When the Music's Over

音樂の話とゲームの話

John Zorn's Documentary & Cobra

見てきましたよ、John Zorn のドキュメンタリーを (巻上さんがプロンプターを務めた Cobra ももちろん堪能したが、 それについても書くと長くなるから今囘は割愛)。

いやあ、チケット發賣されてけっこうすぐ買ったつもりだったのに整理番號が 216 番だかで (新文芸坐のキャパは 264 席)、え、John Zorn ってそんな人氣なの?!と驚いたんだが、 なんとチケットは即日完賣だったらしい。 巻上さんが「今日來られた人はラッキー」と仰ってゐた。マジかよラッキー!

肝心の内容は、上に貼ったサイトで紹介されてゐるあらすじ通り。 ドキュメンタリーといへば、普通は本人や周囲の人間のインタヴューが多いのに、 このドキュメンタリー、さういふのほとんどなし!  大半は練習風景で、あとたまにライヴ本番の樣子があるぐらゐ。

で、まづ思ったのは、Masada めちゃくちゃ活動しとる!  Zorn I から Zorn III までの全てに Masada の演奏風景があったから、 少なくとも 2018 年まではあの面子でやってたってことだ。 見られた人、羨ましいいいいいいいいい。

なんたって、おれは John Zorn の活動の中で Masada がトップクラスに好きなのだ。 Dave Douglas、John Zorn、Greg Cohen、Joey Baron のあのカルテットをこよなく愛してゐるのだ。

なのにさあ、Masada 關聯の音源は、New Masada Quartet だったり Masada Books をいろんなアーティストに演奏させたりで、 おれの聽きたいオリジナル Masada による演奏は皆無。 もうさあ、餓ゑてんだよ、こっちはさあ。 しかも John Zorn親日家のはずなのに、日本に全然來ないし!

巻上さんによると、誰も呼ばうとしないらしい。 Masada も巻上さんが 1 囘呼んだだけなんださうな。 嘘だろ~~~~~~。 ドキュメンタリーやるってだけで即日完賣やぞ? 大人氣やぞ?  誰か呼んでくれよ。 まあ、おれもそんな人氣あるって知らなかったけどさ…。

Masada 以外で驚いたのは、作曲の緻密さ。 John Zorn はもともとジャズの人だし、 Derek Bailey 以降の、もはや何でもありみたいな即興を得意とする人だから、 作曲作品を多くリリースしてゐるのはもちろん知ってゐたが、 あんなに厳密にやってるとは思はなかった。

いやもう、練習風景がクラシックさながら。 指揮者がオーケストラに指示してる樣子となんら變はらない。 樂譜の×小節目はかう演奏してくれとか、ここはもっとこんな雰圍氣でとか、 とにかく細かく指示を出す一方で、演奏者のことも演奏のこともめちゃくちゃ褒める。 あんだけ樂しそうに聽いてくれたら、演奏する側も嬉しくなってがんばっちゃふよ。

さうした John Zorn の一面に特にクローズアップしたのが Zorn III で、 それまでの 2 作が Zorn の多彩な活動をいろいろ紹介してゐたものだったのに對し、 Zorn III はほとんどが Jumalattaret といふ作品がお披露目されるまでの樣子になってゐる。

Jumalattaret は ピアニストの Stephen Gosling とソプラノ歌手の Barbara Hannigan のたった 2 人で演奏される曲だが (これ、歸ってから調べて知ったのだが、Barbara Hannigan とこの映畫の監督 Mathieu Amalric は男女の付き合ひをしてるらしく、 その縁で Barbara Hannigan と John Zorn は知己を得たんだとか *1)、 數多くの現代音樂で初演を務めてきた Barbara Hannigan をして、 「うまくできなくて惱んでゐる」と、弱氣なメールを John Zorn 宛に送ってしまはせるほど、 超絶技巧が要求される曲。

いやいや、現代音樂なんて超絶技巧の曲だらけですやん。 そんなのをばんばんこなしてきた Barbara Hannigan をして、 「自分の力量を超えてゐた」って云はせる曲なのかよ!

でも、練習に練習を重ねて難曲に取り組んでいく樣は、月次ではあるが、ドラマチックで感動的だった。 殘念ながら、この曲は未だにライヴでしか披露されてゐないらしい。 CD でリリースしてくれえ(John Zorn はレコードをプレスすることが滅多にない)。

John Zorn は大好きなアーティストだし、だからこそ映畫まで見に行ってるわけだが、 いかんせん作品數が膨大すぎて(なんたって discogs に登録されてるアルバムだけで 273 枚もある!)、 追ふのが大變すぎるから、ここ 10 年ぐらゐちゃんと聽いてなかったんですよ (適當につまみ食ひはしてゐたので、全く知らないわけではない)。

かつては、烏鵲さんといふ方が、烏鵲の娯楽室といふサイトを運營されてゐて、 そこでかなりの數の John Zorn のアルバムが紹介されてゐたのだが、 そのサイトも何年か前に閉鎖されてしまった。

一應、烏鵲さんはブログを續けてをられて、 アルバム紹介も讀めはする。

ただ、ブログ形式になってしまって、 以前のやうなジャンル分けがなくなってしまったので、 例へば現代音樂っぽいの聽きたい!と思っても、 どのアルバムがさうなのか調べるのが難しくなってしまった (いやまあ、Concert Music シリーズなのは知ってるんだけど、 なんかあれ、表向きは別のシリーズで、帯の裏を見ないとわかんないのに、 ネットで買ふときって帯の裏は見えないから…)。 しかもどうやら烏鵲さんも最近はそれほど John Zorn を買ってゐないっぽい。 うおおん、おれはどうやって John Zorn のアルバムの中身の見當をつければいいんだ!  discogs とか Tzadik(John Zorn が長年やってゐるレーベルで、彼の作品はほぼここから出る)で演奏者を見るしかないの?

とまあ、そんな具合で、久しぶりに John Zorn をしっかり聽きたくなる、すばらしい映畫だった。 いや、まあ、III だけではそこまで氣分も盛り上がらなかったかも。 斷片的だったし、あそこで描かれてるぐらゐの John Zorn は知らないってほどではなかったから。 やっぱ、III がすごく大きかった。

そして、もう一つ印象に殘ったのは、John Zorn が 「腦内にある音を出したくて曲を書いてるんぢゃない。 聽いた人を驚かせたいんだ」って云ってたこと。 同じく多作で、ジャンル分けが難しい曲を書きまくった Frank Zappa とは對照的だ。 Frank Zappa のドキュメンタリーでは、Zappa が己の耳の奴隷だった、と何人かがインタヴューで答へてゐたし、 Zappa 本人も腦内で鳴ってゐる音樂を實際に聽きたいんだと云ってゐた。

でも、John Zorn は聽いた人に「What the fuck??!!」と云はせるために音樂を作ってゐる(作曲も、即興も)。 最近は音樂を聽いてさう思ふことも少なくなってしまったが、 あの偉大な John Zorn がそんな氣持ちで音樂を作ってくれてゐるといふなら、 ウキウキで拜聽させてもらへる音樂はまだまだ世の中にあるってことだ。 いやあ、嬉しいですね。

最後に、おれの大好きな 2001 年のアルバム Songs from the Hermetic Theater から、 最後の曲と最初の曲を貼っておきます。 いやあ、John Zorn 最高! 70 歳の誕生日おめでたうございます! 長生きしてください!!  ちなみに、今囘の 3 部作、年明けにまた調布で上映されるとのこと。 見逃した人は是非行きませうね。

それと、John Zorn の音樂を知りたい人は、 今日の Cobra の演奏にも参加してゐた大友良英NHK のラジオで紹介してゐたみたいなんで、是非そちらをどうぞ。

ところで、Jim O'Rourke がぼろぼろの緑のカーディガン着てなくてびっくりしたんだけど、どうしたの???

*1:New York Times の記事にさう書かれてゐる