When the Music's Over

音樂の話とゲームの話

eden ahbez

いつの間にか 10 月も半ばになってゐることに氣づき、bandcamp daily のまとめは果たして年内にちゃんと追ひつけるのか?と疑問を抱きつつある私です。 でも、まとめはおいといて、bandcamp daily 6 月分のまとめでちらっと触れた、eden ahbez について書く。

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eden ahbez (本人の意志に従ひ、すべて小文字表記にする)は元祖ヒッピーとも呼ばれる人で、長髮にたっぷり髭を蓄へ、 嫁も子どももゐたのに放浪生活で野宿して野菜や果物のみを食べるベジタリアンだったといふから、相當な人だ。 それも、1960 年代末の話ぢゃない。1940 年代からそんな生活をしてゐたらしい。

1947 年には、Nat King Cole に今でもジャズ・スタンダードとして知られる Nature Boy を提供。 8 週間に亙って Billboard のチャートトップを保持したほどの曲で、eden ahbez といへばまずこの曲のことが語られる。

ほかにも曲を提供してゐないわけではないが、あまりに Nature Boy が有名すぎて、 それ以外の曲に何があったのかは調べるのは困難を伴ふ。 幸ひ、インターネットを漁ればあるところにはあるもので、 eden ahbez のみを扱ったブログ Eden's Island を見ればその邊りのこともわかる。

ちなみに、そのブログのタイトルは、eden ahbez が 1960 年に唯一リリースしたソロ・アルバムから採られてゐるのだが、 その Eden's Island が、 なんとたっぷりのボーナス・トラックを加へたリマスター盤で 12 月に再發されるのだ。 これは紹介せざるを得ない。

Nat King Cole に曲を提供してゐたぐらゐだから、中身はジャズなのかってーと全然違ふ。 Martin Denny と Jack Kerouac が出會ったやうな作品、と評されたらしいが、 個人的には Van Dyke Parks を思ひ出した。 確かに Martin Denny みたいなエキゾチカ要素は強いし、歌も本人は朗讀が多く、あとはコーラスばかり (しかし、朗讀が多いからって Jack Kerouac の名を出すのはどうなの…)。 そもそも歌ものが少ないため、ソフトロックやポップスといった感じは薄い。

それでも、なんとなく Van Dyke っぽさを感じてしまふのは、 eden ahbez のアルバムが、Van Dyke Parks の作品と同じく、フィクショナルな場所を想起させるからだ。 この人、The Beach Boys が Pet Sounds および SMiLE を作ってゐた時期に、 Brian Wilson とちょくちょく會ってたらしいが、Brian Wilson も Van Dyke っぽさを感じたりしてたんだらうか (ご存知の通り、Van Dyke Parks は SMiLE 制作に大きく關ってゐる)。

Van Dyke Parks の作品はアメリカーナと評されることがあり、 それは彼がアメリカのルーツ音樂を探求してゐることから來る評價だが、 Van Dyke Parks の描くアメリカは、單純なルーツではなく、實に幻想的である。 かつてあったものをその儘に復活させるわけではなく、 Van Dyke の味にした上で演ってみせてゐるから、 過去にも現在にもないものができあがってゐるのだ。

eden ahbez の音樂は、具體的な國に結びつくやうな音樂ではないが、 それでもやはり、幻想的だと思ふ。 なんたって、アルバム名が Eden's Island であり、 副題が The music of an enchanted isle なんだから、 eden ahbez 自身がさうした空氣作りに自覺的であったらうことには疑ひがない。

もちろん、現代の目で見れば、 それは、かつて Said が Orientalism で指摘したオリエンタリズムの産物でしかない、 とばっさり切り捨ててしまふこともできよう。

ただ、さうした多くの試みが、大抵はあざといものにしかならないのに對して、 eden ahbez の作品にさうした嫌らしさは感じない。 先に、eden ahbez の音樂が具體的な國に結びつくやうなものではないと書いたが、 それが效を奏してゐるのだと思ふ。 エデンの島ではこんな音樂が鳴ってゐるのだらう、ぐらゐのものでしかないのだ。

なんにせよ、Eden's Island はラウンジものやアメリカーナなんかが好きなら買って間違ひないと思ふ。 おれはかういふ時代も国籍もよくわからない音樂が大好きなので、すぐ買った。 ユニオンでも豫約を受け付けてゐるが、送料込みでも bandcamp から買ふのと値段が變はらないので、おれは bandcamp に注文した。 箱入りのやつとか、やたら豪華なエディションまで用意されてゐるが、そんなに賣れるんですかね、これ…。

さて、bandcamp の記事でも触れた、Ìxtahuele による Dharmaland についても書かう。 bandcamp daily によると、 これはドキュメンタリー映畫 As the Wind: The Enchanted Life of Eden Ahbez の製作中に監督である Brian Chidester が發見した未録音のスコアを Ìxtahuele に渡したことで實現したアルバムらしい。 eden ahbez が生きてゐる間には録音されなかった曲が、50 年ほどの時を經てお目見えした、といふわけだ。

Ìxtahuele はエキゾチカ音樂を演奏するバンドで、 なるほど Martin Denny を比較對象に舉げられる eden ahbez の音樂を現代でやるならまさに打ってつけと云へる。 しかし、よくこんなマイナーなバンド知ってたな…。

内容はもう完璧に eden ahbez で、朗讀もコーラスもばっちり。 音樂も eden ahbez が録音してた未發表アルバムと云はれてもわからないほど。 アルバムを想定して書かれた曲ではなく、未發表だったものの寄せ集めでしかないはずが、 タイトル通り、Dharmaland なる場所でこんな音樂が奏でられてるんぢゃないか、と思はせてくれ、 eden ahbez の曲が今でも古臭さとは無縁の、獨立したリアリティを持ったものであると感じさせてくれる。

斬新な音樂性といふわけではないが、探すと見つからない、 いや、そもそも探さうとも思はないぐらゐ、普段は意識の外にある音樂。 人によっては、ただのイージー・リスニングに聞こえるかもしれない。 でも、かういふ獨自の世界を持ってる音樂家って貴重ですよ。 浮世のことを忘れたいときにでもいかがでせうか。

Spotify playlist #1

同僚に、音樂の趣味が少しだけ被る子(おれよりずっと若い)がゐる。 まあ、普段聽いてゐる音樂は多分ほとんど被ってゐないだらうが、 灰野さんの名前を知ってゐる人は貴重だし、普通にいいやつなので仲良くやってゐる。

で、その子が先日、「今さらジャズを聽き始めたんですけど、なんかおすすめあります?」なんて可愛いことを云ふもんだから、 ウキウキしておすすめを選ぶことにした。

昔なら CD-R に好きな曲を燒いて渡すところだが、その子が Spotify をサブスクしてることを思ひ出したので (おれはアカウントだけ持ってゐる状態)、 Spotify でプレイリストを作ってみることにした。それが、下記のリストである。

せっかくだから、今日はこのリストについて、蘊蓄を述べたい。

まづは Art Tatum を 2 曲。どちらもスタンダード。 Tatum はバップ以前の人だが、形式としてはモダン・ジャズに分類されるであらうジャズをやってゐた最初期の人である。 恐ろしい技倆の持ち主で、未だにジャズ・ピアニスト・ランキングで 1 位に選ばれたりもする人だから、 聽いといてほしいな、と思って。

最初は Willow Weep for Me だけでいいかなと思ったんだけど、 これ、Art Tatum が一人でピアノ彈いてるだけなんですよ。 どうせならバンドものも入れときたいなあと思って、Tea for Two を追加。

3、4 曲目は Charlie Parker。まあ、ジャズと云はれたら外せませんよ。 曲は Now's the TimeDonna Lee。 まあどっちも定番ですね。定番すぎて Now's the Time は有名なのとは違ふテイクのやうな氣もするが、 Spotify のやつって、どれがリマスターされてるやつなのかとかわかりにくいんですよ。 だから、はっきりリマスターって書いてあるやつにしときました。 うちにある CD から選ぶのなら、そんな苦勞はないのに…。

5 曲目は Thelonius Monk。Monk はピアニストとしてより、作曲家としての評價のはうが壓倒的に高いので、 Monk 自身のものとしてどれを選ぶかは惱んだんだけど、 他の人がやったよりよいヴァージョンがぱっと思ひ浮かばなかった Blue Monk にしておいた。 そもそも、Blue Monk やった人と云はれて思ひ出せるのが細野晴臣と Steve Lacy しかゐねえ。

6 曲目は Sonny Clark で LoverCool Struttin' は中身もさることながら、かっこいいジャケでも有名なアルバムだが、 我が家にはレコードしかないので、ボーナス・トラックの存在は知らなかった。 今の CD は Lover が入ってるのね。 おれ、この曲は大好きなんだけど、一番好きなのは Jimmy Bryant のやつなんですよ。灰野さんの DJ アルバムの最初に入ってるから。 でもそれをジャズ入門に入れるわけにもいかないなあと思ってたところに Sonny Clark 版があった上、 Cool Struttin' の紹介もついでにできるなら Sonny Clark でいいぢゃん!と。

7 曲目は Sonny Rollins で A Night in Tunisia。 こりゃもう定番だから説明不要でせう。Sonny Rollins は 1 曲は入れておきたいし、 A Night in Tunisia も入れておきたい曲の 1 つ。 兩方を兼ね備へるこれ入れとけば一石二鳥!  入門なら St. Thomas を入れるべきなのかもしれないが、あの曲ベタすぎてなんかちょっと恥づかしくなるんですよね…。

8 曲目は Shelly Manne の Get Me to the Church on Time。 Shelly Manne 名義ではあるが、この曲の入ったアルバム My Fair Lady の主役はピアニスト André Previn だ。 この明るく輕快なピアノ!  André Previn はこの頃はジャズ・ピアニストだが、60 年代後半からはクラシックの指揮者として名を馳せてゐて、 長く London Symphony Orchestra の音樂監督だったことで知られる。 たぶん、ジャズ・ピアニストとしてより、指揮者としてのはうが有名なんだけど、 ジャズ・ピアニスト時代の作品も、どれもこれもいいんですよ。 かつてはジャズ時代のアルバムを集めたボックスが賣られてゐて、うちにもそれがあるのだが、今は賣られてないのかな。

9 ~ 13 曲目は Miles Davis。 Miles Davis のすごさは、その偉大さに反して、聽きやすい曲だらけなことだ。 同じぐらゐ偉大とされてゐる John Coltrane は、重い曲が多い印象があって、 個人的には初心者には勧めづらい。超名盤とはいへ、いきなり A Love Supreme とか聽かされても困るでせう。 でも、Miles Davis なら聽かせたい曲は山ほどある。

まづは Monk のオリジナルより有名な 'Round MidnightStraight, No Chaser も Monk より Miles のヴァージョンのはうが廣く聽かれてゐるが、 Miles Davis が意識してゐた、「女を口説くときに流れてゐてもおかしくないジャズ」といへばこっちでせう。

Autumn Leaves が契約上の都合で Cannonball Adderley 名義なのはファンには有名な話。 その所爲で、58 年録音なのに、當時のクインテットとは全然違ふ面子なのも特徴で、 ドラムは Art Blakey だし、ピアノは Hank Jones だ(弟の Elvin Jones のが有名だが、Charlie Parker ともやってた人である)。

On Green Dolphin StreetLove for Sale は 今は Kind of Blue のボーナス・トラック扱ひだが、 もともとは日本獨自の編集盤 1958 Miles に收められてゐた曲。 池田満寿夫のコラージュによるジャケもすばらしい。 どちらも Bill Evans の流麗かつリリカルなピアノが最高で、 特に Love for Sale でのソロは、Bill Evans のソロで個人的には一番好き。

Kind of Blue から 1 曲となると非常に難しいが、All Blues にした。 Miles Davis が偉大なバンドリーダーであることは誰も否定しないと思ふが、作曲家としてはどうなのってーと、 そんなに有名な曲がたくさんあるわけぢゃないんですよ。 Miles Davis って人は、自分で曲を書く人ではなく、方法論を提示する人で、 曲自體はバンドメンバーのものやカヴァー(ジャズでは普通のこと)が多い。 エレクトリック時代になると Miles Davis 名義の曲ばかりになるが、1 曲が長く、アドリブだらけだから、作曲された部分はたぶんすごく短い。

All Blues は、さうした Miles の數少ない、彼名義の曲の 1 つで、 恐らく、この曲が Miles Davis 名義の曲の中で最もカヴァーされてゐると思はれるのが、これを選んだ理由だ (まあ、Charlie Parker の曲として舉げた Donna Lee もほんとは Miles Davis の曲ですけど)。 その他の時代もすごい曲揃ひの Miles ではあるが、まあ入門には不向きなので大膽にスルー。

Art Pepper の You'd Be So Nice to Come Home to は友人に云はれて思ひ出した曲。 アルバムタイトルの Meets the Rhythm Section は、 Miles Davis のリズム隊であった Red Garland、Paul Chambers、Philly Joe Jones の 3 人を指す。 Kind of Blue 以前、 上に選んだ曲の中では 'Round Midnight がこのリズム隊による演奏。

この曲を選んだのは、英文法の本だったかで、なぜこの曲のタイトルの最後に to がつくか、みたいな話を讀んだから。 このアルバムを選んだのは、リズム隊の 3 人がめちゃくちゃ好きだからですね。

ってわけで、Paul Chambers の名盤 Bass on Top からも 1 曲。 ピアノは前述 Hank Jones、ドラムは Art Taylor、ギターに Kenny Burrell を迎へたカルテットでの演奏。 サントリーにホワイトってウヰスキーがあるけど、 このウヰスキー、ホワイトって名前のくせに、CM に黒人を使ひまくってて、 この Dear Old Stockholm も Miles Davis のヴァージョンが使はれてゐたのを憶えてゐる (が、ググってもちっともそれらしい情報がヒットしない…)。 有名なのは Stan Getz のヴァージョンだが、この曲のベースは Paul Chambers に彈いてゐてほしい。

しりとりのつもりではないが、Kenny Burrell のリーダー作も 1 曲入れておきたかったので、これ。 Midnight Blue ってアルバムタイトルもジャケもかっこよすぎるので、 このアルバムを聽くと、Kenny Burrell の印象はこれで固定されてしまふ。 そもそも Kenny Burrell のギターが、このタイトルとジャケにぴったりすぎるんだよ。ずるい。 ジャズでブルーズ聽きたかったら、まあこれですよ。

17 曲目にして、やっと John Coltrane だが、ド定番の Giant StepsMy Favorite Things を。 Coltrane といへば、何はなくともこの 2 曲。 ほかにも聽くべき曲は山ほどあるが、この 2 つだけは絶對に外せない。 コードによるジャズとモードによるジャズの代表例でもあるし。さすがにここで變な選曲するほどひねくれてゐません。

ハードバップといへば Lee Morgan。 特にこの The Sidewinder は一度聽くと頭から離れなくなる強烈なインパクトがある。 Vol. 3 だとか Here's Lee Morgan も名盤だが、 ハードバップを代表する曲っつったらこれしかないでせう。 どんどん難解になっていったビバップと對比して、明快なのがハードバップのいいところだが、 これはその部分が如實に出てゐる名曲中の名曲。 ハードバップ自體はアドリブの許容度の狭さゆゑ、すぐ廃れてしまったが、すぐ廃れたからって惡いものだったわけぢゃあないのだ。

20、21 曲目は Tristano 派。 Lenny Tristano その人の大きな特徴は、リズムの扱ひである。 Tristano のアルバムって、ポリリズムだらけなんですよね。 しかも、わざわざピアノを多重録音してまで實現してゐる。 1955 年に多重録音してゐたのがまづすごいが、1949 年の時點でフリージャズをやった人だから、 ぶっちぎりの前衛である。 おれはリズムに凝った音樂が大好きなので、 Tristano のアルバムは全部こよなく愛してゐるのだが(まあ數枚しかないが)、 初心者でもわかりやすいのはこれでせう。

Tristano の愛弟子であった Lee Konitz の代表作といへば、まあこれだ。 デビューアルバムが代表作と云ふのはちょっと申しわけなさを感じるが、仕方ない。 ピアノは Tristano が彈いてゐるが、こちらは Lee Konitz がリーダーなので多重録音はないし、リズムが氣持ち惡かったりもせず、 さういった要素を拔きにした「トリスターノ派」の音樂がどういったものだったかを示す好例。 Tristano の 1st B 面にもかういったライヴ演奏は收められてゐるが、どうせならより録音が古いこっちで(1949 年録音)。

Herbie Hancock も名曲だらけだが、中でも Cantaloupe Island はダントツのかっこよさ。 リズム隊は當時 Miles Davis クインテットのリズム隊だった 3 人、トランペットは名手 Freddie Hubbard で、 面子の豪華さでいへばこの録音が一番だらうが、Cantaloupe Island の録音はどれもこれもいい。 抑制されたテンションとループ感のあるピアノ。曲がかっこよすぎるんだよなあ。 續く Maiden Voyage ももちろん名曲だが、Cantaloupe Island には負けますね。

Eric Dolphy は 2 つ。最初の曲はこのブログを始めたばかりの頃に紹介したので省略。 この Jitterbug Waltz を Mingus がライヴでやってゐるのはこの時期ぐらゐだが、 Eric Dolphy の録音ならいくつかあるので、この曲を選んだのは Dolphy なのだと思ふ。 Jitterbug Waltz では Dolphy の輕やかに舞ふフルートを堪能できるが、 Dolphy といへばバスクラも聽いてほしいとすべての Dolphy ファンが思ふであらうから、 バスクラの曲も 1 つ。 どうせなら At the Five Spot から入れたかったのだが、あのアルバムどれもこれも長すぎる!  仕方ないので、Booker Little がゐる唯一のスタジオ盤 Far Cry からボーナス・トラックで收録された Serene を。

Dolphy つながりで Stolen Moments も。 なんか Spotify のやつ、ジャケが變だけど…。 これまでに名前を出した Freddie Hubbard、Eric Dolphy、Bill Evans、Paul Chambers の 4 人が参加してゐる豪華な曲。 Eric Dolphy の參加した Oliver Nelson のアルバムはあと 2 つ Screamin' the BluesStraight Ahead があるが、 この Blues and the Abstract Truth だけ異様に面子がゴージャスである。 これ以外で Eric Dolphy と Bill Evans が一緒にやってるアルバムなんてないと思ふ。 曲自體も押しも押されもせぬ名曲ですね。

大好きな Rahsaan Roland Kirk からも 1 曲。 Duke Ellington の曲だが、一度の何本もの管樂器を吹く Roland Kirk の特異さもわかるし、 さういふ變な人でありながら、非常に歌心あふれる演奏や選曲をする人だったことも傳はる名演。 名盤だらけなので、變な先入觀なしで聽いて、よさを知ってもらひたい。

Ornette Coleman はフリージャズではあるが、聽きやすくかっこいい曲がいくらでもある。 この Blues Connotation は最近になってかっこよさに氣づいた曲。 スピーディーで、その速度で普通ではない音の選び方を押し切ってしまふ強引さがたまらない。 Ornette Coleman で一番よく聽くアルバムは At the Golden Circle なんだけど、 初めて聽くならやっぱり Don Cherry と Charlie Haden がゐる時代ですよ。

Keith Jarrett の 1 曲も難しかったが、前に紹介した The Windup にしておいた。 european quartet だし、リズムへんてこだし。この透明感あるキリリとした演奏よ。

初心者向けリストに入れるべきでないとわかってはゐたが、Steve Lacy を入れるのは我慢できなかった。 ジャズ・ミュージシャンで、恐らく一番好きなプレイヤーだから仕方ない。 曲は Thelonius Monk だから許してくれ。 ピアノの Misha Mengelberg だって、Eric Dolphy の Last Date でピアノ彈いてる人ですよ! (まあ、おれからしたら ICP の創始者の 1 人であり、最も偉大なフリージャズピアニストの 1 人ですけど)。 はあ~、それにしても Lacy のこの自由さ。これがジャズだよ。 Steve Lacy についてもいずれ記事を書きたいですね。

31 ~ 34 曲目は新しめのやつ。

Rob Mazurek のプロジェクトの 1 つ、Chicago Underground Duo のこの曲は、初めて聽いたときぶったまげたやつ。 打ち込みとジャズが完璧に同居してゐる!  今ぢゃ珍しくもないが、當時は打ち込みってわざとらしくてジャズには全くそぐはなかったんですよ。 これは 2002 年にリリースされた 3 枚目のアルバムに入ってゐる曲だが、 これ以前にも 2nd に入ってる Fluxus とか同じやうな曲はある。 これを選んだのは單純に好みの問題。Chad Taylor のドラムも闊達すぎて見事。 現代のドラマーではベスト 3 に入るぐらゐ好き。

日本人はフリージャズばっかり聽いてゐるので、聽きやすい渋さ知らズを入れておいた。 ライヴで合ひの手入れるのが樂しいんだよね、この曲。 いや、渋さ知らズのライヴは始めから終はりまで樂しいですけども。 こればっかりは實際にライヴ行ってもらひたい。

33、34 曲目はおれがさんざん貢がされてる International Anthem から。 正直、現代のジャズは International Anthem チェックしてればいいんぢゃないの、とまで思ってゐる。 まあ、おれが Robert Glasper みたいなシャレオツなやつ聽かないからだけど。

トリを飾るのは美空ひばり。 美空ひばりのジャズシンガーとしての力量はタモリや山下洋輔も認めるほどだが、 これ聽きゃ納得でせう。 だってこれ、17 歳のときの録音ですよ。スキャットうますぎでせう。 美空ひばりが手本にしてゐるのは 1952 年リリースの Duke Ellington のアルバム Ellington Uptown に入ってゐる Betty Roché のヴォーカルで(スキャットから明らか)、 Betty Roché もいい歌手だが、その録音當時は 34 歳。 美空ひばりが、その半分の年齢で、Betty Roché より遥かにスウィングした録音を殘してゐるのは脅威と云ふほかない。

ちょっと書くだけのつもりだったのに、かなり長くなってしまった。 まあ、それだけ好きな曲を入れたってことで勘辨してください。

bandcamp daily: June, 2021

メモ書きを殘すばかりで蜿蜒と日記にすることをサボり續けてゐる bandcamp daily の記事が溜まってきたので、いい加減、記事にしてしまふことにする。 まづは 6 月分。

6 月 1 日の best experimental は 5 月リリースの實驗音樂特集だったんだけど、 この中で面白かったのは Anton Bruhin の Speech Poems / Fruity Music ぐらゐ。リリース元は Oren Ambarchi の Black Truffle。

Anton Bruhin といへば、口琴で有名な實權音樂家で、初期(1960~70 年代)の作品は實權音樂の再發に定評のある Alga Marghen がほとんどリイシューしてくれてゐる。 こちらは 2006 年から 2008 年の作品集で、Bruhin 本人ではなく、加工されたコンピュータによる聲が使はれてをり、 いかにも實權音樂といった感じで電子音樂だったり變な民族音樂っぽさがあったりする Alga Marghen がリイシューした作品群とは違ひ、随分とあっさりした印象。

でも、Black Truffle からのリリースなら、6 月 18 日にリリースが豫定されてゐる Remko Scha の Guitar Mural 1 feat. The Machines リイシュー盤のがヤバいと思ふ。 Black Truffle の現代音樂系統ものはおれ好みのが多くて實にいい。灰野さんとのライヴ盤、毎年來日しては録音してリリースしてくれてるのも知ってるんですけど、ライヴ行くのもアルバム買ふのもしばらくサボっててすみません。Oren のドラムがあんまり好きぢゃないのよ…。

6 月 2 日の album of the day は、 W00dy の Headbanging in the Club

リズムの扱ひがフットワークっぽいのが面白く、headbanging といふタイトルの割に、素直に頭を振らせる音樂にはなってゐない。 音のつながりが細かくズタズタに區切られてゐるため、音の流れに身を任せられないのが新鮮。 なるほど確かに、現代のクラブではこれぐらゐの難易度のはうが踊る側の人間を刺戟するのかもしれない。

フットワークは 80 程度の BPM の上モノが鳴ってゐる後ろで、倍のテンポのリズムが鳴ったり鳴らなかったりすることで、 聽く側にとってのテンポの認識を早めたり遅めたりするが、 このアルバムはさういふ造りではなく、テンポ自體はずっと一定なのに、スタッカートが効きまくってゐるといふか微細な休符が入りまくってゐるといふか、 とにかく細切れ、といふ感覺が強いのが痛快。

6 月 4 日の seven essential releases でよかったのは 2 枚ほど。

1 枚目は Ron Everett の Glitter of the City。 オリジナルは 1977 年にリリースされたことになってゐるが、このアルバム、レコード店で賣られることはなかったらしい。 そんなもののマスターテープを發掘し、リマスターまで施して再發してしまふのがすごいが、 さういふ幻のアルバムの再發って結構よく聞く話でもある。 で、大抵の場合、中身は大したことなかったりするんですよ。

このアルバムもさうしたものの一つで、惡いとは云はないが、時代相應で、瞠目すべきものとまでは云へない。 でもこれ、日本盤も出るみたい。日本だけでそんな賣れるかな…。

2 枚目は Hailu Mergia の Tezeta。 Hailu Mergia といへば、2013 年に Awesome Tapes from Africa が 85 年のアルバム Shemonmuanaye をリイシューしたことで話題になり、續く 2014 年に最も有名な Tche Belew がリイシューされたことでその人氣を確かなものにしたエチオピアのオルガン奏者で、なんと 2018 年には The Necks の Tony Buck も參加した新譜を出したりもしてゐる(去年も新作をリリースしてゐる)。

今囘のリリースは 75 年の作品。ギターを前面に出した曲の多さが特徴かな。 もちろん、いつもの Mergia らしい曲が目白押しだが、何曲か爽やかなギターが印象的なものがあり、それがアクセントになってゐる。

6 月 3 日の acid test からも 2 つ。

1 つ目は Roope Eronen の The Inflatable World。 ぐにょぐにょシンセ音樂。うーん、アシッド! 音はチープだし演奏もよれよれ。これがアシッドだよ、といふ見本のやうな作品。 おれはもう今さら見本のやうな作品を買はうとは思はないが、アシッド感を味はひたいって人にはいいんぢゃないでせうか。

2 つ目は Tania Caroline Chen の Iridescence。 acid test で紹介されるアルバムの中で、Ikue Mori の名前を見るとは。 實際、聽いてみてもアシッド感はなし。普通にエレクトロ・アコースティック作品。なんで acid test に紛れてんだ…。 Ikue Mori はこのジャンルでは超ベテランなので、音のチョイスはさすがの一言。

Tania Caroline Chen は、John Cage や Morton Feldman、Earle Brown といったアメリカ現代音樂作家の作品のリアライズをたくさんやってゐたりもするピアニストで、 このアルバムではピアノと電子音の兩方をやってゐる。 即興ものは表現の幅が廣すぎて、好みのものを見つけるのはなかなか困難なのだが、この人の出す音はいいですね。 もっといろんな人とやってほしいものだ。

6 月 4 日は best ambient。 おれにとって、アンビエントはどうでもいい作品ばかりの退屈なジャンルなのだが、 mHz の Earth's Shadow はなかなかよかった。 なんでって、まあ、ドローンだからですね。 しかも、アンビエントにありがちな、和音によるドローンではなく、ストイックな電子音による表現なのがいい。 2 曲目はちょっと美しすぎるが、それ以外の 2 曲は低音も効いててグッド。

6 月 7 日の features は 6 月 4 日になんと 25 年ぶりにリイシューされた Squarepusher のデビュー作の特集。 いやもう、懐かしすぎる。でも、ずっと再發されてなくて、配信とかでも聽けなかったんですってね。知らなかった。 Squarepusher といへばテクノの人でありつつ、ベースの人でもあるわけだが、 Squarepusher のベースって、Thundercat のベースと似てませんか?  Thundercat を聽くとつい Squarepusher を思ひ出してしまふことがあるので、ずっと聽けなかったと云はれても、 個人的にはそんな感じ全然ない。Thundercat と Squarepusher では音樂性は全然違ひますけど。

6 月 7 日の best soul on May 2021 でよかったのは、Deepkapz の Ensaio Sobre Você。 これ、もうバックトラックは完全にヒップホップなのに、ラップではなくちゃんと唄ってゐるのが實に現代的。 ヒップホップとソウルの境目なんてのはもう非常に曖昧で、その違ひも大したものではなく、 曖昧になることでどちらにもいい音樂がどんどん生まれてて最高!と思はせてくれるすばらしいアルバムだった。

6 月 9 日の lists は Uncovering the Rich History of Spanish Experimental Music と題してスペインの實權音樂がいろいろリストアップされてゐた。 その中で、Gregorio Paniagua の Batiscafo はプログレっぽいのにドラムがない所爲で獨自の可愛らしさがあり、プログレと呼ばれる割に音樂的に progressive なものが何もない音樂に飽き飽きしてゐるおれにとっては、なかなか魅力的だった。 音の響きがキュートなんだよね。でも、可愛いだけでなく、しっかりと構築された曲としての面白みもある。 1980 年のアルバムらしいが、80 年代っぽさを感じさせず、70 年代の香りを殘してゐるところもいい。

とか云ひつつ、お金出したのは Florenci Salesas の Músiques Fredes のはうなんですけどね。 2002 年の作品の癖して、安いシンセで遊んでるだけ!みたいなのが面白くて…。

6 月 9 日は best jazz on May 2021。氣になったのは 2 枚。

1 枚目は Graham Costello の Second Lives なのだが、 これ、なぜか bandcamp のページに日本語が書かれてゐて、インディーズとジャズの若き橋渡し的存在 なんて惹句がある。 インディーズとジャズの橋渡しってなんだよ…。インディーズとジャズは對立概念でもなんでもないだろ…。

中身は現代ジャズ・ロック。 わざわざ「現代」とつけたのは、昔のジャズ・ロックみたいに電氣樂器中心ではないから。 ジャズ・ロックとかフュージョンってダサいのが多すぎていいアルバムを探すのは諦めてゐるのだが、かういふのだったら少なくともダサさは輕減されるからありがたい。

もう 1 つは DJ Amir Presents ‘Strata Records The Sound of Detroit’ Volume 1 といふコンピ。

タイトルでわかるやうに、1969 年に設立され、1974 年と 1975 年に 10 枚だけアルバムをリリースして消滅した Strata Records からリリースされてゐた曲を集めたコンピである。 volume 1 になってゐるから、續篇も出るのだらうが、この時代のジャズはエレクトリック・ジャズの黄金期で、いいものがたくさんあるはずなのでがんばってもらひたい。

さっきジャズ・ロックとフュージョンの惡口を書いたところだが、ダサいのはジャズ・ロックとフュージョンであって、ジャズがダサくなったことってないんですよ。 それに、このアルバムにもいくつか收録されてるソウル・ジャズね。ソウル・ジャズはいいですよお。 電子ピアノの音は最高にクールだし、ソウル要素が加はったことによって新たなリズムが導入されてゐるのもいい。 この時代のジャズが好きなら買って間違ひない名コンピ。

6 月 11 日の album of the dayCan の Live in Stuttgart 1975。 こんなアルバムが出てたなんて知らなかった。12 月には Live in Brighton 1975 もリリースされるらしい。

75 年といへば、もうダモ鈴木は脱退してをり、Michael Karoli がヴォーカルを擔當してゐた時期だが、このアルバムに歌ものはない。 曲のタイトルも Eins、Zwei、Drei など數字を表すドイツ語でしかなく、要するに即興演奏で、われわれのよく知る Can の樂曲が演奏されたりはしてゐない。

ファンとしては、その部分が逆に興味深く感じるものだが、 このアルバムは、さうした Can の面々が即興だとどんな演奏を聽かせてくれるのかといふファンの期待を全く裏切らない。

ダモさんがゐないのはやはり寂しいし、あの頃のやうなテンションの高い演奏ではなく、落ち着いたベテランの貫祿漂ふ演奏だが、 ダモさんがゐなくても Can は Can である、といふこともよくわかる。75 年のばっかりぢゃなくて、別の年のも出してください!

6 月 11 日の features は 75 年に發表された Jeanne Lee の Conspiracy リイシュー特集。

ジャケはもろに 70 年代ソウル!って感じだが、中身はフリージャズ。ジャケに寫ってゐる Jeanne Lee その人がヴォーカルなので、 Sonny Sharrock といふか、6 月 29 日の bandcamp daily で lists が舉げられる Linda Sharrock と似たものを感じる。 女聲ヴォーカルとフリージャズって共通點でしかないけど、そもそもフリージャズに女聲ヴォーカルの入ってるものが少ないのだ(でも、男はもっと少ないと思ふ)。

6 月 11 日の seven essential releases からは 2 枚。

まづは Elton Aura の Elevated。 このアルバム(分量的には EP 程度だが)のよさはちょっと説明し難い。 少し遠くで鳴ってゐるやうな斷絶感、遅めのテンポによる輕い脱力感とソウルらしさ、 lo-fi のタグがつけられてゐるが、その一言で片附けてしまふのはもったいない奧牀しさがある。 かういふ、獨自の空氣をわざわざ作ってる作品、大好き。

もう 1 つは Kim Jung Mi の Now。 1973 年に韓國でリリースされたアルバムをペルーのレーベルが再發してるってのがまづすごい。 repsychled なんてレーベル名だから、マイナーなサイケものの再發をメインにしてるんだらうが、なんで韓國のこれなんだ。

アルバム自體はアシッド・フォークのマニアになら有名な幻の名盤で、今年、10 年ぶりに LP でも再發されたのだが、 bandcamp でデジタル音源がリリースされたのはありがたい。 アシッド・フォークは好きだけど、これを LP で持っておきたい!ってほどのマニアではないので、 ほしくなったときに氣輕に買へる形態でリリースされてゐると實に助かるのだ。

6 月 14 日の album of the dayThe Narcotix の デビュー作 Mommy Issues リリースに伴ふ記事。

このバンド、West African art-folk band based in Brooklyn と bandcamp のプロフィールに書かれてゐるのだが、West African art-folk ってなんだよ?  bandcamp daily のはうには Afro-psychedelic and folk duo と書かれてゐたので興味津々で聽いてみたのだが、 最初の曲は、ちょっと凝ったロックで、サイケ感やフォーク感はない。アフロ要素がほんのりある程度。あとはコーラスワーク綺麗だな、ぐらゐ。

が、2 曲目はいきなり醉っ拂ってでもゐるかのやうな歌で始まる。いや、サイケってさういふことぢゃないから。 3 曲目はまた美しいコーラスが味はへるが、終盤で adonai、adonai と繰り返され、唐突にユダヤ感が漂ひ始める(adonai はヘブライ語で「神」の意)。よ、羊頭狗肉。 West African art-folk といふより、なんとなく Fairport Convention を想起させる感じなんですけど…。 曲展開がプログレっぽいところは、art-folk と云ひたくなるのもわかるが。

4 曲目は The Who の Baba O'Riley みたいなキーボードによるミニマルをバックトラックにしたコーラス曲。いや、だからさあ。 最後の 2 曲はまあ普通のロック。期待したものは聽けなかったが、美麗なコーラスと妙に凝った曲も聽けたから、まあよしとしよう。

6 月 14 日の label profile は MoonJune Records の特集。 ここ、しっとりした感じのジャズ・ヴォーカルものかジャズ・ロックなプログレばっかり。 しっとり系はどうでもいいし、ジャズ・ロックも今さらなあ…。 まあまあよかったのは次の 2 つ。

1 つ目は Vasko Atanasovski Adrabesa Quartet の Phoenix。 なんでって、まあバルカンを久しぶりに聽いたからってだけなんですけど。 いやあ、やっぱこの、優雅なアコーディオンの音色が最高ですね、バルカンものは。 アコーディオンがあるだけで一氣にバルカンらしさが増す。 別にバルカン半島に限った樂器でもないのに。バンドネオンがあると一發でアルゼンチン・タンゴになるやうなものか。 チューバも實にいい味はひだし、サックスによって齎されるジャズの香りもよい。 バルカンものは聽きすぎると飽きるので、あんまり熱心には聽かないんだけど、たまに聽くとすばらしいですね。

もう 1 つは Soft Machine Legacy の Live in Zaandam。 正直に云ひますけど、ジャズ・ロックって Soft Machine さへ聽いてればよくないですか? 

Robert Wyatt がゐた頃も、脱退したあとも、Soft Machine ほどかっこいいジャズ・ロックのバンドはほとんどない(全くないわけではない)。 おれはベーシストの Hugh Hopper が好きなので、Wyatt のゐない Legacy 編成でも全然オッケーである。

まあ、これは Legacy 名義のアルバムで、2005 年に録音されたものだから、 Soft Machine の全盛期とは程遠いし、最初におすすめしたいアルバムなんかでは絶對にない。 ただ、復活してからの Soft Machine って 2018 年まではこのレーベルからリリースしてたんだなってのの備忘録として記録しておく。

6 月 15 日の album of the dayÌxtahuele の Dharmaland。 このアルバムは、まるまる eden ahbez(全部小文字なのは、この人がさういふ表記を使ってゐたからである)が殘した未發表曲を録音したもので、 あまりにすばらしいので、機會を見て別の記事にまとめたい。 eden ahbez 唯一のソロアルバムも再發されるしね。

6 月 16 日の lists は Modbap なるものの紹介。 モジュラーシンセを使ったヒップホップのことを、Modbap と云ふらしい。 モジュラーシンセ!と期待して聽いてみたものの、どれもこれもお上品で全然だめ。 それがわざわざモジュラー使ってやりたかったことなの? もっと品のない音樂にしてくんないと。 からうじて Kypski って人のだけはよかったけど、 これはヒップホップぢゃねえよな…。

Keith Fullerton Whitman 聽いて勉強してこい!

6 月 18 日の album of the day は Conclave なる大胆な名前のグループによるデビュー作。 アルバム・タイトルも Conclave。 ただこれ、教皇選擧を意味するコンクラーヴェではなく、clave(クラベス、小さい木の打樂器)に接頭辭 con をつけた造語らしい。

中身は去年 Moodymann がリリースした Taken Away を髣髴とさせる、ハウスとソウルを混ぜたやうな音樂で、 リズム的にはヒップホップっぽい曲もある(ラップが入った曲はないけど)。 特にすばらしいのは全篇に亙って入ってゐるブリブリしたベース音。P ファンクやん!  リズムが P ファンクぢゃないから P ファンクになってゐないのがまたいい。 もっと歌が入ってれば最高だったが、ソウル/ファンク要素強いからなんでもいいや。

6 月 18 日の seven essential releases は、あたりの多い seven essential releases にしては珍しく外れだらけで(個人の感想です)、せいぜい Don Cherry の The Summer House Sessions が氣になったぐらゐ。

これをリリースしてるレーベル Blank Form は高柳さんのアルバムをアナログで再發してくれたりするありがたいレーベル。 Don Cherry の發掘音源としては 2 つ目だが、これも前作と同じくすばらしい。 ただ、うんうんフリージャズだね、と思って聽いてゐたら、 しっかり Ornette っぽい曲になっていったこと。 作曲作品ではないし、Ornette Coleman もゐない。 それでもやっぱり、Don Cherry の中には Ornette Coleman の遺傳子ががっつり組み込まれてゐて、自然と發露しちゃふものなんですねえ。

6 月 21 日の lists は Beyond Morricone と題された、 イタリアのサントラ特集。 イタリアのサントラに詳しい人ならお馴染みの Umiliani や Picciono、Nino Rota などの音源がズラリ紹介されてゐる。

中でもおすすめは、Moochin' About から出てゐる 2 つのコンピ、Jazz on Film シリーズ、 JAZZ ON FILM … 'Snaporaz' The Films of Marcello MastroianniJazz On Film​.​.​.​The New Wave II (prt 2)

なんてったって、曲數がべらぼうに多い(まあ、サントラといふ性質上、同じやうな曲がたくさん入ってたりもするが)。 あと、サントラのジャズって、もちろん Ascenseur pour l'échafaud(『死刑台のエレベーター』)や Chappaqua のやうにジャズメンを呼ぶものもあるが(まあ、Chappaqua のはうは沒になってますが)、 大抵はジャズを専門としてゐるわけではない人たちによって作曲されることが多く、 それが獨自性になってゐる。 日本でも、武満徹のサントラ集にかっこいいジャズの曲が入ってたりする。

これはさうした、ジャズの專門家ではない作曲家たちによるジャズで、サントラだから曲は短いし、何よりお洒落だ。 どうせジャズを BGM に使ふなら、かういふのを使ってほしいね。

Umiliani 單獨の Questo Sporco Mondo Meraviglioso もおすすめ。

ジャケは實にアホっぽいが、モンド・ミュージック總覽といった感じで、樣々なタイプのモンドが聽けるのがいい。 Mah-Nà Cow-Boy なんかたまりませんよ。 どんな映畫で使ふのか甚だ疑問だが、こんな間の拔けた曲をしれっと入れてくるのがモンドなんだよなあ。

6 月 21 日の scene report は トロントのサイケシーン紹介。 トロントでサイケが熱いんですかね?  サイケには目のないおれだが、さんざん聽きまくってもゐるので、よっぽどでないと新しいものを買ふ氣にはならない。

その中でよかったのは 2 つ。

1 つ目は Roy の Roy's Garage

完全に 60 年代ガレージサイケやんけ!  新しさは皆無だが、今の時代にかういふアホなことやってるのがいい。音の作り込みがすばらしすぎる。 サイケなジャケ、だめなヴォーカル、チープな音質、 あと、Where Did My Mind Go? が The Beach Boys の名曲 God Only Knows を思はせる曲だったのも氣を惹かれた原因。

もう 1 つは Hot Garbage の Easy Believer

これはシングルらしく、この曲しか收録されてゐないのだが、 この始めから終はりまで同じフレーズで押し切る感じはまさにクラウト。 この調子でアルバム 1 枚作ってもらひたいところだ (とか云ってたら、10 月末に RIDE なるアルバムがリリースされるらしい。 なんで Easy Believer 入ってないんですか?)。 マスタリングが James Plotkin なのも高ポイント。

6 月 28 日の album of the dayProlaps の Ultra Cycle Pt. 2: Estival Growth。 4 月に紹介したやつの續きですね。 相變はらずの高速テクノ。 bandcamp daily 見るのをサボってたお蔭で、既にカセットは賣り切れ。まあいいんですけど。

6 月 28 日は features で新譜を出したばかりの Hiatus Kaiyote のインタヴューも。 めんどくさいから讀んではゐないんだけど、Mood Valiant は出る前から樂しみに待ってたアルバムで、 タワレコに豫約したやつを發賣日に受け取ってゐたのであります。

6 月最終日の album of the dayMIKE の Disco!

おれはヒップホップに詳しくないので全然知らなかったのだが、 この MIKE だとか、Pink Siifu だとか Armand Hammer だとかって、 ニューヨークのアンダーグラウンドシーンでは有名な人たちみたいですね。 確かに、みんなローファイでテンポも遅めだし、似たところがあるかもしれない。 好みのアーティストたちに共通點があったのはちょっとした驚きだが、 シーンでも著名と云はれれば納得である。

MIKE のバックトラックは、かなり短めのサンプリングが繰り返されてゐるのが特徴。 普通、トラックの最小單位は 4 小節だが、MIKE のトラックは 1 ~ 2 小節で切られてゐるものが多く、 その上でリズムお構ひなしにラップが乘せられるので、 針飛びでレコードの同じ部分を何度も聞かされてゐるやうな感覺がある。 さりとて、ラップはずっと續くわけで、ヒップホップといへばリズムの音樂であるはずが、 メリハリのない弛緩した音樂になってゐる。聽きやうによっては、サイケと云へるかもしれない。

最小單位が 4 小節であるのは、もちろん起承轉結のためだが、 MIKE は最後の 2 小節を使はないから、起と承のみの音樂になってゐて、これはもはやチルを通り越してダルだ (Airdrop みたいにずっとハッピーな感じの曲もあるけど)。 そんなものに、Disco! なんてタイトルをつけるんだから、大膽である。 たまに 4 小節が最小單位になってゐる曲もあるのだが、4 小節構成がわれわれに與へる落ち着きがいかに大きいものかよくわかる。 多くの人が疑問を抱かずに採用してゐる形式が、どういふものかを抉った傑作。

同日の listsOgun records の紹介。 南アのベーシスト Harry Miller がロンドンで設立したレーベルで、 前に書いた Chris McGregor みたいなロンドンに移住した南アのミュージシャンと現地のミュージシャンをつないだ重要なレーベル。

この特集で知ったんだけど、Chris McGregor のバンドとして Brotherhood of Breath と竝んで知られる The Blue Notes のアルバム、山ほど再發されてるのね。 The Blue Notes はビッグバンドではないので、今さらそれほど興味は湧かないんだけど、この邊の音樂に注目する人が多くなれば喜ばしいことだ。 それにしても、當然といへば當然なんだが、このリストで紹介されてるアルバム、ベースを Harry Miller が彈いてるか、 ドラムを Louis Moholo が叩いてるかってアルバムばっかりだあ。特にドラマー。ほかにをらんのか。 いや、Louis Moholo が嫌ひとかぢゃないんだけど(Brotherhood of Breath のメンバーだし)、それにしたってねえ。

ところで、それ見てて知ったんですけど、Sun Ra の Lanquiditydefinitive edition なんてのが出るんですね。 昔なら 4 枚組レコードボックスに飛びついてゐたと思ふが、別ミックス入ってるだけだし…。 好きなアルバムではあるんだけど。

といふところで 6 月はお終ひ。 1 ヶ月分ですらめちゃくちゃ長くなってしまひ、メモ書きの段階から記事にするまでに 1 週間ぐらゐかかってしまったので、 今後はもっと細かくわけるかも。1 週間づつぐらゐ更新するとか。 こんなにいっぱい紹介したところで、全部ちゃんと聽いてくれる人がゐるとは思へないし…。

Unrailed!

最近ちっともゲームの記事を書いてゐないが、別にゲームしてないわけではない。 何やってたんだってーと、Unrailed! やってました。

Unrailed! は線路を敷いて列車を遠くまで進ませるゲーム。 線路は列車の一部であるクラフトワゴンで作る必要があり、線路の材料である木材と鐵は、 列車の進路を木と岩として塞いでゐるので、 ともかく木を伐採し、岩を切り崩して道を切り拓きつつ資材を集め、それを列車まで運んで線路を作り、その作った線路を次々と敷いていく、 なかなかに忙しいゲームである。

bot が用意されてゐるので一人で遊ぶことも可能だが、 基本的には友人たちと一緒に遊ぶのが前提で(bot が用意されたのは最近で、かつては一人だと遊べなかった)、 「あれやってくれ、こっちはそれやるから!」みたいな感じで役割を分擔して先を目指す樂しいゲームだ。

このゲームを初めて遊んだのはいつだったか steam で週末無料プレイをやってゐたときだが、 ちょっと前にどこかでセールしてゐたので買って友人と遊んでゐた。

が。

なんかですねえ、おれの物云ひが、ムカつくらしいんですよ。 それで友人は怒ってしまって、氣まずくなってこのゲームを一緒に遊んでくれなくなってしまった(他のゲームしたりはする)。 こっちとしてはそんなつもりがなく、それゆゑ自覺もないので直しやうがないのも困ったところだ。

ところで、おれが實績厨なのはこれまでのゲームの記事でも明らかだと思ふが、 このゲーム、實績達成率がめちゃくちゃ低いのである。 AStats といふ、實績厨御用達の統計サイトがあるのだが、 この Unrailed! の Achievement Master(全實績を解除すると取れる實績)を解除した人は、 おれを含めてたった 16 人しか登録されてゐない (プレイヤーとして登録されてゐるのは 955 人)。 steam でも、達成率は 0.1% と表示される。低すぎだろ!

これまでに達成した實績でレアなものといへば、例へば前に記事を書いて自慢した La-Mulana のものなんかがあるが、 あれだけ難しい La-Mulana でも、最低達成率は 0.5% だ。 0.1% がいかにヤバい數字かわかってもらへるだらうか。

まあ、これはカジュアルに友人と遊ぶゲームだから、 La-Mulana みたいに、 プレイヤーの多くがアクションガチ勢みたいなのと比べると、 母集團であるプレイヤー層に「實績への熱意」といふ點で大きな差があるのはわかる。

わかるけど、0.1% はそれにしたって低すぎる。 つまり、カジュアルに樂しむことももちろんできるが、マジでやるとけっこうな難易度のゲームでもある、ってことだ。

おれはもちろん全實績を取ったのだが(先述の理由があったので、一人で…)、實績を取るための情報が全然なくて(英語ですら!)、 實績についてのガイドは、ほとんど steam の實績ページで讀み取れる情報以上のものを提供してくれない。 基本的な攻略情報は、公式が用意してくれた @wiki がすごく充實してるのに!

といふわけで、ガイド書きましたよ。

このガイドが多くの人に役立って實績達成率が下がってしまふと、 おれが自慢できなくなってしまふのでちょっと悲しいが、 プロフィールの「最も稀な實績」欄がこのゲームの實績で埋め盡されてゐる状況も嬉しいものではないので、 多少はレア度が下がってくれればいいなあ、と思ふ(0.5% ぐらゐになれば理想的)。

Switch や PS でも發賣されてゐるから、そっちでプレイしてゐる人も役立ててくれれば幸ひ。

ちなみに、一人でやった所爲か、108 時間もかかりました…。

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Harry Bertoia: Sonambient

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音樂を意識的に聽き始めたのはティーンネイジャーの頃だが、 その時期はとにかく金がない。 なんせ、親からもらふ小遣ひしか金の當てがないわけで、 なぜかレンタルといふ發想がなかったおれは、 月々の小遣ひで買った少ないアルバムを何度も何度もしゃぶり盡すやうに聽いたものだ。

その貧乏性が未だに拔けず、買ったアルバムはしゃぶり盡したと思へるまで聽き込むのがこの歳になってもやめられない。 買ったアルバムは基本的にパソコンに取り込み、ローテーションを組んで順に再生してゐる。 そのため、家にゐる間はローテーションを守って何かしら音樂がかかってゐるのだが、 なんと昨年の 9 月に買ったものがまだローテーションから外れてゐない。 なにかって Celibidache の The Munich Years で、 これは 50 枚近く入ったボックスなので、まるまる再生すると 50 時間かかる。 一日 6 時間づつ聽いたとして、8 日はかかる計算で、 もちろんその後ほかに買ったアルバムもどんどん追加されていくから、 結局、このボックスを聽く囘數は 1 ヶ月に 1 囘なんてことになる。 これではしゃぶり盡すとは程遠く、だからずっとローテーションから外せなくなる。

そんな聽き方をしてゐるおれでも、ときには「あれを聽きたいぞ」と 特定の曲を聽きたくなる日はあって、大抵は數曲聽けば滿足なのだが、 たまに、「今日は××盡しでいかう」なんて日もあり、先日その欲求に引っかかったのが Harry Bertoita であった。

Harry Bertoia の名前をググって最初に出てくるのは Knoll Japan のサイトで、家具デザイナーとしての Harry Bertoia について書かれてゐる。 ベルトイアは、ひとつのシリーズしか家具をデザインしませんでしたとあるが、ジュエリーのデザインや繪畫インストラクターなんかもやってゐたらしい。

その、唯一のシリーズがワイヤーを使った椅子なのだけれども、どうも Bertoia といふ人は金屬加工に竝々ならぬ興味を持ってゐたやうで、 金屬を使った音響彫刻をいくつも作ってゐるのである。

音響彫刻とは、要するに音の出る彫刻作品で、金屬製のものはほとんどが大きな打樂器と云ってしまって差し支へないものばかりだ。 當の Bertoia もいくつものゴングを作ってゐる。

音響彫刻の面白いところは、美術館に展示されてゐる彫刻作品でありながら、觸ることが許されてゐる點だ。 なんたって、觸らないと音が出ないのだから、作品を味はふためには演奏してみるしかない。 普通、彫刻作品に觸ることは許可されてゐないから、 そのことだけとってみても、音響彫刻のちょっとした樂しみは傳はると思ふ。

Bertoia の變はったところは、その音響彫刻による演奏をわざわざ録音し、レコードにプレスしてゐたことだ。 自作自演といへば自分の作品を自分で演奏することだが、ふつう、「作品」とは「曲」のことであって、「樂器」ではない。 でも、Bertoia はそんな自作自演以外に呼びやうのないレコードを何枚も殘した。

それらのレコードは、當然プレス枚數も極小だったし、 レコード屋に賣られてゐるわけでもなかったので(ネット上に買へるサイトがあったやうに記憶してゐるが、どこだったか忘れてしまった)、 その存在すらほぼ知られてゐなかった。

それを、2016 年にまとめてリイシューしたのが、 Eleh をリリースするたびにおれから法外な送料を毟りとっていく Important Records である *1

で、やうやく日の目を見た Bertoia の音樂がどのやうなものだったのか。

せっかくだから、リリース當時の文章をいくつか見てみよう。

まづはディスク・ユニオン

前衛的な家具デザイナーでもあり画家でもあった鬼才 Harry Bertoia の Organum のような擦過金属音響作品アーカイブ 11 枚組 CD。 この音の正体は巨大な金属オブジェクト(CD ジャケットで確認できます)が醸し出す重厚な残響音。

引用者註:固有名詞がすべて大文字で書かれてゐたが、語頭のみ大文字に改めた。

續いて、どんなアルバムでも大傑作に見せる煽りの達人、京都のレコード屋 Meditations

内容はいわずものがな、ゴォォォーーーンと響くすさまじい深さ。

最後は、『ロック・マガジン』の創刊やヴァニティの設立で知られる音樂評論家、阿木譲さんのブログ

ペンシルベニアの森の納屋で、ハリーは、4 つの頭上のマイクロフォンおよび 1/4 インチテープレコーダを使って直観的なサウンドの実験を記録し、 1970 年に彼は最初の Sonambient LP をリリースした。これらの豊かな高調波を通して、 彼の彫刻でのトーンおよび純粋なゴングバートイアをパルス化されたこのボックスセットでの音響は、 サウンド・インスタレーションのように空間的で、ほんのわずかな空気の流れをも音響化されている。

はい。どんな音樂か傳はりました?

Meditations の煽りが一番やる氣なくて思はず笑ってしまふが(いつもはどれもこれも大名盤にしか思へない紹介文なのに、いわずも「の」がな、なんて衍字すらある!)、 ユニオンのも、阿木譲さんのも、正直、何云ってんだ?って感じ (そもそも、阿木譲さんの彼の彫刻でのトーンおよび純粋なゴングバートイアをパルス化されたこのボックスセットでの音響ってなんだよ)。

3 つを見てわかるのは、どれも「殘響音」だとか「響く」だとか「音響」だとか、とにかく響きのことしか書いてゐない點。 まあ、音響彫刻は樂器のやうなものとはいへ、音階が設定されてゐていろんな曲が演奏できる、といふわけではないから、 響きについてしか語ることがないのはわかる。 わかるんだけど、これだけ讀んでもどんな響きだかさっぱりわからん。

思ふに、Bertoia の特殊性は、その鳴り方にある。 最初のはうに、金屬製の音響彫刻はどれもでかい打樂器のやうなものと書いたが、 Bertoia の作品は、どれもあまり打樂器らしい響きではない。

最初に貼った動畫でもわかる通り、 Bertoia の彫刻は、一度鳴らせば、しばらく音が鳴り續ける構造をしてをり、 鐵琴やウィンドチャイムの延長にあるやうな音響彫刻とは一線を劃す。

實際、Bertoia の作品を聽けばわかるが、大抵のものは深遠な金屬ドローンである。

もちろん、普通のドローン作品のやうに、響きの追求のための厳密な調律などは全くされてをらず、 それゆゑ、音の調和や音波の干渉を樂しむことはできない。

Bertoia の作品で樂しめるのは、あくまで金屬の持續的な響きでしかない。 人によっては、これを音樂だと思ふことすらできないだらう。

しかし、阿木譲さんがサウンド・インスタレーションのように空間的で、ほんのわずかな空気の流れをも音響化されていると書いてゐる通り、 この特異な音響空間の記録は、立派に音樂であるとおれは思ふ。 Pauline Oliveros の Deep Listening による環境を利用した殘響音とはまた違った、樂器そのものによる殘響音。 草が風に靡く音を音樂的に聽くことができるやうに、 Bertoia の金屬彫刻が搖らぎ、触れ合ひ、そよぐことによって奏でられるさざめきに音樂の神秘を感じることも、さう難しくはあるまい。

これがなんと、今や bandcamp で聽きまくれるのだから、 少なくとも音樂を聽く環境に關しては、惠まれた世の中になったものだ。

*1:恨みがましく書いてしまったが、Eleh や Pauline Oliveros、Éliane Radigue あたりのリリースには感謝しかない。

Sun Ra

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このブログを始めた理由は、誰かに音樂やゲームの話を思ひ切りしたいと思っても、それができないからだ(特に音樂)。 要は己の欲求不滿を解消するためのもので、だから特にそれを通じて得られるものがあるとは思ってゐなかった。

が、なんとなくしか考へてゐなかったことを文章の形にしてみると、氣づかされることもある。 その 1 つが、新しいジャズのアルバムを聽く際の態度で、いくつかジャズの新譜についての感想を書いて氣づいたが、 おれは、ジャズの新譜を聽く際、大抵はそのアルバムに Sun Ra 要素を見出さうとしてしまってゐる。

別に Sun Ra 原理主義者といふほどではないので、Sun Ra 要素がないアルバムだって好きになるのだけれど、 Sun Ra 要素を強く感じるアルバムに出會ふと、さういふものにはすぐメロメロになってしまふ。 近年だと、Rob Mazurek の Exploding Star Orchestra とか Angel Bat Dawid なんかがさうだ。 Angel Bat Dawid は 2019 年のデビュー・アルバムを聽いたときから Sun Ra みが深いなと思ってゐたが、 この前のライヴ盤では 1 曲目が Sun Ra のカヴァーだった。

で、そのことに氣づいた上、bandcamp でけっこうな數の Sun Ra のアルバムが入手できるやうにもなったのだから、 せっかくだし Sun Ra の音樂について、紹介してみることにしたい。 尤も、既に bandcamp daily で Sun Ra については二度も特集が組まれてゐるので、 そちら(第 1 囘第 2 囘)から讀んでくれてもいいし、 日本語でも、アエリエルさんの「人生は野菜スープ」エレンコさんの「ジャズの名盤探検隊」なんかは、Sun Ra のアルバムを個別で紹介する記事も充実してゐる (し、どちらもおれのアホみたいな文章よりずっと素適な文章な)ので、 おれは Sun Ra の概觀を紹介するに留める。この程度を知っておけば、Sun Ra について知つたかぶりできるぞ!みたいな感じで。

さて、Sun Ra の名前ぐらゐは知ってゐるといふ人たちにとって、あるいは Sun Ra のことを初めて知った、といふ人たちにとって、 最初に Sun Ra の代表曲として意識されるのは、何を措いても Space is the Place であらう。

サックスによる五拍子とその他の四拍子によるポリリズムも印象的なこの曲は、 同年に撮影された唯一の Sun Ra 監督による映畫のタイトルにもなってゐるし、 ライヴでもさんざん演奏されてゐるから、確かに代表曲と云って間違ひない。 土星人を自稱する Sun Ra にとっては、タイトルも象徴的だ。 しかも上に貼ったものは、Sun Ra の多くのアルバムと違ひ、 ジャズ・ファンなら誰もが知ってゐる Impulse! から出てゐるから、猶のこと有名である。 Sun Ra の奏でるわけのわからんモーグの音や、Arkestra の面々によるフリーなアドリブの應酬も Sun Ra のパブリックイメージに合致するものだし。

ただ、これだけ聽いて Sun Ra を知った氣になってもらっては困るといふか、 Sun Ra ファンとしては、ほかにもいろんな曲があるんだといふことを知ってほしいんです。 まあ、Space is the PlaceImpulse! 版 は 代表曲がまとまった好盤だし、サントラ版 も ベスト盤と云っていい選曲になってゐて、どちらも絶對に買ふべきアルバムではあるんですけども。 特に前者は Lady Gaga や Yo La Tengo がカヴァーしてゐる Rocket Number Nine が入ってるので、 そっちで Sun Ra の存在を知った人には入りやすいかもしれないし。

初期のおすすめは、やっぱり代表曲 Enlightenment (なぜか bandcamp では Enlightment になってるけど、これまでのクレジット的にも、英語的にも Enlightenment が正しい、はず…)や Saturn の入った Jazz in Silhouette

代表曲と云ひつつ、Saturn はライヴで演奏されることは全然なく、 多分おれが持ってゐる數多のライヴ盤には、1 つも入ってゐない。 でもねえ、土星人ですから。この曲を聽かずしてどうすんのと。 録音が 1958~59 年なのもあって、フリー要素なし、輕快なバップが樂しめるのもポイントの 1 つ。 Sun Ra は Charlie Parker より年上で、Sun Ra としてデビューする前からジャズ界に長くゐた人だから、 かういふジャズだってたくさんやってゐるのだ。

初期なら、Sound Sun Pleasure もいい。 Thelonious Monk の大名曲 'Round Midnight で幕を開け(ライヴでもしょっちゅう演ってゐる)、 My Fair LadyI Could Have Danced All Night で幕を閉じる、 かなりポップなアルバム。なぜか Enlightenment も入ってゐる(先のものと同テイク)。

60 年代のアルバムは、どっぷりフリージャズのものが多いので、初心者には全くおすすめできない。 この時期で最も有名なのは天下の ESP から出た The Heliocentric Worlds of Sun Ra シリーズだらうが、 テーマすらないフリー・ジャズなので、Sun Ra の作曲が樂しめるわけでもなく、Sun Ra ファンのおれですらほぼ聽かない。 フリージャズならフリージャズで、Sun Ra 以外にいいのたくさんあるし、Sun Ra の魅力って曲の面白さも大きいから、 完全にフリーでやられるとしんどいのだ。

だから、60 年代のアルバムなら、BYG から出た The Solar​-​Myth Approach シリーズがいい。 歌姫 June Tyson もゐるし、vol. 1 には後年ライヴの定番曲になる They'll Come Back だって入ってゐる。 ジャケもかっこいいし(まあ、ESP のもジャケはかっこいいんだけど)。

それに對して、70 年代は Sun Ra の黄金期で、絞るのが難しいほど名盤だらけである。 が、まづはこれを聽いてほしい。

どうです、このすばらしさ。 この曲は、シングル I'm Gonna Unmask the Batman といふ曲の B 面としてリリースされた曲だが、 Sun Ra 以外の誰にこんなシンセが彈けようか。John Gilmore と Marshall Allen の 2 人が眞っ當に吹いてゐるのに、 Sun Ra のシンセはずっと調子外れだし、Danny Davis のドラムも程度の低いドラム・マシンを模してゐるやうなチープさ。 これこそ Sun Ra だ! いや、嘘です。かういふのもあるってだけで。

現在、この曲を聽くことができる名コンピ Singles は、 Sun Ra たちが他のアーティストのバッキングをやってゐた時代の曲なんかも網羅してゐるため、 Sun Ra のアルバムを追ふだけでは聽けない曲も多數あるし、 アルバムとは異なったヴァージョンが收録されてゐるものもある。 もちろん、先の The Perfect Man のやうに、ここでしか聽けないものも。 LP/CD だと 3 枚組でお値段も少し高くなってしまふが、 かつて Evidence から出てゐた 2 枚組のものより曲も増えてジャケもよくなり、 デジタルならたった 12 ユーロである。 最初に買ふものとしておすすめはしないが、Sun Ra に興味を持ち始めて、 もっと深く知りたいと思ったなら、期待に添ふものになってくれるだらう。

さて、上で紹介した Singles をリイシューしたのは Art Yard といふイギリスのレーベルなのだが、 21 世紀になってからの Sun Ra の再發/發掘について語るなら、まづはここといふぐらゐ、良質な Sun Ra 作品をリリースし續けてくれてゐる。 はっきり云ひますけど、Sun Ra 初心者を脱するには Art Yard から出てゐる Sun Ra を揃へることから考へるのがよろしい。 それぐらゐ、このレーベルが出すアルバムは外れがない。 なんたって、bandcamp で Sun Ra と検索して出てくる 2 つのアカウントのうち、 片方がオフィシャルなのは當然として、もう片方はこの Art Yard のものなのだ (最近は Sturt との共同リリースばかりなので、URI は sunrastrut になってゐるが)。

そんな Art Yard が Sun Ra リイシューの第一彈として出したのが、Disco 3000

タイトル曲がいきなりヤバいが、途中で Space is the Place も插入される、Sun Ra ならではの大コズミック・ジャズ繪卷。 このアルバムが再發されたときは、Sun Ra ってまだまだこんなのが眠ってたのか!と驚きましたよ。

ただ、このアルバムなんたって長い曲だらけだし、 フリージャズ要素もかなり強いから、最初に聽くべきアルバムではない。 Art Yard の選曲眼の確かさはよくわかるから、中級者向けだ。

第二彈としてリリースされた Media Dreams も 同時期のライヴだけあって、曲も演奏も充實してゐるが、 これも 2 枚組なので、全體的に長い。 Disco 3000 を樂しめるレヴェルに達してゐるなら、間違ひなくおすすめ。 この邊りのアルバムに魅力を感じないのであれば、Sun Ra とは縁がなかったと思ってよい。 それぐらゐ、この 2 作は Sun Ra らしさが濃縮されたアルバムだ。

ディスコ・ファンクな UFO が收録された On Jupiter は短めで初心者にもおすすめできたのだが…。 なんとオフィシャルのはうでボーナス・トラックつきのものがリリースされてしまった。 デジタルのみで LP や CD でのリリースはないが、ボーナス・トラックが UFO のライヴなので、 Art Yard 版を買ふ意味はほとんどなくなった。寧ろ、持ってても買ひ直しを考慮させられるほど。

The Antique Blacks も同じ運命を辿ったアルバムの 1 つで、 こちらはボーナス・トラックが追加されたわけではないが(寧ろ、Art Yard 版がかつての LP にボーナス・トラックを加へた形だった)、 なんと Art Yard のリリース後にマスターテープが發見され、 Art Yard 版では別れて收録されてゐた 3 曲が、本來意圖されてゐた通りの The Antique Blacks Suite として 1 曲にまとめられたものが公式からリリースされた。 1 曲目が Song No. 1 でなくなってしまったのは殘念だが、些細なことだ。 これまた、買ひ直し候補の 1 つになるので、今から買ふ人は公式からのデジタル音源を買ふのがいい。

まあ、買ひ直しといへば、Lanquidity は逆にこの度 Art Yard からリマスターされ、 本篇の曲をまるごと別ミックスでも收録してゐるため、今から買ふならそっち。 買ひ直し多くてハゲさう。

70 年代にはソロ・ピアノのアルバムも何枚かリリースされてゐる。 Sun Ra はハチャメチャにモーグを彈いてゐる印象も強いが、 眞っ當に演奏してゐるものもたくさんあり、 ソロ・ピアノものは、さうした Sun Ra の演奏者としての魅力を存分に味はふことができる。

ソロ・ピアノものはどれも味はひ深いが、 スタンダードをけっこうな割合で採りあげてゐるのが大きな特徴で、 上に貼った Over the Rainbow のほか、 St. Louis BluesTake the 'A' TrainDon't Blame MeSophisticated Lady なんかは好んで演奏されてゐる。

70 年代のライヴ盤はどれもこれもすばらしいが、 先の Art Yard から出てゐるもののやうに、長いものが多く、Sun Ra の魅力をわかりやすく傳へてくれるものが bandcamp にはまだあまりない。 まあ、これはそもそも Sun Ra のライヴ時間が長かったことに起因してゐるから、 bandcamp のアルバムが更に充實したところで、簡潔に Sun Ra の魅力が傳はるライヴ盤は出て來ないかもしれないが、 Love in Outer SpaceWe Travel the Spaceways のやうな この時期に定番となった代表曲が入ってゐるものは、一枚ぐらゐ持っておいてほしい。

その觀點でいくと、最晩年のライヴである Sun Ra at Inter​-​Media Arts, 1991 なんかはいいかもしれない。 80 年代以降の Sun Ra Arkestra の演奏は、それまでに比べるとずっと落ち着いた、それでゐて洗練されたものになってゐて、 まづ 1 曲 1 曲の演奏時間がそれほど長くないし、 響きも輕く、ポップだ。 聽きやすさでいへば、この時期のものがダントツである。

殘念ながら、勢ひや熱氣といった部分では、70 年代の録音に敵はないが、 それは逆に、自稱土星人といふ餘計な情報からくる先入觀を覆へすものであり、 Sun Ra を理解するには、かういふものから入るはうがいいのではないか、とすら思ふ。

Sun Ra は別に變な音樂ばかりやってゐたわけではない。 ほかで聽けないやうな特異な音樂をやってゐたことも事實ではあるし、 それは Sun Ra の大きな魅力でもあるのだけれど、 さうしたものは、Sun Ra および彼の Arkestra の面々が優れたジャズ・ミュージシャンであったことが大前提なのだ。

この記事が、さうした Sun Ra の魅力を誰かに傳へ、 enlightenment できたのであれば幸ひである。

7 songs of the Beatles

いつも讀んでゐるブログの最新記事が、 あんまり知らないうちに決める! ビートルズ好きな曲Top7といふものだったので、 それに肖って、おれも 7 曲選んでみた。 まあ、おれは普段 Rubber Soul 以降の The Beatles しか聽かないので、 どうしても時期が偏った選曲になるけども。

順位はつけられないので、以下のものは順不同である。

Taxman

まづはこれ、といふとこれを讀んだ友人からつっこみが入るかもしれない。

これは、7 曲の中で唯一、個人的な思ひ出に強く關係してゐる曲である。 なぜかって、大學時代にやってたコピーバンドで、初めてライヴしたときにやった 1 曲だから。 といふか、そのときに George による 2 拍目と 4 拍目に入るギターが間拔けで笑ってしまったからだ。

今はそんなこと思はないし、當時の己の見識の低さを恥ぢるとともに、 この曲を選んだ友人の慧眼に恐れ入るばかりだが(もう 1 曲は Across the Universe だったはず)、 當時まだまだイキったガキンチョでしかなかったおれは、 「リマスターされてないから」といふ理由で The Beatles をほとんど聽いたことがなく、 それで出てきた曲がこんなだったから、つい笑ってしまったんですね。いやはや、全く、若さとはバカさですよ。

かつては、サイケ好きとして Revolver といへば Tomorrow Never Knows だろ! と思ってゐたが(アルバム全部好きですけど)、今となっては、ちょっとこれ見よがしな氣がして、あまり好きではなくなってしまった。

そこへいくと、この Taxman のシンプルかつ力強い佇まひは全く色褪せない。 名曲!と云ふほどのものではないだらうが、きっとこの先の人生でもずっと忘れられない曲である。

The Ballad of John and Yoko

さて、ところで、先ほど書いた通り、おれがまだガキンチョだった頃には、 なんと The Beatles の音源はリマスターされてゐなかった (赤盤と青盤が 93 年にリマスターされてゐただけ!)。 その癖、Anthology 出したり、 リマスターもされてゐない The Beatles(俗に云ふホワイト・アルバム) 30 周年記念盤を出したり、 Yellow Submarine Songtrack 出したりで、 そんなのいいから正規アルバムを再發してくれよ!と思ってゐたものだ。

で、やうやくリマスターとして發賣されたのが、新しいベスト盤である 1 だった。

なんだあベスト盤かよ、とがっかりしたおれは、友人から借りるだけで濟ませたのだが(未だに持ってゐない)、 タイトル通り、チャートで 1 位になったシングル曲のみを集めたものなので、 はっきり云って、極上のポップスがずらり竝んでゐたわけだ。

それはもちろん、知ってゐる曲だらけでもあったといふことなんだけど、 この曲だけは知らなかった。

この曲が John Lennon と Paul McCartney の 2 人だけで演奏されてゐると知ったときは驚いたが、 Lennon と McCartney の 2 人がゐればそれでいいのでは?と思はされるぐらゐ、どのパートもすばらしい。

特に好きなのは Lennon の歌と McCartney のベースライン (このベースラインと Hound Dog Taylor の Taylor's Rock をくっつけた、ウルフルズの借金大王なんて曲もある)。 Chirst, you know It ain't easy って言葉の響きなんてもう。 續く They're going to crucify me もいい。 キリストを引き合ひに出した上で自分が磔にされるなんて歌詞はヤバいんぢゃないの?と Paul に云はれたらしいけど、 そんな話はどうだっていい。まさにその 2 つの單語、christ と crucify の響きがいいんですよ。 大體、おれは歌詞のことを全く氣にしないから、この曲はとにかく輕快な曲でしかないのだ。

Savoy Truffle

The Beatles は好きな曲が多いので、1 つ選ぶのは困難を極めるのだが、 取り敢へずこの曲にしておく。 Yer Blues 違ふんかい!とつっこみが入るかもしれないが、 あれは自分でやるのは樂しいけど、聽く分には別に…って曲なので (最初に書いたコピーバンド、ライヴで最後にやる曲はいつも Yer Blues だったのだ)。

期せずしてまた George Harrison の曲になってしまったが、George Harrison で The Beatles の曲といへば、 普通は While My Guitar Gently Weeps だ。

いや、もちろんあの曲も好きなんだけど、Savoy Truffle はね、 最初の Creeeeeeme tangerine and Montelimar って歌詞の響きが最高すぎるのよ。 あれで一氣にテンション上がるもの。豪華なホーン隊でソウル要素が入るのもいい。

それに、この曲も Taxman と一緒で、2 拍目と 4 拍目に「パッ、パッ」ってギターが入る曲なんだよね。 こっちはサビの部分だけだけど。 おれ、このリズム、好きなのかもしれん…。

この頃になると、The Beatles の曲も複雑なものがかなり多くなってきてゐて、 特に Lennon 主導の曲はへんてこなものだらけだ。

でも、この Savoy Truffle はさういったところのない、 シンプルに莫迦々々しい曲だ。ギターソロも、そんなんでいいの?って感じだし。

それでゐて、初期の曲ほどの單純さを感じさせないのは、 やっぱりサウンド・プロダクションが高度になってゐるからだと思ふ。 ホーン隊の音はあからさまに歪められてゐるし、控へ目なオルガンも、初期なら入ってゐなかったのではないか。 イントロの短すぎるドラムもこの曲の氛圍氣を補強してゐるし、細かいところを見れば、かなり凝った曲なのである。

さういふ、The Beatles のこの頃の成熟っぷりを傳へてくれるいい曲だと思ふ。 まあ、そんなだから好きな曲だらけなんですけどね、このアルバム。 2 枚組で、ちょっとまとまりに缺けるところも愛ほしい。 なんたって、この前までは Rubber SoulRevolver、 そしてあの Sgt. Peppers Lonely Hearts Club Band と、まとまりのいいアルバムが連續してるし。

You Won't See Me

Rubber Soul は The Beatles がそれまでのリバプールサウンドからの脱却を圖った初のアルバムで、 シンプルな曲が多くはあるが、多彩な魅力が發揮され始めてをり、The Beatles の變化を強く感じられるものになってゐる。

よく云へば、初期のシンプルさと後期の複雑さのいいとこ取りであり、惡く云へば中途半端なアルバム、と普通はなるのだらうが、 このアルバムに中途半端さを感じたことはない。それだけ、The Beatles の實力が確かなのだらう。

このアルバムも始めから終はりまで好きな曲だらけだが、どれか 1 曲なら、これだ。

アルバムの幕開けである Drive My Car もさうなのだけど、 Paul McCartney 主導の曲って、可愛らしさを持った曲が多い。 かういった、ストレートにキュートな曲調は、他のメンバーの曲にはない特色で、 おれが Paul の曲で好きなのは、さういった曲ばかりだ (逆に Yesterday とか Hey Jude みたいなのは苦手)。

You Won't See Me のすばらしさは何と云ってもそのメロディーラインで、 ポップソングのお手本と云ってしまっていいやうな、無駄なく要所を抑えた Paul ならではの見事なものになってゐる。

あーっ、この曲も 2 拍目と 4 拍目にギター入ってるやつぢゃねえか! マジかよ。意識してなかったわ…。 かういふことがあるから、The Beatles なんてわざわざおれが採りあげずとも語られまくってゐるものについて書いてみる意味もあるといふもの。 In My Life が好き!とか書いとけばよかった…。 いやまあ實際好きだけど、個人的に好きな曲となるとやっぱり外れますね、In My Life は。

Rain

Rain が好きになったのは、Todd Rundgren の 1976 年のアルバム Faithful に入ってゐたからだ。

Todd Rundgren の Faithful は前半がカヴァーで占められてゐる、ちょっと珍しいアルバムだ。 カヴァー・アルバムなら、1973 年に David Bowie も Pin Ups を出してゐるが、 Faithful のすごいところは、カヴァーではなく、完コピを目指してゐるところだ。 Good Vibrations のテルミンとか、あの時代にどうやったんだって思ふぐらゐ完璧である。

いやいや、プロなんだから完コピぢゃなく本人らしさを加へたカヴァーしなよ、と思ふ人もゐるだらう。

でも、Todd Rundgren がこれらの曲を收録した意圖は、さういったものではない。 これらの曲はこの姿であるべきだ、といふことを、わざわざ自分でそっくりに録音することで示したのだ。 Todd Rundgren が、音の流れだけでなく、音響に早くから注目してゐたことがわかる。

そのために選ばれた 6 曲のうち、2 曲が The Beatles の曲である。 もう 1 曲は Strawberry Fields Forever で、 まあこれは Penny Lane との兩 A 面シングルとして發表された曲だし、 誰もが知る名曲だから、選ばれるのはわかる。

でも、Rain はもともと Paperback Writer の B 面だった曲であり、 今でこそ簡單に聽けるが、76 年當時はシングルを集めたコンピ、Hey Jude ぐらゐでしか聽けなかったはずだ。

そんな曲を、わざわざ Todd Rundgren が、すばらしい録音の例としてコピーしてゐるのだから、 これはきっとすごい曲なんだ、と思ってゐた。

で、實際にこれは創意工夫に溢れた The Beatles にとっても劃期的な曲だったのである。

まづ、後に Tomorrow Never Knows でも使はれた逆囘轉が用ゐられてゐる。 あの何云ってんだかわからないアウトロだ(Todd Rundgren は逆囘轉を使はずにやってゐたけど)。

それに、テープ速度の變更も行はれてゐる。Ringo のドラムは遅くなってゐるし、John のヴォーカルは早くなってゐる (正確に云ふと、John のヴォーカルはテープを遅く囘轉させた状態で録音された)。 つまり、ドラムとヴォーカルは、もともとはあのテンポで録音されてゐない。 テープ速度の變更は、この曲の前にも In My Life のピアノソロに使はれてゐたが、 あれが非常にわかりやすいものであったのに對し、こちらは云はれなければ氣づかない程度のものだ。

細かいことを云ふと、ベースの音がしっかり前に出てゐるのも、Paul がオーバーダブしたからで、 この Rain といふ曲は、このあとの The Beatles が驅使するスタジオ技術の顏見せに當たる曲だったのだ。 なるほど、Todd Rundgren がこの曲を選んだのも納得である。

Revolution

シングル B 面曲といへば、これも好きだ。

The Beatles にこれの元になった Revolution 1Revolution 9 が收録されてゐるが (この 2 曲は、もともと 1 曲だったのが分割されたものである)、 Revolution 1 ではシングルとしてテンポが遅いからとの理由で、 この Revolution が録音された。

いやね、私、かういふひずんだギターでのブギ、大好きなんですよ。これぞブギ。 Nicky Hopkins のエレピもブルーズらしさを煽ってゐていい。

あと、ビデオでもわかるんだけど、終始テンションの高い Paul が可愛い。 作曲者の John よりずっとハイテンション。なんでだよ。

ハイハットをまるで叩かない大胆な Ringo のドラムもすごい。 Ringo にしかできないよ、こんなの。この曲にはこのドラムしかあり得ない。 Ringo のどたっとしたドラムがぴったり。

別に、音樂的にすごい曲では全然ない。でも、おれのフェティシズムをびしばし刺戟してくる。1 時間ぐらゐずっとこの曲でも全く飽きないよ。 實際、The Beatles の曲で一番たくさん聽いた曲だと思ふ。こんなに聽くやうになったのはここ 10 年ぐらゐだと思ふけど。

I Want You (She's So Heavy)

Abbey Road は一番好きなアルバムなので、1 曲選ぶのは至難である。 ズルをして The Long One と答へる手も考へたが、 それは結局ボツになったヴァージョンで、さうなると、あのメドレーから 1 曲だけ選ぶのは不可能だ。

となると、やっぱりこれしかない。

ほとんどタイトルに出てくる言葉だけをずっと繰り返す歌詞、その癖 8 分近くある長さ、 メロディをそっくりなぞるギター、タイトルに相應しいヘヴィなサウンド、モーグによるホワイトノイズ、そして唐突な終はり。 創意工夫とは正反對にあるやうな、單純で、ナンセンスな曲。

なのに、それがつまらない曲になるわけではないのが、音樂の面白いところだ。

まあ、The Beatles をよく知らない人に、これが The Beatles だよと聽かせたら、 その人はきっと The Beatles への興味を失ってしまふだらう曲ではある。 The Beatles のよさ、みたいなものはこの曲にはないからだ。 だってこれ、ほとんどドゥーム・ロックですよ。まだ Black Sabbath がデビューしてすらゐないのに!

もちろん、Black Sabbath ほどの重さはないけれど、 8 分もの長さを、繰り返しによって聽かせてしまへるのがかういった曲だ、と見拔いてゐたところがすごい。 この長さはこの曲だからいいのであり、Hey Jude のやうな繰り返しは退屈でしかない。 一般的な評價は壓倒的に Hey Jude のはうが高いけど、そんなにいいですかね、あの曲。

おっと、最後が惡口みたいになってしまった。 でも、The Beatles みたいなバンドで、好きな曲を擧げてみるといふのは面白い試みだと思ふ。 おれの選んだ 7 曲は、恐らくは多くの人の 7 曲には入らない曲だが、 だからといって、他の人が選ぶ 7 曲がどれも似たやうなものになるかといへば、そんなこともないやうな氣がする。

The Beatles にはそれだけいろんな名曲があるし、魅力を感じるポイントは人によって種々樣々だらう。 それは何も The Beatles に限ったことではないだらうが、さういふ部分を持っているかどうかが、 優れたバンドであるかどうかの、一つの分かれ目であるやうに思ふ。

あなたの 7 曲はどれになりますか?

clipping.

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わからんわからんと云ひながらもヒップホップ漁りをやめてゐないおれだが、 好きなアーティストが皆無、といふわけではない。

といふか、はっきり云ふと、ぶっちぎりで clipping. が好きなのだ。

ヒップホップに對する最も大きな不滿は、何度も書いてゐるやうに、バックトラックが適當すぎることだ。 4 小節だけ作ってずっとそれを繰り返し、その上で好き勝手しゃべりまくるスタイルばっかりで、 歌詞に全く頓着しないおれにとって、さういったものは音樂的にカスとしか思へない。 現代ヒップホップの帝王、Kendrick Lamar にすらさういふ曲はある。

どうせ 4 小節しか作らないなら、バックトラックなんてもっと自由でいいぢゃん、と思ってゐた頃に、clipping. と出會った。

いやもう衝撃でしたね。だって、バックトラックなんてなんでもいいぢゃんと思ってゐたおれの考へを、がっちり補強してくれるアーティストだったんだから。

例へば、デビュー作であるミックステープ midcity に收録されてるこれ。

交通量の多い道路で録音したの?と問ひたくなるバッキング、主役であるはずのラップに容赦なく被さるピー音、 そして、そのピー音がドローン的な電子音樂になって曲を支配する展開。 おいおいおいおい、こんなのがあったんなら早く知っておきたかったよ!

續く 1st album CLPPNG はノイズ作品と見紛ふ先のミックステープとは違ひ、 Sub Pop と契約しただけあって、しっかり作曲されたものばかりが竝ぶアルバムになってゐるのだが、 最後はこれだ。

曲名を見てピンときたあなた、音樂の教養ありますね(謎の上から目線)。 さう、これは John Cage 初のテープ音樂作品、電子音樂好きの基礎教養である。

である、けれども、だ。なんで電子音樂のクラシックをヒップホップ・アーティストがカヴァーしてんだよ?!??!!?!  なんで電子音樂にラップつけようと思ったの? アホなの? しかもそのラップも細切れぢゃねーか!  なにそんなトコまで忠實にカヴァーしてんだよ!!

2nd の Splendor & Misery は、音樂だけ聽く分には、まあ普通だ。 普通ったって、clipping. にとっての普通であって、そこらのヒップホップとは全然違ふけども、 こ、これぐらゐの音樂なら他ジャンルにはあるし…。

問題は、歌詞だ。

普段、歌詞なんて全く聽かないし、このアルバムだって何を云ってるかなんてほぼわかってゐないのだけど、 例へば、この曲を聽いてると、mothership だのなんだのって單語が出てきて、SF らしさを感じさせる (ちなみに、この曲には 「Kendrick の Control のヴァースを引用した」なんてラインも出てくる)。

で、これ、實際に SF のコンセプト・アルバムらしいんだけど、なんと、ヒューゴー賞にノミネートされてゐるのだ!(受賞には至らず)

SF に詳しくない人はヒューゴー賞なんて云ってもなんだかわからないだらうが、 SF 者にとって、ヒューゴー賞といへば、芥川賞だとか直木賞ぐらゐ權威ある賞である。 なんでそんなのにノミネートされてんの???????

ヒューゴー賞って音樂部門とかあったのかなあ、と思って調べてみたが、 音樂アルバムがヒューゴー賞にノミネートされたのは、1970 年の Jefferson Airplane による Blows Against the Empire 以來なのだ。 ほぼ半世紀ぶりぢゃねーか!

Kendrick Lamar は DAMN. でピュリッツァ賞を獲ってるけど、 もはや熱心とはいへない SF 者であるおれにとってすら、ヒューゴー賞ノミネートのはうがすごい(云ひすぎ)。 快擧ですよ快擧。

しかも、次にリリースしたシングル The Deep も 2018 年のヒューゴー賞にノミネートされてゐる。 なんだよそれ、わけわかんねーよ。

で、2019 年リリースの 3rd、There Existed an Addiction to Blood に先行して YouTube にアップされたこれ。

サムネのかぼちゃは何なの?って思ったら、これ John Carpenter の Halloween 意識してんのかよ!  Halloween はホラー映畫だけど、John Carpenter ったらやっぱ SF の人ですよね。 こいつら、かなりの SF 者なのでは…?

なんて思ってたら、2019 年に EP The Deep が發賣されてゐる。 その曲、2017 年にもシングルでリリースしてたぢゃん、と思ったのだが(こちらの EP は 2017 年のものに 2 曲追加されてゐる)、 なんと、Rivers Solomon といふ SF 作家が、2017 年の The Deep を基に同名の SF 小説を書き上げて短篇小説として發表したのである。 どうやら、それに合はせて再リリースされたやうだ。 そしてこの小説、なんとヒューゴー賞、ネビュラ賞にノミネートされた(ラムダ賞にもノミネートされ、これのみ受賞)。 clipping. の三人も、共作者としてばっちりクレジットされてゐる。すごすぎんだろ。

いや、いつもならね、歌詞の文學性は音樂の善し惡しに寄與しない!とか云ふんですけど、 SF 者として、これは見逃せねーわ。別にそれでおれの中での clipping. の音樂的價値が増減したりはしなかったけど、 あれですわ、最近憶えたばかりの英語で云ふなら、I used to be a fan, but when I knew their works were nominated for Hugo awards, I'm a whole air conditioner. ってやつですわ *1

音樂的には、「clipping. としては」といふ註釋をつけることなく普通と云ってもいいのではないか、ってぐらゐポップになったやうに思ふ。 未だにしっかりノイズ入ってたりもするけど、これなんかかなり眞っ當なヒップホップぢゃないですか?  まあ、アルバム最後の曲とかやべーけど… (Annea Lockwood のカヴァーで、なんとビデオクリップまである! 確かに、映像ないときつい曲でもあるけど…)。

昨年 6 月にリリースされたライヴ盤 Double Live は、clipping. にしかリリースできないであらうライヴ盤で、 ライヴ盤と云ひながら、まともに録音された作品ではない。

なぜなら、録音のために使はれたマイクが、トイレの中だったり、天井を走るパイプの中だったり、街路樹だったり、ローディーの服だったりにつけられたもので、 どう考へてもライヴを録音する配置ではない。觀客録音によるブートよりひどい。 アルバム全體を通して妙に音が遠いのはその所爲である。 さすがのおれでも買ふの躊躇して買ってないぞ…。 だって、こんなんですよ?

現在のところ最新アルバムである Visions of Bodies Being Burned では、なんとトラップの曲が入ってゐる。 最近はソロ活動も高く評價されてゐる Tortoise の Jeff Parker が參加してゐる曲だってある。 しかも Jeff Parker の無駄遣ひとしか思へない曲。 それでゐて、相變はらずノイズまみれの曲も竝んでゐる。

別に、clipping. だけが實驗的なヒップホップをやってるわけぢゃあないだらう。 おれが知らないだけで、ほかにも過激なヒップホップ・グループはあるのかもしれない。

ただ、clipping. の一つの強みは、MC の Daveed Diggs がうまいことだ。本業、役者なのに!

もちろん、ヒップホップのトップを走る人たちに比べれば、Daveed Diggs のラップが秀でてゐるわけではない。 音樂的にあれほど實驗的な clipping. ではあるが、ラップ自體に實驗的なところは全くないし、 それどころか、少し古いスタイルであるやうにすら思ふ。

でも、そこらのラッパーには引けを取らないし、早口っぷりもすばらしい。 特にいいのは、リズム感がいいことで、 あのえげつないバックトラックばかりの clipping. の音樂でもグルーヴを感じることができるのは、 Daveed Diggs のラップに依るところが大きいと思ふ。 先ほど、ラップとしては少し古いスタイルだと書いたが、バックトラックが先進的すぎるから、 逆にそのちょっとした古さ、普通さがうまくメリハリをつけることに役立ってゐる。 恐らく、意圖的にやってゐるだらう。

願はくば、コロナ禍が終はって、來日してもらひたいものだ。おれもかういふ、半分ぐらゐ MC の出番がないヒップホップのライヴ觀たいよ。

*1:もともとファンだったけど、大ファンになっちゃった!みたいな意味。fan が「ファン」と「扇風機」兩方の意味を持つことから、ファンを超えたファンならエアコンだろ!的なスラング

Dreadborne Drifters

ゲームの記事を全然書いてないんだけど、ゲームしてなかったわけぢゃない。

4 月に PoE 終はらせたあとは、seed generator ができた A Robot Named Fight! ばっかりやってまして、 どんぐらゐやってたかって、新しく始めたセーブデータの戰績がこんなことになるぐらゐ。 f:id:nomoneynohoney:20210805043306j:plain

total runs より victories のはうが多いといふ、意味のわからん状態。 新たに發見した spooky mode とか mirror mode もクリアした。 ホントは 0% クリアもできたんだけど、間違って restart 押してしまった所爲で seeded run になってしまって、戰績としては記録されなかった。 とかなので、ほぼやり盡くすぐらゐ A Robot Named Fight! やってました。 2 ~ 3 ヶ月ぐらゐずっと、1 日 2 ~ 3 囘 クリアしてたと思ふ。

で、その後に始めたのがサマセで 250 圓ほどで買った Dreadborne Drifters ってゲーム。

どんなゲームかもいまいちわからん儘に買ったんだけど、やってみたらこれがハクスラで、けっこうハマってしまった。

ただ、そりゃ賣れんわ、と思ふぐらゐ不親切(2 年も前に發賣されてるのに、未だレヴューが 30 件しかない)。 なんたって、ハクスラなのに、どうやれば效率よく強くなれるかがさっぱりわからないのだ。 ゲーム内でもほとんど説明なし。

仕方ないからフォーラムとか讀んで理解したんだけど、大事なことがゲーム内で全く説明されてない!

ちょっと腹が立ったので、ガイドを書いてしまった。

60 時間近くやったし、全實績とったし、ランキングでは 2 位になったぐらゐなので、 たぶん、このガイド讀めば效率のいいやり方は完璧にわかるはず。 まあ、そもそも買ふやつゐんのかって話なんですけど。

惡くはないゲームだったし、短い時間で遊べるので、暇つぶしにはいい。 セールなら買ってみてもいいんぢゃないですかね。

でも底は淺いので、ハクスラの癖に 100 時間單位で遊べたりはしない。 あまりに賣れてなくて可哀想なので、氣になった人は買ってやってください。

あ、ぼくはもう全實績とったんで、アンインストールして、今は Supraland やりてえなーと思ひつつ Survivalist: Invisible Strain にけっこうでかめのアップデートが來てしまったので、その中身を確認しながら飜譯作業してます。

bandcamp daily: May, 2021

はてなブログを始めてからそろそろ 3 年が經たうとしてゐるのだが、はてな運営からメールが來ることは稀で、 來たとしても「1 年前のこの記事を振り返ってみませんか?」とかいふ、何が目的なのかよくわからんメールばかりなのだが、 今日(日付の上では昨日)、久々にメールが來たと思ったら、それこそほぼ 3 年前の記事にはてなスターが 3 つついたよ!といふお知らせだった。

で、確認してみたんだけど…。

「ディスカホリックによる音楽夜話」 の hiroshi-gong さんやんけ!!!!!

おれは hiroshi-gong さんのブログの讀者ではなく、それは hiroshi-gong さんがかなりロック寄りの人だからなんだけど、 知らなかったバンドについてググったら hiroshi-gong さんのトコしか日本語の記事は引っかからなかった、みたいなことは何度もあったので、 ブログの存在は知ってたし、なんならちょいちょい參考にさせてもらってました。 そんな人からはてなスターもらへた上に、ふと氣づいたら讀者になってくださってもゐる!  こんな讀み辛いブログなのに…。すみません! ありがたうございます! 應援してます!

ちなみにスターもらったのは The Tower Recordings について書いたときのやつ。 タワレコ、最高ですよねえ~。

といったところで、bandcamp 5 月分のまとめ、やります。ちなみに、現在 8 月 3 日分までメモ書きしてあります。IZ Band がほしくてたまらないんだけど、送料で困り果ててるところ。

5 月 3 日の特集記事は The Best Video Game Music on Bandcamp: March/April 2021 FTL のサントラやってた Ben PruntySubnautica Below Zero のサントラもやってたとは知らなかった。Subnautica は違ふ人だったのに。まあ、Below Zero のはうは買ふ豫定もないのであんま興味ありませんが。

もう 1 つ氣になったのは RetroShooti, Vol. I のサントラ。何がってこのジャケだよ!

Nick Drake やん! Bryter Layter やん! 音樂は全然アシッド・フォークぢゃないみたいですけど。殘念。

5 月 5 日の特集は The Best Ambient Music on Bandcamp: April 2021。 アンビエントは大體スルーなんだけど(どれもこれも變はり映えしないから)、Lea Bertucci の A Visible Length of Light だけはなかなかよかった。

ただ、この人もさうだし、Sarah Davachi もさうだけど、曲が短い。最近はかういふので 40 分とかやらなくなったんですかね。 最低でも 20 分ぐらゐないと氣分がでろっとしてこないし、なんとなくポップな感じがして、いまいち買ふ氣になれないんだよなあ。 ドローンはアホみたいに長いはうが樂しい。

5 月 6 日の label profile はアルゼンチンの HiedraH Club de Baile の紹介。 アルゼンチンといへば、個人的には vlubä なんだけど(かつて CD-R で出まくってゐたわけわからんアルバムが bandcamp で多量に聽けるすごい時代になってしまった)、このレーベルはクラブ・ミュージックばっかり出してるレーベル。

中でも面白かったのはコンピ Bichote​-​k Bailable vol. 2 で、 獨特のリズム感によるダンス・ミュージックがいろいろ入ってゐて實に痛快。 日頃、もっと面白いリズムはないのか?と思ひながら音樂を探してゐるおれにはドンピシャ。もっとかういふコンピたくさん出してほしい。

5 月 7 日の album of the day は、McKinley Dixon のデビュー・アルバム For My Mama and Anyone Who Look Like Her の紹介(これ以前にもアルバムあるのに、なんでデビュー作扱ひされてるのかよくわからないが、レコード出るのが初めてだからかな?)。 これ、1 曲目から惚れ込んで、すぐさまレコード買ってしまった。juno で。

以前に比べると格段にヒップホップを聽くやうになったのだが、といってヒップホップ音痴が治ったわけではなく、 買ふのはどうしても、かういふソウル寄りのやつとか、clipping. みたいにあからさまに尖ったやつとかになってしまふ。 あれなんですよ、單にバックトラックちゃんと作ってくれよって話なんですよ。 このアルバムはバックトラックはめちゃしっかりしてるし、リズムも面白い。そりゃあ買っちゃひますよ。

ちなみに、2018 年のアルバム The Importance of Self Belief はなんと Name Your Price で買へるので、そちらもおすすめ。

5 月 11 日の特集は The Mutant Mythology of the i8i Collective と題した映像作家 i8i の特集。 映像作家の特集なので、それほど音樂に統一性があるわけでもないし、PV ってアルバム全曲のものを作ったりもしないから、 紹介されてるのがシングルだの EP だのばっかりだったりもして、いまいちなものばっかりだったんだけど、 Münki の n​*​gga_n_d_snw​.​wav だけは氣に入った。 なんでって、ノイズでヒップホップだから。

ただのノイズを聽く氣にはあんまりならないし(善し惡しの判斷が困難、といふか面倒)、ただのヒップホップを聽く氣にもならないんだけど、 兩方合はさったら別ですよ、ワハハ。Name Your Price なのもヨシ。

5 月 13 日は 6 月に新譜を出す Loraine James。 新譜のタイトルは Reflection

こんなゴリゴリの idm にヴォーカル載るのか!といふ衝撃。たまらねえ~。

ヴォーカルなしの曲もいいんだけど、ヴォーカル入ってるはうが現代的で實にすばらしい。 idm ってここまで來たんだ!と、勝手に明るい未来を見てしまふ。 でも、かうやってどんどん音樂が洗練されていく樣をリアルタイムで聽けるのって、すごく仕合せなことぢゃないですか?

5 月 14 日は Seven Essential Releases の日。 面白かったのは Giant Claw の Mirror Guide だが、これも買ふかと云はれると微妙なライン。買はないだらうなあ。同じ系統の Loraine James がすばらしすぎた。

5 月 14 日の Shortlist は The Shortlist, April 2021: Avant-Pop, Psychedelic Rock, Electro & More。 よかったのは Ixa の Mkultraviolet。 パンチの弱いヒップホップって珍しい。

このぼんやりとした感じを生じさせてゐる原因は何なのか。ドラムの音が全體的に弱いのはもちろん大きいだらうが、 別にちゃんとドラムの音が入ってる曲もあるのに、その曲もやっぱりぼんやりしてゐる。 入ってゐる音の量が少なかったり、間が長かったり、けっこういろんな要素でぼんやり感が釀成されてゐるのが面白い。

同じく 5 月 14 日の Seven Essential Releases でよかったのは Rosali の No Medium

何がいいって、ギターのサイケさ。最高。

音樂自體はよくある最近のフォーク・ロックでしかないのに、ギターの音がとにかくサイケ。 なんでこんなおれの好みを突く音出してくんの?

曲ではなく、音でフェティシズムをかきたててきたアルバム。曲はもう、ほんと普通で、どこにでもありさうな曲なのに、音が卑怯すぎる。 70 年代のサイケ・ロックが好きなら買はずにをられない傑作。

5 月 17 日の特集は Deeper Listening: An Introduction to Drone Composition。 持ってるやつばっかり!

5 月 20 日の features は Erika de Casier Sensational 發賣にあたってのインタヴュー。 これはまあ、普通に素適な現代ソウルでしたね。やっぱり、どうせポップス聽くならこれぐらゐ凝ったやつ聽きたい。 音のバランスとか、入れる音のチョイスとか、細やかな氣配りが見事。現代ポップスの質の高さを堪能できる。

5 月 21 日の seven essential releases はあたりがたくさん。

まづは Murcof の The Alias Sessions

Murcof、いいですよね。嫌味にならない程度の荘厳さを持ったテクノを作ることにかけて、Murcof 以上の人ってゐないんぢゃないか。 これの前って The Versailles Sessions だから、なんと 13 年ぶり!

正直、Murcof のことは忘れかけてゐたので、ここで見て驚いた。復活してくれて何より。またちょいちょいアルバム出してほしいもんです。 何年かに 1 枚でいいから。作るの大變さうだし。

ほかには、Jaimie Branch の FLY or DIE LIVE。 これはまあ、International Anthem からリリースのお知らせが來たと同時に買ひました。Fly or DieFly or Die II も色つきレコード買ひ逃してるから、今度こそはと思って…。 やっぱり、新譜のチェックって怠っちゃだめですよ。このブログを始めた頃は新譜のチェックサボりまくってたからなあ。ほしかったアルバム、いっぱいあるよ、くそ…。

Contour の Love Suite もなかなかよい。チルなソウル。 とはいへ、買ふかどうかは微妙なライン。バックトラックは面白いんだけど、歌に惹かれるものがないんだよな~。

5 月 25 日の features は Anna Webber の新作 Idiom の紹介。

これはもうめちゃくちゃよかった。今まで知らなかったことを悔いたレヴェル。

中身は、作曲と即興のライン上を漂ふジャズで、このライン取りが實に華麗。 といって難解なわけでもなく、ジャズとして普通にカッコいい。 ジャズってあんまり作曲能力で勝負してゐる人はゐないので(いま流行りの、いろんなジャンルを跨いだやうなジャズは別)、 かうも鮮やかな曲を作る人がゐるなんて想像もしてなかった。いいもの紹介してくれるよ、bandcamp は。ありがたやありがたや。

5 月 26 日の album of the day は Allison Russell のデビュー作 Outside Child の紹介。 いやでも、おれは全く知らなかったんだけど、この人、ググったらユニバーサルと契約してんですね。bandcamp daily でわざわざ採りあげるまでもないやうな…。 ちょっと古い感じはあるけど、ひねりのない王道のポップス。凝ったところとかがあるわけでもなく、すっと心に入ってくる感じ。なんとなく The Rolling Stones 思ひ出してしまったほど。別に似てないんだけど。

同じく 5 月 26 日の label profile は Trouble in Mind レーベルの紹介。 ロックは古いので充分、と思ってゐるので、これも見たときは「なんだロックか」って感じで適當に聽き流すつもりでしかなかったのだが、そんなおれにだっていくらかの弱點はあり、Trouble in Mind はズバッとそこをついてきた。

Sunwatchers の Oh Yeah? はインストもの(Sunwatchers は hiroshi-gong さんがたっぷり書いてた記憶があるので、そっち讀んでください)、 Lithics の Tower of Age はポスト・パンクで、 Writhing Squares の Chart for the Solution は宇宙音とサックスがふんだんに入ったクラウトだし、Matchess の Huizkol に到ってはドローンといふか、パルスものだ。 幅廣すぎでせう。

まあ、知らない音樂があったわけぢゃないから、どれも買ってないんですけど。どれかひとつなら、Writhing Squares かな。

5 月 27 日の features は Vernacular 特集。 正直、Vernacular って誰だよ?って思ひつつ開いたんですけど、Mourning [A] BLKstar の R. A. Washington が過去に參加してたジャズ・バンドなのか! 

The Little Bird が唯一のアルバムで、 CD-R でしかリリースされてなかったやつが遂にカセットでリイシューされたよ!って話らしい。なんでカセットだけなの…。CD-R よりはいいけど…。 Albert Ayler と Sonny Sharrock が合はさったやうなドロドロしたジャズ。R. A. Washington がこんなのやってたとは。

まあでも、これ買ふなら Mourning [A] BLKstar 揃へるかな。

5 月 27 日の album of the day は Spectacular Diagnostics の Natural Mechanics

Jet Set で買へるらしいんだけど検索しても出てこないのはどういふわけだ(5 月に検索したときもだし、未だに出てこない!)。ほしいんですけど!

中身は基本的にヒップホップなんだけど(インストもある)、宇宙音入りまくりでサイケなのが非常にいいし、どの曲も短いのにヴァリエーション豊か。 お洒落なジャズっぽかったりもするのに、大體宇宙音で臺無しなのが實におれ好み。

くっそー、Jet Set さん、早く仕入れてくださいよ。bandcamp では帶つきのやつ賣り切れになってますよ。頼みますよ、ホント。

5 月 28 日の album of the day は、なんと BBE からリリースされる David Bowie のカヴァー・アルバム、Modern Love

BBE はおれにとってジャズの發掘/再發レーベルなんだけど、こんなもんも出すのね。でも、David Bowie は元曲が好きすぎてだめだあ。

5 月 28 日の seven essential releasesで氣になったのは AKAI SOLO & Navy Blue の True Sky

これまたチルいヒップホップ。ただ、アルバムそのものより、ページの上部にある英譯されたマンガの一コマであらう You are one hundred years early!! が氣になって仕方ない。百年早いって、逐語譯して通じるんですかね…。

もう 1 枚、Morbo の ¿A quién le echamos la culpa? は、突然段ボールを想起させる。パンクに分類されるだらうことはわかるんだけど、チャカチャカした感じと、實は日本語なのでは?と疑ひたくなるヴォーカルがなんとも云へず突段っぽいのだ。このバンド、なんと 20 年も活動してゐるのに、これが 2nd らしい。こんなわけわからんアルバムなのに、日本では punk and destroyRecord Shop Base の 2 店舗に入荷してゐるのだから驚き。さういへば、Base で Kito Mizukumi Rouber いろいろ買はうと思ってるのに、未だに買ってないな…。

とまあ、こんなところで 5 月分は終はり!