When the Music's Over

音樂の話とゲームの話

bandcamp daily: February, 2022

たまった bandcamp daily をさくさく消化するために、 さして興味の湧かないものは容赦なく飛ばしていくことにした。 といふわけで、ひょっとしたら取り上げるものが激減するかもしれない(全然しませんでした…)。

2 月 1 日の album of the day は 1964 年に設立され、1978 年まで續いたアメリカのレーベル Mainstream から 70 年代に發賣されたファンクを選りすぐったコンピ、Mainstream Funk の紹介。

まあうん、海外の人にはありがたいコンピなのかもしれない。 でも、日本に住んでたら、この邊のは P-VINE が熱心にオリジナル・アルバムを再發してくれるので、 わざわざこんなコンピを買ふ意味はあんまりないんだよなあ。 P-VINE の選曲眼ならぬ選アルバム眼は鋭くて、昔からお世話になってます。

2 月 4 日の The best ambient on bandcamp にはいつも通り全く期待してゐなかったのだが、しれっと Oval が混じっててなんか笑ってしまった。

取り上げられた Oval の新作 Ovidono は去年末のリリース作品で、 復活してからだと 6 枚目ぐらゐのアルバムだ。

音響派にハマった身としては、もちろん Oval も大好きなのだが、今でも Oval を追ひかけてゐる人がどれぐらゐゐるのかは全然知らない。 なんせ、Oval としては 2001 年から 2010 年まで活動してゐなかったのだから、その間に忘れてしまった人も多からう。

かく云ふおれは、2010 年に復活して以降の Oval も大好きである。 復活後のアルバムはかつてのグリッチを多用したものではなく、 どれもこれも聽きやすいものばかりだ。

Oval は變はった、とよく云はれるが、かうしたポップさはかつての Oval にもあった。 曖昧模糊としてゐたものが、明確に輪郭を持ったものとして表現されるやうになっただけのことだ。

今囘の新作は、なるほど best ambient に選ばれるのも頷けるほどに、静かなアルバムである。 何より、ここ最近の Oval のアルバムにはっきりと存在してゐたビートが全然ない。

といって、過去の Oval のやうなわかりにくさはない。 Oval らしさでもある一見統一感のない輕やかできらびやかな電子音も少ないため(個人的には殘念)、 Oval であることを知らなければ、普通のアンビエント作品として聽けてしまふだらう。 まあ、日本人としては、小野小町の歌が入ってくるのは、言葉を意識させられてちょっと嫌だが。

2 月 8 日の features は The Colorful World of Cumbia Punks Los Bitchos と題した、Los Bithos の特集。

記事のサムネに女性が 4 人寫ってゐた時點で、「げー、ガールズバンドかよ」と嫌厭してしまったのだが、 聽いてみたら、全くガールズバンドっぽくなかった。

ガールズバンドの何が嫌って、若い女性だけでやってゐる、といふ事實に甘えて、 音樂そのものがまるで大したものでないことが多いところだ。 若い女の子がかちゃかちゃがんばってるだけで尊い、みたいな感性はおれにはないので、 どれもこれも似たり寄ったりのガールズバンドにはほとんど興味がない。

が、このバンドは、そもそも歌がない。 歌がなければ、演奏家の性別を識別するのは困難だ。 記事名は cumbia punks となってゐるが、クンビア要素、パンク要素ともそれほど強くない。 パンクは、これまたパンクといふジャンルに甘えて演奏がうまくなかったり、 一本調子だったりするので熱心に聽かないジャンルの一つだが、 この Los Bitchos は演奏技術もしっかりしてゐるし、 曲も凝ってゐてよい。いいバンドぢゃないですか。

先入觀は誰にでもあるが、サムネだけ見て聽くことすらしない、といふ選擇を採らなかった己れを褒めたい。 まあ、別に買ふわけぢゃないんですけどね。

2 月 9 日の lists はバグパイプ特集。 といっても、bagpipes in experimental music と題されてゐることからもわかる通り、 ドローンだったりフリージャズだったりといったものばかり。

やっぱ Yoshi Wada のアルバムとかなのかな、と思ったら、Yoshi Wada は 1 枚もなかったが(文章に名前は出てくる)、 それでなくても知ってる名前ばかり。 David Watson、Chris Corsano、Richard Youngs、Alvin Lucier などなど。 まあ、Chris Corsano と Richard Youngs はバグパイプ奏者の相方であって、メインではないですけど。

そんなわけで、これは當たりだらけであった。 まづは David Watson。二作品紹介されてゐるが、 ここはやはり、2007 年のアルバム Throats を推したい。 なんたって、巻上さんが參加してますからね。Shelley Hirsch もゐるぞ!  バグパイプのドローンと巻上さんの喉歌の相性が拔群。 Shelley Hirsch は、まあ、Shelley Hirsch。最近ちっとも見ないがどうしてるんだらう。

もう 1 枚の Woven は去年 Room40 から出たアルバムで、 ジャケはなぜか Henry Cow 風。 Room40 はもともとフォローしてゐるレーベルなので、このリリースもリアルタイムで知ってゐたが、 改めて開いてみたらウィッシュリストに入れてあった。 バグパイプの音が美しく重なり合ふドローンだもんなあ。 腦味噌とろけるぜ。

Paul Dunmall なるバグパイプ/テナーサックス奏者と Chris Corsano のデュオによる Identical Sunsets は、 まあ Chris Corsano の名から想像できるやうに、思いっきりフリージャズ。 てか、バグパイプなの 1 曲目だけぢゃないっすか? あと全部テナー吹いてません?  フリージャズとしてはかっこいいが、バグパイプものとして紹介していいのか?

Donald WG Lindsay と Richard Youngs のデュオによる History of Sleep は、 バグパイプとギターによるドローン。ギターは Ebow で彈いたり普通に彈いたりしてゐる。

正確にはバグパイプではなく、Lindsay system smallpipes なる、 Donald WG Lindsay 自作の樂器らしく、確かにバグパイプとは響きがかなり異なる。 特に、バグパイプの特徴である重層的な音が鳴らず、安っぽいキーボードのやうな音である。 全く重なりがないわけではなく、少ないながらも複數の音が鳴ってをり、 さながらおもちゃの電子バグパイプといった趣で、 それが逆にエレキギターとの親和性を高めてゐる。

Richard Youngs はデュオだからなのか、 普段に比べておとなしめの印象だが、 この樂器のポテンシャルを考へれば、 もっと遠慮なくやってしまってよかったのではないか。

昨年、惜しくも亡くなってしまった Alvin Lucier の作品は、 いつもの通り音樂といふより音波をダイレクトに浴びせられる感じのドローン。 琴を用ゐた 2 曲目なんかは音波要素も弱いが、 それでもやはり、音の響きに對する實驗風景としか思へないやうな音樂。 Alvin Lucier みたいな音樂こそ、實驗音樂と呼ばれるべきものだと思ふ。 Lucier は何を買ってもハズレなしなので、皆さんも是非買ってください。 我が家にはたくさんあります。 代表作が I Am Sitting in a Room みたいに思はれてるのはファンとしては喜ばしくないことだし。 あれはあれですごいけどね。 Alvin Lucier だけでなく、Sonic Arts Union の面々は(Gordon Mumma 以外は)みんな面白い。

2 月 10 日の features は Marshall Allen と Tyler Mitchell のデュオ作品 Dancing Shadows について。

Marshall Allen は、もちろん Sun Ra Arkestra の古參メンバーであるあの Marshall Allen。齢 97 にして、今でも元氣に Arkestra を率ゐてライヴしてるんだからすごい (友人が先日 cafe OTO でのライヴへ行っていたが、始まるまでずっと Marshall Allen はホントに來るのか?と疑ってゐた。來るに決まっとる)。 ベーシストの Tyler Mitchell は、これまた Sun Ra Arkestra のメンバーだが、Sun Ra 存命時には數年を伴に活動したのみで、 寧ろ、Sun Ra が亡くなってからのメンバー歴のはうが長い。

これはそんな二人が、Sun Ra の曲だけでなく、Thelonious Monk や自作曲(メンバーの一人 Nicoletta Manzini の曲も)を演奏したもの。 バンドはセクステットで、Marshall Allen と Tyler Mitchell のほか、テナー、アルト、ドラム、パーカッションがゐる。サックス 3 人もゐるのか…。

とはいへ、普段の Sun Ra Arkestra はもっと大人數であるから、これはかなりシンプルな編成。 演奏もコンパクトで、最長の曲でも 7 分。大半の曲は 3 分ほどで終はってしまふ。 しかし、それが逆に、Sun Ra の曲のよさといふか、 オーソドックスなスタイルで演奏しても映えるんだ、といふのがわかってファンとしては嬉しい。

まあでも、Sun Ra マニアしか買はないよねえ…。

もう 1 つ、2 月 10 日は lifetime achievement といふ、あまり見ない記事があり、 ここで特集されてゐるのは電子樂器を演奏する Norman W. Long だ。

Norman W. Long は電子樂器を演奏する人だが、 扱ふジャンルは幅廣く、例へば Angel Bat Dawid のバンドにも參加してゐる

紹介されてゐた中でよかったのは、Electro-Acoustic Dubcology I-IV といふ作品。

これは、フィールド・レコーディングと電子樂器による演奏が混じった所謂ミュジーク・コンクレートだが、 フィールド・レコーディングの占める割合がかなり大きい割に、 けっこう大胆に電子樂器が入る場面もある、ちょっと珍しい構成になってゐる。 フィールド・レコーディングは音樂っぽさがあまりないのでほとんど聽かないのだが、 これぐらゐ人爲的な音が入っててくれると聽く氣になりますね。

2 月 11 日の essential releases でよかったのは、Beast Nest の Sicko

何がよかったって、これ、essential releases で紹介されたのが信じられない、 シンセぶりぶりの、クソ音樂なのだ。 neo-soul とか healing sound なんてタグがついてるけど、嘘つけ!って感じ。 確かにさういふ場面もなくはないが、 派手で頭の惡いシンセがふんだんに挿入されるので、アホ丸出し。 實にすばらしい。 こんなのが紹介されるとは、essential releases もなかなかやりますねえ。

2 月 11 日の lists は、「Black Country New Road が好きな人へ」と題してプログレをいくつも紹介してくれてゐるのだが、最初に舉げられてゐるのが Henry Cow。 いやいや、Henry Cow を最初にしちゃダメでせう。それでお終ひぢゃん。 Henry Cow よりすごいバンドなんて、なかなかないよ。 Henry Cow ぐらゐインパクトのあるプログレとなると、 それこそ紹介されてゐる Unrest の 3 曲目からバンド名を採った Ruins とかぢゃないと…。

實際、その後に紹介されてゐるバンドは、いかにもプログレって感じのバンドばかりで、 特に目新しさはない。一體なにが progressive なんだ、と云ひたくなる。

唯一マシだったのは Richard Dawson の 2020 で、 これはプログレといふよりフォークとかブルーズだ。 Captain Beefheart のイングランド版と看做されたりもしてゐるらしいが、Beefheart ほどぶっ飛んではゐない。 ギターもヴォーカルも、ずっとお上品だ。

おれは、何かしら過剰なところのある音樂が好きなので、 こう小ぢんまりとまとめられてしまふと、あんまり興味が持てないのである。 Richard Dawson は惡くはないけど、買って持っておきたいほどではない。 もっと、Henry Cow みたいに、聽いて一發でほしくなるやうな音樂やってくれ。

2 月 11 日の label profile は、Open Mouth 特集。 まあ、Open Mouth は Bill Nace のレーベルなので、實質的にほぼ Bill Nace 特集なんですけど。

Bill Nace といへばギターの即興演奏で有名な人で、 バグパイプのときに名前の出た Chris Corsano とのデュオ作をちょいちょい出してる印象だが、 世間的に最も有名なのは、やっぱり Kim Gordon とのデュオ、Body/Head だらう。

Body/Head の最初のリリースは、Kim Gordon の元夫である Thurston Moore のレーベル Ecstatic Peace! から 2011 年 3 月に出たカセットで、 2 人の離婚は 2011 年 10 月だから、たぶん離婚(といふか、Thurston の浮気バレ)以前からやってゐたデュオなのだと思ふ。

Open Mouth からリリースされた Body/Head は EP で、 2013 年 1 月リリースのもの。 Body/Head の音源としては、Ultra Eczema(!)からリリースされた 7 インチシングルに續くものだが (その前に、Ultra Eczema が出したコンピ、Fever *1 にも參加してゐる)、同年 9 月に Matador からリリースされた Coming Apart ほどしっかりした曲の形をしてゐないので、 まあ、Body/Head マニアといふより、Bill Nace マニア向けでせうね。

Body/Head といふか、Sonic Youth の殘滓目當てでない人にとって、それ以外の Bill Nace は、 インプロに興味ないと難しいですよね…。 おれもインプロを熱心に聽かなくなって久しいので、Bill Nace のことはあまり詳しくない (全く興味がないわけではないので、名前はよく見るけど)。 おれの twitter アカウントをフォローしてゐる數少ない人の一人に、 Bill Nace マニアの人がゐるので、 たぶんその人に訊くのが一番なんだけど、いつの間にかツイートが非公開になってますね。 こっちからはフォローしてないから見えない。このタイミングでフォローするのも申しわけないしなあ。

どうせ聽くなら、Chris Corsano のゐるものがいい。 ドラム入ってると、それだけで曲の捉へどころのなさが減少するからね。 Susan Alcorn との 3 人でやってるこれとか、 Christian Marclay から Ellen Fullman まで、幅廣いジャンルの人と共演してゐるチェロ奏者 Okkyung Lee とのトリオ作とか、いいですぞ。

逆に、昨年 Blank Forms から Solos をリリースし、 ついでに名盤 Amateur を始めとする Kye からの諸作がリマスター再發された Graham Lambkin とのデュオ作なんかは、 樂しめる人がめちゃくちゃ限られさう。

Bill Nace ではない人の作品で唯一紹介されてゐたのは Steve Gunn とのデュオで知られるドラマー John Truscinski のシンセ作品 Bridle Path

Steve Gunn は Three Lobed からもいくつかリリースがあったりするブルーズ系のギタリストなので、 名前は知ってるし、アルバムも何枚か持ってるはずだが、 歌が入ってゐるので、あんまり熱心には追ってゐない。 だから、この John Truscinski のことも知らなかったんだけど、 このソロ作品、ドラム叩いてないぢゃん…。すばらしいぞ!!

Korg のしょぼいシンセを使った作品とのことだが、 Eleh みたいなぶっきらぼうドローン。 かういふの、めちゃくちゃ好きなんだよおお。 レコードでほしいが、discogs から買ふしかないといふ悲惨な状況。 うぎぎ。$5 でデジタルアルバム買ふか? いやでも…。ああああ。 もうちょっとドルが下がったらデジタルで買って、のんびりレコード探さう。

2 月 14 日の features は、 2017年のアルバム Fairfax がリマスター再發された Nate Scheible へのインタヴュー記事。 リマスタリングを擔當したのは、Room40 主宰であり、 アンビエント作品を山ほど出してゐる Lawrence English。

リサイクルショップで見つけてきた古いテープの拔粹にいろいろな樂器演奏を加へて作られたアンビエント作品で、 Lawrence English にリマスターを依頼するのも納得。 ドローン好きなくせにアンビエントはほぼ聽かないおれだが、これはなかなかよさげ。 何度か聽いてみて、氣に入ったらユニオンでレコード買はう。

2 月 14 日の lists は、 昨年末に亡くなってしまった Alvin Lucier のアルバム・ガイド。 なんだけど、Alvin Lucier のアルバムって、ここ最近のやつしか bandcamp にはないんですよね。 だから、選ぶのにはだいぶ苦勞したんではなからうか。

Alvin Lucier の作品で最も有名な I Am Sitting in a Room は、 最古のものから最新のものまでを網羅的に收めた 3 枚組 LP + 2 枚組 CD ボックスなどといふ狂氣の代物が Lucier 90 歳の誕生日にリリースされてゐるが、 資料的價値を求める人以外には不要だらう。おれだって要らない。 そもそも、この曲は録音と再生を繰り返すことで生まれる音の劣化やノイズを樂しむもので、 まあ、各時代の録音機器の記録にはなるかもしれないが、何度も聽くやうなものではない。 コンピとかにもよく收録されてるし、それで充分ですよ (もしコンピでいいやと思ふ人がゐたら、Source Records 1-6 を猛烈にプッシュしておく)。

個人的なおすすめは、1980 年の Music on a Long Thin Wire。 タイトル通り、長いワイヤーを張り、兩端にでかい磁石とサイン波オシレーターをつなぎ、 ワイヤーの振動をマイクで拾ったもの。 實際の演奏は、YouTube にある Lucier 85 歳記念フェスの樣子なんかを見るとわかる。

で、これ、長い金属弦なのだから、さぞかし低音でギラギラしたドローンになるんだらうなと思ったら、全然違ふ。 ドローンはドローンなのだが、非常に丸みのある音になってゐるし、 何かしら弄ると滿足できない結果になるとのことで、セットしたあとは放置されてゐるらしいのだが、 ちょっとした環境の變化にも反應して音が變はるので、 現代音樂では普通の、厳密に調和が計算されたもののリアライズとしてのドローン作品とは趣が異なる。 上に Lucier のことを書いたときにも触れたが、Lucier の音樂はいつも實驗的なのだ。

何年か前に Black Truffle から出たボックス に收録されてゐた、Charles Curtis 演奏によるその名も Charles Curtis の入ったアルバム、 Alvin Lucier / Anthony Burr / Charles Curtis も好きなアルバムの 1 つで、 先のボックスのタイトルも、このアルバムの 2 曲目に入ってゐる On the Carpet of Leaves Illuminated by the Moon から採られてゐる。 まあ、おれがこのアルバムを好きなのは、 La Monte Young の作品の演奏なんかでも知られるチェリスト Charles Curtis がゐるのと、 もう 1 人の演奏家である Anthony Burr の演奏する樂器が、おれの大好きなクラリネットだからなんですけど。

ぶっちゃけ、Lucier の音樂は、発振器となんらかの樂器によるドローンが主體なので、 自分の好きな樂器が使はれてゐるアルバムを買ふのがよい (最近リマスターで再發された Bird and Person Dyning はあんまりおすすめしない)。 昔はユニオンで安く中古 CD が賣られてゐたのでマメに買ひ集めてゐたが、 最近は實店舗に行かないのでわからない。 Noise/Avantgarde の棚、どんどん縮小されていったし…。

あ、音源ひとつも貼ってない! えーと、bandcamp にあるやつの中からなら、 Almost New York がいいかな。 これも Charles Curtis 參加してるしね。

2 月 16 日の features は Lemon Demon の Dinosaurchestra の再發特集。

Lemon Demon って誰だよって話ですが、 Neil Cicierega(片假名だと、シセリガって感じに發音する模樣)って人の音樂やるときの名義らしいですね。 どうもネットの活動で有名なコメディアンらしい。ハリー・ポッターのパロディ人形劇 Potter Puppet Pals シリーズとか animutation と本人が呼んでるフラッシュアニメとかで有名なんだとか。

で、その Lemon Demon 名義での最初の活動が、 Dinosaurchestra 收録の Ultimate Showdown of Ultimate Destiny って曲のフラッシュアニメだったらしい。

歌詞もアニメも莫迦々々しく、それでゐてキャッチー(英語でも catchy なんですね)。 英語ペラペラなら、面白いのかもしれない。 まあ、歌詞を完全に無視するおれにとっては、どうってことのない音樂になってしまふけど…。

2 月 17 日の features は、Etuk Ubong なる人の、earth music(自分の音樂をさう呼んでゐるらしい)について。

どれほど大層な音樂なのかと思ったら、さして尖ったところのないジャズだった。もうちょい個性出せよ。

2 月 23 日の features は Keeley Forsyth Is Applying Opera Voice Techniques to Drone なんてタイトルだったから、よささうぢゃん!と思って開いたが、ちっともドローンぢゃなかった。オペラっぽさも特になし。殘念。

2 月 24 日の resonance は、なぜか唐突な The Raincoats 特集。 なんで今さら The Raincoats?

おれは別にパンクについて特別な感情を持ってゐたりはしないのだが、 The Raincoats は大好きである。 Nirvana も好きでもなんでもないが、2020 年の EP に彼女らが書いてゐる通り、 Kurt Cobain の評價がなければ、The Raincoats をおれが知ることはなかっただらう。

The Raincoats の曲で一番好きなのは 1st に入ってゐる No Side to Fall In だ。 たった 1 分 49 秒の曲だが、キイキイいふヴァイオリン、主張の強いベース、コール & レスポンスとコーラス、 ドタバタ、ガチャガチャした曲調と、The Raincoats の魅力がぎゅっと詰まった名曲である。 しかし、改めて聽くと、下手くそだなあ。わはは。

まあ、The Raincoats について、おれが今さら付け加へることは何もない。 bandcamp daily の記事も、The Raincoats 聽いてると昔のことを思ひ出す、みたいなエセーだったし。

2 月 25 日の lists はなんと Pete Namlook 特集。 懷かしすぎてびっくり。

いやまあ、懷かしいとは云ったものの、おれ自身は Pete Namlook にほとんど興味はなくて、 聽いたことあるのはせいぜい Klaus Schulze との The Dark Side of the Moog シリーズをいくつかだけで、 しかもそれは自分で買ったわけではなく、アンビエント好きの友人が貸してくれただけだ。

そもそも、Klaus Schulze にしたってさうなのだが、 この人たちの作品はアンビエント寄りすぎるといふか、お上品すぎて、おれの好みとちょっとずれてゐるのだ。 せっかくシンセをたっぷり使ってくれるなら、もっとお下品にやっていただきたい。 まあ、それはいくらでも別の人がやってくれてゐるから、Pete Namlook や Klaus Schulze が好きな人たちのためにも、 彼らは彼らであってくれて全然いいのだが、改めて聽いたけど、やっぱ印象變はらんなあ。

2 月 25 日の label profile は、先日 John Tilbury 演奏による Terry Riley の作品集 Keyboard Studies をリリースしたり、昨年リリースの Number Pieces が高い評價を受けたりした Another Timbre の特集。

Terry Riley や John Cage の録音をリリースしてゐることからもわかる通り、 Another Timbre は現代音樂系のリリースを主體としてをり、Cage 以外では Morton Feldman の作品が多くリリースされてゐる。

ただ、さういった故人の録音はどちらかといふと少數で、多くは現代の現代音樂作家たちの作品である。 また、かつて日本に存在したオフサイトによく出てゐた人たちや、 その邊りとまとめて Onkyo 扱ひされてゐた即興演奏家たちの作品も多い(Annette Krebs とか)。 Hugh Davies の作品まであるのには驚く (Hugh Davies がどんな人かは説明すると長くなるのでググってください)。

興味深い音源がたくさんあるのに、レコードのリリースは一切なしで、CD とダウンロードのみ。 おれの中で CD はもう全然要らないメディアなので、ダウンロードでいいや!と割り切れるのもポイント高い。 ただ、ほしいもの多すぎて、どれ買ふか迷ふのが困りどころ。 セールとかしてくんないかなー。

2 月 28 日の album of the day は、 Acid Coco の Camino Al Mar の紹介。

Acid Coco はコロンビア在住の Andrea Olarte Toro と Paulo Olarte Toro の姉弟(あるいは兄妹)によるデュオで、 コロンビアの傳統音樂をチープなシンセサウンドで彩った音樂を作ってゐる。 これはこのデュオのセカンド・アルバムで、ファーストは 2020 年にリリースされた Mucho Gusto

何がすばらしいって、コロンビア音樂の陽氣さとチープなシンセの親和性。 一口にコロンビアの傳統音樂なんて云っても、いろんなものがあるわけだが、 どれも非常にうまく電子化されてゐて、シンセに全く不自然さを感じさせないのが見事。 マジでシンセの使ひ方がうますぎる。

おれの好きなシンセは、派手で下品なやつなので、Acid Coco のやうなものはあまり聽かない。 そんなおれをして、うまい!と唸らされるのだから、これはかなりすごいことですよ。 10 曲目とか、ファミコンか?ってレヴェルの音なのに、それが主役になってゐないバランスが實に憎い。 だって普通、かういふ音は「8 bit sound!」とかって現代では逆に主役扱ひなんですよ。 Acid Coco はさういふの全くなし。普通に、曲の一部でしかない。かっけえ~ (いやまあ、8 bit サウンドが主役になる音樂も好きなんですけど)。

ワールド・ミュージックと一括りにされる音樂って、 アップデートされない印象が強くてそれほどチェックしないんだけど、 ちゃんと更新する人はやっぱりゐるわけで、 かういふの聞かされると、思ひ込みで判斷せずにやっぱりちゃんとチェックしないとなあと反省させられる。 時間と氣力があればね…。

2 月 28 日は tape label report も。 しかし、どんだけテープレーベルあるんだよ。

これ、取り上げるかどうか迷ったのだが、最初に舉げられてたのが blue tapes だったので、取り上げざるを得なくなった。 ここのカセット、いくつか持ってるからね…。

このレーベルは、ちょうど今年で設立 10 年を迎へるそこそこ古いレーベルで、 かつてはカセットばかりリリースしてゐたが、今ではレコードのリリースもある (レコードで出てるのは x-ray シリーズだけだと思ふが)。

入門には、無料サンプラーである sonic blue シリーズがなんと 6 つもあるので、 それをダウンロードして聽くのがよいだらう。

個人的なおすすめは、x-ray シリーズ第 4 段の Mats Gustafsson による Piano Mating。 Mats Gustafsson といへば、The Thing や Fire! などで活躍するサックス奏者(バリトンが多め)だが、 サックス以外でも電子音樂やったり作曲作品があったりもする人で、 これは pianomate といふ樂器を用ゐたドローンもの。 發賣されたとき、試聽した瞬間に魅了されてすぐ注文しましたね、これは。 しかしこのレコード、7 年前のリリースで 500 枚しかプレスされてないのにまだ賣り切れてないのか…。 めっちゃいいのに…。

Notice Recordings は即興音樂ものを主にリリースするレーベルで、 Bill Nace だとか Okkyung Lee だとか Patrick Shiroishi だとか、 即興ものが好きな人なら絶對に知ってる人たちの作品がいろいろある。

おれがこのレーベルを知ってゐたのは、Rafael Toral の Space Collective 2 Live がここからリリースされてゐるからで、 殘念ながら今はデジタル音源しか買へない。 カセットの入手を諦めきれないので買ってゐないのだが、まあ無理だよなあ。 そのうち買ひます。

Zoomin' Night は北京のレーベルだが、 杉本拓の作品をリリースしてゐたりする、ものすごいレーベル。

何がすごいって、杉本さんの作品はとにかく賣れないことで有名だからだ。 なんたって、音がほとんど入ってゐない。 おれもさっぱりわからないので、ほとんど聽くことがない。

もちろん、そんな作品ばかりをリリースしてゐるといふわけではなささうで、 フリージャズバンドの Kiyasu Orchestra のデビュー作のカセット版リリースなんかもある。 まあ、カセットは賣り切れてるんだけど。 CD 版はまだ買へる。

たぶん、Kiyasu Orchestra はこのレーベルのリリースでは一番と云っていいほどとっつきやすい作品で、 あとはほとんど即興を追ひかけてる人でないと樂しめないだらうものばかり。 昔なら熱心に聽いたかもしれないけど、今はちょっと辛いなあ。

2 月 28 日の best country は普段ならスルーする記事なのだが、 ひとつだけいいアルバムがあったので、それだけ紹介しておく。

Erin Rae って人の Lighten Up ってアルバムなんだけど、 これ以外に舉げられてたアルバムの、いかにもカントリーって音とは違ひ、 これはカントリーといふよりフォークだ。

それに、冒頭の何曲かは、「え、その曲にその音?」みたいな、 音の選び方への違和感があって、それが面白かったのだが、 アルバム後半は妥當な音ばっかりで殘念。 どうせなら Eric Chenaux みたく振り切れてくれればよかったのになあ。

といったところで、2 月分のチェックはお終ひ!  全くチェックしてゐなかった割にそこそこ早くチェックし終へたが、 先月分の記事でアルバム出してくれ、と書いた Afrorack が、 ほんとに Hakuna Kulala からアルバム出しちゃって、 いまいち大人しいな?なんて購入を迷ってたらカセット賣り切れちゃったりしてるので、 今後の分も早めにサボらずチェックしないといかんな、との思ひを新たにしたところで、また次囘。

*1:Eddie Cooley と Otis Blackwell 作曲の同名曲のカヴァーばかりを收録したコンピ。 Ultra Eczema は特定曲のカヴァーだけを收録したコンピをいくつか出してをり、 外には PopcornLa Bamba などがある。