When the Music's Over

音樂の話とゲームの話

Can

海外での評価は知らないが、日本では Can の最高傑作といへば Future Days だとされることが多いやうに感じる。 が、昔からおれは全く贊成できない。 初めて聽いたときから今まで、 Future Days がおれの中で特別な位置を占めてゐたことはない。

といふのも、 Future Days が、Can の中では實に落ち着きに滿ちたアルバムだからである。 極めてアンビエント色が強いのだ。

といっても、おれがアンビエントをあまり好まないから Future Days はいまいちだ、と云ってゐるわけではない。 Future Days には、Can の大きな魅力の一つが決定的に不足してゐるのだ。

それは、Jaki Liebezeit のドラムである。

かういふ、ぐるぐるタカトコと民族的・呪術的なリズムを、 機械のごとき正確さで刻み續けるのが Jaki Liebezeit の、 そして Can の音樂の大きな魅力であるとおれは思ってゐる。 なのに、 Future Days にはかうした Jaki のドラムが聽ける曲は 1 つもないのだ (最後の曲で辛うじて聽けなくもない、といった程度)。 そんなアルバムの、どこが最高傑作なのか。 Jaki のドラムを無視するとか、パラッパラッパーかよ *1

そんなおれが Can の最高傑作と考へてゐるのは、 Tago MagoEge Bamyasi の 2 作である。

2 枚組であるにも拘らずだれることなく長尺の曲を存分に味ははせてくれる Tago Mago後に彼らのレーベル名ともなる代表曲 Spoon を始めとしたキャッチーな曲をコンパクトに詰め込んだ Ege Bamyasi のどちらが優れてゐるか、といふのはなかなかに難しい問ひだ。

例へば、 Tago Mago に收録されてゐる Oh Yeah といふ投げやりなタイトルを持つ曲。

この曲で、Jaki のドラムはほとんど同じフレーズの繰り返しである。 パターン自體もタムを使はない實に單純なものだ。 それなのにこのグルーヴ。ダモさんもノリノリである。 アルバムでは 7 分半で終はってしまふが、 上に舉げたライヴ版はなんと 18 分もある。 Michael Karoli のギターもスタジオ版とは違ってグイグイ來る。 惜しむらくは Holger Czukay の弾いてゐるベース音がほぼ聞こえないこと。

YouTube でコメント欄を見ると、 Jaki についてのコメントが評価を集めてゐることがわかる。 複雑なことをしてゐるわけではなく、 誰でも叩けさうな、 Jaki 自身の言葉を借りるならば monotonous なリズムなのに、 多くの人が、これは Jaki にしか生み出せないグルーヴであることを感じ取ってゐる。 いやあ、といふかね、これを聽いてグルーヴを感じないなら、 リズムに關しては全くのインポテンツだと思ったはうがいいよ。 それぐらゐ、このドラムはすごい。

Jaki のタカトコドラムといへば、これまた Tago Mago 收録の Halleluwah が有名なわけだが、個人的には Ege Bamyasi Spoon を推したい。 Jaki のドラムのみならず、 チープなドラムマシンを含め、 曲の構成要素すべてがかっこよくて息が詰まる。 たった 3 分の曲だからいいが、 これがもし 10 分ぐらゐあったら呼吸困難で死んでしまひさうだ。

しかし、この曲はなんでこんなにかっこいいのだらうか。 使はれてゐる音は間抜けな響きのものも多く、 これらをバラバラにしてしまふとかっこよさは雲散霧消してしまふとしか思へない。 なのに、實際にそれらを合はせたものを聽くと、摩訶不思議なかっこよさが立ち上ってくるのだ。

Can に限らず、クラウトロックと大雑把に呼ばれるドイツのロックは、 さうしたわけのわからないかっこよさを持ってゐるバンドが少なくない。 Faust なんかはその最たる例だし、 Can とは違った意味で革命的なリズムを生んだ Neu! なんかもさうだ。

そんな中で、Can の大きな特質と云へるのは、 知性といふか、クールさである。 Neu! のかっこよさは「おれにはこれしかないんだ!  だからこれがいちばんいいんだ!!」といふやうなもので、 知性なんてものはない。ハンマービートがあるだけだ(大好きです)。 Faust に知性がないとは云はないが、 彼らはひねくれ者集団であることを前に出しすぎてゐて、 そこが少し下品である(大好きですよ)。

Can はさうした氣負ひとは無縁だ。 そもそも、Can のメンバーでロックを聽いてゐたのは Michael Karoli ぐらゐのもので、 Jaki Liebezeit は Can 以前にジャズドラマーとして活動してゐたし、 Holger Czukay と Irmin Schmidt は Stockhausen の下で學んでゐた。 そんなメンバーがロックバンドをやったのだから、 ほかのバンドとは違った、一歩退いた目線があったのだと思ふ。 だからこそ、Can は實驗的でありつつも商業的にまづまづの成功を收めることができたのではないか。

そんな Can のメンバーも Irmin Schmidt を殘してみな鬼籍に入ってしまった。 仕方ないこととはいへ、悲しい。

ちなみに、Can のメンバーでは Jaki 一押しのおれだが、 ソロアルバムを一番聽いたのは Holger Czukay である。 Boat Woman Song があるからね…。 ソロ全部この路線でやってくれればよかったのになあ。

Ege Bamyasi (Reis)

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*1:パラッパラッパーといふゲームで Can の曲がサンプリング的に使はれてゐるが(最初の動畫のやつ)、 使はれたのはキーボード部分だけで、Jaki の特徴的なドラムは全く使はれてゐない。