When the Music's Over

音樂の話とゲームの話

Charles Mingus: Cornell 1964

歳をとった所爲なのか ロックといふ音楽にほとんど惹かれなくなってしまった。

なんでって、曲の形態があまりに劃一的だからだ。 曲の構造がほぼ同じであるのに加へ、單調なリズムの上で 1 番、2 番と同じことを繰り返されるのが退屈で仕方ない。

嫌ひになった、といふわけではなく、 よっぽど尖ったものでない限りは、 昔から知ってるものさへ聽いてゐれば充分だな、 といふ気になってしまふのだ。

だから、普段よく聽く音樂は ジャズ、クラシック(現代音樂込み)、 電子音樂の 3 つになってしまふ。

このうち、構造といふ點では ジャズはロック以上に硬直してゐる。 なんせテーマ→アドリブ→テーマで固定だ。

更に云へば、ジャズといふのはもはや瀕死の音樂である。 1973 年の時點で、 Jazz is not dead, it just smells funny. (ジャズは死んぢゃあいない。變な匂ひがするだけで。) なんて Frank Zappa に云はれてしまふぐらゐだ *1

それでも、ジャズは面白いのだ。

おれがここで云ふジャズとは、 大雑把に云へばモダン・ジャズと括られるものだ。

モダン・ジャズといふのはルールの決まったゲームで、 時代の變遷によってルールの細かな點がブラッシュアップされたりはしてゐるが、 目的そのものは變はってゐない。

つまり、モダン・ジャズといふのは 「いかにすばらしいアドリブを展開するか」といふゲームなのだ。

おれは将棋をしないのでわからないが、 うまい人の棋譜を見て「うおっ、さう來るのか! 鮮やか!」 などと云って樂しむのと同じやうなものだと思ふ。 もっと卑近な例であれば、ゲーム動画で配信者のうまさに舌を卷く、 といった樂しみ方とでも云へばよいだらうか。

そんなわけだから、やはりジャズミュージシャンの中にも うまいやつと下手なやつがゐる。 これは演奏技術の話ではなく、アドリブの巧みさの話である。

さうしたゲーム巧者の中で、 おれの愛してやまない一人が Eric Dolphy である。

Dolphy は何を聽いてもすばらしいのだが、 ここでは Charles Mingus とともにやった Cornell 1964 を紹介しておかう。

Charles Mingus はベース奏者として優れてゐるだけでなく、 Duke Ellington を敬愛する秀でた作曲家だったわけだが、 彼の樂團に Eric Dolphy がゐた 1964 年のライブ盤は傑作揃ひである。

人気が高いのはヨーロッパ録音のもののやうだが、 個人的にはアメリカはコーネル大學で録音されたこのアルバムが好きだ。

なんたって、他のライブ盤は長い曲ばかりで ジャズ初心者には全くもって不向きなのだが、 このアルバムでは Take the A TrainWhen Irish Eyes are SmilingJitterbug Waltz といった キャッチーな曲が入ってゐる。

中でも、Jitterbug Waltz の 輕やかかつ流麗なフルートは、 聽いてゐると空に飛んでいけそうな氣になるほど。

もちろん、この時期の定番であった So Long EricOrange was the Colour of Her Dress, then Blue Silk、 代表曲 Fables of Faubus あたりも收録されてゐて、 選曲は文句のつけどころがない。

Dolphy 以外の要素なら、Mingus は語るまでもないが、 ピアニスト Jaki Byard の灑落た演奏が聽きどころ。 齒切れよく輕快なプレイで演奏に華を添へてゐる。

ところで、Eric Dolphy は 1963 年にジミヘンを切り賣りしたことでも有名な プロデューサー Alan Douglas を迎へて Jitterbug Waltz ほか 數曲を録音してゐる。 その一部は ConversationsIron ManMuses として發表されてゐるが、 それらのアルバムに未發表音源を加へたものが、 Musical Prophet: The Expanded 1963 New York Studio Sessions といふタイトルで 12 月に發賣されるとのこと。

Mingus も 11 月に 1973 年 2 月のライブが出る。 Jazz in Detroit / Strata Concert Gallery / 46 Selden といふやつ。 bandcamp で 1 曲だけ試聽できるのだが、 リリースが待ちきれなくなる出來。 まだこんなのが眠ってんだねえ。

*1:Roxy and Elsewhere 收録の Be-Bop Tango (Of the Old Jazzmen's Church) より