そんなわけで、ドローンといふ音樂を聽き始めて四半世紀ほどは經つおれにとって、
それほど目新しいドローンはほとんど存在しないのだが、
ラップスティール・ギターとシンセサイザーを主體とする John Also Bennett のこのアルバムは、
出した音そのものではなく、出されたあとの音による調和を聞かせる、
ドローンとしては珍しい作品だ。
殘響音にスポットを當てたものとしては、
有名どころだと Pauline Oliveros の Deep Listening があるが、
あちらが音を發すると同時に殘響音が生じてゐたのに對し(さういふ場所で演奏してゐるのだから當然だ)、
こちらのアルバムでは彈き終はったあとの音を加工することで、全く違った、新たな音響效果を生み出してゐる。
John Also Bennett の他のアルバムは、
下記の ele-king の記事にもある通り、
かなりアンビエント寄りでおれの好みではないので、
まさかこんな傑作を出してくるとは豫想してゐなかった。
ドローンの新たな可能性を提示した見事なアルバムだ。
Lucrecia Dalt のこれまでの作品は、電子音と聲を中心とした、幻想的かつ靜謐なもので、
おれはそこにスノビズムを嗅ぎ取ってしまひ、
それこそがおれのいまいちのめり込めなかった理由なのだが、
このアルバムは生樂器による演奏が中心になっており、
これが Lucrecia Dalt の紡ぐ音樂の雰圍氣と極めてマッチしてゐる。
もちろん、歳を重ねても新たな面ばかりを見せてくれるアーティストはたくさんゐて、
どうせ買ふならさういふアーティストを優先してしまふため、
選んでみたら結局昔から知ってる人のはうが多かった、
なんてことになったりもするが、
まさか、MV & EE を今さら選ぶことになるとは思はなかった。
かつてリリースされた Wet Tuna のデビュー作なら選ぶ理由はあった。
Matt Valentine と P. G. Six が一緒にやるなんて The Tower Recordings 以來だったし、
アルバム自體も The Tower Recordings とは全く違ったけれども、
それでゐてこちらの期待を裏切らない名盤だったからだ。
でもあれはこのブログを始めた年にリリースされたアルバムで、
當時はまだ年間ベストなんてのを書いたりもしてゐなかった。
でも、MV & EE は違ふ。
もうずっと二人で活動してゐるし、
なんなら Wet Tuna だって P. G. Six がゐなくなってしまって、
もうほとんど實質的には MV & EE だ。
だから、このアルバムがリリースされたときも、
まーたいつものやつか、ぐらゐの氣持ちだった。
なのに、MV & EE はこちらの豫想を見事に裏切ってくれた。
hiroshi-gong さんもわざわざ記事にしてゐたが、
MV & EE 名義では久々の傑作と云っていい。
なんといってもサイケデリック感が違ふ。
これまでの、フォーク色が強い MV & EE だって惡くはなかったが、
おれたちが求めてるのはこれなんだよ!と大聲で云ひたくなるほどのドープ感。
various artists: The NID Tapes: Electronic Music from India 1969-1972
電子音樂は 2 つも重要な發掘ものがあった。
あの David Tudor が設立を支援したインドの電子音樂スタジオ National Institute of Design で録音された作品集であるこれ
(ちなみに、何年か前にリリースされた David Tudor の Monobirds もこのスタジオで録音された)と、
Vinyl on Demand から出た Anestis Logotethis のボックスだ(まだ買ってないのでランクには入れず)。
かつては、烏鵲さんといふ方が、烏鵲の娯楽室といふサイトを運營されてゐて、
そこでかなりの數の John Zorn のアルバムが紹介されてゐたのだが、
そのサイトも何年か前に閉鎖されてしまった。
一應、烏鵲さんはブログを續けてをられて、
アルバム紹介も讀めはする。
ただ、ブログ形式になってしまって、
以前のやうなジャンル分けがなくなってしまったので、
例へば現代音樂っぽいの聽きたい!と思っても、
どのアルバムがさうなのか調べるのが難しくなってしまった
(いやまあ、Concert Music シリーズなのは知ってるんだけど、
なんかあれ、表向きは別のシリーズで、帯の裏を見ないとわかんないのに、
ネットで買ふときって帯の裏は見えないから…)。
しかもどうやら烏鵲さんも最近はそれほど John Zorn を買ってゐないっぽい。
うおおん、おれはどうやって John Zorn のアルバムの中身の見當をつければいいんだ!
discogs とか Tzadik(John Zorn が長年やってゐるレーベルで、彼の作品はほぼここから出る)で演奏者を見るしかないの?
とまあ、そんな具合で、久しぶりに John Zorn をしっかり聽きたくなる、すばらしい映畫だった。
いや、まあ、I と II だけではそこまで氣分も盛り上がらなかったかも。
斷片的だったし、あそこで描かれてるぐらゐの John Zorn は知らないってほどではなかったから。
やっぱ、III がすごく大きかった。
そして、もう一つ印象に殘ったのは、John Zorn が
「腦内にある音を出したくて曲を書いてるんぢゃない。
聽いた人を驚かせたいんだ」って云ってたこと。
同じく多作で、ジャンル分けが難しい曲を書きまくった Frank Zappa とは對照的だ。
Frank Zappa のドキュメンタリーでは、Zappa が己の耳の奴隷だった、と何人かがインタヴューで答へてゐたし、
Zappa 本人も腦内で鳴ってゐる音樂を實際に聽きたいんだと云ってゐた。
でも、John Zorn は聽いた人に「What the fuck??!!」と云はせるために音樂を作ってゐる(作曲も、即興も)。
最近は音樂を聽いてさう思ふことも少なくなってしまったが、
あの偉大な John Zorn がそんな氣持ちで音樂を作ってくれてゐるといふなら、
ウキウキで拜聽させてもらへる音樂はまだまだ世の中にあるってことだ。
いやあ、嬉しいですね。
最後に、おれの大好きな 2001 年のアルバム Songs from the Hermetic Theater から、
最後の曲と最初の曲を貼っておきます。
いやあ、John Zorn 最高! 70 歳の誕生日おめでたうございます! 長生きしてください!!
ちなみに、今囘の 3 部作、年明けにまた調布で上映されるとのこと。
見逃した人は是非行きませうね。
それと、John Zorn の音樂を知りたい人は、
今日の Cobra の演奏にも参加してゐた大友良英が NHK のラジオで紹介してゐたみたいなんで、是非そちらをどうぞ。
その點、ドイツ時代のものはどれも演奏がしっかりしてゐるし、曲も短すぎない。
Mouse On Mars 結成前の Andi Toma のスタジオで録音され、
Andi Toma 自身もプロデュースなどで參加した Elpmas なんてアルバムもある
(おれの一番好きなアルバムでもある)。
Moondog の魅力を本當に知りたいなら、絶對にドイツ時代のアルバムを聽いたはうがいいとかねがね思ってゐたが、
そのためにうってつけのアルバムであった The German Years 1977-1999 はとっくに廃盤で、
しかもプレミアがついて高騰してゐる。
ベスト盤と生前のラスト・ライヴを收めた CD 2 枚組の、最高のコンピなのに!
そんなわけで、畢竟扱はれる時代は 70 年代が中心になる。
Major Tom、Ziggy Stardust、地球に落ちて來た男、Thin White Duke と名前のついたキャラクターを演じたのはどれも 70 年代だからだ。
しかし實際、この時期の David Bowie はかっこよすぎる。
普段は歌詞のことなど氣に留めないおれだが、
I'm an alligator.、I'm a rock n roll BITCH for you. とかずるくないっすか?
音樂面の充實っぷりも半端ではなく、
Mick Ronson のギターがグイグイと引っ張っていく The Man Who Sold the World (1970)、
Yes 加入直前の Rick Wakeman のピアノが全篇を彩る Hunky Dory (1971)、
コンセプト・アルバムの頂點の 1 つ、The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars (1972) の 3 枚はどれも歴史的傑作だし、
そんなことしながらも Mott the Hoople に超名曲 All the Young Dudes を提供し、同タイトルのアルバムまでプロデュース。
その後も、Bowie のトレードマークとなった稻妻マーク(Daemon tools のあの形)を顏にあしらったグラム・ロック最終作 Aladdin Sane (1973)、
David Bowie ならではのカヴァーばかりを收録した Pin Ups (1973)、
David Bowie 流のソウルが堪能できる Diamond Dogs (1974) および Young Americans (1975) を出したかと思へば、
新しいペルソナ Thin White Duke を打ち出した Station to Station (1976) に續いて、
音響實驗を繰り廣げたベルリン三部作 Low (1977)、"Heroes" (1977)、Lodger (1979) を作る。
でもって、同時に Iggy Pop のソロ・デビュー作および第 2 作の
The Idiot (1977) と Lust for Life (1977) までプロデュースおよび作曲で世に送り出してゐるのだから、
クリエイティヴィティの溢れっぷりがいかに凄まじいことか。
興奮する瞬間がまったくなかった、といふわけではないのだが、
例へばおれの大好きな When I Paint My Masterpiece なんかでも、
始まった瞬間は氣持ちがアガるのだが、大したことのないアレンジの所爲なのか、
「これって過去にこの曲を聽いた記憶がおれの興奮を呼んでるだけぢゃん、ずるいなあ」と氣づかされてしまひ、
ちっとも純粋に樂しめなかった。
新曲はさういふ積み重ねが全然ないし。
なんかもう、26000 圓も拂って、過去の感動の記憶を再生するマシンを動かしてるだけ、みたいな。
別にそれは、生の Bob Dylan でなくても、家で音源を再生すれば味はへるんですよね…。
尤も、それは過去に聽いたのと全く同じ曲が再生されるので、
逆に記憶を呼び起こしたりはしないのだけど。
特に閉口したのは古臭いブルーズロック風アレンジが多いことで、
なんで 2023 年にもなってブルーズロックを何度も聞かされなくてはならないんだ、と落膽。
Bob Dylan は、ブルーズロックが流行ってゐた頃はほとんどブルーズロックをやってをらず、
パッと思ひ浮かぶのは、Blonde on Blonde の Leopard-Skin Pill-Box Hat ぐらゐ(と思ったけど、同アルバムの Pledging My Time もブルーズだな…)。
The Kinks の結成 60 周年を記念して新しいアンソロジーが出る、といふのは知ってゐた。
おれはそれなりには The Kinks のファンで、Sleepwalker までのアルバムはほとんど持ってゐる。
かれらの The Kinks Are the Village Green Preservation Society のレコードは、
生涯で初めて買ったレコードとまでは云へないが、最初の 5 枚のうちには入ってゐると思ふ。
ちょうど、レコードを買ひ始めた時期に再發されたのだ。
最初が You Really Got Me なのはいつも通り。
續く All Day and All of the Night も定番だ。
しかし、その次の It's All Right。
これはシングル You Really Got Me の B 面曲である。
しかも、B 面曲はこれだけではない。
Act Nice and Gentle (Waterloo Sunset の B 面)、
Who'll be the Next in Line(Ev'rybody's Gonna be Happy の B 面)、
She's Got Everything(Days の B 面)、
I'm Not Like Everybody Else (Sunny Afternoon の B 面)、
Mindless Child of Motherhood (Lola の US シングルでのみの B 面)と、
なんと 6 曲も B 面曲が收録されてゐる。
その他がメジャーな曲なのかといへば、そんなこともない。
Wait Till the Summer Comes Along は Kwyet Kinks といふ EP に收録されてゐた曲で、
シングル B 面曲と同じぐらゐマニアックな曲だし、
ぶっちゃけ You Really Got Me ぐらゐしかいい曲がないデビュー作からは You Really Got Me 以外にも
Stop Your Sobbing と
Just Can't Go To Sleep の 2 曲が、
續く、やっぱりさして人氣もなく評價も高くないセカンド Kinda Kinks からも
Tired of Waiting for You と So Long、
Nothin’ in the World Can Stop Me Worryin’ ‘Bout That Girl の 3 曲が、
後期の、全く人氣のない Schoolboys in Disgrace からは Schooldays、
The Hard Way、No More Looking Back と、これまた 3 曲も選ばれてゐる。
いや、さうはならんやろ。
10 年前に出た、The Anthology 1964-1971 は、
The Kinks の Pye 時代の音源が多數の未發表音源とともに、
どかっと 5 枚組 CD に入ったなんとも豪華で欲張りで、
皆がよく知ってゐる The Kinksだけを大膽に切り取った、
逆に云へば、レーベル移籍後の、どんどん凋落していく部分をバッサリ切った、凄まじいものだった。
一應、このアンソロジーは CD の半分ほどごと(つまり、レコード片面ごと)にサブタイトルがつけられてゐて、
選曲のテーマもそこからわかるのだが、
「いや、そのテーマでもほかにもっとあっただろ」と云ひたくなるものばかり。
そもそも、どのテーマも完全に歌詞が中心になってゐて、
そりゃまあ、Ray Davies がユニークな歌詞を書く人であることは知ってゐるが、
今さらそんなことアピられてもねえ…。
Bob Dylan がノーベル賞取ったことに觸發でもされちゃったのか?
世間的に評價が高い The Kinks are the Village Green Preservation Society からはマイナーな曲しか選ばれてゐないし、
おれの大好きな Muswell Hillbillies からはなんと 0 曲!!!!!
Pitchfork でのみ高く評價されてゐる Preservation 2 作からも 0 曲である。
part 2 がどんな選曲になってゐるのか、氣になって仕方ない。