When the Music's Over

音樂の話とゲームの話

eden ahbez

いつの間にか 10 月も半ばになってゐることに氣づき、bandcamp daily のまとめは果たして年内にちゃんと追ひつけるのか?と疑問を抱きつつある私です。 でも、まとめはおいといて、bandcamp daily 6 月分のまとめでちらっと触れた、eden ahbez について書く。

f:id:nomoneynohoney:20211016052658j:plain

eden ahbez (本人の意志に従ひ、すべて小文字表記にする)は元祖ヒッピーとも呼ばれる人で、長髮にたっぷり髭を蓄へ、 嫁も子どももゐたのに放浪生活で野宿して野菜や果物のみを食べるベジタリアンだったといふから、相當な人だ。 それも、1960 年代末の話ぢゃない。1940 年代からそんな生活をしてゐたらしい。

1947 年には、Nat King Cole に今でもジャズ・スタンダードとして知られる Nature Boy を提供。 8 週間に亙って Billboard のチャートトップを保持したほどの曲で、eden ahbez といへばまずこの曲のことが語られる。

ほかにも曲を提供してゐないわけではないが、あまりに Nature Boy が有名すぎて、 それ以外の曲に何があったのかは調べるのは困難を伴ふ。 幸ひ、インターネットを漁ればあるところにはあるもので、 eden ahbez のみを扱ったブログ Eden's Island を見ればその邊りのこともわかる。

ちなみに、そのブログのタイトルは、eden ahbez が 1960 年に唯一リリースしたソロ・アルバムから採られてゐるのだが、 その Eden's Island が、 なんとたっぷりのボーナス・トラックを加へたリマスター盤で 12 月に再發されるのだ。 これは紹介せざるを得ない。

Nat King Cole に曲を提供してゐたぐらゐだから、中身はジャズなのかってーと全然違ふ。 Martin Denny と Jack Kerouac が出會ったやうな作品、と評されたらしいが、 個人的には Van Dyke Parks を思ひ出した。 確かに Martin Denny みたいなエキゾチカ要素は強いし、歌も本人は朗讀が多く、あとはコーラスばかり (しかし、朗讀が多いからって Jack Kerouac の名を出すのはどうなの…)。 そもそも歌ものが少ないため、ソフトロックやポップスといった感じは薄い。

それでも、なんとなく Van Dyke っぽさを感じてしまふのは、 eden ahbez のアルバムが、Van Dyke Parks の作品と同じく、フィクショナルな場所を想起させるからだ。 この人、The Beach Boys が Pet Sounds および SMiLE を作ってゐた時期に、 Brian Wilson とちょくちょく會ってたらしいが、Brian Wilson も Van Dyke っぽさを感じたりしてたんだらうか (ご存知の通り、Van Dyke Parks は SMiLE 制作に大きく關ってゐる)。

Van Dyke Parks の作品はアメリカーナと評されることがあり、 それは彼がアメリカのルーツ音樂を探求してゐることから來る評價だが、 Van Dyke Parks の描くアメリカは、單純なルーツではなく、實に幻想的である。 かつてあったものをその儘に復活させるわけではなく、 Van Dyke の味にした上で演ってみせてゐるから、 過去にも現在にもないものができあがってゐるのだ。

eden ahbez の音樂は、具體的な國に結びつくやうな音樂ではないが、 それでもやはり、幻想的だと思ふ。 なんたって、アルバム名が Eden's Island であり、 副題が The music of an enchanted isle なんだから、 eden ahbez 自身がさうした空氣作りに自覺的であったらうことには疑ひがない。

もちろん、現代の目で見れば、 それは、かつて Said が Orientalism で指摘したオリエンタリズムの産物でしかない、 とばっさり切り捨ててしまふこともできやう。

ただ、さうした多くの試みが、大抵はあざといものにしかならないのに對して、 eden ahbez の作品にさうした嫌らしさは感じない。 先に、eden ahbez の音樂が具體的な國に結びつくやうなものではないと書いたが、 それが效を奏してゐるのだと思ふ。 エデンの島ではこんな音樂が鳴ってゐるのだらう、ぐらゐのものでしかないのだ。

なんにせよ、Eden's Island はラウンジものやアメリカーナなんかが好きなら買って間違ひないと思ふ。 おれはかういふ時代も国籍もよくわからない音樂が大好きなので、すぐ買った。 ユニオンでも豫約を受け付けてゐるが、送料込みでも bandcamp から買ふのと値段が變はらないので、おれは bandcamp に注文した。 箱入りのやつとか、やたら豪華なエディションまで用意されてゐるが、そんなに賣れるんですかね、これ…。

さて、bandcamp の記事でも触れた、Ìxtahuele による Dharmaland についても書かう。 bandcamp daily によると、 これはドキュメンタリー映畫 As the Wind: The Enchanted Life of Eden Ahbez の製作中に監督である Brian Chidester が發見した未録音のスコアを Ìxtahuele に渡したことで實現したアルバムらしい。 eden ahbez が生きてゐる間には録音されなかった曲が、50 年ほどの時を經てお目見えした、といふわけだ。

Ìxtahuele はエキゾチカ音樂を演奏するバンドで、 なるほど Martin Denny を比較對象に舉げられる eden ahbez の音樂を現代でやるならまさに打ってつけと云へる。 しかし、よくこんなマイナーなバンド知ってたな…。

内容はもう完璧に eden ahbez で、朗讀もコーラスもばっちり。 音樂も eden ahbez が録音してた未發表アルバムと云はれてもわからないほど。 アルバムを想定して書かれた曲ではなく、未發表だったものの寄せ集めでしかないはずが、 タイトル通り、Dharmaland なる場所でこんな音樂が奏でられてるんぢゃないか、と思はせてくれ、 eden ahbez の曲が今でも古臭さとは無縁の、獨立したリアリティを持ったものであると感じさせてくれる。

斬新な音樂性といふわけではないが、探すと見つからない、 いや、そもそも探さうとも思はないぐらゐ、普段は意識の外にある音樂。 人によっては、ただのイージー・リスニングに聞こえるかもしれない。 でも、かういふ獨自の世界を持ってる音樂家って貴重ですよ。 浮世のことを忘れたいときにでもいかがでせうか。