When the Music's Over

音樂の話とゲームの話

7 songs of the Beatles

いつも讀んでゐるブログの最新記事が、 あんまり知らないうちに決める! ビートルズ好きな曲Top7といふものだったので、 それに肖って、おれも 7 曲選んでみた。 まあ、おれは普段 Rubber Soul 以降の The Beatles しか聽かないので、 どうしても時期が偏った選曲になるけども。

順位はつけられないので、以下のものは順不同である。

Taxman

まづはこれ、といふとこれを讀んだ友人からつっこみが入るかもしれない。

これは、7 曲の中で唯一、個人的な思ひ出に強く關係してゐる曲である。 なぜかって、大學時代にやってたコピーバンドで、初めてライヴしたときにやった 1 曲だから。 といふか、そのときに George による 2 拍目と 4 拍目に入るギターが間拔けで笑ってしまったからだ。

今はそんなこと思はないし、當時の己の見識の低さを恥ぢるとともに、 この曲を選んだ友人の慧眼に恐れ入るばかりだが(もう 1 曲は Across the Universe だったはず)、 當時まだまだイキったガキンチョでしかなかったおれは、 「リマスターされてないから」といふ理由で The Beatles をほとんど聽いたことがなく、 それで出てきた曲がこんなだったから、つい笑ってしまったんですね。いやはや、全く、若さとはバカさですよ。

かつては、サイケ好きとして Revolver といへば Tomorrow Never Knows だろ! と思ってゐたが(アルバム全部好きですけど)、今となっては、ちょっとこれ見よがしな氣がして、あまり好きではなくなってしまった。

そこへいくと、この Taxman のシンプルかつ力強い佇まひは全く色褪せない。 名曲!と云ふほどのものではないだらうが、きっとこの先の人生でもずっと忘れられない曲である。

The Ballad of John and Yoko

さて、ところで、先ほど書いた通り、おれがまだガキンチョだった頃には、 なんと The Beatles の音源はリマスターされてゐなかった (赤盤と青盤が 93 年にリマスターされてゐただけ!)。 その癖、Anthology 出したり、 リマスターもされてゐない The Beatles(俗に云ふホワイト・アルバム) 30 周年記念盤を出したり、 Yellow Submarine Songtrack 出したりで、 そんなのいいから正規アルバムを再發してくれよ!と思ってゐたものだ。

で、やうやくリマスターとして發賣されたのが、新しいベスト盤である 1 だった。

なんだあベスト盤かよ、とがっかりしたおれは、友人から借りるだけで濟ませたのだが(未だに持ってゐない)、 タイトル通り、チャートで 1 位になったシングル曲のみを集めたものなので、 はっきり云って、極上のポップスがずらり竝んでゐたわけだ。

それはもちろん、知ってゐる曲だらけでもあったといふことなんだけど、 この曲だけは知らなかった。

この曲が John Lennon と Paul McCartney の 2 人だけで演奏されてゐると知ったときは驚いたが、 Lennon と McCartney の 2 人がゐればそれでいいのでは?と思はされるぐらゐ、どのパートもすばらしい。

特に好きなのは Lennon の歌と McCartney のベースライン (このベースラインと Hound Dog Taylor の Taylor's Rock をくっつけた、ウルフルズの借金大王なんて曲もある)。 Chirst, you know It ain't easy って言葉の響きなんてもう。 續く They're going to crucify me もいい。 キリストを引き合ひに出した上で自分が磔にされるなんて歌詞はヤバいんぢゃないの?と Paul に云はれたらしいけど、 そんな話はどうだっていい。まさにその 2 つの單語、christ と crucify の響きがいいんですよ。 大體、おれは歌詞のことを全く氣にしないから、この曲はとにかく輕快な曲でしかないのだ。

Savoy Truffle

The Beatles は好きな曲が多いので、1 つ選ぶのは困難を極めるのだが、 取り敢へずこの曲にしておく。 Yer Blues 違ふんかい!とつっこみが入るかもしれないが、 あれは自分でやるのは樂しいけど、聽く分には別に…って曲なので (最初に書いたコピーバンド、ライヴで最後にやる曲はいつも Yer Blues だったのだ)。

期せずしてまた George Harrison の曲になってしまったが、George Harrison で The Beatles の曲といへば、 普通は While My Guitar Gently Weeps だ。

いや、もちろんあの曲も好きなんだけど、Savoy Truffle はね、 最初の Creeeeeeme tangerine and Montelimar って歌詞の響きが最高すぎるのよ。 あれで一氣にテンション上がるもの。豪華なホーン隊でソウル要素が入るのもいい。

それに、この曲も Taxman と一緒で、2 拍目と 4 拍目に「パッ、パッ」ってギターが入る曲なんだよね。 こっちはサビの部分だけだけど。 おれ、このリズム、好きなのかもしれん…。

この頃になると、The Beatles の曲も複雑なものがかなり多くなってきてゐて、 特に Lennon 主導の曲はへんてこなものだらけだ。

でも、この Savoy Truffle はさういったところのない、 シンプルに莫迦々々しい曲だ。ギターソロも、そんなんでいいの?って感じだし。

それでゐて、初期の曲ほどの單純さを感じさせないのは、 やっぱりサウンド・プロダクションが高度になってゐるからだと思ふ。 ホーン隊の音はあからさまに歪められてゐるし、控へ目なオルガンも、初期なら入ってゐなかったのではないか。 イントロの短すぎるドラムもこの曲の氛圍氣を補強してゐるし、細かいところを見れば、かなり凝った曲なのである。

さういふ、The Beatles のこの頃の成熟っぷりを傳へてくれるいい曲だと思ふ。 まあ、そんなだから好きな曲だらけなんですけどね、このアルバム。 2 枚組で、ちょっとまとまりに缺けるところも愛ほしい。 なんたって、この前までは Rubber SoulRevolver、 そしてあの Sgt. Peppers Lonely Hearts Club Band と、まとまりのいいアルバムが連續してるし。

You Won't See Me

Rubber Soul は The Beatles がそれまでのリバプールサウンドからの脱却を圖った初のアルバムで、 シンプルな曲が多くはあるが、多彩な魅力が發揮され始めてをり、The Beatles の變化を強く感じられるものになってゐる。

よく云へば、初期のシンプルさと後期の複雑さのいいとこ取りであり、惡く云へば中途半端なアルバム、と普通はなるのだらうが、 このアルバムに中途半端さを感じたことはない。それだけ、The Beatles の實力が確かなのだらう。

このアルバムも始めから終はりまで好きな曲だらけだが、どれか 1 曲なら、これだ。

アルバムの幕開けである Drive My Car もさうなのだけど、 Paul McCartney 主導の曲って、可愛らしさを持った曲が多い。 かういった、ストレートにキュートな曲調は、他のメンバーの曲にはない特色で、 おれが Paul の曲で好きなのは、さういった曲ばかりだ (逆に Yesterday とか Hey Jude みたいなのは苦手)。

You Won't See Me のすばらしさは何と云ってもそのメロディーラインで、 ポップソングのお手本と云ってしまっていいやうな、無駄なく要所を抑えた Paul ならではの見事なものになってゐる。

あーっ、この曲も 2 拍目と 4 拍目にギター入ってるやつぢゃねえか! マジかよ。意識してなかったわ…。 かういふことがあるから、The Beatles なんてわざわざおれが採りあげずとも語られまくってゐるものについて書いてみる意味もあるといふもの。 In My Life が好き!とか書いとけばよかった…。 いやまあ實際好きだけど、個人的に好きな曲となるとやっぱり外れますね、In My Life は。

Rain

Rain が好きになったのは、Todd Rundgren の 1976 年のアルバム Faithful に入ってゐたからだ。

Todd Rundgren の Faithful は前半がカヴァーで占められてゐる、ちょっと珍しいアルバムだ。 カヴァー・アルバムなら、1973 年に David Bowie も Pin Ups を出してゐるが、 Faithful のすごいところは、カヴァーではなく、完コピを目指してゐるところだ。 Good Vibrations のテルミンとか、あの時代にどうやったんだって思ふぐらゐ完璧である。

いやいや、プロなんだから完コピぢゃなく本人らしさを加へたカヴァーしなよ、と思ふ人もゐるだらう。

でも、Todd Rundgren がこれらの曲を收録した意圖は、さういったものではない。 これらの曲はこの姿であるべきだ、といふことを、わざわざ自分でそっくりに録音することで示したのだ。 Todd Rundgren が、音の流れだけでなく、音響に早くから注目してゐたことがわかる。

そのために選ばれた 6 曲のうち、2 曲が The Beatles の曲である。 もう 1 曲は Strawberry Fields Forever で、 まあこれは Penny Lane との兩 A 面シングルとして發表された曲だし、 誰もが知る名曲だから、選ばれるのはわかる。

でも、Rain はもともと Paperback Writer の B 面だった曲であり、 今でこそ簡單に聽けるが、76 年當時はシングルを集めたコンピ、Hey Jude ぐらゐでしか聽けなかったはずだ。

そんな曲を、わざわざ Todd Rundgren が、すばらしい録音の例としてコピーしてゐるのだから、 これはきっとすごい曲なんだ、と思ってゐた。

で、實際にこれは創意工夫に溢れた The Beatles にとっても劃期的な曲だったのである。

まづ、後に Tomorrow Never Knows でも使はれた逆囘轉が用ゐられてゐる。 あの何云ってんだかわからないアウトロだ(Todd Rundgren は逆囘轉を使はずにやってゐたけど)。

それに、テープ速度の變更も行はれてゐる。Ringo のドラムは遅くなってゐるし、John のヴォーカルは早くなってゐる (正確に云ふと、John のヴォーカルはテープを遅く囘轉させた状態で録音された)。 つまり、ドラムとヴォーカルは、もともとはあのテンポで録音されてゐない。 テープ速度の變更は、この曲の前にも In My Life のピアノソロに使はれてゐたが、 あれが非常にわかりやすいものであったのに對し、こちらは云はれなければ氣づかない程度のものだ。

細かいことを云ふと、ベースの音がしっかり前に出てゐるのも、Paul がオーバーダブしたからで、 この Rain といふ曲は、このあとの The Beatles が驅使するスタジオ技術の顏見せに當たる曲だったのだ。 なるほど、Todd Rundgren がこの曲を選んだのも納得である。

Revolution

シングル B 面曲といへば、これも好きだ。

The Beatles にこれの元になった Revolution 1Revolution 9 が收録されてゐるが (この 2 曲は、もともと 1 曲だったのが分割されたものである)、 Revolution 1 ではシングルとしてテンポが遅いからとの理由で、 この Revolution が録音された。

いやね、私、かういふひずんだギターでのブギ、大好きなんですよ。これぞブギ。 Nicky Hopkins のエレピもブルーズらしさを煽ってゐていい。

あと、ビデオでもわかるんだけど、終始テンションの高い Paul が可愛い。 作曲者の John よりずっとハイテンション。なんでだよ。

ハイハットをまるで叩かない大胆な Ringo のドラムもすごい。 Ringo にしかできないよ、こんなの。この曲にはこのドラムしかあり得ない。 Ringo のどたっとしたドラムがぴったり。

別に、音樂的にすごい曲では全然ない。でも、おれのフェティシズムをびしばし刺戟してくる。1 時間ぐらゐずっとこの曲でも全く飽きないよ。 實際、The Beatles の曲で一番たくさん聽いた曲だと思ふ。こんなに聽くやうになったのはここ 10 年ぐらゐだと思ふけど。

I Want You (She's So Heavy)

Abbey Road は一番好きなアルバムなので、1 曲選ぶのは至難である。 ズルをして The Long One と答へる手も考へたが、 それは結局ボツになったヴァージョンで、さうなると、あのメドレーから 1 曲だけ選ぶのは不可能だ。

となると、やっぱりこれしかない。

ほとんどタイトルに出てくる言葉だけをずっと繰り返す歌詞、その癖 8 分近くある長さ、 メロディをそっくりなぞるギター、タイトルに相應しいヘヴィなサウンド、モーグによるホワイトノイズ、そして唐突な終はり。 創意工夫とは正反對にあるやうな、單純で、ナンセンスな曲。

なのに、それがつまらない曲になるわけではないのが、音樂の面白いところだ。

まあ、The Beatles をよく知らない人に、これが The Beatles だよと聽かせたら、 その人はきっと The Beatles への興味を失ってしまふだらう曲ではある。 The Beatles のよさ、みたいなものはこの曲にはないからだ。 だってこれ、ほとんどドゥーム・ロックですよ。まだ Black Sabbath がデビューしてすらゐないのに!

もちろん、Black Sabbath ほどの重さはないけれど、 8 分もの長さを、繰り返しによって聽かせてしまへるのがかういった曲だ、と見拔いてゐたところがすごい。 この長さはこの曲だからいいのであり、Hey Jude のやうな繰り返しは退屈でしかない。 一般的な評價は壓倒的に Hey Jude のはうが高いけど、そんなにいいですかね、あの曲。

おっと、最後が惡口みたいになってしまった。 でも、The Beatles みたいなバンドで、好きな曲を擧げてみるといふのは面白い試みだと思ふ。 おれの選んだ 7 曲は、恐らくは多くの人の 7 曲には入らない曲だが、 だからといって、他の人が選ぶ 7 曲がどれも似たやうなものになるかといへば、そんなこともないやうな氣がする。

The Beatles にはそれだけいろんな名曲があるし、魅力を感じるポイントは人によって種々樣々だらう。 それは何も The Beatles に限ったことではないだらうが、さういふ部分を持っているかどうかが、 優れたバンドであるかどうかの、一つの分かれ目であるやうに思ふ。

あなたの 7 曲はどれになりますか?