濃厚なソウル。テンポのゆるさと、間の多さが特にすばらしい。ヴォーカルも歌だったりラップだったりで、ソウルとヒップホップの境界が搖らぎまくってゐる現代らしい音樂。後半はファンクやジャズ風味も入ってきて見事。このアルバムがデビュー作らしいが、今後が樂しみ。

8 月 6 日の acid test で斷然氣になるのは madam data の The Gospel of the Devourer。 ジャンルとしてはブラック・メタルなんだと思ふけど、調べてみたところ madam data は別にメタルの人ではなく實權音樂の人らしく、今囘のアルバムがたまたまブラック・メタルっぽくなっただけのやうだ。まあ、これがブラック・メタルかどうかはさして重要な問題でもない。

とはいへ、大抵のメタルは少し聽いてすぐスルーするおれが、メタル要素を感じさせるアルバムに興味を惹かれるのはかなり珍しいことだ。 アルバムを構成する音のほとんどがノイズであるのに、性急さを感じさせないところが一番いいポイントで、といふのも、ノイズと呼ばれる音樂のほとんどはかなり忙しなく音が入ってゐるのだ。昔はそれも落ち着いて聽けたものだが、最近は歳の所爲かなんだか疲れるやうになってしまひ、ノイズは全くと云っていいほど聽かなくなった(もともとさして聽いてゐないが)。 その點、このアルバムにさういった音の奔流はなく、終始ゆったりとノイズが響く。 曲タイトルがどれもこれも長いのには面喰らふが、まあ音だけ聽く分には氣にならないのでよし。

しばらくハズレだらけだったが、8 月 18 日の scene report は Exploring the Rave Renaissance in New Orleans with Trax Only と題したニュー・オーリンズのレーベル Trax Only の紹介。 この記事を讀むまで知らなかったんだけど、ニュー・オーリンズはいつの間にかジャズの街ではなく、ジャズとバウンスの街になってたんださうですね。バウンスってなんだよ。 調べました。EDM のサブジャンルなんださうで。EDM はほとんどゴミだと先入觀を持ってるから全く知らなかった。バウンスってのは、EDM にしちゃ惡くないですね。

で、Trax Only はジャズでもバウンスでもなく、ハウス/テクノのレーベル。ニュー・オーリンズでは珍しい、みたいな話なんだらうけど、日本にゐるとまるでピンとこない。いや、だって、日本は地域によってジャンルがどうかうみたいな話はないぢゃないですか。別に日本に限ったことぢゃない。ドイツ、フランス、イギリスのやうな國でも都市ごとで音樂イメージあったりはしない。あるとしても、片手で數へられる程度の都市だけだ。州といふ、單位のでかい自治體(といふか、state だからまあ國みたいなもんだ)を抱へるアメリカならではの話だらう。

で、Trax Only ですけど、面白かったのは Ephemera の Acid Disco Prom ぐらゐ。理由もアシッド・ハウスだから。別の日にもアシッド・ハウスが多く紹介されてた氣がするけど、それらのどれもがいまいちだったのに對して、このアルバムはけっこうよかった。買ふほどではないけども。

同日の lists は A Guide to Free Jazz Drumming on Bandcamp とのことで、フリージャズのドラマーがずらずら紹介されてゐるのだが、Sunny Murray、Milford Graves、Rashied Ali、Ronald Shannon Jackson とフリージャズが好きでそいつら聽いたことない人間がゐるのか?ってレベルの人選。 そんな中なので、最後の二人 Tyshawn Sorey と Makaya McCraven の名前は否が應でも目立つ。

Tyshawn Sorey の名は寡聞にして知らなかったが、この人はドラマーでありつつ作曲もしてんですね。この特集で消化されてる他のアルバムは、まさにフリージャズ以外の何物でもないんだけど、この人の The Inner Spectrum of Variables はフリージャズっぽさがないわけではないものの、かなりかっちりした作曲作品だし、視聽できるうちのひとつ、Movement IV は弦樂四重奏團 + ドラムといふ、ジャズではほとんどあり得ない編成のもので新鮮だった。

Makaya McCraven の Universal Beings は、リリース元の Internatinal Anthem にちょいちょい高い送料を貢がされてゐるおれとしては今さら採りあげる氣になれないアルバム。近年はジャズ・ドラマーへの注目も著しいから、最近のジャズに詳しい人なら誰でも知ってるぐらゐのアルバムだらう。もう 3 年も前のアルバムだし、去年出た續篇もよかったもんね。

8 月 19 日の lists は You Can't Bury Canterbury: A Guide to the Neo-Canterbury Sound、つまり、現代のカンタベリー特集。 いやねえ、can't bury canterbury とか駄洒落云ってる場合ぢゃないですよ。確かにどれもこれもカンタベリー・サウンドで、未だにこんなにカンタベリーやってるやつらがゐるのか、と驚きはしたけど、プログレッシヴの意味も知らないロックがずらずら竝ぶばかりで新しさは皆無。The Wrong Object とやらの Into the Herd ってアルバムだけは Zappa ぽくてまあまあだったけど、買ふかって云はれたらもちろん買はない。

8 月 20 日の label profiles は Celebrating 10 Years of Iconoclastic Dance Label 100% SILK マジかよ、100% Silk ってできてもう 10 年になるのか。100% Silk は一時期リリースされるものを全部買ふぐらゐの勢ひで好きだったレーベルなので、特集されてゐてびっくりしてしまった。賈はなくなって久しいが、未だに健在なやうで何よりだ。 100% Silk が設立された 2011 年頃はローファイなダンス・ミュージック(主にディスコ)のリバイバルがあって、有名なものとしては Peaking Lights の 936 なんかがある。その 936 のリリース元である Not Not Fun の姉妹レーベルとして、ディスコを中心としたソウル色の強い、それでゐてちょっとチープで嘘臭いところのあるローファイな音樂を出してゐたのが 100% Silk だ。初期のリリースは EP ばかり、しかもジャケも全部同じといふ、全てがローファイな感じだったが、カセットもリリースするやうになってから、ちょっとずつ變はっていった。

しかし、100% Silk の bandcamp でのラインナップを見る限り、初期の作品は全然ない。なんでわかるかって、家にあるやつを紹介しようと思ったら、ほとんど見つからなかったから。せいぜい Malvoeaux の Broken Anthem ぐらゐ。このジャケは初期で云ふと 3 種類目で、最初期のジャケとその次のジャケでリリースされてゐた EP たちは bandcamp にないやうだ。 我が家にあるのは、その邊りの最初の 2 年分ぐらゐなので、その後 8 年間の 100% Silk についてはさっぱりわからない。でも、適當にいくつか聽いてみたところ、ローファイ加減は變はってゐなくて安心。POTIONS とかかっこいい。100% Silk からのリリースは 1 枚だけみたいだけど。 新たに買ふことがあるかどうかはわからないけど(氣にしてなかった時期のを今から全部チェックするのもきついし)、一應、昔バカスカ買ってたし、フォローだけはしておかう。

8 月 23 日の lists は 5 月に亡くなった Yoshi Wada(本名、和田義正っていふんですね、知らなかった)の紹介 10 年ちょっと前に EM records がバンバン再發/發掘してくれて、そのときにほとんどレコード及び CD で揃へちゃったから、今さら特に何も思はないんだけど、Earth Horns with Electronic Drone が手輕に聽けるやうになったのはありがたい。なんせあれ、EM records から出たときはレコード付属の CD-R でしかデジタル音源は入手できなかったもんね(CD も發賣されたが、中身はなぜか拔粹版で、全長を聽くにはレコードを買ふしかなかった)。CD-R つきのを買ったと思ふが、あの CD-R、今でも再生できるか怪しいし…。

8 月 24 日の features は Exploring the Intergalactic Wonders of The Space Lady と題された The Space Lady 特集。

The Space Lady は所謂アウトサイダー・アートに分類される人で、もともとはボストンの地下鉄の駅だとか、その後移り住んだサン・フランシスコの bart の駅だとかで演奏してゐた路上ミュージシャンらしい。金屬製で羽のついたわけわからん帽子をかぶってゐるところがチャームポイント。帽子かぶって路上で演奏してたミュージシャンといへば Moondog もさうだが、Moondog が自作曲をやってゐたのに對して、The Space Lady がやってゐるのはカヴァー。しかも有名なやつばかり。

當時(1970 年代後半)、彼女が路上で賣ってゐたカセットのタイトルは、いみじくも The Space Lady's Greatest Hits なのだが(もちろん、それ以外になんの作品も出してゐなかった)、實際このアルバムが一番いい。 中身は先述したやうに有名曲のカヴァーばかりで構成されてゐるのだが、bandcamp daily の記事に ethereal, kitschy cover と書かれてゐる通り、見事なまでにキッチュで、元曲がよくわからないレヴェルにまでぼやけた演奏ばかりが收められてゐる。カシオのキーボードが奏でる安っぽいドラムとぐにょんぐにょんな浮遊音にエコーのかかった The Space Lady の聲が乘る、まさに唯一無二のカヴァーがたっぷり聽ける。 一應、これ以外にも 2013 年と 2018 年にアルバムを出してはゐるのだが、そちらに入ってゐるカヴァーは元曲をかなりしっかりなぞってゐて、The Space Lady ならではの面白さはかなり減ってしまってゐる。

8 月 25 日の lists は多彩な活動をしてゐるドラマー Valentina Magaletti の紹介で、タイトルは Drummer Valentina Magaletti is a Musical Chameleon

この記事を讀むまで Valentina Magaletti のことは知らなかったが、實際わざわざ特集するぐらゐに多樣なバンドに參加してゐる。 ジャズといふことになってはゐるが、Supersilent を思ひ起こさせる自由な即興演奏ばかりの Tomaga(ベーシスト Tom Relleen とのデュオだったが、Tom Relleen が昨年肺癌で亡くなってしまった)。

パーカッショニスト João Pais Filipe との CZN は二人して打樂器であることを活かしたトライバルな曲もあれば、電子ドローンおよびシンバルによる金屬音ドローンもやってゐる不思議なデュオ。

Al Wootton との Holy Tongue は Tomaga と同じくベーシストとのデュオといふ形態でありながら、音樂的には全く別物で、ベースとドラムだけでポスト・パンク・ダブとでも呼ぶべき曲をやってゐる。おれはダブもスカもロックステディもレゲも、とにかくジャマイカのああした音樂が苦手なのだが、これはジャマイカ要素のないダブなので、聽いててすごく樂しい。だって、リズムがあの獨特なやつぢゃないもんね。

Joe Andrews、Tom Halstead とのトリオ Moin は珍しくギター入り。これはポスト・パンク扱ひらしいが、おれの好きなポスト・パンクって、どれも無駄なテンションの高さを持ってゐるので、この Moin みたいにクールなのを聞かされると、あんまりポスト・パンクって感じを受けない。まあ、どのジャンルに分類されるかは重要なことではないけれども。ギターの音色なんかは完全にポスト・パンクのものだが、Magaletti のドラムがマシンのやうに冷徹で、ポスト・パンクにあるバカっぽさはゼロ。ちょーっとかっこよすぎますね。

Magaletti が參加してゐるものの中では唯一のヴォーカル入りバンドが Vanishing Twin。サイケ・ポップ・バンドらしいが、スピリチュアル・ジャズみたいな曲があったり、まるで Stereolab みたいな曲もあって、かなり洒落てゐる。Floating Points にも參加してゐるベーシスト、Susumu Mukai の演奏がジャズ要素やソウル要素に大きく貢献してゐると思ふ。

この記事で紹介されてゐないバンドで面白かったのは、Editions Mego から 2 枚のリリースがある UUUU。なんでってクラウトだから。

いやいや、紹介されてたものを一部スキップしながら列擧しただけなんだけど、ほんとにカメレオン的活動だな。新しい、といふわけではないけどいくつか興味深いものもあった。今後はちょっと氣になる名前になるだらう。

8 月 30 日の lists は Wider Reeding: Clarinets and Saxophones Put to Unusual Uses と題した、クラリネットおよびサックスが普通ではない使はれ方をしてゐるアルバムがリストアップされてゐるのだが、一通り聽いてみたら、いや、普通ぢゃね?ってののはうが多かった。 氣になったのは 2 つだけで、1 つ目は Waclaw Zimpel なる人の Lines。 使用樂器は各種クラリネットのほか、khaen といふタイの珍しい木管樂器とハモンドオルガン、フェンダーローズとなってゐるが、最後の曲のギターっぽい音とかどうやって出してんだらう。ミニマルはもはや特に珍しい音樂でもなんでもないが、クラリネット好きとしては Five Clarinets みたいな曲を聽くとやっぱり嬉しくなっちゃひますね。

もう 1 つは シンセ、クラリネット、ドラムといふ變はった編成によるトリオ Sugarstick & Xerox の Sugarstick & Xerox。electronic のタグしかつけられてゐないが、音樂としてはほとんどフリージャズ。特に、フリーに暴れまはるクラリネットがその印象を強くしてゐる。しかしこれ、クラリネットの使ひ方がどうかうといふより、バンドの編成自體が unusual なだけでは?

8 月 31 日の best reissues は 7, 8 月分がまとめて紹介されてゐた。 よかったのは 3 枚。

まづはメキシコの Leo Acosta による Acosta で、これは 1970 年のアルバム。legendary mexican psych latin jazz funk reissue と謳はれてゐるが、サイケ要素はかなり薄く、爽やかなラテン・ジャズ・ファンク。ジャケはなんで顏だけ人間にしちゃったの…と思はされるダサさだが、モンド/ラウンジ好きにはさういふところも含めてたまらないのではないか。おれも昔なら即買ひでしたね。

2 枚目は Jodi の Spherical Distortions。ちなみにこれ、Alarm in the Jungle: The Synthetic Side of Jodi と同時發賣である。

Jodi はパラグアイのサイケ・ガレージ・兄弟デュオ。Guerssen records グループ内の Out-sider が何年か前から Jodi のアルバムの再發と發掘をやってゐて、これはその最新の成果。 未發表曲を集めたコンピは、大抵が「そりゃ發表しねえよな」といった程度のショボい出來のものが多いのでほとんどスルーしてゐるのだが、Jodi のはどれも未發表だったのを惜しく感じるものばかりなので、かうやって熱心に發掘してくれるのは大變にありがたい。 しかし、スペインのレーベルから再發されるってのは面白い。パラグアイは南米の國だから、かつてはスペインの植民地だったわけで、公用語はスペイン語だから全く理解できん、といふわけでもないのだが、言葉が同じだからって、スペインから見ればさして近くもないパラグアイの音樂なんて興味あるもんなんですかね。まあ、言葉のわからない國の音樂よりは聽く氣になるもんなのかな。

3 枚目は Habibi Funk の vol. 15

とにかく樣々な國のファンクを發掘してきてはコンピにしてリリースしてゐる Habibi だが、今囘は特定のアーティストを採りあげたものではなく、アラブものをまとめたコンピで、アラブもののまとめはこれが 2 作目。とはいへ、ここのレーベルはジャケにいっつもデカデカとアラビア語が書かれてゐるので、いっつもアラブものなんぢゃねえの、といふ感じしかしない。まあ、アラビア語が公用語の國、たくさんあるもんね。ちなみに、今囘のアルバムのジャケは、大阪萬博のときに Ahmed Malek(9 曲目に收録されてる人)がアイスクリーム屋に立ち寄ったときの寫眞なんだとか。確かに、日本のアイスクリーム屋でよく見かけるコーンのでかい箱がある。

ファンクはもともとダンス・ミュージックだから陽氣なものに決まってゐるが、それにしたってこのコンピに入ってゐる曲の陽氣さったらない。といふか、全體的に音が輕い。わざとさういふ曲ばかり選んでゐるだけで、實際はもっと澁い曲もあるのかもしれないが、これだけ聽くと、アラブ圏のファンクって随分あっけらかんとしてんだなあ、と思ってしまふ。ジャケに寫ってゐる Ahmed Malek の曲なんかは、ジャズっぽさもあって澁いと云へなくもないが、ファンクぢゃないよね、これは…。別にいいんだけど。 ちょっとした文化の違ひだらうとは思ふが、ファンクに分類される音樂でも氛圍氣はかなり違ったものになってゐるのが興味深い。ファンクに限った話ではなく、かういふ、特定のジャンルのよその國での扱ひみたいなのがわかるコンピってどれも興味深いから大好き。

8 月分はこんなところ。あと 9 月分と 10 月分をアップすれば遂に現實の日付に追ひつくな! 1 週間分づつに分けるとかなんとか云ってたけど、面倒だから分けませんでした。

purchase history October 2021

まめにスターつけてくれる hiroshi-gong さんがいつも月末に買ひ物リストを公開されてて、 今月は Black Truffle から 3 枚も買ってらっしゃるのだが、どれもおれがスルーしたやつ!  同じレーベルに目を向けてゐても、かうやってちょろっとずれてるのが面白い。 なんなら、Old Million Eye も Pelt も Arushi Jain も知っててスルーしたやつだし、 Richard Youngs のアルバムでおれが一番好きなのは Beyond the Valley of the Ultra Hits だ。

Old Million Eye と Arushi Jain は單に好みに合はなかっただけだが、Pelt は昔から好きなバンドで、 アルバムも何枚も持ってゐるのだけど、やっぱり Jack Rose がもうゐないって思ふと、買へなかった。 ただ、入手困難だった旧譜が bandcamp で簡單に買へるやうになったので、 そっちは暇を見てちまちま集めたいなと思ふ。

閑話休題。でまあ、それを見て、おれの買ひ物リストも晒してみようかな、と思った次第。 bandcamp daily でチェックしたくせに買ってねえぢゃん!みたいなのが多量にあるから、やりたくないんだけど…。 まあ、一月ぐらゐならいいかな、と。

かつてなら、レコードあるいは CD で持ってゐたい!と意地を張ってゐただらう Pelt の音源すら bandcamp でいいや、 と思へるぐらゐに bandcamp でデジタル音源を買ふことに抵抗がなくなったので、 今年は bandcamp でけっこう買ってゐる。だって安いんですよ…。 正直、要らない CD は處分して bandcamp で買ひ直したいぐらゐ。レコードは賣らないけど。

今月だけでもこれだけ買った。

以上のものはどれもデジタル音源。いやー、安い。 デジタルだとアホみたいな送料に惱まされることもないし、 bandcamp のコレクション欄が埋まっていくのも樂しい。 Sote をまとめ買ひしたのは twitter にも書いた通り Opal Tapes から 20% ディスカウントのクーポンがきたからだが、 ついでに今年の始めにも別のレーベルから新譜が出てゐたことに氣づいたので、それも買ってしまった。

Mattia Coletti はふと名前を思ひ出して、Moon は日本のどっかの店が仕入れてくれたら絶對に買ふぞ! とリリース時から氣にしてゐたのに、どこも仕入れてくれず忘れてゐたアルバムで、 ひょっとして今なら bandcamp で買へるのでは?と思って見つけたやつ(調べて知ったけど、タワレコで CD 買へますね)。 前作 The Land は多分 CD 持ってるんだけど、どこ行ったかわかんないし、 探すのも面倒だったからついでに買った。 Mattia Coletti、唯一無二のものを持つギタリストだと思ふから、もっとアルバム出してほしい。

なほ、上述したもの以外は、bandcamp daily でチェックして放置してゐたものとか、すぐ買ったものとか。 今月 bandcamp に注文したフィジカルものは eden ahbez だけっぽい。これね。

あとは、タワレコで 2 枚。

  • Primal Scream: Screamadelica、4401 圓
  • Ìxtahuele: Dharmaland、4221 圓

Primal Scream のは、30 周年記念盤ピクチャーディスク。 正直、ピクチャーディスクはあんまり好きぢゃなくて、だいぶ買ひ澁ったのだが、 20 周年のときの赤いレコードを買ひ逃したので、仕方なく購入。 20 周年のやつはリマスターがすごくよかったので、まあこれもきっと音はいいでせう。

Ìxtahuele はずっと買はずに濟ませてゐたのだが、eden ahbez の記事も書いたし、 買はないわけにいかなくなったので、green vinyl を手輕に注文できるタワレコにした。 でもこれ、ちゃんと入荷するのかなあ。

ディスクユニオンでもいくつか。

  • Phew: New Decade、3630 圓
  • 高柳昌行: Dangerous、2750 圓
  • Jim O'Rourke: Shutting Down Here、2695 圓
  • Koma Saxo: Live、2541 圓
  • David Behrman: Viewfinder / Hide & Seek、3300 圓

これ、2 囘の注文をまとめたもので、今月始めに Phew と高柳さんのアルバムを買ひ、 月末に下 3 枚を買った。 どっちも目當ては 1 枚だけで(最初は Phew の新譜、次は Behrman のアルバム)、 そのあと送料無料にするために付け足しただけ。

Phew の新譜は先立って公開された曲(Into the Stream)がめちゃくちゃよくて、すぐに注文してしまった。 長らく「聲」の人だった Phew が、何年か前から電子音に傾倒してゐたのは知ってゐたのだが、 Phew の聲ってかういふ音樂のためのものだったんだ!と改めて思はされるぐらゐ、 聲と音樂の空氣がマッチしてゐて、のめり込まされる。傑作。

高柳さんのはまだ聽いてないので何も云へない。まあ、91 年の録音ってだけで間違ひないでせう。

Behrman は電子音樂作家の中で、個人的には好きな人トップ 3 に入るぐらゐの人なので、 そのうち記事を書かうと思ってもゐるのだが(ずっと下書きが眠ってゐる)、未だにちょこちょこ音源がリリースされるのが嬉しい。 2005 年に My Dear Siegfried が出た頃はほとんどのアルバムが品切れといふ名の廃盤状態だったのに、 今や On the Other Ocean は再發されたし、 Wave Train もちまちま Alga Marghen がリプレスしてくれる。 2017 年には Music with Memory が發掘されて Alga Marghen から出たし、 去年も Black Truffle から She's More Wild... が發掘された (もちろんすぐ買ったが、これは期待はずれだった)。 で、今年また Black Truffle から出たのがこの Viewfinder / Hide & Seek だ。

中身は、かつてリリースされた Unforeseen Events に入ってゐたのとは違ふ日の Unforeseen Events リアライズが 2 つ。 2002 年のインスタレーション作品が 1 つ。 まあ、なんにせよ、Behrman のファンとしては買ふしかなかった。

一緒に注文した O'Rourke と Koma Saxo はどっちもアウトレットで安くなってたやつ。 O'Rourke はもともと買ふつもりだったので安くなっててラッキーだったし、 その儘アウトレット漁ってて見つけた Koma Saxo は好みにドンピシャな賑やかフリージャズだったのでちょっと聽いただけで購入決定。 7 インチつきのもアウトレット落ちしてゐたが、だいぶ高かったのでスルー。 昔なら絶對 7 インチつき買ってた。 しかし、これどっちもちょっと前に出たばっかのアルバムだよな。 なんでもうアウトレットになってんだ。安く買へて嬉しいけどさ。

Amazon にも 1 枚だけ注文。

  • Common: A Beautiful Revolution (pt 2)、3218 圓

これ、bandcamp daily で知ったアルバムなんだけど、 こんなどメジャーな人、おれが買はなくてもいいだろ、とがんばってスルーしてたんですよ、しばらくは。 でも、あまりにかっこよくて頭から離れず、ある日、我慢の限界が來て注文してしまった。 ずるすぎるんだよ、こんなの。

以上、総額で $7 (US)、$8 (CAD)、€59、£12.5、26756 圓。4 萬ぐらゐ?  総額どれぐらゐ使ってるのか知りたくて記事にしてみたんだけど、今月はちょっと買ひ過ぎたかも…。 いやでも毎月これぐらゐ買ってるやうな…。 でもって、これだけ買っても、まだまだほしいものがわんさかある。ああ~。 使った額を知りたくないので、もうかういふ記事は書きません! たぶん。

bandcamp daily: July, 2021

bandcamp daily のまとめを記事にする、と書いたくせに、1 つしか記事をアップしない儘、10 月が終はりさうになってゐた。 どういふことだ。10 月分、まだ 10 月 11 日分までしか讀めてないのに…。 まじで、みんなどうやって音樂聽く時間を確保してんの?  新譜のチェックして氣に入ったやつ買って、それまでに買ったやつも聽いてってやってると聽くものが無限に増えてて時間足りないんですけど?

幸ひ、7 月分はほとんどのものにちゃんとコメントがつけられてゐた。さっさとアップしてしまはう。

7 月 1 日の best experimental は、 いつも通り大して experimental でないものがずらり竝んでゐたが、 Modelbau の Aether Aleatorica だけは實によかった。 experimental か?って云はれたら、そんなことはなく、 かういふ短波ラジオものはそれこそ電子音樂の初期段階(半世紀以上も前)から存在するが、時代に關係なくいいですよね、かういふのは。

同日の best electronic は、 これまた特に目新しいものがほとんどない不毛なリストだったが、 唯一 Renegade Android の Batteries not Included はよかった。

單純にグリッチものを久しぶりに聽いたから評價が甘くなってゐるのかもしれないが、音の選び方も配置もおれ好み。 テクノ、ハウス、エレクトロニカに属する音樂って、音色は限られてるし、リズムもヴァリエーションに乏しく、 沒個性的な音樂だらけなので、よっぽどでないと新しいものを聽いたりはしないのだが、これは珍しくいいなと感じた作品なので、今後にも期待したい。

7 月 2 日の album of the day で紹介されたのは、 Wallahi Le Zein! といふ Mississippi records から出たコンピ。もともとは 2010 年に CD でリリースされてゐたもののリイシュー。

モーリシャスの音樂を集めたものらしいが、ギターを前面に出した曲ばかりで占められてをり、これが實にすばらしい。 モーリシャスにおけるギターのイディオムを知ることができ、それはもちろん、われわれが普段親しんでゐるものとはかなり違ふ。 かういふ、成熟した別の文化を紹介してくれるコンピ、大好きです。

同日の best albums of spring 2021 から改めて紹介したものはないが、 おれがここで採りあげたアルバムもそこそこ入ってゐて、おれの耳もまだまだ腐っちゃゐないな、と嬉しくなった。 特に、リリース點數の多いヒップホップの中で、おれの買った McKinley Dixon のアルバムがここに載ってたのが誇らしい。

7 月 6 日の album of the day で紹介されてゐる Amaro Freitas の Sankofa は プログレっぽいジャズだなあと思ひながら聽いてゐたのだが、ある瞬間に、いやこれ Gismonti だろ!と思ひ至った。 特にブラジルといふ國を意識して聽いてゐたつもりもないのだが、ブラジルではかういふ感じのジャズってけっこうありふれてるんですかね。 Gismonti の Carmo をこよなく愛するおれとしては、かういふのがたくさんあると嬉しいんですけども。

同日の high scores は the best video game music on bandcamp: may/june 2021。 やったことないゲームのサントラ聽いてもなー、と思ひつつも一應はチェックしてみたのだが、笑ったのは La-Mulana with SSCC が入ってたこと。何種類サントラ出せば氣が濟むんだよ!!

あと、Aerial Knight's Never Yield ってゲームのサントラがめちゃくちゃよかった。 ちょっと古い感じのヒップホップなんだけど(スクラッチたっぷりだし、trap でもない)、ゲーム内音樂だからインスト曲が多くて(ヒップホップなのに!)、その所爲でファンク色が強く出てるのが實にグッド。どんなゲームなのかは知らないが、ゲームもちょっとほしくなってしまった。それぐらゐ、ぶっちぎりでかっこいい。 これ以外に紹介されてたやつは、やっぱりどれも、ゲームの中で聽けばきっといいんだらうな、って感じの音樂で、 まあサントラはさういふ音樂であるべきなのだが、Aerial Knight のやつは Hotline Miami のサントラぐらゐ、 單體で聽いてもそれだけで樂しめる、すばらしいアルバムだ。

7 月 7 日の best hip-hop は、どれもこれもよかったやうな氣もするし、 どれもこれもいまいちだった氣もする。 最近ヒップホップを追ひ求めすぎてる所爲でハードルが下がってゐて、全部かっこいいんぢゃないか?って氣がしてきてゐて困る。 でも、改めて聽くと別に大したことないんだよなあ。

7 月 13 日までははずれ續きだったが、 bandcamp navigator で紹介されてゐた Bud Powell の Sure Thing にはちょっと驚いた。 だって、Bud Powell、Charles Mingus、Max Roach、Charlie Parker、Dizzy Gillespie の豪華面子。まあ、ベースはかなり音が小さいし、遠慮がちといふか、Mingus であることを疑ってしまふやうなプレイだけど。

7 月 15 日の lists は Five Records Made with Invented Instruments、 つまり自作樂器を用いたアルバム 5 枚が紹介されてゐるのだが、 うち 2 枚は持ってるやつだったのでちょっと驚いた(Fred Frith & Henry Kaiser のやつと Yoshi Wada のやつ)。 記事の冒頭に名前だけ出てくる Harry Partch ももちろん持ってゐる。

7 月 22 日の label profile で紹介されたのは Séance Centre といふレーベル。 アンビエントばっかだなあ、興味ないなあと思ひつつも全部聽いてみたら、 Smokey Haangala の Aunka Ma Kwacha がドサイケ!  最高ぢゃあああああん。 レコード買はなきゃ!と思ったが、だいたいどの店でも 3000 圓ぐらゐはする。これ、5 年後にはたぶん忘れてるアルバムだから、わざわざ 3000 圓拂って買はなくてもデジタルで買へばいいか(とメモするだけして買ってないのたくさんあるけど…)。

7 月 23 日の features で紹介されたのは Froglord といふスラッジ・メタルのバンド。 普段は「metal」の文字を見ると、その記事を開きすらしないのだが、今囘は溜まってた記事を片っ端から開いたので、聽いてみた。 メタルのジャンルには全く詳しくないので知らなかったのだが、スラッジ・メタルってドゥーム・メタルの系列なんですね。 おれが唯一好きなジャンルはドゥームとかストーナーとか、つまりサイケ要素のある遅いメタルなのだが、スラッジもさうなのだとは知らなかった。不勉強を恥ぢるばかり。いいぢゃないですか、Froglord。

7 月 23 日の seven essential releases は全然エッセンシャルぢゃなかった。 この中だと Ora the Molecule の Human Safari が辛うじてニューウェーヴっぽさあって好きかな、といふ程度。 5 曲目の Helicopter とか、Cut/Copy の Take Me Over にそっくり。

同日の Big Ups は Piroshka のお氣に入り紹介。 ここにリストアップされてゐた 10000 Rossos の Kompromat の1曲目がなんか知ってる曲に似てるな、と氣になって仕方なかったのだが、 これあれだ、Primal Scream の Swastika Eyes だ!  てか全體的に XTRMNTR に似てる。 クラウトっぽさもあって惡くはないんだけど、これならもっといいものがよそにいくらでもあるよな…。

7 月 26 日の features は、Anthony Braxton の新譜、Quartet (standards) 2020 の紹介。 13 枚組ボックスだって。アホかよ。デジタルアルバムですら $95 もする! 高すぎ!  今さら Bridge Over Troubled Water やる Braxton を聽きたいとは思ひませんよ…。もっと 70 年代のライヴいっぱい出して?(懷古厨) でも實際、ヘナヘナの情けない音で、これでいいのか?って思っちゃふよ。Charlie Parker Project ぐらゐまではよかったんだけどなー、と思ったら、既に 30 年近くも前のアルバムだった。マジかよ…。

7 月 26 日の label profile で紹介されてる Loretta Records ってなんか知ってるなあと思ったら、1 月 8 日の seven essential releases に舉げられてた Observe since '98 のレーベルだった。珍しく帶つきのレコード賣ってる上に、帶に「98 年以來觀察」とか書いてあったからよく憶えてる。 落ち着いたテンポのゆったりしたバックトラックに乘せたヒップホップばかりをリリースしてるレーベルなんですね。

このレーベル、いろんなエディションでレコードやらカセットやらリリースしてる上、どれもこれも賣り切れで、ものによっては discogs で高値がついてるんだけど、 Observe since '98 の最新作 Bluto の説明文のところに Not to be released physically because you'll probably just sell it on Discogs... って書いてあって笑ってしまった。

そのつながりで見つけた Fxck Rxp ってレーベル は寧ろ逆で、こっちもやっぱりレコード賣り切れまくってるんだけど、デジタルアルバムの値段がどれもこれも 666 ユーロといふ、賣る氣まるでない値段。このレーベルにハマったらやべえな…。

7 月 28 日の featuresJoseph Spence の Encore: Unheard Recordings of Bahamian Guitar and Singing。 Joseph Spence のことを初めて知ったのは、Cicala Mvta のリーダーである大熊亘のアルバムだったか Tom Cora のトリビュート盤だったかで、これに收録されてゐた There will be a Happy Meeting in a Glory があんまりによかったからオリジナルを探して聽いたんだけど、歌が入ってるんだか入ってないんだかわからないうめき聲で驚いた憶えがある。

久しぶりに聽いたけど、これもやっぱりさういふ聲。 でも、だいぶ普通に聞こえるものが多いな。 1965 年に録音されたとは思へないほどギターの音はクリアで流麗。心に沁み入る、すばらしい音色。 かういふギターに浸れる一日があったら、それは仕合はせな日だらうな。

7 月 29 日の lists はまさかの Linda Sharrock 特集。いや、まあ、買はないんですけど。 もちろんそれなりにかっこいいのだが、Sonny Sharrock のギターがすさまじすぎて、あれがないと買ふ氣になれない。

同日には、best dance 12”s なんて珍しい特集も。 音樂はアルバム單位でばかり聽いてゐるので、12 インチは大體スルーするのだけど、 95Bones の BAM003Black Cadmium の Our Legacy EP はアシッドでちょっと氣になってしまった。 昔ならアシッドってだけで買ってたけど、もうこれ以上アシッド買ってもなあ。 どっちか 1 枚なら Black Cadmium のはうだが、生意氣に 7 ユーロもするんだよな。たった 5 曲なのに。

7 月 29 日 2 つ目の lists は Fred Rzewski 特集!  とはいへ、恥づかしながら Rzewski は MEV に參加してるやつぐらゐしか聽いたことがなく、この機會に初めてちゃんとソロ作品を聽いた。 いやー、どれもいいですね、さすがに。 おれにとっての名盤請負人 Garrett List 參加の Coming Together はもちろん最高なのだが、 なんでこれレコードでしか賣ってないの…。送料高すぎて買ふ氣になれないよ。デジタル音源で賣ってくれえ。

調性音樂になってからの The People United will Never be Defeated! & 4 Hands もなかなかよさげ。 お得感満載なのは Sarah Cahill による A Sweeter Music で、Rzewski だけでなく、Terry Riley や Meredith Monk、Kyle Gann、Carl Stone に加へ、なんと The Residents の曲まで入ってゐる。どういふことなんだ。

Globokar の作品が聽ける Bonnie Whiting の Perishable Structures や Cardew の作品が併録されてゐる Wooden Cities の Work なんかも氣になる。

7 月 30 日の album of the dayXhosa Cole なるサックス奏者のデビュー・アルバム K(no)w them, K(no)w us のレヴュー。 思はずポルナレフかよ!って突っ込んでしまふジャケではあるが、中身は輕快なジャズ。 1 曲目に聽き覺えがあったので調べてみたが、この Zoltan って Larry Young の Unity に入ってたやつか!  2 曲目も Ornette Coleman の名曲だし、Monk の Played Twice、 Lee Morgan の Untitled Boogaloo と、最近のジャズ・アルバムにしては珍しくよく知ってる古い曲がずらり。 新しいジャズもそれはそれで好きなんだけど、かういふのやられるとやっぱりグッと來てしまふ。

同日の seven essential releases の 1 枚目で紹介されてゐるのは Roy Brooks の發掘ライヴ Understanding なのだが、 なんとこれ、上に書いた Zoltan の作曲者 Woody Shaw が參加してゐる上、 その Zoltan もばっちり收録されてゐる。タイムリー。

Special Interest のエレクトロニクス擔當 Ruth Mascelli のソロ・デビュー作 A Night at the Baths は完全にハウス/テクノで驚き。 Special Interest は bandcamp daily で紹介されてたこともあって聽いたことあるんだけど、パンク・バンドなんですよね。 だから全く興味なかったんだけど、こちらはパンク要素ゼロ。4 曲目とかアシッドでいいぢゃないですか。 まあ、買ひませんけど。

ほかに紹介されてゐた koleżanka の Place IsPacmanthemovie の Pacmanthemovie 2: Eat LivesPeyton の PSA あたり(つまり、GLOR1A の METAL 以外)もけっこうよかったんだけど、最初の 2 枚の所爲でこの日はジャズの耳になってしまったので、メモっとくだけメモっといて今月はお仕舞ひ!

eden ahbez

いつの間にか 10 月も半ばになってゐることに氣づき、bandcamp daily のまとめは果たして年内にちゃんと追ひつけるのか?と疑問を抱きつつある私です。 でも、まとめはおいといて、bandcamp daily 6 月分のまとめでちらっと触れた、eden ahbez について書く。

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eden ahbez (本人の意志に従ひ、すべて小文字表記にする)は元祖ヒッピーとも呼ばれる人で、長髮にたっぷり髭を蓄へ、 嫁も子どももゐたのに放浪生活で野宿して野菜や果物のみを食べるベジタリアンだったといふから、相當な人だ。 それも、1960 年代末の話ぢゃない。1940 年代からそんな生活をしてゐたらしい。

1947 年には、Nat King Cole に今でもジャズ・スタンダードとして知られる Nature Boy を提供。 8 週間に亙って Billboard のチャートトップを保持したほどの曲で、eden ahbez といへばまずこの曲のことが語られる。

ほかにも曲を提供してゐないわけではないが、あまりに Nature Boy が有名すぎて、 それ以外の曲に何があったのかは調べるのは困難を伴ふ。 幸ひ、インターネットを漁ればあるところにはあるもので、 eden ahbez のみを扱ったブログ Eden's Island を見ればその邊りのこともわかる。

ちなみに、そのブログのタイトルは、eden ahbez が 1960 年に唯一リリースしたソロ・アルバムから採られてゐるのだが、 その Eden's Island が、 なんとたっぷりのボーナス・トラックを加へたリマスター盤で 12 月に再發されるのだ。 これは紹介せざるを得ない。

Nat King Cole に曲を提供してゐたぐらゐだから、中身はジャズなのかってーと全然違ふ。 Martin Denny と Jack Kerouac が出會ったやうな作品、と評されたらしいが、 個人的には Van Dyke Parks を思ひ出した。 確かに Martin Denny みたいなエキゾチカ要素は強いし、歌も本人は朗讀が多く、あとはコーラスばかり (しかし、朗讀が多いからって Jack Kerouac の名を出すのはどうなの…)。 そもそも歌ものが少ないため、ソフトロックやポップスといった感じは薄い。

それでも、なんとなく Van Dyke っぽさを感じてしまふのは、 eden ahbez のアルバムが、Van Dyke Parks の作品と同じく、フィクショナルな場所を想起させるからだ。 この人、The Beach Boys が Pet Sounds および SMiLE を作ってゐた時期に、 Brian Wilson とちょくちょく會ってたらしいが、Brian Wilson も Van Dyke っぽさを感じたりしてたんだらうか (ご存知の通り、Van Dyke Parks は SMiLE 制作に大きく關ってゐる)。

Van Dyke Parks の作品はアメリカーナと評されることがあり、 それは彼がアメリカのルーツ音樂を探求してゐることから來る評價だが、 Van Dyke Parks の描くアメリカは、單純なルーツではなく、實に幻想的である。 かつてあったものをその儘に復活させるわけではなく、 Van Dyke の味にした上で演ってみせてゐるから、 過去にも現在にもないものができあがってゐるのだ。

eden ahbez の音樂は、具體的な國に結びつくやうな音樂ではないが、 それでもやはり、幻想的だと思ふ。 なんたって、アルバム名が Eden's Island であり、 副題が The music of an enchanted isle なんだから、 eden ahbez 自身がさうした空氣作りに自覺的であったらうことには疑ひがない。

もちろん、現代の目で見れば、 それは、かつて Said が Orientalism で指摘したオリエンタリズムの産物でしかない、 とばっさり切り捨ててしまふこともできよう。

ただ、さうした多くの試みが、大抵はあざといものにしかならないのに對して、 eden ahbez の作品にさうした嫌らしさは感じない。 先に、eden ahbez の音樂が具體的な國に結びつくやうなものではないと書いたが、 それが效を奏してゐるのだと思ふ。 エデンの島ではこんな音樂が鳴ってゐるのだらう、ぐらゐのものでしかないのだ。

なんにせよ、Eden's Island はラウンジものやアメリカーナなんかが好きなら買って間違ひないと思ふ。 おれはかういふ時代も国籍もよくわからない音樂が大好きなので、すぐ買った。 ユニオンでも豫約を受け付けてゐるが、送料込みでも bandcamp から買ふのと値段が變はらないので、おれは bandcamp に注文した。 箱入りのやつとか、やたら豪華なエディションまで用意されてゐるが、そんなに賣れるんですかね、これ…。

さて、bandcamp の記事でも触れた、Ìxtahuele による Dharmaland についても書かう。 bandcamp daily によると、 これはドキュメンタリー映畫 As the Wind: The Enchanted Life of Eden Ahbez の製作中に監督である Brian Chidester が發見した未録音のスコアを Ìxtahuele に渡したことで實現したアルバムらしい。 eden ahbez が生きてゐる間には録音されなかった曲が、50 年ほどの時を經てお目見えした、といふわけだ。

Ìxtahuele はエキゾチカ音樂を演奏するバンドで、 なるほど Martin Denny を比較對象に舉げられる eden ahbez の音樂を現代でやるならまさに打ってつけと云へる。 しかし、よくこんなマイナーなバンド知ってたな…。

内容はもう完璧に eden ahbez で、朗讀もコーラスもばっちり。 音樂も eden ahbez が録音してた未發表アルバムと云はれてもわからないほど。 アルバムを想定して書かれた曲ではなく、未發表だったものの寄せ集めでしかないはずが、 タイトル通り、Dharmaland なる場所でこんな音樂が奏でられてるんぢゃないか、と思はせてくれ、 eden ahbez の曲が今でも古臭さとは無縁の、獨立したリアリティを持ったものであると感じさせてくれる。

斬新な音樂性といふわけではないが、探すと見つからない、 いや、そもそも探さうとも思はないぐらゐ、普段は意識の外にある音樂。 人によっては、ただのイージー・リスニングに聞こえるかもしれない。 でも、かういふ獨自の世界を持ってる音樂家って貴重ですよ。 浮世のことを忘れたいときにでもいかがでせうか。