When the Music's Over

音樂の話とゲームの話

Keith Jarrett: european quartet

久しぶりに John Zorn の Voices of the Wilderness を聽いて Masada の曲のよさを再認識しつつ YouTube 巡りをしてゐたら、 ギター 3 本でのアルバムが少し前に出てゐたのに氣づいた(ついでに今さら烏鵲さんのサイトが閉鎖されてゐたのにも氣づいた)。

ちょろっと聽いた感じ、なかなかよかったので、 參加ギタリストの 1 人、Julian Lage のアルバムはどんなもんなのかな、と思っていろいろ聽いてゐたら、 なんだか聽いたことのある曲があった。

なんだったけこの曲、とタイトルで検索してわかった。Keith Jarrett ぢゃん!

Keith Jarrett といへば The Köln Concert が群を拔いて有名だし、 おれだってあのアルバムは大好きだが、 一番よく聽くアルバムかと云はれれば、そんなことはない。

Keith Jarrett には魅力的な作品が多く、 フリージャズ好きとしては Charlie Haden のゐる初期 american quartet は外せないし、 一番長く續いてゐる Standards trio ももちろんすばらしい (Gary Peacock と Jack DeJohnette だなんて、面子がそもそも豪華すぎる)。 ソロ・ピアノだってケルンだけでなく、名盤はたくさんある。

でも、おれが一番よく聽くのは、1974 年から 1979 年といふ、 ごく短い期間しか活動しなかった european quartet である。

初期の、若さほとばしる激しい american quartet と、 80 年代に入って一流の座を不動にした 3 人による Standards trio との間にある、 最もスリリングな 5 年間、それこそが european quartet である。

とにかく、この時期は曲にキレがある。 惜しくも今年亡くなってしまったドラマー Jon Christensen や ベースの Palle Danielsson はさして有名ではない。 唯一有名なのがサックスの Jan Garbarek だけで、彼のプレイはさすがの一言だが、 別にリズム隊の二人だって、Keith Jarrett が選んだだけあって見事なものである。

Palle Danielsson はスウェーデン人、Joh Christensen と Jan Garbarek はノルウェー人で、 それまでアメリカの impulse! からレコードを出してゐた Keith Jarrett が、 本格的にヨーロッパの ECM に移籍したのがこの european quartet のデビュー作からなのだが、 いやもうなんですかね、ジャズ・ファンが抱く impulse! のイメージと ECM のイメージが、 そのまんまバッチリ american quartet と european quartet の音樂性にも當てはまると思ふ。

ECM から出てるアルバムって、なんか落ち着いた感じしません?  で、impulse! から出てるアルバムは、激しい感じするでせう?  いやまあ、John Coltrane の抹香臭いアルバムなんかは impulse! 作品の中では落ち着きを感じるかもしれないけど、 あれは、ECM の落ち着きとは違ふぢゃないですか。 宇宙行っちゃったり宗教的だったり、impulse! にある落ち着きって、この世のものぢゃない、浮世離れした落ち着きなんですよね。 それに比して、ECM のアルバムって、曇り空の暗い氛圍氣とでも云へばいいのか、 緯度が高くて寒いヨーロッパが腦裡に浮かぶやうな、現實的な落ち着きなんですよ。

そんなしっとりとした氛圍氣でありつつも、 聽かせるのはジャズですからね、 丁丁發止といった感じではないが、 それでもノリノリなのが傳はってくるアドリブの應酬。

Keith Jarrett のすばらしさについて云ふことはないが、 Jan Garbarek の伸びやかなサックス、Palle Danielsson の行き來自在なベース、 Jon Christensen のタムを多用した輕やかなリズムは、 european quartet に清涼感を生んでゐる。

特にライヴでのテンションが高く、 ゆったりとした曲ですら、透き通って張り詰めた空氣が傳はってくる。 冒頭に、「最もスリリング」と書いたのは、 この european quartet 特有の空氣感のことだ (YouTube にあるのは 74 年のライヴばかりで、この頃はまだみんな初々しく、ウキウキ感が強いが)。

現在リリースされてゐる european quartet のアルバムは 5 枚あるが、 うち 3 枚がライヴ盤である。 といっても、別に Keith Jarrett が「european quartet の本質はライヴにあり!」 とばかりにライヴ盤を出したのではなく、 Personal Mountains は european quartet の活動が終はった 10 年後の 1989 年リリースだし、 Sleeper に至っては、なんと 2012 年になってやうやくリリースされた。 sleep しすぎである。

この 3 枚のライヴ盤は、どれも 1979 年、つまり european quartet 最後の年に行はれたライヴばかりなのだが、 個人的なおすすめは壓倒的に Sleeper。 別に東京公演を收録したものだから、といふわけではなく、 このライヴが最もすばらしい出來だからである。 このピリッとした空氣。これが european quartet ですよ。

次點は Nude Ants で、 Personal Mountains は先の 2 枚を買ってゐれば、別に要らない。 それ買ふぐらゐなら、斷然 european quartet のデビュー作 Belonging だ。

え、Keith Jarrett で一番好きな曲? american quartet の最終作 Bop-Be の最終曲、 Pocket Full of Cherry!  Charlie Haden 作曲の明らかに Don Cherry を意識したタイトルを持つ、 この短めのフリージャズがもうホントよくて…。 まあ、Keith Jarrett はピアノ彈かずにソプラノサックス吹いてますけど。