理由は單純で、これは、おれが會場にゐたライヴだからだ。
つまり、生で Daevid Allen と Gilli Smyth を見ることができたライヴなのである。
選ばない理由がないですよね?
名前からわかる通り、Acid Mothers Gong は Acid Mothers Temple(以下、AMT)と Gong との融合バンドで、
結成の經緯などについては、河端さんが AMT の公式サイトに書いてゐるブログに詳しい。
そのブログにも書かれてゐる通り、Acid Mothers Gong のアルバムは、賛否両論ある。
舊來の、それこそ hiroshi-gong さんが敢へて外した Radio Gnome Invisible 三部作を愛するファンたちからは
「こんなの Gong ぢゃない!」と非難轟々、
昔の Gong だけに拘らないファンからは「これぞ Gong だ!」と歡迎されてゐて、
評價が兩極端なのだ。
でも、個人的に、AMT と Gong は、すごくよく似たバンドだと思ふ。
音樂が、ではない。バンドとしての有り樣が、である。
どっちも、バンドといふより、ヒッピーのコミューンみたいな共同體と云ったはうがよささうな繋がり方をしてゐる。
hiroshi-gong さんの記事にも書かれてゐる通り、
Gong には派生バンドが山ほどある。
Daevid Allen も Gilli Smyth もゐない Pierre Moerlen's Gong だとか、
Daevid Allen はゐるけど Gilli Smyth はゐない New York Gong だの(Bill Laswell がゐる)、
Daevid Allen はゐないけど Gilli Smyth はゐる Mother Gong だの、
Gong と名がつくバンドだけでもいくつもあって、どれもこれもカヴァーするにはかなりの熱意が要る。
AMT もさうだ。
Acid Mothers Temple のあとに來る名前は、編成によって異なる。
宗家と呼ばれるのは Acid Mothers Temple & the Melting Paraiso U.F.O. だが、
ほかに Acid Mothers Temple & the Cosmic Inferno、
Acid Mothers Temple SWR、Guru Guru の Mani Neumeier とやるときの Acid Mothers Guru Guru なんてのもあり、
メンバーも流動的だ(常にゐるのは河端さんだけ。東さんも SWR 以外はゐると思ふけど)。
Gong については hiroshi-gong さんがたくさん書いてくださってゐるから
(どれも Gong 愛に滿ちたすばらしい記事だ)、
AMT についてはおれが書かう。
まあ、おれは AMT の大ファンでもなければ、思ひ入れがあるわけでもないんだけど。
一口にサイケデリック・ロックといっても、樣々なサブジャンルがあるのだが、
數あるサイケデリック・ロック・バンドの中でも、隨一のサイケさを放ってゐるのが、AMT である。
ギラギラぐにゃぐにゃ、一から十まで、どこを聽いてもサイケ! それが AMT だ。
AMT を聽いてゐると、これぞサイケだ!といふ氣分になるのだが、
實際にサイケデリック・ロックを漁ってみると、AMT のやうなタイプのものは寧ろ少ない。
例へば、ドリーム・ポップやシューゲイザーはもっとぼんやりとした、幻想的サイケだし、
クラウトロックやテクノは同じことの繰り返しで眩惑する感じだ。
サイケの祖ともいへる The Grateful Dead も、緩くふんわりとした、惡い云ひ方をすればダラダラとした音樂である。
それに對して、AMT の音樂は實にハイテンションだ。
中心人物の河端さんの擔當がギターに加へ speed guru とクレジットされてゐることからもわかる通り、
AMT は怒濤のスピードでぐいぐいと前進していく曲が多く、
音樂的にはハードロック寄りである。Hawkwind がちょっと近いかもしれないが、
これはきっと、河端さんが云ふやうに Deep Purple からの影響が強いのだらう(でも、Deep Purple よりずっとスピーディーだ)。
どのアルバムが入門に最適かと問はれれば、
きっと定番曲だらけの 1st が一番だらうが、
あれは PSF から出てゐた、つまり廃盤なので入手はちょっと面倒かもしれない(中古で賣ってると思ふが)。
それに、こんなこと云ったら怒られるかもしれないが、
AMT の音樂は發展性なんてまるでないので、Melting Paraiso U. F. O. 名義の好きなやつを買へばよろしい
(ライヴ盤がおすすめ)。
實際、おれだってタイトルが氣になったやつとか、ジャケが氣になったやつしか買ってゐない。
で、いつも中身は大體同じだし、そのくせ、どれもかっこいい。
まずは昨年、ラッパーの片割れ Stepa J. Groggs が亡くなってしまった Injury Reserve の新譜、By the Time I Get to Phoneix。
ってまあ、Injury Reserve のことなんて知らなかったんですけどね。
聽いてみたら、IDM のやうなズタズタなリズムの曲が多くて最高。
もっと早く知っておきたかった。これ以前のアルバムがどんなものだったのかはまだ知らないが、
一人亡くなってもこんなアルバムを作ってくれるなら、これからも安心して追っかけられるな。
ジャンル的にはゴスペルといふことになってゐて、確かにコーラスワークはゴスペルなのだが、音樂は完全にソウル。
既に Numero からリイシュー濟みの Like a Ship、Do Not Pass Me by Volume 1 に加へ、
Do Not Pass Me by Volume 2、I Found the Answer、
ボーナス・ディスクにシングルなどなど代表作の詰め合はせ。
詳しくは、なんと萩原健太さんがブログにて取り上げてゐるので、そちらを參照していただきたい。
デジタルならたった $40。レコードも 5 枚組にしては送料が安く、日本のレコード屋に注文するよりずっと安い。
Numero の作品はレコードで持ってゐたい、といふ拘りがないから買ふならデジタル、と云ひたいところだが、
これ、デジタルだと CD 4 枚分しか入ってないっぽいんだよね。フィジカルで買ふしかないの? マジ?
Black Dice の音樂をポップと評するのは確實に間違ひだらうが、
Black Dice にはポップとしか云ひやうのない輕さがある。
もっと云へば、Black Dice の音樂は巫山戲てゐる。アホの作った音樂ではないか、とすら思ふ。
當然、そんなことはないんですけどね。
細かく計算されたものなのかどうかはわからないが、巫山戲てゐるやうでも Black Dice 以外の何物でもなく、
おれはその Black Dice の作る音樂が好きなのである。
別のバンドが似たやうなことをやっても、それはきっと Black Dice のやうにはならないし、それをおれが好むかどうかだって全然わからないのだ。
2 枚目は Norman W. Long の Black Brown Gray Green。
bandcamp に賄賂でも拂ってんぢゃないの、と思ふぐらゐ bandcamp daily で紹介されることの多い Hausu Mountain レーベルの作品だが、
ここがこんな電子音樂をリリースするレーベルでもあったとは。
前に紹介した Prolaps もこのレーベルから出てる(vol. 3 が出たので、また bandcamp daily で紹介される豫感)。
蟲や鳥の鳴き聲を用ゐたコンクレートものがメイン。
最初に入ってるライヴのトラックが派手な電子音なんかも入ってゐて一番面白い。
あとの曲は、ちょっとつまらない繰り返しが多いかな、といふ印象。
3 枚目は Sarah Terral の Le Ménisque Original。
Rafael Toral の Jupiter and Beyond を出したレーベルなんですね。スイスのレーベルってのは初めて見たな。
短い曲が多い分、いろんなタイプの電子音樂が入ってゐるのがいい。
バキバキタイプ、みょんみょんタイプ、ガサゴソタイプ、グシャグシャタイプなどが 1 枚で樂しめるアルバムはあんまりない。
なんならちょっとだけエレクトロニカっぽいのだってある。
Sarah Davachi みたいに短いドローンをポップに聽かせるアーティストも出てきてゐる昨今だが、
これもドローンではないにせよ、さうしたポップな印象を受ける。
もっと電子音樂をポピュラーにしていけ。
10 月 7 日の album of the day は Jerusalem in My Heart の新譜。
發賣元の Constellation Records をフォローしてゐるからリリース自體は知ってゐたが、知らないバンドなのでスルーしてしまってゐた。
正直、Constellation をフォローしてゐるのは、かつてよく聽いたなあといふ懐かしさのみが理由だったので、
こんなバンドと契約してゐるなんてびっくりした。
いや、バンドではないか。
レバノン系カナダ人の音樂家 Radwan Ghazi Moumneh とモントリオール在住の映像作家 Erin Weisgerber による a live audio-visual performance project らしい。
なんだかよくわからんが、映像とのインスタレーションを重視してゐるみたいですね。
電子音とアラビア音樂との混淆って感じだが、1 曲目のインパクトがすごい。
ほかの曲はおとなしめのものばかりで殘念だが、
去年すばらしい電子音樂アルバムを出した Fly Pan Am の Roger Tellier-Craig がゲスト参加してゐる曲はグリッチノイズ風の電子音をうまく装飾に使ってゐてさすが。
Moor Mother との共演作は期待はずれ。
全部 1 曲目あるいは 7 曲目みたいので占めてくれれば迷ひなく追っかけるんだけどなあ。
10 月 11 日の記事 は、
The Caretaker のことについてのエセー。
おまへの話なんか知らんがな…、とは思ったが、
The Caretaker が bandcamp でも買へる(しかもめちゃんこ安い)ことの宣傳と割り切ればまあ…。
個人的に、The Caretaker は限定でレコードを出す→すぐ賣り切れて discogs に轉賣屋が高値で出品って流れが新譜出るたびに繰り返されるのが嫌になって追ひかけるのをやめたアーティストで、
James Leyland Kerby にとって The Caretaker はもう終はったプロジェクトだらうし、
最後の 6 部作も最後のはうは The Caretaker 名義といふより James Leyland Kerby 名義の作品に寄っていってたから、
また新譜を出してほしいとは思はないが(それに、どれもこれもおんなじだしね)、
まあ、bandcamp で安く買へたのは個人的にもありがたかったので
(發賣當時から賣ってたのは知ってたが、かつては bandcamp で買ふことに抵抗があって値段すら見てなかった)、
これでおれみたいな人が増えるのなら喜ばしいことだ。
10 月 13 日の best jazz は途中でチェックをやめたくなるほど多量のアルバムがリストアップされてゐたが、
氣になったのは New York United の Volume 2 ぐらゐ。
このバンドの面白いところは、ロックバンドである Blue Foundation のヴォーカルやギター、プロデュースを務める Tobias Wilner が參加してゐることで、
Tobias Wilner のお蔭でどの曲にもぼんやりと靄のかかったやうな、幻想的な空氣が賦與されてゐること。
ジャズといふ音樂は、曲のアンビエンスをほとんど問題にしない音樂なので、
かうやって曲が獨自の空氣をまとってゐるのは珍しく、未開拓の部分を見せられた感じ。
同日の lists は exploring the world of indie pop on Bandcamp と題されたちょっと古いインディー・ポップの紹介。
さすがにもうインディー・ポップで新しいものもないだろ、と思って適當に飛ばしまくって聽いてゐたのだが、
唯一、おっこれはかはいくていいな、と思ったやつが日本人のバンドだった。
フラワーベルカウといふんださうな。
リリースはこの 7 インチだけ!
紹介されてゐるアーティストは、どれもこのフラワーカウベルに劣らぬ愛らしさを持ったバンドばかりだったが、
なんでこれだけ妙に引っかかったんだらう。
しかしこれ、7 インチは賣り切れてるわ、デジタルでは賣ってないわで入手手段がないぢゃん!
もっと商賣に貪欲になって。
10 月 21 日の album of the day はフロリダの兄弟デュオ Tonstartssbandht の最新作 Petunia の紹介。
おれは全く知らなかったのだが、このデュオは 2008 年から活動してゐるらしい。
それにしちゃあ、そこはかとなく下手ぢゃないすか? 特にドラムが。
長く音樂を聽いてゐると、もちろん下手な演奏を耳にすることもある。
The Shaggs とか The Portsmouth Sinfonia なんかは、音樂好きなら一度は聽いたことがあるはずだ。
なんで氣になるかって、下部の「LIL UGLY MANE が好きな人におススメ」のところが、Jpegmafia だらけだったから。
で、ヒップホップなのかなと思ったら、全然ヒップホップぢゃねえ!
ちょちょっとググってみたら、この Lil Ugly Mane こと Travis Miller はいろんなスタイルの音樂をやる人らしく、
今囘のこれがたまたまロック寄りなだけで、作品によってスタイルは違ふんだとか。
まだあんまりリリース多くないみたいだし、ちょっといくつか漁ってみようかな。
John Cage は 4′33″ ばかりが有名だが、
ライヴ・エレクトロニクスやテープ音樂、プリペアド・ピアノのための曲など、
すばらしい作品が山ほどある。
このアルバムで Apartment House がリアライズした數字のみを曲名とする number pieces は晩年の作品群で、
タイトルになってゐる數字は、パート譜がいくつあるかを示すものでしかない(から、同じ數字を持つ曲が複數ある)。
Mike Cooper は 60 年代から活動を續ける大ベテランだが、初期と現在とでやってゐる音樂が全然違ふ。
初期は、60 年代に珍しくない、カントリー・ロック、あるいはフォーク・ロックをやってゐたシンガーソングライターだったのだが、
80 年代あたりからジャズとポリネシアン音樂(ハワイアンな感じのあれ)に傾倒し始め、
と思ったら、いつの間にか音響派ギタリストとしか呼びやうのない作品ばかりリリースする人になってゐた。
しかも、これがどれも滅法すばらしい。
Mike Cooper に關しては、またいずれ機會があれば詳しく書くとして、
今囘はこれまでも Mike Cooper のアルバムをいくつもリリースしてきた Room 40 から、
Cane Fire といふドキュメンタリー映畫のサントラがリリースされた。
映畫自體は昨年のもので、ハワイはカウアイ島の過去と現在を描いたものらしい。
なるほど、ハワイなら Mike Cooper はうってつけの人物だ。
どの曲もコンパクトにまとまってゐるが、Mike Cooper のいろんな側面が凝縮されてゐて、
Mike Cooper がどんな音樂家なのかを知るにもよいアルバムだと思ふ。
おいおい、やべーの持ってきたな。すげーな、bandcamp daily は。
ヘンリー川原については TURN の柴崎祐二さんによる「90 年代オカルト・ミュージックの極北、ヘンリー川原の世界が今蘇る」と
まさにこのアルバムをリリースした EM Records のオーナー江村幸紀さんによる「立体音響と 90 年代のイルカ、ヘンリー川原論考(時代考証資料編) 」に詳しいのでそちらを讀んでもらふとして(特に後者は誰がそこまで詳しい解説を望んでるんだ?ってレベルのすさまじい論考)、音樂については、先入觀なしで聽くと、それほどオカルトでもサイバーでもない氣がする。
面白いことは面白いし、ダウンロード版よりずっとトラック數の多い CD 版も氣になる。それに、なんたって EM Records からのリリースだし。
でも、買ふかどうかはまだわからない。
これ、ググるといくつか日本のレコード屋に入荷豫定なのがわかるのだが、どこもかしこもこれは最高! コロンビアのデュオによるデビューアルバム! サイケデリックなサルサからタイトなクンビア・ディスコ、チャンペータのグルーヴ、ズークの祝祭性などが混然一体となった超絶ダンサブルな一枚!と書いてあるのが笑ふ。
たぶん、ディストリビュータが考へた煽り(といふか、bandcamp の紹介文にあるa debut album that veers between psychedelic salsa, taut cumbia-disco and zouk party jamsあたりを譯したもの)をその儘採用してるんだらうけど、殘念ながらそこまでダンサブルではない。
實際、南米のダンス・ミュージックが混じり合った感じなのは面白いが、別に革新的なわけではないため、そこまで購買欲はそそられない。
Together Again は Truth Revolution Records によるコンピで、いろいろな有名クラシック曲をジャズにしたもの。
ジャズは要するにテーマ(といふ名の曲の構造の提示)とアドリブさへあれば成立するから、テーマが何でもいいのはわかってゐたが、クラシックもしっかりジャズになるんですねえ。
まあ、Black Sabbath ですらジャズにされるぐらゐだもんな。クラシックぐらゐちょろいか。
Debussy の Clair de Lune みたいに、さっぱり元曲がわからないやうなのもあるが、どれも面白く仕上がってゐる。
Stravinsky の The Firebird からは 2 曲も採られてゐるが、同じプロデューサーが手掛けてゐるのに氛圍氣は全く違ったりして、いろんなやり口があるものだと感心させられる。
ちょっと目を向けるものを變へただけでジャズがまだまだ面白い音樂だと思はせてくれる好盤。
この Common はデビューが 92 年でアイス・キューブとビーフしたりもしてるから、まあかなりのヴェテランである。グラミー賞 3 囘も取ってるし。
まあ、そんな人のアルバムを初めて聽いたんですけど、いやいや、アフロビートとか入っててかっこいいぢゃん。ヴェテランだからオールドスクールな感じなのかと思ったけど、びっくりしてしまった。
今さらひとつのジャンルを一から勉強するのはとても億劫だが、やっぱり勉強しないとなあ。しかしこれ、リリースが billboard japan でも記事になるほどなんだけど、billboard japan ってこんな偉さうな記事書くんですねえ。笑っちゃったよ。
Kondi Band といへば、2016 年のデビュー EP Belle Wahallah のドープさには度肝を拔かれたものだが、こちらは 4 年ぶりの新作。
今作も Sorie Kondi によるトライバルな親指ピアノの響きと歌唱と DJ Chief Boima によるハウスの混淆っぷりは見事だが、前作に比べるとドープさは控へ目で、
爽やかさ、陽氣さが強い。
もともと、親指ピアノの響きは祝祭的イメージが強いため、それを活かした方向に振り切ってゐるとも云へよう。
個人的には前作のはうが好みだが、アフリカの音樂って先入觀の所爲なのかアフリカ要素が前面に押し出されるのに、Kondi Band はさうしたあざとさみたいなものがあまりない貴重なバンドなので、これからもリリースを續けてほしいものだ。
確かに、2016 年に Zooid 名義の In for a Penny, In for a Pound でピュリッツァ賞を獲ったのは記憶に新しいが、Threadgill っつったら、Anthony Braxton や Art Ensemble of Chicago の面々とともに AACM を立ち上げたおじいちゃんですよ。
ジャズ・ファンなら紹介されるまでもなく名を知ってるビッグネームで、今でも Zooid で元氣に活動してゐるが、まさか新譜を出すからって bandcamp で特集されるとは…。
記事にも書かれてゐる通り、アメリカのフィンガーピッキング・スタイルによるギターもので、
John Fahey や Robbie Basho、新しめなら Jack Rose や James Blackshaw の流れに屬する感じのあれ。
このスタイルの音樂はかなり好きなんだけど、おれが好きなのは John Fahey とか Jack Rose みたいにブルーズ色が強いやつなので、
ブルーズ感があんまりないこのアルバムは、そこまで好みでもない。
でもまあ、かういふアーティストが出てきてくれるのは嬉しい。
9 月 29 日の best dance 12”s はタイトル通りテクノやハウスの EP およびシングルをずらずらっと紹介。
どれもこれも紹介されるだけあって結構いいやつばっかりなのだが、いかんせん EP やシングルってやつは買ふ氣がしない。殘念。
8 月 2 日の best electronic は相變はらず進歩のない音樂がずらずら竝んでゐるばかりで、興味を惹かれるものはほぼなし。唯一 Box N Lock レーベルのアルバムだけ氣になったが、まあ氣になる理由は日本人なら仕方ないといふか……、リンク先に飛べばわかります。そのアーティスト名、正氣か?
しかし、こんな似たやうなのばかりがリリースされるこのジャンル、bandcamp のスタッフはどうやって best を選出してゐるのか。賣上ってわけでもなささうだしなあ。謎だ。
Marný Ňežný の Ani Metr Ženy も面白い。こんなこと云ったら本人はむっとするかもしれないが、ある種の懷かしさすら感じる。でも、インプロっぽいのばかりかと思へばそんなこともない。Name Your Price だから買っちゃったよ。
しかし、Name Your Price だからってみんな無料でダウンロードしてるっぽくて、お金拂ったのがおれ一人なのは申しわけないが笑ってしまった。おれだって、最低價格 20 CZK 拂っただけなのに。コレクションに追加されるのが嬉しい、みたいな感覺はないのかな。
ヤバいのは IZ Band の IZ: 路过旧天堂书店 Drop by Old Heaven Books。
何がヤバいって音樂がサイケでめちゃくそカッコいいだけでなく、ジャケ、ボックスの仕樣すべてがカッコいいこと。でも送料込み $75 はたけえ~。デジタルなら $29 だけど、ボール紙に入ったボックスほしいんぢゃあああ。CD のくせにこんなカッコいいとか、ひどくない?
その Pink Siifu の新作で最後のトラックにゲスト參加してゐた (Liv).e の新作 CWTTY+ もめちゃくちゃいい。昨年の Couldn't Wait to Tell You の 1 周年を記念して、Couldn't Wait to Tell You とこの新作 EP のセット仕樣でレコードがプレスされたみたい。今から買ふ人にとってはお得だが、昨年の Couldn't Wait to Tell You を持ってる人はどうするんだよ…。でも、この高度に發展したソウルは買はずにゐられないし、マンガっぽいジャケもいい。どっか入荷してくれんかなー。そしたら送料のこと考へなくていいから迷はず買ふのになー。去年のアルバムは普通に日本で買へたんだから、こっちもなんとかお願ひしたい。
Your Grandparents の Thru My Window も濃厚なソウル。テンポのゆるさと、間の多さが特にすばらしい。ヴォーカルも歌だったりラップだったりで、ソウルとヒップホップの境界が搖らぎまくってゐる現代らしい音樂。後半はファンクやジャズ風味も入ってきて見事。このアルバムがデビュー作らしいが、今後が樂しみ。
しばらくハズレだらけだったが、8 月 18 日の scene report は Exploring the Rave Renaissance in New Orleans with Trax Only と題したニュー・オーリンズのレーベル Trax Only の紹介。
この記事を讀むまで知らなかったんだけど、ニュー・オーリンズはいつの間にかジャズの街ではなく、ジャズとバウンスの街になってたんださうですね。バウンスってなんだよ。
調べました。EDM のサブジャンルなんださうで。EDM はほとんどゴミだと先入觀を持ってるから全く知らなかった。バウンスってのは、EDM にしちゃ惡くないですね。
で、Trax Only はジャズでもバウンスでもなく、ハウス/テクノのレーベル。ニュー・オーリンズでは珍しい、みたいな話なんだらうけど、日本にゐるとまるでピンとこない。いや、だって、日本は地域によってジャンルがどうかうみたいな話はないぢゃないですか。別に日本に限ったことぢゃない。ドイツ、フランス、イギリスのやうな國でも都市ごとで音樂イメージあったりはしない。あるとしても、片手で數へられる程度の都市だけだ。州といふ、單位のでかい自治體(といふか、state だからまあ國みたいなもんだ)を抱へるアメリカならではの話だらう。
で、Trax Only ですけど、面白かったのは Ephemera の Acid Disco Prom ぐらゐ。理由もアシッド・ハウスだから。別の日にもアシッド・ハウスが多く紹介されてた氣がするけど、それらのどれもがいまいちだったのに對して、このアルバムはけっこうよかった。買ふほどではないけども。
同日の lists は A Guide to Free Jazz Drumming on Bandcamp とのことで、フリージャズのドラマーがずらずら紹介されてゐるのだが、Sunny Murray、Milford Graves、Rashied Ali、Ronald Shannon Jackson とフリージャズが好きでそいつら聽いたことない人間がゐるのか?ってレベルの人選。
そんな中なので、最後の二人 Tyshawn Sorey と Makaya McCraven の名前は否が應でも目立つ。
Tyshawn Sorey の名は寡聞にして知らなかったが、この人はドラマーでありつつ作曲もしてんですね。この特集で消化されてる他のアルバムは、まさにフリージャズ以外の何物でもないんだけど、この人の The Inner Spectrum of Variables はフリージャズっぽさがないわけではないものの、かなりかっちりした作曲作品だし、視聽できるうちのひとつ、Movement IV は弦樂四重奏團 + ドラムといふ、ジャズではほとんどあり得ない編成のもので新鮮だった。
8 月 23 日の lists は 5 月に亡くなった Yoshi Wada(本名、和田義正っていふんですね、知らなかった)の紹介。10 年ちょっと前に EM records がバンバン再發/發掘してくれて、そのときにほとんどレコード及び CD で揃へちゃったから、今さら特に何も思はないんだけど、Earth Horns with Electronic Drone が手輕に聽けるやうになったのはありがたい。なんせあれ、EM records から出たときはレコード付属の CD-R でしかデジタル音源は入手できなかったもんね(CD も發賣されたが、中身はなぜか拔粹版で、全長を聽くにはレコードを買ふしかなかった)。CD-R つきのを買ったと思ふが、あの CD-R、今でも再生できるか怪しいし…。
The Space Lady は所謂アウトサイダー・アートに分類される人で、もともとはボストンの地下鉄の駅だとか、その後移り住んだサン・フランシスコの bart の駅だとかで演奏してゐた路上ミュージシャンらしい。金屬製で羽のついたわけわからん帽子をかぶってゐるところがチャームポイント。帽子かぶって路上で演奏してたミュージシャンといへば Moondog もさうだが、Moondog が自作曲をやってゐたのに對して、The Space Lady がやってゐるのはカヴァー。しかも有名なやつばかり。
當時(1970 年代後半)、彼女が路上で賣ってゐたカセットのタイトルは、いみじくも The Space Lady's Greatest Hits なのだが(もちろん、それ以外になんの作品も出してゐなかった)、實際このアルバムが一番いい。
中身は先述したやうに有名曲のカヴァーばかりで構成されてゐるのだが、bandcamp daily の記事に ethereal, kitschy cover と書かれてゐる通り、見事なまでにキッチュで、元曲がよくわからないレヴェルにまでぼやけた演奏ばかりが收められてゐる。カシオのキーボードが奏でる安っぽいドラムとぐにょんぐにょんな浮遊音にエコーのかかった The Space Lady の聲が乘る、まさに唯一無二のカヴァーがたっぷり聽ける。
一應、これ以外にも 2013 年と 2018 年にアルバムを出してはゐるのだが、そちらに入ってゐるカヴァーは元曲をかなりしっかりなぞってゐて、The Space Lady ならではの面白さはかなり減ってしまってゐる。
まづはメキシコの Leo Acosta による Acosta で、これは 1970 年のアルバム。legendary mexican psych latin jazz funk reissue と謳はれてゐるが、サイケ要素はかなり薄く、爽やかなラテン・ジャズ・ファンク。ジャケはなんで顏だけ人間にしちゃったの…と思はされるダサさだが、モンド/ラウンジ好きにはさういふところも含めてたまらないのではないか。おれも昔なら即買ひでしたね。
とにかく樣々な國のファンクを發掘してきてはコンピにしてリリースしてゐる Habibi だが、今囘は特定のアーティストを採りあげたものではなく、アラブものをまとめたコンピで、アラブもののまとめはこれが 2 作目。とはいへ、ここのレーベルはジャケにいっつもデカデカとアラビア語が書かれてゐるので、いっつもアラブものなんぢゃねえの、といふ感じしかしない。まあ、アラビア語が公用語の國、たくさんあるもんね。ちなみに、今囘のアルバムのジャケは、大阪萬博のときに Ahmed Malek(9 曲目に收録されてる人)がアイスクリーム屋に立ち寄ったときの寫眞なんだとか。確かに、日本のアイスクリーム屋でよく見かけるコーンのでかい箱がある。
ファンクはもともとダンス・ミュージックだから陽氣なものに決まってゐるが、それにしたってこのコンピに入ってゐる曲の陽氣さったらない。といふか、全體的に音が輕い。わざとさういふ曲ばかり選んでゐるだけで、實際はもっと澁い曲もあるのかもしれないが、これだけ聽くと、アラブ圏のファンクって随分あっけらかんとしてんだなあ、と思ってしまふ。ジャケに寫ってゐる Ahmed Malek の曲なんかは、ジャズっぽさもあって澁いと云へなくもないが、ファンクぢゃないよね、これは…。別にいいんだけど。
ちょっとした文化の違ひだらうとは思ふが、ファンクに分類される音樂でも氛圍氣はかなり違ったものになってゐるのが興味深い。ファンクに限った話ではなく、かういふ、特定のジャンルのよその國での扱ひみたいなのがわかるコンピってどれも興味深いから大好き。
まめにスターつけてくれる hiroshi-gong さんがいつも月末に買ひ物リストを公開されてて、
今月は Black Truffle から 3 枚も買ってらっしゃるのだが、どれもおれがスルーしたやつ!
同じレーベルに目を向けてゐても、かうやってちょろっとずれてるのが面白い。
なんなら、Old Million Eye も Pelt も Arushi Jain も知っててスルーしたやつだし、
Richard Youngs のアルバムでおれが一番好きなのは Beyond the Valley of the Ultra Hits だ。
Old Million Eye と Arushi Jain は單に好みに合はなかっただけだが、Pelt は昔から好きなバンドで、
アルバムも何枚も持ってゐるのだけど、やっぱり Jack Rose がもうゐないって思ふと、買へなかった。
ただ、入手困難だった旧譜が bandcamp で簡單に買へるやうになったので、
そっちは暇を見てちまちま集めたいなと思ふ。
Mattia Coletti はふと名前を思ひ出して、Moon は日本のどっかの店が仕入れてくれたら絶對に買ふぞ!
とリリース時から氣にしてゐたのに、どこも仕入れてくれず忘れてゐたアルバムで、
ひょっとして今なら bandcamp で買へるのでは?と思って見つけたやつ(調べて知ったけど、タワレコで CD 買へますね)。
前作 The Land は多分 CD 持ってるんだけど、どこ行ったかわかんないし、
探すのも面倒だったからついでに買った。
Mattia Coletti、唯一無二のものを持つギタリストだと思ふから、もっとアルバム出してほしい。
なほ、上述したもの以外は、bandcamp daily でチェックして放置してゐたものとか、すぐ買ったものとか。
今月 bandcamp に注文したフィジカルものは eden ahbez だけっぽい。これね。
同日の best albums of spring 2021 から改めて紹介したものはないが、
おれがここで採りあげたアルバムもそこそこ入ってゐて、おれの耳もまだまだ腐っちゃゐないな、と嬉しくなった。
特に、リリース點數の多いヒップホップの中で、おれの買った McKinley Dixon のアルバムがここに載ってたのが誇らしい。
7 月 6 日の album of the day で紹介されてゐる
Amaro Freitas の Sankofa は
プログレっぽいジャズだなあと思ひながら聽いてゐたのだが、ある瞬間に、いやこれ Gismonti だろ!と思ひ至った。
特にブラジルといふ國を意識して聽いてゐたつもりもないのだが、ブラジルではかういふ感じのジャズってけっこうありふれてるんですかね。
Gismonti の Carmo をこよなく愛するおれとしては、かういふのがたくさんあると嬉しいんですけども。
7 月 15 日の lists は Five Records Made with Invented Instruments、
つまり自作樂器を用いたアルバム 5 枚が紹介されてゐるのだが、
うち 2 枚は持ってるやつだったのでちょっと驚いた(Fred Frith & Henry Kaiser のやつと Yoshi Wada のやつ)。
記事の冒頭に名前だけ出てくる Harry Partch ももちろん持ってゐる。
このレーベル、いろんなエディションでレコードやらカセットやらリリースしてる上、どれもこれも賣り切れで、ものによっては discogs で高値がついてるんだけど、
Observe since '98 の最新作 Bluto の説明文のところに
Not to be released physically because you'll probably just sell it on Discogs... って書いてあって笑ってしまった。
7 月 30 日の album of the day は Xhosa Cole なるサックス奏者のデビュー・アルバム K(no)w them, K(no)w us のレヴュー。
思はずポルナレフかよ!って突っ込んでしまふジャケではあるが、中身は輕快なジャズ。
1 曲目に聽き覺えがあったので調べてみたが、この Zoltan って
Larry Young の Unity に入ってたやつか!
2 曲目も Ornette Coleman の名曲だし、Monk の Played Twice、
Lee Morgan の Untitled Boogaloo と、最近のジャズ・アルバムにしては珍しくよく知ってる古い曲がずらり。
新しいジャズもそれはそれで好きなんだけど、かういふのやられるとやっぱりグッと來てしまふ。
Special Interest のエレクトロニクス擔當 Ruth Mascelli のソロ・デビュー作 A Night at the Baths は完全にハウス/テクノで驚き。
Special Interest は bandcamp daily で紹介されてたこともあって聽いたことあるんだけど、パンク・バンドなんですよね。
だから全く興味なかったんだけど、こちらはパンク要素ゼロ。4 曲目とかアシッドでいいぢゃないですか。
まあ、買ひませんけど。
eden ahbez (本人の意志に従ひ、すべて小文字表記にする)は元祖ヒッピーとも呼ばれる人で、長髮にたっぷり髭を蓄へ、
嫁も子どももゐたのに放浪生活で野宿して野菜や果物のみを食べるベジタリアンだったといふから、相當な人だ。
それも、1960 年代末の話ぢゃない。1940 年代からそんな生活をしてゐたらしい。
1947 年には、Nat King Cole に今でもジャズ・スタンダードとして知られる Nature Boy を提供。
8 週間に亙って Billboard のチャートトップを保持したほどの曲で、eden ahbez といへばまずこの曲のことが語られる。
ほかにも曲を提供してゐないわけではないが、あまりに Nature Boy が有名すぎて、
それ以外の曲に何があったのかは調べるのは困難を伴ふ。
幸ひ、インターネットを漁ればあるところにはあるもので、
eden ahbez のみを扱ったブログ Eden's Island を見ればその邊りのこともわかる。
Nat King Cole に曲を提供してゐたぐらゐだから、中身はジャズなのかってーと全然違ふ。
Martin Denny と Jack Kerouac が出會ったやうな作品、と評されたらしいが、
個人的には Van Dyke Parks を思ひ出した。
確かに Martin Denny みたいなエキゾチカ要素は強いし、歌も本人は朗讀が多く、あとはコーラスばかり
(しかし、朗讀が多いからって Jack Kerouac の名を出すのはどうなの…)。
そもそも歌ものが少ないため、ソフトロックやポップスといった感じは薄い。
それでも、なんとなく Van Dyke っぽさを感じてしまふのは、
eden ahbez のアルバムが、Van Dyke Parks の作品と同じく、フィクショナルな場所を想起させるからだ。
この人、The Beach Boys が Pet Sounds および SMiLE を作ってゐた時期に、
Brian Wilson とちょくちょく會ってたらしいが、Brian Wilson も Van Dyke っぽさを感じたりしてたんだらうか
(ご存知の通り、Van Dyke Parks は SMiLE 制作に大きく關ってゐる)。
Van Dyke Parks の作品はアメリカーナと評されることがあり、
それは彼がアメリカのルーツ音樂を探求してゐることから來る評價だが、
Van Dyke Parks の描くアメリカは、單純なルーツではなく、實に幻想的である。
かつてあったものをその儘に復活させるわけではなく、
Van Dyke の味にした上で演ってみせてゐるから、
過去にも現在にもないものができあがってゐるのだ。
eden ahbez の音樂は、具體的な國に結びつくやうな音樂ではないが、
それでもやはり、幻想的だと思ふ。
なんたって、アルバム名が Eden's Island であり、
副題が The music of an enchanted isle なんだから、
eden ahbez 自身がさうした空氣作りに自覺的であったらうことには疑ひがない。
もちろん、現代の目で見れば、
それは、かつて Said が Orientalism で指摘したオリエンタリズムの産物でしかない、
とばっさり切り捨ててしまふこともできよう。
ただ、さうした多くの試みが、大抵はあざといものにしかならないのに對して、
eden ahbez の作品にさうした嫌らしさは感じない。
先に、eden ahbez の音樂が具體的な國に結びつくやうなものではないと書いたが、
それが效を奏してゐるのだと思ふ。
エデンの島ではこんな音樂が鳴ってゐるのだらう、ぐらゐのものでしかないのだ。
なんにせよ、Eden's Island はラウンジものやアメリカーナなんかが好きなら買って間違ひないと思ふ。
おれはかういふ時代も国籍もよくわからない音樂が大好きなので、すぐ買った。
ユニオンでも豫約を受け付けてゐるが、送料込みでも bandcamp から買ふのと値段が變はらないので、おれは bandcamp に注文した。
箱入りのやつとか、やたら豪華なエディションまで用意されてゐるが、そんなに賣れるんですかね、これ…。
Ìxtahuele はエキゾチカ音樂を演奏するバンドで、
なるほど Martin Denny を比較對象に舉げられる eden ahbez の音樂を現代でやるならまさに打ってつけと云へる。
しかし、よくこんなマイナーなバンド知ってたな…。
内容はもう完璧に eden ahbez で、朗讀もコーラスもばっちり。
音樂も eden ahbez が録音してた未發表アルバムと云はれてもわからないほど。
アルバムを想定して書かれた曲ではなく、未發表だったものの寄せ集めでしかないはずが、
タイトル通り、Dharmaland なる場所でこんな音樂が奏でられてるんぢゃないか、と思はせてくれ、
eden ahbez の曲が今でも古臭さとは無縁の、獨立したリアリティを持ったものであると感じさせてくれる。