When the Music's Over

音樂の話とゲームの話

Bob Dylan, 20230414 at TOKYO GARDEN THEATER, Tokyo, Japan

Jeff Beck が亡くなって、こりゃ誰がいつ死ぬかわからんなと思ったので、 Bob Dylan 實績を解除してきた。

正直、行く前はあんまり乘り氣ではなかった。 だって、setlist.fm でツアーのセットリストを確認すると、 毎日判で押したやうに同じ曲を同じ順でやってゐるのだ。 そんな作業、見ても仕方ないぢゃん…。

と思ってたら、4 月 12 日の東京公演で Grateful Dead の Truckin' が演奏されたといふニュースで俄かにテンションが上がった。 おいおい、Truckin' なんて超名曲ぢゃん。 何百囘聽いたかわからんレヴェルの曲だぞ。 しかも、Dylan が演奏したのは初めてだったらしいぢゃないですか。

そんなわけで、Truckin' 聽くぜえ!と思って行ったんだが…。

いやあ、めちゃくちゃ退屈なライヴでした。 途中、何度寢さうになったかわからない。 同じやうな曲調の曲がずるずると繰り返されるだけ。 音響も惡いわけではないが、音が大きめだったこともあって、 特にドラムがほかに負けないやうに大きくしてます!感滿載の、 嘘臭い音になってしまってたのが…。

それに、古い曲のアレンジ違ひを樂しみにしてはゐたのに、 なんと、古い曲はどれも「Dylan が一番をピアノで彈き語る→バンドが入ってきて最後まで」といふ型になってゐたし (まあ、お蔭でこれから古い曲をやるんだな、と目覺まし效果はあったが)、 アレンジも、特に驚くやうなものではなく、どれも似たやうなテンポの、似たやうな氛圍氣になってしまってゐて、 會場は盛り上がってゐたが(立ち上がって拍手する人が出るほど)、すごく醒めた目で見てしまった。 後半ノリノリだった斜め前のおばちゃんが羨ましかったよ、ホント。

興奮する瞬間がまったくなかった、といふわけではないのだが、 例へばおれの大好きな When I Paint My Masterpiece なんかでも、 始まった瞬間は氣持ちがアガるのだが、大したことのないアレンジの所爲なのか、 「これって過去にこの曲を聽いた記憶がおれの興奮を呼んでるだけぢゃん、ずるいなあ」と氣づかされてしまひ、 ちっとも純粋に樂しめなかった。 新曲はさういふ積み重ねが全然ないし。 なんかもう、26000 圓も拂って、過去の感動の記憶を再生するマシンを動かしてるだけ、みたいな。 別にそれは、生の Bob Dylan でなくても、家で音源を再生すれば味はへるんですよね…。 尤も、それは過去に聽いたのと全く同じ曲が再生されるので、 逆に記憶を呼び起こしたりはしないのだけど。

特に閉口したのは古臭いブルーズロック風アレンジが多いことで、 なんで 2023 年にもなってブルーズロックを何度も聞かされなくてはならないんだ、と落膽。 Bob Dylan は、ブルーズロックが流行ってゐた頃はほとんどブルーズロックをやってをらず、 パッと思ひ浮かぶのは、Blonde on BlondeLeopard-Skin Pill-Box Hat ぐらゐ(と思ったけど、同アルバムの Pledging My Time もブルーズだな…)。

さういふのが、Bob Dylan の前衞であり、クールであったことの証なのに、 なんで今になってブルーズをやるのか。 新作 Rough and Rowdy Ways にいくつか入ってただけでげんなりしたのに、 古い曲までブルーズにしなくてよくない?

しかも、唯一期待してゐた Truckin' は演奏されず、 代はりに同じく American Beauty から Brokedown Palace が演奏されたのだが、 途中でぶった切られるわ(なんとなく有耶無耶に終はった──ちゃんと練習しとけよ!)、 そもそも曲調が Dylan の曲と似てるからインパクトもないわで、 嬉しさはほぼなかった。 といふか、American Beauty をさんざん聽いてゐるおれだが、 恥づかしながら氣づかなかったよ。この歌詞なんか知ってんなーとは思ったけど…。 Dead にも Dylan にもごめん。

結局、Bob Dylan は一度もギターを彈くことはなかったし (ずっとピアノの前にゐて、ピアノを演奏しただけ)、 歌も、歌といふより朗讀だったし、 大枚を叩いて Bob Dylan の伴奏つき朗讀會に行った、といふ感じしかしなかった。殘念。 別に Bob Dylan が嫌ひになったわけではないので、これからも聽き續けるけど、レコードでいいかな。

まあでも、これで Bob Dylan のライヴへは二度と行かなくていいから、 今度はこの Dylan のために(金錢的に)スルーせざるを得なかった Björk とかレッチリとか行きたいですね。

ロックやポップスのライヴは、結局レコードや配信で聽けるのとほぼ同じものが聽けるだけぢゃん、 と思ってゐるのでほとんど興味を失ってゐるのだが、 そんな中で、過去の曲に毎囘異なったアレンジを施し、 同じものの繰り返しに抗ってゐるであらう Bob Dylan ですらこれだもんな。 となると、過去の記憶を呼び覺ましに行くか、 Björk みたいに生で豪華なのが見られるだらうやつへしか行く氣になれんよ。 Truckin' 聽けなかったのだけが心殘り。

Bob Dylan Setlist TOKYO GARDEN THEATER, Tokyo, Japan 2023, Rough and Rowdy Ways