When the Music's Over

音樂の話とゲームの話

bandcamp daily: October, 2021

實は 10 月はチェックをサボりまくってゐて、 後半になってから處理し始めたので、えらく時間がかかってしまった。 その間、ローテーションに入れてるものはあまり聽けないし、 なのにほしいものも買ったものもどんどん増えていくし、悲慘な日々であった。 でも遂にこれで追ひつく。 やうやく餘裕を持った生活が送れるんだ!

10 月 1 日の album of the day は Dark Entries といふレーベルからリリースされたコンピ、 Back Up: Mexican Tecno Pop 1980–1989 の紹介。

2005 年にメキシコの AT-AT records からリリースされた 13 曲入りコンピ Backup Expediente Tecno Pop からの 8 曲に 2 曲を加へ、 レコードにプレスしてしまった、どえらいマニアックな作品。

タイトルにはテクノポップと謳はれてゐるが、音はニューウェーヴ寄り。 クソみたいにチープなシンセがみょんみょん鳴りまくる、キッチュな曲がずらり竝ぶすばらしいコンピで、 8 曲目の Escuadrón Del Ritmo なんて、まるで Suicide だ。 どうせ再發みたいなものなんだから、もっと發掘して 2 枚組とかにしてくれればよかったのになあ。

10 月 1 日は the best albums of summer 2021 特集も。 よかったのは 3 枚(かなりたくさん紹介されてたけど…)。

まずは昨年、ラッパーの片割れ Stepa J. Groggs が亡くなってしまった Injury Reserve の新譜、By the Time I Get to Phoneix。 ってまあ、Injury Reserve のことなんて知らなかったんですけどね。 聽いてみたら、IDM のやうなズタズタなリズムの曲が多くて最高。 もっと早く知っておきたかった。これ以前のアルバムがどんなものだったのかはまだ知らないが、 一人亡くなってもこんなアルバムを作ってくれるなら、これからも安心して追っかけられるな。

2 枚目は Low の Hey What。 スローコアなるジャンルを作ったと云はれる人たちなんですってね。 同時代のロックをほとんど聽かないのでこれまた全然知らなかった。 でもこれ、ポスト・ロックとさして違はなくない? Mogwai に歌が入ったらこんな感じかなって印象 (まあ、Mogwai も聽かなくなって久しいので、この印象が現在の Mogwai に合致してゐるかどうかもわからんけど)。 もちろん、まんま Mogwai なわけではないが、美意識が Mogwai と同じ方向を向いてるなと感じさせる音作り。 人氣ありさうだなあとは思ふものの、自分では買はないやつ。懷かしいものを感じさせてくれたのはよかった。

3 枚目、Yola の Stand for Myself はあまりによすぎて、 聽いた瞬間に虜になってしまった。 ちょっと調べてみたら、2019 年にデビューしていきなりグラミー賞の 4 部門にノミネートされてるわ、アルバムは Warner から出てるわ、 超メジャーアーティストぢゃないですか。 でも、ソウル色の強い 70 年代ロックにソウルフルなヴォーカルが乘ってる感じで、正直たまらん…。くそ…。

10 月 4 日の featuresNumero から出た驚愕の 5 枚組リイシュー、Pastor T.L. Barrett の I Shall Wear a Crown に伴っての Pastor T.L. Barrett その人へのインタヴュー記事。 Numero から出るソウルのリイシューものはいつもすばらしいものだらけだが、これまた珠玉の逸品。

ジャンル的にはゴスペルといふことになってゐて、確かにコーラスワークはゴスペルなのだが、音樂は完全にソウル。 既に Numero からリイシュー濟みの Like a ShipDo Not Pass Me by Volume 1 に加へ、 Do Not Pass Me by Volume 2I Found the Answer、 ボーナス・ディスクにシングルなどなど代表作の詰め合はせ。 詳しくは、なんと萩原健太さんがブログにて取り上げてゐるので、そちらを參照していただきたい。

デジタルならたった $40。レコードも 5 枚組にしては送料が安く、日本のレコード屋に注文するよりずっと安い。 Numero の作品はレコードで持ってゐたい、といふ拘りがないから買ふならデジタル、と云ひたいところだが、 これ、デジタルだと CD 4 枚分しか入ってないっぽいんだよね。フィジカルで買ふしかないの? マジ?

10 月 4 日の album of the day は、 なんと Black Dice の新譜 Mod Prog Sic について。

何が驚いたって、Black Dice の名前を聞いたのがそもそも久しぶりすぎるってこと。 しかし、Black Dice の bandcamp を見ると、最近になって細かいのをちょこちょこリリースしてたみたい。 アルバムとしては、2012 年の Mr. Impossible 以來だから、なんと 9 年ぶり。 そりゃ懷かしく感じるわ。

Black Dice の音樂をポップと評するのは確實に間違ひだらうが、 Black Dice にはポップとしか云ひやうのない輕さがある。 もっと云へば、Black Dice の音樂は巫山戲てゐる。アホの作った音樂ではないか、とすら思ふ。 當然、そんなことはないんですけどね。

細かく計算されたものなのかどうかはわからないが、巫山戲てゐるやうでも Black Dice 以外の何物でもなく、 おれはその Black Dice の作る音樂が好きなのである。 別のバンドが似たやうなことをやっても、それはきっと Black Dice のやうにはならないし、それをおれが好むかどうかだって全然わからないのだ。

10 月 5 日の best experimental はよかったのが 4 枚。

1 枚目は Olivia Block の October 1984。 2017 年に eBay で買ひ漁ったカセットの中に、1984 年 10 月に録音された病院で亡くなった父のことを語ってゐるものがあり、 2017 年に同じく父を亡くした Olivia Block がそれに共感を持ってこの曲のアイディアになったらしい。 元のカセットの語りも使はれてゐるやうだが、たまに遠くから微かに聞こえる程度で、 あとは電子音だったり環境音だったりで、これぞミュジーク・コンクレートといった感じの作品。 電子音樂は全般的にどう紹介していいのかわからないので、これについても聽いてほしいとしか云へないが、 やっぱりかういふ、靜謐とした中で、ガサゴソ音が鳴る感じのやつ、好きですね。 派手なのも好きだけどさ。

2 枚目は Norman W. Long の Black Brown Gray Green。 bandcamp に賄賂でも拂ってんぢゃないの、と思ふぐらゐ bandcamp daily で紹介されることの多い Hausu Mountain レーベルの作品だが、 ここがこんな電子音樂をリリースするレーベルでもあったとは。 前に紹介した Prolaps もこのレーベルから出てる(vol. 3 が出たので、また bandcamp daily で紹介される豫感)。 蟲や鳥の鳴き聲を用ゐたコンクレートものがメイン。 最初に入ってるライヴのトラックが派手な電子音なんかも入ってゐて一番面白い。 あとの曲は、ちょっとつまらない繰り返しが多いかな、といふ印象。

3 枚目は Sarah Terral の Le Ménisque Original。 Rafael Toral の Jupiter and Beyond を出したレーベルなんですね。スイスのレーベルってのは初めて見たな。 短い曲が多い分、いろんなタイプの電子音樂が入ってゐるのがいい。 バキバキタイプ、みょんみょんタイプ、ガサゴソタイプ、グシャグシャタイプなどが 1 枚で樂しめるアルバムはあんまりない。 なんならちょっとだけエレクトロニカっぽいのだってある。 Sarah Davachi みたいに短いドローンをポップに聽かせるアーティストも出てきてゐる昨今だが、 これもドローンではないにせよ、さうしたポップな印象を受ける。 もっと電子音樂をポピュラーにしていけ。

最後は RN White の Cerebral Split。 ハーシュノイズの人らしいが、別にハーシュってほどぢゃなかった。 2 曲目とか綺麗なドローンだし(おれのあんまり好きぢゃない感じのやつ)。 ノイズまみれの電子音樂といふ感じ。 普段はノイズをほぼ聽かないおれだが、まあこれぐらゐのならいいかな。

10 月 5 日の best beat tapes は當たりが多かった。

dakim の regos_chillin' はインストもので、 キックをジャストなタイミングに入れずずらすことによってガクガク感を持った曲ばかりなのだが、上モノはチル。

GRAYMATTER の Tao Te Gray もチルい作品だが、 こちらはソウル色の強い曲も。半端なところで切られたループを用ゐることでビートにフックを與へてゐる。

L'Orange の The World Is Still Chaos, But I Feel Better もソウル色が強い。 上の 2 作ほどリズムが變だったりはしないが、こちらは 1 曲に使はれてゐる曲が多く、切り替へが早いため、1 曲のうちでもテンポが變はったりする。 L'Orange は前にも bandcamp daily で紹介されてゐたから、聽くのは初めてぢゃないけど、これが一番好き。

で、上に舉げた 3 枚はどれもいいんだけど、缺點は短いこと。特に GRAYMATTER と L'Orange は曲が短いからその部分で欲求不滿になる。 その點、Dome of Doom レーベルの設立 10 周年を記念したコンピ Decade of Doom は 4 ~ 5 分の曲がたくさん收録されてゐてよい。 コンピだからいろんな曲が入ってゐて、上に書いたやうなリズムが普通とはずれてゐるもの、ソウル色の強いものなんかもばっちりある。 ここまでの 4 枚のうちどれか 1 枚なら間違ひなくこれだが、問題は 30 曲で $30 と、bandcamp の相場からするとちょっとお高いこと。うーん。

10 月 6 日の acid test でよかったのは 2 枚。 plunderphonics のタグがついてゐるが、 1 つは Suite 309 の Titanic II。 ビデオ(VHS)が現役だった頃のハリウッド映畫で使はれた歌によるループ作品。 確かに John Oswald 作品を思ひ起す、メジャーどころの音樂がズタズタに引き裂かれてつながれてゐる作品。 John Oswald 好きだし、デジタルだとたった $1 だから買ってしまった。

もう 1 つは Helena Celle's Correspondence Table の Glasgow DecentralSpeaker Music を想起させる、ストイックで偏執的な、細かいリズムが襲ひくる作品。 すべて 4 分きっかりなのもパラノっててよい。 なかなかいいなとは思ったのだが、10 ポンドはたけえなあと思ってゐたら、 リリース元のレーベル Fort Evil Fruit では、デジタル版 5 ユーロ、カセット 6 ユーロ(+ 日本への送料 3 ユーロ)で賣られてゐる。 こっちのが全然安いぢゃん! ってんで、これまたデジタル版を買ってしまった。

10 月 6 日の best hip hop でよかったのは、 Common の新譜 A Beautiful Revolution (pt 2) だが、 まあこれは 9 月にも特集されてたので省略。

10 月 7 日の album of the dayJerusalem in My Heart の新譜。 發賣元の Constellation Records をフォローしてゐるからリリース自體は知ってゐたが、知らないバンドなのでスルーしてしまってゐた。 正直、Constellation をフォローしてゐるのは、かつてよく聽いたなあといふ懐かしさのみが理由だったので、 こんなバンドと契約してゐるなんてびっくりした。

いや、バンドではないか。 レバノン系カナダ人の音樂家 Radwan Ghazi Moumneh とモントリオール在住の映像作家 Erin Weisgerber による a live audio-visual performance project らしい。 なんだかよくわからんが、映像とのインスタレーションを重視してゐるみたいですね。 電子音とアラビア音樂との混淆って感じだが、1 曲目のインパクトがすごい。 ほかの曲はおとなしめのものばかりで殘念だが、 去年すばらしい電子音樂アルバムを出した Fly Pan Am の Roger Tellier-Craig がゲスト参加してゐる曲はグリッチノイズ風の電子音をうまく装飾に使ってゐてさすが。 Moor Mother との共演作は期待はずれ。 全部 1 曲目あるいは 7 曲目みたいので占めてくれれば迷ひなく追っかけるんだけどなあ。

10 月 11 日の記事 は、 The Caretaker のことについてのエセー。 おまへの話なんか知らんがな…、とは思ったが、 The Caretaker が bandcamp でも買へる(しかもめちゃんこ安い)ことの宣傳と割り切ればまあ…。

個人的に、The Caretaker は限定でレコードを出す→すぐ賣り切れて discogs に轉賣屋が高値で出品って流れが新譜出るたびに繰り返されるのが嫌になって追ひかけるのをやめたアーティストで、 James Leyland Kerby にとって The Caretaker はもう終はったプロジェクトだらうし、 最後の 6 部作も最後のはうは The Caretaker 名義といふより James Leyland Kerby 名義の作品に寄っていってたから、 また新譜を出してほしいとは思はないが(それに、どれもこれもおんなじだしね)、 まあ、bandcamp で安く買へたのは個人的にもありがたかったので (發賣當時から賣ってたのは知ってたが、かつては bandcamp で買ふことに抵抗があって値段すら見てなかった)、 これでおれみたいな人が増えるのなら喜ばしいことだ。

10 月 11 日の best soul でよかったのはなんといっても MMYYKK(これでマイクと讀むらしい)。 アホっぽいシンセ入りまくりなのがとにかくいい。しっとり系のソウルなのに無駄に宇宙音入れちゃふところとか、もうたまらない。 なんでメロウな氛圍氣を自分から壞してんの? 最高だあ。脱力系ソウルの名盤ですよこいつぁ。 ただ、EP で曲が少ないのがなあ。レコード買ふか、デジタルで買ふか…。

10 月 13 日の best jazz は途中でチェックをやめたくなるほど多量のアルバムがリストアップされてゐたが、 氣になったのは New York United の Volume 2 ぐらゐ。 このバンドの面白いところは、ロックバンドである Blue Foundation のヴォーカルやギター、プロデュースを務める Tobias Wilner が參加してゐることで、 Tobias Wilner のお蔭でどの曲にもぼんやりと靄のかかったやうな、幻想的な空氣が賦與されてゐること。 ジャズといふ音樂は、曲のアンビエンスをほとんど問題にしない音樂なので、 かうやって曲が獨自の空氣をまとってゐるのは珍しく、未開拓の部分を見せられた感じ。

10 月 13 日の lists では、maloya といふ、レユニオンの傳統音樂が紹介。 でも、せっかく知らない土地の音樂なのに、豫想を超えてくるやうなのは特になし。 Nyege Nyege から出てる Jako Maron The electro Maloya experiments of Jako Maron はさすが Nyege Nyege だけあってちょっと面白かったが、わざわざ買ふほどぢゃあないなあ。

10 月 13 日もう 1 つの lists は變態電子音樂作家 Felix Kubin の作品紹介 。 電子音樂といっても現代音樂系ではなく、わかりやすい單純なリズムにチープな電子音の乘った、ポップな類のやつだ。 といって、テクノ系やエレクトロニカ寄りなわけでもなく、ニューウェーヴやポスト・パンクに近い。 一番近いのはテクノ・ポップかな? 歌の入った曲も多いし。ヒカシューとか、こんな感じぢゃないですか。 記事にある通り、最初に紹介されてゐるコンピ、Axolotl Lullabies が入門には最適だらう。

10 月 14 日の features はジャンベ奏者 Weedie Braimah のインタヴュー。 紹介されてるアルバムで聽けるジャンベは、確かにめちゃうまなんだけど、どれも曲がそこはかとなくだせえ…。 音色のチョイスは惡くないんだけど、ギターのフレーズが、過剰なオシャレ感を演出しようとして失敗した、まるでフュージョンのやうなものばかりで赤面してしまふ。 もうちょっとほかにこのジャンベの腕前を活かせる音樂あったでせうに、もったいない…。

10 月 15 日の lists は Parliament/Funkadelic のキーボード奏者として有名な Bernie Worrell のソロ作品紹介 なんだけど、旧譜はどれも無駄にたけえ! これなら CD 買ったはうがいいんぢゃないのか。 新しめのは安いけど、そこまで追っかける人は、きっといくらだらうと買ふよ、きっと。 おれも P ファンクは好きだけど、わざわざ Bernie Worrell のソロを最近のものまで買はうとは思はない。 Sun Ra のカヴァーやってたのはちょっと意外だったけど。

10 月 15 日のもう 1 つのリストは、ゼルダの伝説に影響を受けた、メタルアーティスト。 なんでメタル限定なんだ…。長らくゼルダやってないけど、ゼルダってメタル要素ありましたっけ???

10 月 20 日の features は、 およそ 10 年ぶりとなる Pepe Deluxé の新譜、Phantom Cabinet vol. 1 の紹介。 Pepe Deluxé の何がすばらしいって、音に對するフェティシズムだ。例へば、この PV を見てほしい。

おれは PV といふものを見ることがほとんどない。 YouTube で動畫を再生することがないわけではもちろんないが、 再生するのは音を聽くためであって、映像を見るためではないから、 再生ボタンを押したらあとは別のタブを開くなりして、余所事をしてゐる。 音が聞こえればいいからだ。

でも、上の PV は違ふ。 本來の音樂に、餘分な効果音が附け足されまくってゐる。 コーヒー豆がカラカラいふ音や、魔法を出すときの音、液體を注ぐ音や肖像畫の出す聲は、もとの曲には入ってゐない、 この PV だけの音である。 かういふ、ちょっとした拘りを見せてくれるアーティストっていいですよね。

では、その PV が最高でアルバムに入ってゐるはうはどうでもいいのかといふと、そんなこともない。 YouTube の音質なんてたかが知れてゐて、Pepe Deluxé の凝った音響をフルに樂しめはしないのだ。 音の定位を氣にするだけでも面白いので、 Pepe Deluxé の魅力を最大限に堪能したいなら CD やレコードを入手するか、 ロスレス音源を入手するかしたはうがいい。

親しみやすいキッチュな曲に加へ、音に耳を傾ける樂しさも味ははせてくれる Pepe Deluxé の新譜、是非あなたもどうぞ。

同日の lists は exploring the world of indie pop on Bandcamp と題されたちょっと古いインディー・ポップの紹介。 さすがにもうインディー・ポップで新しいものもないだろ、と思って適當に飛ばしまくって聽いてゐたのだが、 唯一、おっこれはかはいくていいな、と思ったやつが日本人のバンドだった。 フラワーベルカウといふんださうな。 リリースはこの 7 インチだけ!  紹介されてゐるアーティストは、どれもこのフラワーカウベルに劣らぬ愛らしさを持ったバンドばかりだったが、 なんでこれだけ妙に引っかかったんだらう。 しかしこれ、7 インチは賣り切れてるわ、デジタルでは賣ってないわで入手手段がないぢゃん!  もっと商賣に貪欲になって。

10 月 21 日の album of the day はフロリダの兄弟デュオ Tonstartssbandht の最新作 Petunia の紹介。 おれは全く知らなかったのだが、このデュオは 2008 年から活動してゐるらしい。 それにしちゃあ、そこはかとなく下手ぢゃないすか? 特にドラムが。

長く音樂を聽いてゐると、もちろん下手な演奏を耳にすることもある。 The Shaggs とか The Portsmouth Sinfonia なんかは、音樂好きなら一度は聽いたことがあるはずだ。

でも、さういふのが面白く感じるのは、やっぱり一瞬なんですよ。 ずっとそんなものばかり聽いてはゐられない。 頭の中の音像を具現化するには、演奏力だけでなくアレンジ能力や録音に對する拘りだって必要だし、 現代の音樂って演奏技術の平均水準は(録音後の修正技術込みで)非常に高いので、下手な演奏はやはり目立ち、 單純に不快であることが多い。

なのに、このデュオの場合はさういふ不快感がない。 どことなく不安定なリズムが、ミニマルな曲のスタイルに合致してゐて、 寧ろそれが獨特の味を作り出してゐると云ってもいいほどだ。 ほんのり感のあるサイケ。さすがにわざとではないと思ふが、 下手な音樂を嫌ってゐたおれには、新鮮だった。 大仰に云ふほど下手なわけでもないけど。

10 月 21 日の lists は a brief guide to African disco なんだけど、アフリカならではの部分は特になく、 どれも普通にディスコ。 まあ、ディスコ好きだからいいですけどね。 ディスコのいいところは、ファンクの爛熟期に生まれたこともあって、ファンク要素の強いものが多いこと。 例へば、上のリストで紹介されてゐる作品のひとつ、 Jo Bisso の African Disco Experimentals (1974 to 1978) なんかはまさにそれでファンキーな曲目白押しだ。

Brecker Brothers が參加してゐる Sidiku Buari の Disco Soccer もワウギターとブリブリしたベースだらけで實にいい。 ストリングスがたっぷり入ってることもあって、ブラックスプロイテーション映畫のサントラに使はれててもおかしくない感じ。 bbe はほんと、いいものどんどん發掘してくれてありがたい限りだ。アフリカ要素どこなの?と思はなくはないが。

10 月 21 日の features は Radiohead のアルバムが Bandcamp で買へるやうになったよ! って宣傳。 なんか Kid AAmnesiac を合はせたデラックス版みたいなのが出たんですよね(これ書いてる時點ではまだ出てないけど)。 兩方ともうちには 10 インチレコードがあって、發賣當時に買ったんだけど、それはおれが買った最後の Radiohead のアルバムでもある。 でも、今でも大人氣バンドみたいですね。 ちょっと前に Pitchfork が 25 周年を記念して讀者の選ぶここ 25 年のアルバム、ベスト 200 って企劃をやってて、なんと 1, 2, 4 位が Radiohead のアルバムで占められてゐたので驚いてしまった。 假にも Pitchfork の讀者ならもっとインディーから選べよ…。 まあ、おれは Pitchfork とは好みがずれてゐるので、構はないっちゃあ構はないんだけど、なんだかなあ。 しかし、Radiohead なんてどのストリーミングサービスでも聽けさうなもの、 わざわざ bandcamp で買ふ人間がそんなにゐるとは思へん。さして安くもないし。 なんで bandcamp に進出してきたんだらう。

10 月 21 日の lists は the tape label report; October 2021 といふことで、 カセット専門レーベルからいろいろ紹介されてゐた。 まづ目を引いたのが Rosali の Chokeweed。 Rosali といへば、今年 5 月に出た 3rd アルバム No Medium がファズの効いた見事なサイケロックで、こんな人がゐたのかと感心したのだが(詳しくは bandcamp daily 5 月分まとめをどうぞ)、 こちらは歌なし、ファズなしの No Medium とは全く違ったサイケギター作品。 歪みのないギターを何本も重ねた、空間的廣がりを感じさせる曲ばかりで、こんな曲もできるのか、と驚かされる。 ググってわかったことなんだけど、この Rosali って人、ドラマーの Jayson Gerycz って人とのデュオ Monocot 名義で Direction We Know ってインストアルバムを Feeding Tube から出してんですね。 そっちはこのアルバムと違ひ、歌はないものの歪んだギターによる演奏で、No Medium のイメージからそれほど離れるものではないし、 まあすごくいいわけでもないのでスルーするつもりだが、Chokeweed はカセットで持っておきたかったなあ。 圓安傾向が落ち着いた頃にでもデジタルで買ひませう。

ヴェイパーウェイヴのサブジャンル、mall soft の代表的存在である猫 シ Corp. の News at 11 のリマスター版のカセット版、なんてものもある。 ヴェイパーウェイヴについては、okabeweb さんに恐ろしく詳しいまとめがあるので、それを參照してもらひたい。 TABI LABO といふウェブ雑誌(たぶん)には、ずばり猫 シ Corp. のインタヴューもある。 おれがこのジャンルを知ったのは、James Ferraro の超名盤 Far Side Virtual からだが (James Ferraro については、なぜか洋服屋のサイトにおれの云ひたいことが全て書かれてゐたすばらしい記事があるので、是非是非是非是非讀んでほしい)、 わざわざ作品にはしない音を作品にしてしまふ諧謔精神が最高で、つい聽いてしまふ。 カセットおよびレコードは賣り切れてゐるので、デジタル版でもいいやといふ人は geometric lullaby のページから無料でダウンロードできるので、そっちがおすすめ。

猫 シ Corp. の次に舉げられてゐる Dan Mason の Miami Virtual 2.0 もヴェイパーウェイヴで、 こっちもいいんだけど、ヴェイパーウェイヴについてばっかり書くのもなんなので、こっちはパス。 これまたカセットは賣り切れだが、無料でダウンロードできる。

Sleep Center™ の Disk 1 は、 よくある「眠るための音樂」ではなく、なんと「寝てゐる間に聽くための音樂」。 もともとは 2014 年にリリースされたものらしいが、 デジタル音源だけだったものを、なぜカセットにしてしまったのか。しかも 6 本組のボックスである。 ご丁寧に大文字で DO NOT LISTEN WHILE AWAKE との注意書きまであるのだが、 寝てたらカセット入れ換へられないじゃん。 寝てゐるときに聽くための音樂とあって、音量はかなり絞られてゐる。 なかなか面白い試みだとは思ふが、どうせなら好きな音樂をかけたい。 寝てる間に好きな音樂をかけとくと、たまに夢の中でライヴ見られて得した氣分になるんですよね。

10 月 25 日の big ups は Dummy のお氣に入り紹介。 この、さっぱり知らないアーティストのおすすめを紹介されるコーナー、 大抵はおれと趣味が合はないので、特に參考になることはないコーナーなのだが、 今囘は最後の 1 つだけよかった。 Pablo's Eye の Balod for Paldo である。

Dummy のメンバーによるものであらう、アルバム紹介の文章がこのレーベルおよびアルバムのことをわかりやすく説明してくれてゐるので、 いつもはやらないことだが、紹介文を飜譯しよう。

Stroom は型に囚はれない活動をしてゐるレーベルだ。リイシューに關する不文律を拒否してゐるらしく、獨自の音樂繪卷を作るために、アーティストのディスコグラフィーを跨いで曲を選ぶ。文字通り、他の誰もが近づかないやうな作品をリリースしてるんだ。無名の、忘れ去られたアーティストだけぢゃなく、スタイルの全く違ふ、マニアックで抽象的なものを山ほど紹介してくれる。ここ數年、ぼくたちが熱心に追っかけてるレーベルで、おすすめできるものがたくさんあるよ。このベルギーのデュオ Pablo's Eye の LP は彼らの 90 年代の作品と、未発表曲で構成されてるんだけど、それら全部が一體になって、頭のとろけるトリップホップの旅に連れてってくれるんだ。

10 月 25 日の resonance は Battle Trance といふ、 サックスカルテット(つまり 4 人ともサックス)の新作 Blade of Love の紹介。 だったんだけど、サックスカルテットと云はれてすぐ思ひ起すのはやっぱり Rova Saxophone Quartet 改め Rova ですよ。 久しく聽いてないなあと思ってググったら、10 月に新譜リリースしたばっかぢゃん!  しかも、bandcamp にアカウントある

昔、愛聽してたアルバムのタイトルすら忘れてしまふぐらゐ Rova から離れてゐたが、 なんとおれの大好きな Steve Lacy のアルバム Saxophone Special のカヴァーやってるなんて!  Lacy の Saxophone Special は Derek Bailey、Evan Parker が參加した豪華アルバムなのだが、 このアルバムの何がいいって、アナログシンセ奏者がゐるんですよ。 これがもうアホみたいな音ばっかり出してて最高。 Lacy は大好きなのでかなりたくさん聽いてゐるが、アナログシンセが入ってるのはこれだけだと思ふ。 Rova のはうも、しっかりシンセ入りだし、ギターは Henry Kaiser!  しかし、bandcamp で買っても權利の問題でデジタル音源はついてこないらしい。殘念。 まあ、Spotify で聽けるみたいですけど。

10 月 26 日の album of the dayHelado Negro の新作 Far In。 いやまあ知らない人だったんですけど、これは 7 枚目のアルバムで、4AD へ移籍して初の作品らしい。 で、4AD の前はどこにゐたんだ?と思ったら、なんと RVNG Intl. にゐたらしい。

RVNG Intl. の作品は、10 年ほど前はちょこちょこ買ってゐたので、たぶん今でもメルマガがうちに届いてゐるはずだが、 最近は全く目を通してゐなかったので、こんなアーティストがゐたなんて知らなかった。 bandcamp にアカウントがあったのも知らなかったし、 おれの大好きな Julia Holter の Ekstasis が bandcamp がカタログにない理由も不明だ。

で、Helado Negro は RVNG Intl. から出した前作 This is How You Smile が名盤とされてゐるみたいだったので、そっちを聽いてみたんだけど……、めっちゃいいぢゃん。

RVNG Intl. らしい、浮遊感のある、曖昧な夢のやうなポップス。 現實とは、薄皮一枚で隔たった場所で鳴ってゐるやうな、フィクショナルな響き。 長らく聽いてゐなかったけど、今でもかういふ音樂を出してくれてゐるのだなあ。 なるほどこれは名盤ですわ。

10 月 26 日の lists は A guide to the music of musical experimentalist Phew といふことで、 Mute から新譜を出したばかりの Phew のアルバムガイド。 まあ、おれは今さら讀まなくても知ってゐるが、直近の話なら、やっぱり新譜 New DecadeAunt Sally の 1st がアナログで再發されたことですね、話題なのは。 殘念ながらといふか當然といふべきか、 紹介されてゐるのは近年のリリースばかり。 最も古いもので 2017 年だから、Phew が電子音樂路線になってからのものしかない。 まあそれはそれで、どれもすばらしくていいんだけど、 どうせなら權利關係で再發が絶望的らしい Novo Tono とかが聽けるやうになってくれればいいなあ。 存在すら忘れられちゃふよ。おれみたいに CD 持ってれば別だけど(自慢)。

10 月 29 日の seven essential releases から氣になったのは 3 枚。

まづは Eris Drew の Quivering in Time

音樂的には普通のハウスで、特筆すべきことがあるほどではないんだけど (8 曲目はハウスには珍しくオルガン入ってたのと Primal Scream の Loaded がサンプリングされててびっくり)、 この人、Octo Octa のパートナーなんですってね。 テクノやハウスといったジャンルも發展のなさはすさまじく、 新譜を買ふ動機は昔からよく知ってる人のリリースか、それなりに革新的なものがあるやつ、知らなかったけど好みにドンピシャなやつぐらゐのもので、 これはまあ、その 3 つでいへば最初のやつに近い。 おれが Octo Octa を知ったのはもちろん 100% Silk レーベルを追っかけてたからだが、 Octo Octa は 100% Silk からリリースした人たちの中では、恐らく出世頭だもんね。 そんな人のパートナーがデビューって云はれると、やっぱりちょっと氣になってしまふ。

2 つ目は Lil Ugly Mane の Volcanic Bird Enemy and the Voiced Concern

なんで氣になるかって、下部の「LIL UGLY MANE が好きな人におススメ」のところが、Jpegmafia だらけだったから。

で、ヒップホップなのかなと思ったら、全然ヒップホップぢゃねえ!  ちょちょっとググってみたら、この Lil Ugly Mane こと Travis Miller はいろんなスタイルの音樂をやる人らしく、 今囘のこれがたまたまロック寄りなだけで、作品によってスタイルは違ふんだとか。 まだあんまりリリース多くないみたいだし、ちょっといくつか漁ってみようかな。

3 枚目は Phương Tâm の Magical Nights ってコンピ。 リリース元はもちろん世界各國の知られざるポップスおよび傳統音樂の發掘ではお馴染みの Sublime Frequencies

2010 年リリースの名コンピ Saigon Rock & Soul に續くヴェトナムのポップスものだが、 あちらが樣々なアーティストの作品を集めたものだったのに對し、こちらは單一アーティストによるもの。 Saigon Rock & Soul は 1968 年から 1974 年の作品だったが、 こちらは 1964 年から 66 年のものとあって、サイケ色は全くない。 副題に Saigon Surf Twist & Soul とある通り、音樂的にはロックではなく R&B 寄り。 といふか、ブルーズや R&B のカヴァーが多かった當時のロックですね。 サイケさがないから、買ふまでではないかなあ。

かなり長くなってしまったが、 10 月分はこれで終はり。いやー、やっと追ひついたな。