When the Music's Over

音樂の話とゲームの話

Autechre: Warp Tapes 89-93

Autechre はかなり好きなアーティストなので昔からよく聽いてゐるのだが (最近レコードで再發された旧譜も、發賣時に買ってるから買ふ必要ない程度には古いファン)、 IDM といふジャンル名の通り、年を經るほどに彼らの音樂はインテリっぽさが増し、 近年の作品は外で氣輕に聽ける感じのものではなく、 家でじっくり聽くタイプのものばかりになってしまった。

そんなおれが、外で聽きまくってゐるのが、この Warp Tapes 89-93 である。

もともとは Warp レーベル 30 周年を記念したラジオで放送された音源らしいが、 タイトル通り、Autechre がデビューする前の 89 年からデビュー・アルバムの出た 93 年までの音源をミックスしたものである。

つまり、中身は非常に古く、IDM といふ言葉すらまだなかった時代のものだったりもするが、 リリースが 2019 年だったこともあり、當事の音樂と比較して聽くやうなことはなく、 自分でもずっと、「なんでおれはこの音源を聽きまくってるんだ?」と疑問だった。 なんせ、仕事の行き歸りでこれしか聽かなかった週があったほどなのだ。

しかし、何度も何度も聽いてゐるうちに、この音源の特異さに氣づいた。 さすが Autechre、當事のテクノやハウスとは、全然違ふのだ。

結論から書いてしまふが、 この音源で特筆すべきところは、極端なほどリズムに焦點が當てられてゐることだ。

そもそもハウスやテクノといった音樂のリズムは「4 つ打ち」と呼ばれる、 キックが 4/4 拍子の 4 拍すべてに入ってゐるのが基本で(ハンマービートの半分!)、 當事のものを漁ればわかるが、ほとんどは 4 つ打ちあるいは、更にその半分のキックが入ってゐるだけで、 メインは完全に上モノだった。 現代でも、その文法を(思考停止で)踏襲してゐるものは山ほどある。

だが、Autechre のこの音源に 4 つ打ちは皆無だし、 上モノがメインになってゐる曲もそれほどなく(part 1 の最初の 30 分ぐらゐ)、 2 時間のミックスの中で聽ける上モノのほとんどは、 リズムを強調するために存在してゐる(part 1 の 24 分あたりから聽くのがおすすめ)。

それがもう、めっちゃくちゃにかっこいい。 リズムのために平氣でぶつ切りにされるメロディ。 ドラムの音ではないものの、リズムを構成するためにしか鳴らされてゐない上モノ。

ちょうど再發されたばかりの Autechre のアルバムは踊れなさが注目を集めてゐた時期のものだが、 この音源にさうした複雑骨折したやうなリズムはないし、 初期 Autechre のインダストリアルっぽさが強く出てゐてかなりノリがいい。 Autechre のアルバムに必ずあるアンビエントな瞬間がほぼないのも個人的には嬉しい (アンビエントAutechre が嫌ひなわけではないが)。

今の Autechre ももちろん大好きだが、 たまにどうしても初期の Autechre を聽きたくなる衝動に驅られることがあった身として、 この音源はその衝動を完璧に解消してくれる。 單に過去の音源を發掘するだけでなく、Autechre 自身でミックスしてくれたのも非常にありがたい。 今さら Autechre にこの路線に戻ってほしいとは云はないが、 もっとかういふ路線でテクノを作る人たちは増えてほしい。 Speaker Music とかなー、もっと音を工夫すればいけると思ふんだけどなー。