When the Music's Over

音樂の話とゲームの話

Solar Settlers: cards #01

Solar Settlers の面白さがとどまるところを知らない。このゲームやべーわ。

何がすごいって、カードである。よく考へられてんなあ、おい! と聲をあげたくなるほどに、よくできてゐる。

habitat factory card

今囘、そのすごさに氣づいたのは habitat factory といふカードである。これだ。

metal 2 つを使って、よそのマスの入植可能數を 1 増やす、といふ効果。 人間のマークが 1 つしかないのは、1 人で使はうが、3 人で使はうが効果は變はらない、といふこと (1 マスに配置できるのは最大で 3 人まで)。

metal 2 つも使ふのに、1 人増えるだけなの?!と、 かつてのおれは見向きもしないカードだった。 何しろ、最終的に入植させる必要がある人數は 20 人以上になる。 しかも、最初から 5 人入植可能なカードとか、 こちらの軍事力に比例して入植可能數が増えるカードなんかがあるし、 移動に使ふ hydrogen、生存に必須な oxygen に比べ、metal の優先度は一段落ちる。 metal は建築に使ふことがある、といふだけで、 metal がなくてもアップグレード可能なカードはたくさんあるのだ。 だから、metal といふのは必要なときに最低限だけとる、といふ位置づけの資源なのである。 そんな、わざわざ意識的にとらないととれない metal を 2 つも使って入植可能數を 1 増やして どうすんだ、と思ってゐたのだ。

淺はかだった。このカードはヤバい。

このカードは water world のカード群と組み合はせることでその眞價を発揮する。 water world のカードといふのは、かういふのだ。

water worlds card

左のやうに、入植可能な water world のカードは強力な効果を持ってゐるものが多い。 一番上の When you settle here, refresh all 👤 on target sector といふのは、 このマスに入植すると、別のマスの行動が完了してゐる人間を再び行動可能にする、といふもの。 それまで溜めに溜めた人員を最終ターンに入植させる際、 計劃的に水素を稼いでおかないと入植可能マスに辿り着けずゲームを終へる、 といふなんとも悲しい結末を迎へることがある。 さういふときに、このカードがあれば、 取り敢へず 3 人に水素を稼がせて、その 3 人をリセットして再び行動可能にする、 といふことができるありがたいカードだ。

次の When you settle here, replace your hand with random cards は 入植すると手持ちのカードを総取っ替へしてくれる。 最後のターンになっても必要な人數が確保できてゐないことはちょくちょくあって、 さういふときに最後の頼みとしてここへ入植する。 入れ替へられたカードの中に、破棄することで人員が得られるものがあればラッキー。 あるいは、weekly challenge をやってゐて、更に人員を増やしたいのに 祿なカードがないとき。 さういふときに使ふのがこれだ。

最後の When you settle here, draw a 📰 は前のエントリーにも書いたが、 入植するたびにカードが 1 枚もらへる、といふやつだ。 このゲーム、カードはあればあるだけいいので(最大で 7 枚しか持てないが)、 入植するだけでカードが引けるといふのは破格。 入植可能マスの中で最も有用なものだと思ふ。

といった具合に、これらのカードは非常に強力な効果を持ってゐるが、 殘念ながら囘數が滅法少ない。 最後の undersea station は 3 人まで入植可能だから 3 枚カードがもらへるが、 上の 2 つはたった 1 人しか入植できない。 だから、この効果は一度使ったら終はりだ。

が。

ここでさっきの habitat factory を使ふのである。 habitat factory は、metal と引き替へに最大入植可能數に +1 する効果があるから、 普通ならば 1 人入植した時點で無駄なマスになってしまふこれら water world に使ふことで、 この強力な効果を複數囘使ふことができるやうになるのだ!

特に強烈なのは一番上の stimulant trial depot との組み合はせで、 habitat factory を 3 囘使って stimulant trial depot の入植可能數を +3 した上で stimulant trial depot に 1 人入植させると、 stimulant trial depot のリセット効果により、 habitat factory にゐる 3 人は再び行動可能になってしまふ。

つまり、metal の續く限り habitat factory を使ひ續けることができる。 また入植可能數を増やせちゃうぢゃん!

もちろん、habitat factory の最下段に must be < 5 とあるやうに、 入植可能數は最大で 5 までしか上げられない (不等號にイコールはないが、5 までは可能)。 しかし、何もすぐに 5 囘リセットを使はなくてはならないわけではないから、 合間に undersea station に入植して新たなカードを引いたり、 brain worms に入植して手持ちのカードを入れ替へたりして、 新しい stimulant trial depot が引ければ更に同じ方法を續けることができてしまふ。 しかも、その undersea station や brain worms の囘數を増やすことだってできるのだ。

galactic library card

もっと云へば、stimulant trial depot の隣に galactic library を配置しておけば、 stimulant trial depot に入植するたびにもカードがもらへてしまふ (galactic library の効果は左のとほり、つまり、隣接マスに入植した際、 カードと oxygen が手に入る)。

先程も書いたが、このゲームはどれだけカードを引けるかが勝負である。 なぜなら、基本的に最終ターンは全員が入植以外の行動ができないからだ。 それはつまり、移動に必要な hydrogen や、建築に必要な metal をとることはできない。 hydrogen や metal をとるといふことは、それで行動終了なのであり、 そいつは入植できないことになるからだ。

もちろん、必要以上の人員を確保し、 最終ターンで資源囘收に囘すといふことはできなくもない。 しかし、さういった餘情人員を養ふには、 それまでのターンで毎囘 oxygen をがっちり確保する必要があり、 これは非常にきつい (まあ、竝行して入植もすればうまくできるのかもしれないが、 おれにはまだ無理だ)。

そこで、最終ターンではカードを破棄することで資源を得るのである。 カードがあればあるだけいいといふのはさういふことだ (逆に序盤では軍事力や人員が得られるカードの重要性が高い)。

カード單體を眺めてゐても、そのカードの眞價はわからない。 いくつかのカードを併用することで、カードの効果は何倍にもなる。 そして、それをうまく活用するために、今まで歯牙にもかけなかったカードが輝いてきたりする。

實際、おれは habitat factory を運用するやうになってから、 初期状態の rock world の重要性に氣づいた。

rock world

この見るからにしょぼい rock world は、 いつもさっさと別のカードで上書きしてしまってゐたのだが、 最終ターンで habitat factory を使ふとなると、 これほど有用なマスもない、といふぐらゐ優れたマスになる。

なんたって、habitat factory に必要な metal と、 最終ターンで不足しがちな hydrogen の兩方を 1 マスで得ることができるのだ。 3 人ゐれば、metal +6、hydrogen +3 ももらへてしまふのだからうまい。 まあ、1 マスあれば充分ではあるから、やっぱり外の rock world マスは 上書きしちゃうんですが。

ただ、これまでだと初期状態の rock world なんて 最終ターンには殘ってゐない、といふのが普通だったのに、 habitat factory の重要性に氣づいたお蔭で、 rock world はおれの中で新たな輝きを放つやうになった。

最初に書いた、よく考へられてんなあ!といふのはかういふところである。 このゲームには、まだまだおれの氣づいてゐない便利さを持つカードがごろごろあると思ふ (なんたって 86 枚もある!)。 steam のはうでガイドを書かうかとも思ったのだが、 おれの淺い理解ではまだまだガイドを書くには不充分。 氣づいたことがあるたびにこちらに書いて、 ある程度まとまったらガイドにしよう。

いやあ、實に奧の深いゲームですよ、こいつぁ。

※2019/03/07 追記

上で紹介した habitat factory + stimulant trial depot + galactic library のコンボが 最高にうまくいった囘があったので、記念に貼っておく。

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なんと 2 つも galactic library を引けたので(畫面左上と左下)、 入植するだけでカードがドバドバ引けるといふ全能感をたっぷり味はってしまった。 特に、左上の galactic library は star cantina に隣接させたため、 galactic library 効果と cantina 効果で最大 3 枚のカードが一氣に引けるといふ すさまじいものになってゐた。 いろんなカードの効果が連鎖的に干渉し合ふ實に氣持ちのいいゲームだった。 脳汁ドバドバってやつですよ。

しかし全種族でランク 30 を達成するのはなかなか骨だ。 ランク 28 のときに引きがよかったりすると、 「ちげーんだよ! 次の囘までそれはとっといてくれよ!」 なんて思ってしまふ。 まだまだ樂しめさうで嬉しい。

Solar Settlers

ここ最近、Path of Exile と竝行してやってゐたのが Solar Settlers といふゲーム。

一言で説明するのはなかなか難しいゲームだが、4X ゲームを最低限まで簡易にしたもの、といふのが最も適當かもしれない。

人を動かしてマスをめくっていくのが eXplore 要素。 止まったマスからは資源を得るのは eXploit 要素。 ただ、無制限にマスがめくれるわけではなく、軍事力が必要となるマスがあり、 これは eXterminate 要素といへるだらう。 また、探索濟みのマスは手持ちの札でアップグレード、つまり eXpand できる。 見事に 4X なのだ。

ゲームは主に 2 つのモードがある。 決められたターン數内に、指定された人數を入植させる通常モードと、 決められたターン數内に可能な限りの人數を入植させるチャレンジモードだ。 チャレンジモードは週替りで、使へる種族および引けるカードは固定されてゐる (引くカードの順番やマスの配置はランダム)。

實際のゲーム畫面で説明しよう。

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まづは畫面右上の數値から。 オレンジの原子軌道っぽいのが移動力(ゲーム内では hydrogen 扱ひ)、 水色のボンベっぽいのは酸素で、これはターンが終はるごとに人數分消費 (不足してゐた場合、人員を削る必要がある)、 その横のインゴットは建築に使ふ metal。 その下に竝んでゐるきのこは入植した數(最初のターンだから當然ゼロ)、 横の赤いマークが軍事力だ。

真ん中の 3 人が自分の操れる人員。 真ん中の周囲 4 マスのみマスがめくられてゐるが、 基本的にプレイヤーは既にめくられたマスにしか移動できない。 ただし、移動した先の隣接マス 1 つは探索可能なので、 移動しては隣接マスをめくって移動可能な場所を増やす、といふのが基本になる。

黒くなってゐるマスのうち、赤い數字で 3 だの 5 だの 8 だのと書いてあるマスは、 その數値だけ軍事力がないと探索できない、といふことを示す。 初期状態での軍事力はゼロだから、 その儘では最初から見えてゐる 5 マスをぐるっと囲む 12 マスしか探索できない。

下の 4 枚のカードはマスの上書きに使ふが、破棄することもできる。 破棄した場合、カードの下に書いてある資源が得られる。 例へば左端の青いカードを破棄すると人員が、 右端の茶色いカードを破棄すると metal がもらへる、といった具合。

左上に書かれてゐるのがターン數で、 weekly challenge は基本的に 6 ターンしかない。 通常モードだと、レベルが低いうちは 12 ターンぐらゐやらせてもらへるが、 レベルが上がるとやはり 6 ターンまで下がる。

最初のターンでは、探索可能領域を擴げるために、 軍事力の確保が重要になる。 また、このゲームは人數こそパワー!なので、 青いカードは破棄して人員を追加するのは確定事項である。 左から 2 つ目のカードは 1 つの hydrogen で 2 マス移動できるやうになる アップグレードなので、これもさっさと使ひたい。 そのためには、カードの上に書かれてゐるコスト、3 metal の確保が必要になる。 以上の 3 つを目標に、最初のターンを進めてみよう。

最初の移動でいきなり rock world が見つかったのはラッキー。 rock world では metal がとれるので、左から 2 番目のカードを使ふための資源が確保が確實になった。 gas world にゐるやつは移動力確保のために放置しておいて、 殘った 2 人で rock world を目指す。 ちなみに、open space 以外のマスにはそれぞれそのマスで確保できる資源が書いてあるが、 例へば rock world だと 1 人しかゐない場合は metal と hydrogen を 1 つずつしかもらへないが、 2 人ゐると metal 2 つと hydrogen 1 つがもらへる。 表記が 2 段になってゐるのはさういふ理由だ。

資源はあればあったに越したことはないので、 2 人を移動させてから囘收。 これで metal 4 になった。

metal を確保したところで人員追加。 このターンを生き延びるための酸素を取りに行く。 せっかくだからノーコストでアップグレードできる gas world をうpぐれして、 移動力を確保。 最後に open space をうpぐれしてこのターンは終了。 殘念ながら、右に表示されてゐる goal は達成ならず。 最初のターンで人員を 3 人増やすのはかなりきつい (goal を達成すると、そこに表示されてゐるカードがもらへるが、 新たな goal は次ターンになるまで設定されない―― つまり最大で 1 ターンに 1 つしか達成できないので、可能な限りそのターンで達成しておくべき)。

續いて 2 ターン目。 今週のチャレンジは Yang'ti といふ種族でのプレイなのだが、 種族による差といふのは、中央マスの差である。 Yang'ti の場合、中央マスはターン毎に人員とカードを生成し (マスの下部に Prod として書かれてゐる)、 また、探索濟みのマスを別のマスに變へることができる。 ただし、變化法則は決められてゐて、open space は gas world に、 gas world は rock world に、と固定されてゐる。 法則がマスに書かれてゐるのがわかるはずだ。

先ほどのターンで軍事力が 1 になったので、 このターンでは緑のカードを使って軍事力 2 を上乗せし、 軍事力 3 を達成するのが最大の目標。

ただし、緑のカードは貴重な酸素マスを上書きする形でしか使へないので、 酸素をとったあとでマスを上書きするといふ方法をとらなくてはならない。

軍事力を確保すると探索可能範囲が擴がるので、 人員の増加を最優先にしつつ、探索を進める。 取り敢へず人間のマークがあったらさっさと人員を増やし、 移動力や酸素のことはあとで考へる、といふ感じだ。

とまあ、こんな調子で進めて行き、 増やした人員を最後に入植させることになる。 ちなみに、上の 2 ターン目終了時點では、 1 ターン目でうpぐれした starbase と 2 ターン目最初にうpぐれした hunting colony にしか きのこマークがない。 しかも分母はどちらもたったの 1。 つまりこれは、2 人しか入植可能スペースがない、といふことだ。 ひたすら人數を増やせばよいのではなく、 入植スペースを作り、そこまでの移動力も稼ぐ、といふ 3 つがこなせないと 人はゐるのに入植できない、といふことになったりする。 その邊りをうまく見極めてプレイするわけだ。

ちなみに、最終ターンはかうなった。

今週はとにかく water world のアップグレードである undersea station といふカードがうますぎて、 どれだけそのカードが使へるか、といふことに專念するプレイになった。 undersea station は 3 人まで入植可能で、入植するたびにカードがもらへるといふ、すさまじいもの。 何がすさまじいって、新たにもらへたカードが人員と交換可能なら、 カードを破棄することで最終ターンにも關らず増員が可能だ、といふことだ。

普通、このゲームで最終ターンに人員を増やすのは難しい。 人員を増やすためにはどこかのマスをアクティベートする必要があり、 アクティベートに使った人間は行動不能になってしまふからだ。 動けないやつを 1 人作って、新たに動けるやつを呼んだところで、 入植できるのは 1 人だけ。つまり、なんの意味もないのだ。 だから、普通は 5 ターン目までに入植豫定の人員を確保しておく。

しかし、この undersea station なら入植するたびに人員増加の可能性がある。 これは破格である。 當然、water world のアップグレードにしか使へないので、 water world の數を増やすにはどうすればよいか、といったことも考へつつプレイした。

ただ、この戰略は、rock world を nomadic tribe にうpぐれできるかどうかも重要で、 nomadic tribe はどこかに入植するたびに資源がもらへる、といふ特殊カード。 そのマスに入植する必要はないため、undersea station と違ひ、 入植すればするだけ資源がもらへる。 さうでないと、最終ターンだから酸素は不要だとしても移動力が足りなくなってしまふのだ。 今週のチャレンジは、この undersea station と nomadic tribe をうまく使へ、 といふチャレンジだったと思ふ。

かうした、チャレンジ内でもらへるカードは豫め確認できるので、 まづはそれを確認してから大體の戰略を立ててから挑む、といふのが正しいやり方なのだらうが、 實はこのチャレンジ、何囘でもできるので、何囘かやっていいカードがどれか憶えるはうが樂。 まあ、さういふことを何度もやってれば、カードの名前だけでわかるやうになるんでせうが。

動畫を見てくれれば、とにかく undersea station をゲットしては置き、 カードを得ようとしてゐるのがわかると思ふ。 結果は 36 人だが、まあ今週のトップが今のところ 38 人だから、惡くはないといったところか。

4X といへばゴリゴリのストラテジーを想像してしまふと思ふが、 この Solar Settlers は 4X 要素を持ちつつも、具體的な敵がゐるわけではないため (つまり、eXterminate 要素は限りなく薄い)、 實質はほとんどパズルゲームである。 しかし、落とし込み方がうまいので、輕く時間を潰すにはもってこい。

お値段はたったの 980 円。セール時ならさらに 40% オフ。 のめり込んでこればっかりやってしまふ、といふタイプのゲームではない。 ちょっと暇だけど、本を讀んだりテレビを見たりするほどぢゃないな、といふやうな ふとした合間に手が出る、憎いゲームである。 實際、さういふときにおれが起動してしまふゲームとしてはこれまで長らくマインスイーパが君臨してゐたが、 最近は專らこっちだ。 電車の中でやるのに最適だと思ふから、是非 Nintendo Switch 邊りで出してほしい(持ってないし買ふつもりもないけど)。 スマホだと畫面が小さすぎて厳しさうなんだよなあ。惜しい。

Path of Exile: Betrayal

現リーグは終盤も終盤、新リーグの情報が少しずつ明らかにされつつあり、 アクティヴプレイヤー數もだいぶ減ってしまった Path of Exile(以下、PoE)だが、 なんやかんやでずっと續けた甲斐あって、やうやく一段落しさうなので 今囘のリーグであったことを書き殘しておかう。

まづ、なんと云っても今囘のハイライトはこれ。

Headhunter!!

うおおおああわああああわおおおお! へっどはんたああああああああああああ!

といっても、PoE をしない人にはなんだかわかるまい。 この Headhunter といふベルトは、PoE の全ユニーク中ぶっちぎりで高価なベルトなのである。 入手方法が極めて限られてゐて、今リーグではカードを集めるか、 Shaper's Stronghold と呼ばれるマップでのボスドロップ(超低確率)を狙ふかなのだが、 後者は確率が低すぎて全く現實的ではない。

はずだったんですよ。

それがドロップするんだもんなあ。いやあ、もうホント、 ドロップしたあとしばらく手が震へてゲームできなかったよ。 前にやった Incursion のときも Headhunter は入手したけど、 それはゲーム内通貨を貯めて終盤に記念としてトレードで入手しただけ。 それが今囘はリーグ中盤で手に入れちゃったから、だいぶ長いこと Headhunter を樂しむことができた。

Headhunter が高い理由はファームの速度がぐっと上がるから、と云はれてゐるが、 おれはそれだけではないと思ふ。 配信したりブログ書いたりしてるやうな上級者からすれば、 ファーム速度が上がって元が取れるのかもしれないが、 おれのやうなヘボプレイヤーでは元を取るのすら難しい。

それなのに、誰もが Headhunter をほしがる理由は、 單純に Headhunter を装備してファームするのが滅法樂しいからではないか、と思ふのだ。

この Headhunter といふアイテムの存在は、PoE といふゲームを非常によく象徴してゐると思ふ。 PoE にはいいところがたくさんあるが、そのうちのひとつは、ユニークアイテムが、 ちゃんとユニークであることだ。

unique とは、「唯一無二の」といふ意味の語である。 Headhunter の性質は、「レアモンスターを倒したとき、20 秒だけそのモンスターの持ってゐた特殊能力全てを奪へる」 といふものだ。 唯一無二でせう?

ハクスラだのアクションゲームだのをやってゐて、 「なんでそのつえースキルは敵専用なんだよ!!!」といふ思ひは、誰もが抱いたことがあるのではないだらうか。 Headhunter は、20 秒だけとはいへ、さうした敵のスキルを自分のものにできるのだ。

そんなんあり?と思ふかもしれない。ありなのだ、PoE では。 めちゃくちゃ體がでかくなったり、えらい量のシールドがついたり、 やたら足が速くなったり、敵のゐるところにワープするやうになったり、 minion が無敵になったりと、どえらい効果がつく。 しかも、レアモンスターを倒すごとに上書きされるわけではなく、 全て上乗せされるんだから太っ腹だ。 今囘、中盤以降は minion 連れ囘しビルドをメインにプレイしたので、 Headhunter の能力が minion たちにも傳播して實に氣持ちよかった。

さて、中盤のハイライトは Headhunter だが、序盤のハイライトは なんといっても初の Uber Elder 撃破である。

defeat uber elder

Uber Elder はポエモンリーグと呼ばれた Bestiary で導入されたラスボスで、 Bestiary を休み、その次の Incursion で初めて Uber Elder に挑戦したおれは、 まるで齒が立たず、仕方なくお金を拂って(ゲーム内通貨ですよ、もちろん) 強い人に倒してもらったのだが、今囘遂に雪辱を果たした。

まあ、ビルドは Uber Elder が導入されたときに、 みんなこぞって Uber Elder 用に採用してゐたビルドなので、 倒せて當然といふか、知ってる人からすれば、 今さら RF っすかwwwwwぐらゐの感じだらうが、 Uber Elder はそもそも辿り着くまでがけっこう大變で、 氣輕に挑戰できないので、ちっとも練習できないのだ (さういへば、ちょうどクリスマスの日に Righteous Fire のスーパーコラプトに一發で成功して 21 Vaal Righteous Fire がもらへたのはハッピーだった)。

強めのボスにはがっちりアクションを要求してくるのが PoE といふゲームなので、 アクションゲームは下手の横好き程度のおれにとっては、かなりの難敵だった。 倒したのは、3 囘目の挑戰だったと思ふ。 Uber Elder の入場券がきっかり 3 囘分しかなかったので、 倒せたときは本當に嬉しかった。 友だちとしゃべりながらやってゐたので、 なんで死んだのか、といふのを毎囘考へて対処していった感じ。

まあでも、Uber Elder 導入時に比べると、 今の PoE はかなり火力が向上してゐるので、 攻撃をどう躱すかさへわかってゐれば、 そんなに苦労なく倒せるやうな氣もする。 ドロップが美味しくないからやる氣しなくて結局その後は一度もやらなかったが。

うまいドロップといへば、今囘は Headhunter 以外にもいろいろ引いた。

Kaomちゃん!

まづはド定番 Kaom's Heart。 自分で使ふ分はリーグ序盤にサクッと買へたし、 Incursion でもお世話になった鎧だったのだが、 一度ぐらゐは自分で引いてみたいなーと思ってゐたものだったので、 念願叶って満足。

10/8 Hinekora

珍しいアイテムとしては、Prophecy をこなしたときに極低確率でドロップするといふ Hinekora's Sight を入手できたのも今リーグの思ひ出の一つ。 何に使ふのかいまいちわからんアミュレットだったが、 可變値がかなりよかったので 3exa で賣れた。 賣れなかったら記念に持っておかうとも思ってゐたのだが。

引きがよかったといへば、minion ビルドをやったのは 自力で必要なアイテムをかなり引けたから。 良可變値の The Primordial Chain、 Command of the Pit(一穴だったけど)、 リーグ序盤はやたら高かった Essence Worm とまあ、MoM 型 golementalist をやれ!と云はんばかりの ドロップが續いたんだから、やるしかないでせう (と云ひつつ、Elemental Hit Totem じじいをやってゐたので、けっこう迷った ――始めてみたらめちゃくちゃ氣に入って、逆に EH Totem じじいは解體されてしまったが)。

golem を使ふビルドは初めてやったが、實に快適だった。 前にやった minion ビルドは skelemancer で、 まあ確かに skeleton たちは強かったんだけど、 杖を持ってた所爲で本體の移動がクソすぎたし、 skeleton は時間経過で消えるのでしょっちゅう呼ぶ必要があったしで、 いまいちだったのだ。

それに對して golem ちゃんの有能なこと!  ice golem 6 體 + stone golem, lightning golem, chaos golem と 4 種の golem を運用したのだが、 ice golem がめちゃくちゃアグレッシヴ。 こっちが歩いてるだけで敵が死んでいくんだからたまらない。

移動は skelemancer のときと同じく Flame Dash を使ったが、 こっちは Phase Run といふ、透明になって足が速くなるスキルも併用できたので 移動に關する不快感は全くなし。 それどころか、Phase Run が快適すぎて、今後も餘裕があれば絶對入れよう、 と思ふレベルだった。

しかも、elementalist の能力がずるい。 lightning golem がゐれば shock 無効、 ice golem がゐれば chill および freeze 無効だもん。 お蔭で flask にかなり自由が利いた。 elementalist でなく occultist や necromancer でも golem ビルドはできるらしいが、 これを味はってしまふと、そっちでやる氣にはなれない。 いやまあ、flask で解除できる程度のことではあるんですけど。

で、この golementalist、中盤には Headhunter を拾へるぐらゐついてゐたので、 クラフトもがんばった。 その成果の一つがこれだ。

minion life / minion damage つき bone helmet 完成。ライフとレジもついて萬萬歳。

minion life、minion damage がついて、ライフもレジもついた bone helmet。 bone helmet 自體も自分で拾ってきたやつだったので感慨も一入。 まあめちゃんこ大變で、何日もかかりましたけど。 鎧も鎧でがんばったのだが、ほしい mod の揃ったやつが安値で賣られてゐたので結局そっちを買ってしまった。

ちなみに、クラフトに使ふアイテムは前リーグで導入された azurite mine なる場所で掘ってくる必要があるのだが、 この mine がめちゃくちゃ樂しかった(終盤はさすがに飽きてすっ飛ばしまくったけど)。 大袈裟に思はれるかもしれないが、mine にはハクスラに必要なものがほとんど揃ってゐると思ふ。 なんたってリターンはでかいし、mine でしか手に入らないものがあるのに 逆に mine で手に入らないものはあんまりない、といふ豪華さ。 しかも、燃料さへあれば無限に掘り續けられる!

ユニークアイテムだからスキルのダメージを 10000% にするよ!とか 無限ダンジョンがほしい? ぢゃあ無限に敵が強くなるやつを用意したよ! とかゲームの何たるかを全くわかってゐない實裝ばかり續けた某ディアブロさんに 見習っていただきたいものだ。

だって、PoE の無限ダンジョンたる azurite mine は敵が弱い場所を無限に掘ることだってできてしまふのだ。 それでゐてリターンがしょぼいかといふとそんなこともない。 うまくやればバッチリ儲かるのだ。 1 月頃は口を開けば mine 樂しい mine 最高、としか云ってなかった氣がする。

クラフトといへば、元手ほぼゼロでどえらい高級品もできた。

7% max life, global crit multi, crit multi while dual wielding とすばらしい引き

これ、最初は 7% maximum life がついただけの jewel だったのだが、 augment 打ったら global crit multi がついて、regal 打ったら さらに crit multi while dual wielding がついたといふラッキーにラッキーが重なった代物。 ラッキーといへば、いつも貯め込むばかりの diamond ring を鑑定したら、 一つだけめちゃくちゃいいやつがあって、10exa だかなんだかで賣れたことも憶えてゐる。 まあ、だいぶせっせとやりましたからね、今リーグは。

と、ここまで書いてきて、今囘のリーグ要素に全く触れてゐないことにお氣づきだらうか。 今囘は Betrayal(裏切り)リーグといふ名のとほり、 これまで味方として出てきてゐた forsaken master たちが軒竝み敵に囘る、といふリーグで、 これがつえーんだ。 hardcore でやってる人らのほとんどが無視してたとすら云はれるほど。

そんな理不盡な強さを誇った master たちだが、 めちゃくちゃおいしい報酬も僅かながらあって、 それには金策面で大變お世話になった (が、次リーグからおいしかった要素は全部 nerf されてしまふのであった…)。

そのおいしい報酬の一つが breachstone のアップグレードで、 これは金策にも使へるし、自分のレベルアップにも使へるといふ素適なやつ。 中盤までは金策に使ひまくったが、終盤は自分のレベルのために使った。 お蔭で、初のレベル 100 到達を達成したし、 レベル 100 に到達できたお蔭で初のチャレンジ 40 達成もできた。 さういふ意味では、今囘のリーグはよかったといへばよかった。

レベル 100 &amp; チャレンジ 40 達成!

でもまあ、それはなんといふか、ほんの少しだけ、 どでかい報酬が用意されてた、といふだけの話で、 クラフト mod はなっかなか集まらないし(未だに全て集まってゐない)、 いちいち死の危険性があるし(今囘はレベル 100 を目指したので經驗値 10% 減のデスペナはめちゃくちゃ痛かった)、 まあ、嫌な要素のはうが多かった、といふのが正直なところ。 次リーグからはクラフト mod がさらに集めにくくなるし(出現率が減るため)、 得られる報酬は目減りするし、いっそコア入りしないでくれ、と思ってしまふレベル。

今囘かなりがっちりやったので次のリーグは休むつもりだが、 チャレンジ報酬がかっこよかったらやってしまふかもしれない。 とはいへ、もうレベル 100 に挑戰することはないだらうし、 また Headhunter を拾ふなんてこともないだらう。 さうなるとチャレンジ 40 はたぶん(いつもどほり)無理だし、 なぜだかがっぽり稼げた今囘とは違ひ、 Headhunter 代を捻出するのにも苦労しさう。 lab だの temple だのといった今リーグ序盤に使った金策は健在だから ある程度までは行けるかもしれないが、 まあどうするかは今のところ不明。 やりたいゲーム、ほかにもあるしね。

といったところで、Betrayal 總括はおしまい。 リーグ要素はいまいちだったけど、前リーグ要素の mine とか、 おれみたいなやつには今リーグでしか達成できなさうだったレベル 100 だとか、 Headhunter のドロップだとか、 自力で大部分のアイテムを揃へた golementalist だとか、 樂しかったことはたくさんあったので大満足です。

※2019/02/26 追記

最後に golementalist のはうでも uber elder に挑戰してきた。 めっちゃ樂勝でしたわ…。 かつての苦労はなんだったんだってレベル。

なんたって golem が勝手に攻撃してくれるから、 自分は逃げ廻ってゐるだけでいい、といふ樂ちんさ。 golem 自體の火力もかなりのものなので とにかく逃げてれば終はる。 1 囘殺されたけど、しょぼいミスなので何度かやればノーデスで安定するでせう。

こっちは初めて uber elder を倒したときの動畫だが、 これはホント手に汗握る鬪ひだったのを憶えてゐる。 RF の火力だけでは不充分だからサボらずビームを打つことと、 タコの作るダメージ床がかなり痛いので優先的に処理すること、 といふ 2 つを守った上で敵の攻撃を避けなくてはならなかったので、 忙しくて仕方なかった。

特に厄介なのは shaper のはうで(uber elder といふ名だが、 ボスは實質 shaper と elder の 2 體ゐて、 shaper はビーム出してくるはう)、 先に死ぬのは shaper のはうなんだが、 shaper を倒したときはめちゃくちゃ嬉しかったですね、もう。 elder の攻撃はヘボいから、shaper さへ倒せれば勝ち確みたいなもんなのだ。

しかし、これに比べて golem の樂なことよ…。 まあ、世の中にはたったレベル 32 だかなんだかで uber elder 倒すやうな人もゐるわけだが、 おれのやうなヘボプレイヤーは、かういふ dps 充分で勝手に攻撃してくれるやうなのがいいですわ。

※2019/03/05 追記

完全にリーグが終了したので囘ったマップの記録も載せておく。

Mapwatch による全マップ記録がこれ。

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Exile Diary によるとかう。

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だいぶ開きがあるのは Exile Diary が一人のキャラしか追跡してくれないため。 つまり、ゴーレムで囘した記録のみ。リーグ前半でやってた RF や EH Totem が記録に入ってゐない。 あとちょいちょい記録漏れしてるっぽい。原因はわからない。

元の畫像は縦にめちゃくちゃ長いのでここに載せてるのは一部分。クリックすると全体が見られる。 しかし、たった 8 つしか exa 拾ってないってのは信じられない。 859 map で 8 つだとすると、記録漏れの所爲だとは思ふが、それにしても…。 Mapwatch による 1904 maps といふ數字が正しいのだが、 さうだとして、せいぜい倍ちょっとだから、20 個ぐらゐしか拾ってないことになる。マジかよ。

ちなみに、リーグ終了時点でカレンシータブにあった exa は 206 個。 せっせと餘ったカレンシーを exa に換へてゐればミラーも買へたのかもしれないが、 さすがにめんどくさかったのでやらず。 結局、ミラーを買ふといふ目標は達成できなかった。無念。 それでも、これまでのリーグではリーグ終了時に餘ってる exa なんて 30 弱だったので、 8 倍ぐらゐは稼いだことになる。 headhunter 代が節約できたとはいへ、これまでのリーグは何やってたんだってレベル。

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今リーグで集中的に囘ったのは desert spring (T15) で、その記録はこれ。

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Exile Diary だとかうなる(例によって畫像は一部分だけ)。

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こちらに餘り差がないのは、desert spring を囘すやうになったのがゴーレムを育ててからだから。 desert spring にした理由はいろいろあって、まづ明るいこと。 次に、廣くて障害物もほとんどないから、breach つけるのに最適なこと。 最後に、ボスがインターバルを挟むので、headhunter によるバフがもらへること。 大體、この邊りが理由である。

稼ぎのほとんどが chimera map になるのは當然として、 splinter of tul が多いのはちょっとびっくり。 esh, tul, xoph の 3 つはおおよそ均等に出てゐると思ふのだが、なぜここまで差がつくのか。 esh なんか囘數が多い割に splinter のドロップが渋い印象はある。esh 本人も出てこないし。 反面、tul はちょいちょいご本人が降臨してくれてドバっと splinter をくれる。 xoph はまあ、たまーに出てくるかな、ぐらゐ。 きっとそれが如實に差になってゐるのだらう。

offering は毎囘ダダ餘りしてしまふが、今囘は 110 個も餘らせてしまった。 理由は明白で、fragment tab を買ったからである。 スタッシュを圧迫しないと賣る動機が減少するんだよな…。 それでも 80 個ぐらゐは賣ったはず。たった 2exa ぐらゐにしかなってないと思ふが。 自分で囘ったはうが確實に儲かるが、110 囘も lab 行きたくないし…。 大體、チャレンジの lab 箱 500 は達成してるから、100 囘ぐらゐは囘ってるんだけど。

過去のリーグもどれぐらゐマップ囘ったかは Mapwatch で調べられるが、 今囘とめちゃくちゃ差がある、といふわけではない。 1300 とか 1500 とかは囘ってるはず。 それで稼ぎにこれだけ差がついたのはなんでだらう。 といふか、これまではなんであんなに稼げてないのか、のはうが疑問。 delve なり pure breachstone なり稼ぐ方法は確かに増えたが、 それを考慮に入れても稼ぎの差がでかすぎる。 稼ぎの知識がついたってことなんだらうか。

それとは全く關係ないが、今期から導入した Mercury Trade は ひっじょーーーーによかった。 パネルがちっちゃくて邪魔にならないし、ボタン一つで定型文のやりとりからパーティー離脱までサクッとできる。 何より、トレード一つに対して窓一つで對應してくれるから、 多人數を呼んだときに、自分がいま誰とどういふトレードをしてゐるのか混乱しないのがいい。 これまではトレードのたんびに身を起こしてキーボードに向かふ必要があったのだが、 それが完全になくなり、快適なモンゴリアンスタイルを貫けた。 今後、これなしでの PoE は考へられないなあ。

といったところで、追記はおしまい。 稼ぎの面でもさうだけど、shaper や uber elder がちっとも怖くなくなったりとか、 なんやかんやでけっこう知識が増えたリーグだったのではないかな。

Captain Beefheart

多作で知られる Frank Zappa(以下、FZ)の作品にはリリース順に番号が振られてゐる。 生前にリリースされたのは #62 の The Yellow Shark まで、 つまり 2019 年 2 月現在リリースされてゐる #111 までのうち、#63 以降は死後のリリースである。 いつの間にやら、なんと半分ほどの量を占めるに至ってゐる。

おれが熱心に FZ のアルバムを追ひかけてゐたのは 2002 年リリースの FZ:OZ までで、 なぜそこで追ふのをやめたかといふと、#69 以降のアルバムは Zappa Family Trust といふ、 FZ の遺族が運営してゐた個人レーベルからのリリースになってしまひ、 FZ が生きてゐれば發表されなかったであらうクソみたいな藏出し音源の 詰め合はせは安いくせに、 そこそこまともな内容のものは法外な値段で、 おまけに日本には祿に入荷すらせず、 高い送料を拂って買ふしかなかったからだ。 あまりにコストパフォーマンスが惡かった上、 FZ が亡くなってしまったから仕方ないとはいへ、 どのリリースも、過去の音源を無理やり引っ張り出して來たやうにしか見えなかったのも 購入意欲を減退させた原因の 1 つだ。

2010 年頃からだいぶマシなものがリリースされるやうになりはしたが、 マシなものといふのも過去のライブばかりで、 ライブ音源でも鬼のやうに編集しまくった FZ だから、 やはり生きてゐればかうしたリリースはなかったのではないか、と思ふと どうしても買ふ氣にはなれなかった。

そんな状況が續いてゐたのだが、 2015 年に記念すべき #100 としてリリースされたのは、 ファンがずっと待ち侘びてゐた、 FZ が生前に制作してゐた最後のアルバムの 1 つとして知られる Dance Me This であった (この時期に制作されたものはほぼリリースされたが、 未だに FZ の敬愛する Edgar Varèse の作品を録音した The Rage & The Fury のみリリースされてゐない)。

さすがにこれはおれも買った。 タイトルから推し量れば、ダンスミュージックのはずであるが、 そこは FZ、もちろん踊れるやうな曲ではない (だからこそ、「これを踊ってみせてくれ」と挑戦的なタイトルなのだらうが)。

この作品はシンクラヴィアによる演奏が主体になってゐる。 シンクラヴィアは一應は電子楽器であり、 シンセもサンプラーも入ってゐる統合音樂制作装置だが、 このアルバムはテクノでもハウスでも EDM でもない。 FZ のシンクラヴィア作品を聽いた人ならわかるが、 まさに FZ のシンクラヴィア作品、としか云ひやうがない作品になってゐる。

聽いてもらへればわかるが、このアルバムにはホーミーが入ってゐる *1實は、この作品だけでなく、 やはり生前に完成してゐたもののリリースが叶はなかった Civilization Phaze III といふシンクラヴィア作品にもホーミーが取り入れられてゐる。 制作時期はほぼ同じだから無理もないことだが、 持ってゐるくせに何年も前に聽いたきりであった (なんたってしゃべりばかりなのだ) Civilization Phaze III にホーミーが入ってゐたことを確認し、 晩年の FZ がホーミーに興味を持ってゐたといふ事實に氣づいたとき、 おれが思ひ浮かべたのは、Captain Beefheart その人であった。

Captain Beefheart こと Don Van Vliet は FZ の高校の頃からの友人であり、 Captain Beefheart といふ珍妙なステージネームも FZ の發案によるものである。 コラボレーションもいくつか殘されてゐるが、 Beefheart は 1982 年の Ice Cream for Crow を最後に音樂の世界から離れ、畫家として過ごした。 FZ よりは長く生きたが、70 の誕生日を迎へる一ヶ月前の 2010 年 12 月に死去してしまった。

さて、先の Dance Me This制作されたのは 1993 年である。 Beefheart が音樂をやらなくなってから、10 年もの月日が流れてゐたわけだ。 そんなときに、ホーミーを聽いた FZ の心境はどんなものだったのだらう。 あのホーミー特有のダミ聲は Beefheart の聲を想起させたのではないか。

もちろん、徹底的なリアリストである FZ が、 そのやうな感傷に囚はれてホーミーを己の音樂に採用した、などといふことはあるまい。 Beefheart のことが意識に上ったかどうかすら疑問だ。 しかし、それでも、無意識の底で FZ に訴へかけるものぐらゐはあったのではないか。 そんな風に思へてならないのである。

Captain Beefheart は、FZ のやうに緻密に樂譜で指示を与へるタイプではなく、 口笛と、弾いたことすらなかったピアノとで傳へるといふ、實にバンド泣かせな方法で作曲を行ってゐたらしい。 つまり、Beefheart の音樂をリアライズするには his Magic Band が不可欠だったわけであり、 一から十までシンクラヴィアに自身の音樂を入力することができた FZ とは 音樂のありやうが根本的に異なる。

しかし、Beefheart の音樂は、大きく誤解されてゐる。 それは、彼の代表作とされてゐるのが、彼の生前にリリースされたものの中で 唯一 FZ が全面的にプロデュースした Trout Mask Replica だからである。

確かに、 Trout Mask Replica はすさまじいアルバムだ。 出鱈目に聞こえるこの音樂は、萬引するほどに困窮しながらも 1 日 12 時間の練習を 8 ヶ月續けた上で録音されたもので (その入念な準備があったために實際のレコーディング自體はたったの 4 日で完了してゐる)、 Beefheart にしか到達し得ないであらう前衛として、今でも屹立してゐる傑作である。

といって、それだけが Captain Beefheart だと思ってほしくない。 確かに、Beefheart のアルバム中で歴史に殘る傑作は Trout Mask Replica だけだらう。 が、 Guernica だけが Picasso ではないやうに、 それ以外にも、Beefheart にはすばらしい曲、すばらしいアルバムがあるのだ。

Beefheart は、1967 ~ 82 年の 15 年に亙る活動で、10 枚強のアルバムを録音してゐる (はっきりした數が云へないのは、沒になって使ひ囘したものなどがあるため)。 このうち、おれが是非とも聽いてほしいと思ふのは Clear SpotBat Chain Puller の 2 作である。

Beefheart といふ人は金に困らなかったことがない、 といふぐらゐいつも貧窮してゐて、 それでは困るからと商業的な路線に走った時期がある。 具體的には 1972 ~ 74 年で、この時期には The Spotlight KidClear SpotUnconditionally Guaranteed および Bluejeans & Moonbeams の 4 枚がリリースされてゐる。

この 4 枚は Beefheart 作品の中でも非常に聽きやすい。 おれが特に好んでゐるのは Clear Spot なのだが、 それは、この 4 枚の中で Clear Spot のみソウル色が強いからである (他の 3 枚はブルーズ寄り)。 例へば Too Much Time なんか もう完全にソウルだ。

ホーンの使ひ方もコーラスの入れ方もこれ以上ないぐらゐソウル。 こんな曲が書けるんならもっと書いてくれよ!と云ひたくなる。 他の収録曲も輕快でキャッチーなものばかり。 ベースも元 Mothers ~ Little Feat の Roy Estrada なので、 FZ や Little Feat ファンにもおすすめ。 實際、Trout Mask Replica は 1 年に 1 囘聽くかどうか といふやうなアルバムだが、 Clear Spot はしょっちゅう聽く。

殘りの 3 枚はブルーズ寄りだと書いたが、 そもそも Beefheart のアルバムは大抵がブルーズである。事實、 Trout Mask Replica 以前の作品、 Safe as MilkStrictly PersonalMirror Man の 3 つはどれもブルーズだ。 Beefheart のダミ聲が似合ふのは、ソウルよりはやはりブルーズであらう。

さうした多くのブルーズ・アルバムのうち、 最も完成度が高いものこそ、 Bat Chain Puller である (次點は Safe as Milk)。

この Bat Chain Puller といふアルバムは、 發賣に漕ぎ着けるまで、一悶着どころではない騷ぎがあった。 簡單に云ふと、このアルバムを録音するための金が マネージャーの手によって FZ の懷から勝手に出されてをり、 もちろん激怒した FZ は録音が完了してゐたマスターテープを沒收、 結局リリースされたのは 2012 年(録音は 1976 年)で、 つまり、FZ も Beefheart も鬼籍に入ってからやうやく日の目を見たといふ、 いはく附きのアルバムなのだ。

聽いてみればなるほど後々まで Beefheart が リリースさせろと FZ に云ひ續けたのも納得の出來 (Beefheart にとってのラストアルバム Ice Cream for CrowBat Chain Puller録音を半分使はせろと要求して斷られてゐる)。

Beefheart ならではのどろどろねっとりとした、 むせ返るやうなブルーズが飾り氣のない實直な佇まひで詰め込まれてゐる。 Bat Chain Puller を惜しんだ Beefheart は以降の Shiny Beast(副題は Bat Chain Puller!)、 Doc at the Radar StationIce Cream for Crow の 3 枚で Bat Chain Puller の曲を 再録音してゐるが、それらはどれも少し洒落た感じになってゐて Bat Chain Puller聽けるやうな泥臭さはなく、 Bat Chain Puller の曲を 存分に味はへるのは、Bat Chain Puller を 措いてないと云へる。

殘念ながら、このアルバムは Zappa Family Trust が Universal に身賣りした際に 引き取ってもらへなかったらしく、現在は廃盤扱ひである。 この名盤が聽けないといふのは憂ふべき事態である。 早急に再發してもらひたいものだ。

さて、おすすめしておいてなんだが、 Clear SpotBat Chain Puller Beefheart らしさが樂しめるアルバム、ではない。 ソウルやブルーズに偏りすぎてゐて、 Trout Mask Replica のやうな 破茶滅茶さなのが聽きたいんだ、といふ層には期待はずれになってしまふだらう。

さうした人たちにおすすめなのは、 Trout Mask Replica のすぐあとに出た Lick My Decals Off, Baby晩年の Shiny BeastDoc at the Radar StationIce Cream for Crow あたり。

これらのアルバムは、どれも Beefheart らしさを保ちつつも、 すっきりまとまってゐて Beefheart にしては比較的聽きやすい。 晩年の 3 つは洒落っ気もあり、初めて聽くといふのであれば Trout Mask Replica より ずっと入門に適してゐると思ふ。

だから、Beefheart を聽いたことがないといふ人には、 Sun Zoom Spark といふ ボックスを個人的にはおすすめしたい。 Lick My Decals Off, Baby だけでなく、 おれのおすすめ Clear Spot も入ってゐるし、 聽きやすさでは Clear Spot と雙璧の The Spotlight Kid まで入ってゐる。

それが氣に入ったら、 Trout Mask Replica に手を出す、 といふので充分。 別に誰もが前衛を好む必要はなからう。

それにしても、高校時代の友人であっただけの FZ と Beefheart の雙方が 歴史に名を留めるであらう作品を作るなどといふことが、よくも起きたものだ。 FZ を聽いて Beefheart を喚起し、Beefheart を聽いて FZ を偲んでしまふのも宜なるかな。 Muffin Man200 Years Old 以外にもデュエット作品が殘ってゐればなあ。

Dance Me This

Dance Me This

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Bongo Fury

Bongo Fury

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*1:なんとこのホーミーの録音風景は YouTube にアップされてゐる。 いやはや、ネットにはなんでもあるんぢゃないか、といふ氣になりますな。

James Brown

物欲に囚はれ、電子の世界には山のやうにゲームを積み、現實ではレコードや CD、 本を所狭しと置きまくってゐるおれではあるが、 ミニマリストの欲求といふのは、わからなくもない。

といって、別に身輕になりたいと思ってゐるわけではない。音樂の話である。 いや、音樂の話といっても、 ミニマル好きが昂じてドローンへ行き着いてしまった、 とかさういふ話でもない。

おれが好きなのは、どこか過剰なところのある音樂である。 それは別に要素の多様さや、一線を越えてしまったものなどに限ったことではなく、 最小要素で見事に構成された音樂も含まれるよ、といふ話なのだ。 この場合は、過剰な少なさを愛してゐるわけだ。

例へば、少し前に映畫が大ヒットした Queen といふバンドがある。 映畫の内容に興味がなかったためおれは見に行ってゐないが、 それでもおれは、結構な Queen のファンである。

その Queen の、おれが考へる最も偉大な業績は、 We Will Rock You を作ったことである (なほ、最もすばらしいアルバムは Innuendo だと思ってゐるが、 その話はまたの機會に譲らう)。

あの曲の素晴らしさは、なんといってもその構成要素の少なさだ。 足踏みと手拍子、ヴォーカル、最後にほんの少しのギターソロ。 たったそれだけなのに、完璧にロックだ。 普段は歌詞など音樂的な価値には關係しないと主張してゐるおれだが、 この曲に限っては、サビの “we will rock you” といふ言葉も この曲の価値を高めるのに一役買ってゐる、と認めざるを得ない。 誰もが口ずさめる單純さに加へ、おまへをロックしてやる、 といふ、わかるんだかわからないんだか不明の、 それでゐて實にロックな言葉。 これ以上にこの曲に相應しい歌詞もあるまい。

しかし、別に Queen はさういふ音樂ばかり作ってゐたわけではない。 Queen の曲で最も有名な Bohemian Rhapsody などは 構成要素が少ないどころか、逆に過剰すぎる曲である。 そこがまた愛される部分でもあるのだらうが、 實際そちらのはうが Queen らしくはある。

そんな Queen とは違ひ、意識的に極小の要素で曲を作りまくってゐた男がゐる。 James Brown だ(以下、JB)。

JB は Godfather of Soul と呼ばれることもあるとほり、 ソウル・ミュージックの生みの親であるわけだが、 ソウルと呼べる音樂を同時代に作ってゐたのは何も JB ばかりではない。

例へば Sam Cooke。例へば Otis Redding。それにもちろん、Motown の面々。 大體、未だに R&B とソウルの境界ははっきりしてゐない (まあ、現代の R&B と呼ばれる音樂は、 かつて R&B と呼ばれてゐた音樂とはだいぶ違ふので、 それを R&B とするなら、かつての R&B から派生したソウルとは 明確に區別できるが)。

JB の眞に偉大なところは、ファンクといふ、 新しい音樂の可能性を表現したことだ。

山岸由花子のあれ

殘念ながら、 高いマンガ力をお持ちの荒木飛呂彦先生は Grateful Dead を正しく譯せない程度の英語力しかなく *1これも正しい答へはないのだが、話の中で正解とされてゐる「原始の音楽」といふのは あながち外れてゐるとも云へない。 funky といふのは、「古臭い」とか「野暮ったい」といった意味の單語だからだ。 それを「洗練されてゐない」と解釈すれば、まあ「原始の」まではそれほど遠くない。

どの邊りが洗練されてゐないのか、聽いてもらはう。

これを唄ってゐる人が JB である。 この人だったのか!と思ふ人もゐる程度にはよく知られた曲であらう。

この曲の何が funky なのか。

敏感な人はすぐ氣づくだらうが、この曲はたった 2 小節で構成されてゐる。 しかも、verse で 1 小節、bridge で 1 小節である。 その 1 小節を、蜿蜒と繰り返してゐるのだ。 加へて、verse といふのは日本で云ふ A メロ、 bridge といふのは日本で云ふ B メロのことだが (サビは chorus である)、 聽いてもらへればわかるとほり、 メロディもクソもない。 入ったばかりの Collins 兄弟は こんな繰り返しだらけのギターとベースを弾かされてて、どう思ったのだらう。

といふのにだ。 これだけで死ぬほどかっこいいのが JB の偉大さだ。 たったこれだけで音樂は人の體を揺さぶることができる、 それを JB はハッキリと示してみせた。

JB がかうした極小要素のファンクの先鞭をつけたのが、 1969 年に發表された Give It Up or Turnit a LooseI Don't Want Nobody to Give Me Nothing (Open Up the Door, I'll Get It Myself) および Mother Popcorn である。 中でも、特筆に値するのは Mother Popcorn であらう。

こちらは、verse、bridge ともに 2 小節で構成されてゐる。 Get Up (I Feel Like Being a) Sex Machine の 2 倍、 しかも Maceo Parker のサックスソロまで入ってゐる。

と、構成要素が多いやうに書いてみたが、 實際に聽いてみれば、ほぼずっと同じことの繰り返しである。 しかし、おれは JB の曲でこれが最も好きだ。

何よりドラムがいい。 このときのメンバーは JB のバンドの最初の黄金期である (先の Get Up (I Feel Like Being a) Sex Machine が録音される直前に 給与紛争で全員が馘首されてゐるが、新メンバーが次の黄金期を築いてしまふのだからそれもまたすごい)。 つまり、ドラムは世界で最もサンプリングされたドラマー、Clyde Stubblefield その人であり、 かっこよくないはずがないのだが、 verse 1 小節目の 最後に入るスネアの絶妙さといったらもう (スネアは普通、1 小節を 8 つに區切ると 3 と 7 の位置に入れるのだが、 この曲は 1 小節目のスネアが 3 と 8 の位置に入ってゐる)。

ニコニコ動画に「耐久~分(あるいは~時間)」と題した、 同じ音樂をループさせ続けるものがよくあるけれども、 JB はそれをリアルに、ポップミュージックとして、 1969 年の時点で發表してゐた、と云へる。

いやいや 6 分しかないぢゃん、って?  この曲の再生時間は本質的なものではない。 これは當時の 7 インチシングルの収録時間が常識的に片面 3 分程度であったから、 両面合はせて 6 分ほどになってゐるだけで、 實際に聽いてみれば、6 分とは思へないほどに繰り返しの感覚を味ははされたと思ふ。

JB はさういふ、最小要素の繰り返しでも充分にポピュラー音樂が成立する、 といふことに逸早く氣づき實踐した天才である。 おお、JB よ、榮光なれ。

ところで、これは完全に餘談なのだが、 この Mother Popcorn はシングルで發表されたため、 もともとの 6 分ほどの演奏を 2 つにぶった切ってあり、 その所爲で A 面の最後と B 面の最初がかぶってゐる。 先の YouTube で聽けるものは、それを單純につなげただけなので、 Maceo Parker のソロが始まるあたりで少し巻き戻ったやうになってしまってゐる。 これは、この曲が収録されてゐる It's a Mother でも同樣で、實に殘念なポイントだ。

で、もともとの 6 分ほどの、切られなかったヴァージョンはないのか?といふ話になるのだが、 これは JB の 4 枚組ボックス Star Time にしか収録されてゐないやうだ。 おれはもちろん持ってゐるので、この曲を聽くときはいつもそれを聽いてゐるが、 なんとこれ、Spotify でも聽けないStar Time 自體はあるのに!)。

何が云ひたいかっていふとですね、それでしか聽けないのだし、 それでなくとも Star Time はすばらしいボックスだから JB が少しでも氣になるなら迷はず買へ!ってことだ。

JB のひとつも持ってないなんて、音樂好きとして恥づべきことですよ?

Star Time

Star Time

  • アーティスト:James Brown
  • 出版社/メーカー: Polydor / Umgd
  • 発売日: 1991/05/07
  • メディア: CD

*1:おれが云ふまでもなく知られた事實だらうとは思ふが ――といふか Grateful Dead のファンならきっと大抵の人は知ってゐることだが――、 grateful dead は「偉大なる死」ではない。 grate の部分を見て「偉大」としたのだらうが、「偉大な」のは great で綴りが違ふ。 grate は gratify 「満たす・満足させる」と同じ語源を持つ語である。 それに、「死」は death であって、dead は「屍體、屍者」といふ意味だ。 日本っぽく訳せば「成佛した屍者」とかだらうか。 尤も、英語力はマンガの価値に寄与するものではなく、 この譯が間違ってゐたところで、ジョジョの面白さに何の傷もつかないのは当然のことだ。

Games I played in 2018

2018 年に聽いた中でよかったものを書くかも、といふ話を友人にしたのだが、 音樂ではなくゲームのはうで書くことにした。 おれのやってゐるゲームはスチマーにとっては有名だらうが、 さうでない人たちにとってはまるで有名ではないので、 さういふ人たちに紹介する場はいくらあってもいいかな、と思ってゐたのである。 まあ、さういふ讀者が一人増えたから、といふのが直接的な動機だが。

全くの餘談だが、おれは自分が聽いてゐる音樂も、 ちょっと音樂に詳しい人にとってはメジャーなものばかりだよな、と信じてゐる。 まあ、プレス枚数を見るとさうでもなささうではあるが…。


Environmental Station Alpha

閑話休題。 さて、おれにとって 2018 年を象徴するゲームはといへば、 Environmental Station Alpha(以下、esa)をおいてない。

發賣されたのは 2015 年なので、別に 2018 年の新作ゲームといふわけではない。 ちゃうど昨年の今ごろだったか、steam で新しい友人ができ、 その友人が猛烈にプッシュしてきたゲームだったのだ。

いやー、ハマりましたね。 どれぐらゐハマったかといふと、 全文日本語譯日本語攻略ガイドだけでなく、 ボスラッシュ攻略ガイド、RTA ガイド(翻譯)と 4 つもガイドを書き上げてしまったほど。 このブログのプロフィール画像に使ってゐるのだって、esa のアイコンである。

ジャンルはメトロイドヴァニアだが、キャッスルヴァニア部分ある?と 問ひたくなるほどにメトロイド。

メトロイドヴァニアの面白さは、探索要素にかかってゐると思ふ。 基本ルートは存在するが、ちょっとしたテクニックを使ふことでショートカットができ、 先々でとるはずのパワーアップアイテムなんかを先取りできたりする樂しさ。 最初に訪れた段階では意図のわからない部屋が、あとになって明らかになる謎解き。 さういったものが、メトロイドヴァニアの肝である。

esa はさうした部分が練りに練られてをり、最初のエンディングを見た時点では、 ほとんどが謎の儘である (セーブデータに探索度のやうな数値が表示されるのだが、 最初のエンディングを見ただけでは 100% に達しない――ちなみに最大で 203% である)。

難易度上昇も緩やかで、一部そりゃ無理だろ、と云ひたくなるやうなものもあるが、 何度もやってゐるとできるやうになるのだから不思議なものだ (一例として、床や壁に触れただけで死ぬため、無限ジャンプで切り抜ける必要のある部屋があるのだが、 初見では死にまくったその部屋も、今や失敗するはうが稀、といふレベルになった)。

おれは、このゲームを隅から隅まで舐めつくした。 日本でおれよりこのゲームに詳しいやつはゐまい、といふほどにやった。 それだけの面白さが詰まったゲームだったからだ。

グラフィックのショボさで敬遠する人もゐるが、騙されたと思ってやってみてほしい。 メトロイドクローンの中では、これが最高峰だとおれは思ふ。


Risk of Rain

遊びまくったといへば、じきに 2 が出るらしい Risk of Rain も今さらではあるがたっぷりやった。

ローグライク、といふことになってゐるが、ローグライク要素はそれほど強くない。 敵を倒し、金を集め、その金でアイテムをとって自キャラを強化しクリアを目指す、 といふのが基本的な流れである。 出るアイテムがランダムだったり、マップにほんの少しのランダム性があったりはするが、 それはそこまで大きくない。

このゲームの最大の特徴は、時間が經てば經つほど、敵が強くなる といふことだ。 自キャラを強化するためにはアイテムを取ることが必要で、 そのためには敵を倒さなくてはならないのだが、 のんびり敵を倒してゐると、どんどん敵ばかり強化され、自キャラの強化が追ひつかない。 そのバランスを見極めて、自キャラを強化しなくてはならない。

最初のうちは取得できるアイテムも完全にランダムなため、容赦なく死にまくる。 セーブ、などといふ概念はなく、死ねば最初からやり直しである。

ただ、ローグライクと違ふのは、アンロック条件さへ解除すれば、 アンロックしたものは次からも使へる、といふ點だ。 さうして、死にまくりながら、使へるキャラや取得できるアイテムを増やすことに励んでゐると、 だんだんコツが摑めてくる。

さうなってからが、Risk of Rain の本番である。

Risk of Rain では、同じアイテムを複数所持することができる。 例へば、宝箱のやうな設置物を開けたときに敵を攻撃する花火が出る、 といふアイテムがある。 これは、1 つとっただけではカスみたいなアイテムだが、 複数取ると、宝箱を開けただけで畫面中に花火が飛び出し (終盤では処理落ちするレベルで花火が出る)、 畫面内の敵を殲滅し尽くすすさまじい兵器になる。

このビルドで遊んだときは、自分では攻撃しないといふ縛りで遊んでゐたのだが、 花火で攻撃するには宝箱を開けなくてはならないので、 宝箱を召喚できるアイテムを取得し、そのクールダウンをとにかく下げる、 といふ方向で育てた。

そんな感じで、「誰が使ふんだよ、こんなの」と思ふやうなアイテムでも、 うまく組み合はせることで無類の強さを誇るやうになるのが非常に樂しい。

ゲームをプレイすればするほどアンロックされるものは増えるが、 かといってゲームが樂になるのかといへばそんなことはなく、 ゲームの難易度を上げるアイテムもアンロックされるので、 ばんばん縛り要素を追加して遊べるのも魅力だ。

シンプルながら、リプレイ性に富んだゲームで、 モンスター図鑑といふやりこみ要素もあったため、これまた遊び倒したwiki がいまいちだったので初心者向けガイドも書いた)。


RunGunJumpGun

アクションで鬼畜だったのは、RunGunJumpGun。 鬼畜すぎて未だに最後までやってゐない。

先に esa で床や壁に触れただけで死ぬ部屋があると書いたが、 このゲームはその部屋のバリエーションを變へて何度もやらされる感じ。 あまりに鬼畜すぎて笑ってしまふので、アクションが得意な友だちにもあげ、 その友だちの苦しみっぷりを見てゲラゲラ笑はせてもらった (かつて公開されてゐたトレイラーが非公開になってゐるのはなぜなんだぜ)。

使ふボタンはたった 2 つといふシンプルさながら、アホみたいにむずい。 ただクリアするだけでも青息吐息だが、ステージ上には緑の玉が配置されてをり、 それを全てとらないと開放されないステージがある。 esa と違ひ、ダメージを受けるのは 1 度だけ許されてゐるのだが、 ノーダメで全てクリアしないととれない實績がある。 となると、實績厨のおれとしては、緑の玉をコンプして ノーダメでクリアすることを強いられるのだが、 気が狂ひさうになるぐらゐむずいのである。 なんたって、最高で 200 囘ぐらゐ同じステージで死んでゐる。

なのに、繰り返しやってしまふのだ。 一ステージが短く、すぐにやり直しできることも リプレイに拍車をかけるが、 死んだときの悔しさと面白さの鹽梅が絶妙である。 死ぬと悔しいに決まってゐるのだが、 一方で「それはあかんやろ、ウハハハハ、クソが」 みたいな笑ひも喚起するのだ。 實にうまいバランスだと思ふ。 まあ、2 面のボーナスステージをノーダメでクリアするのが あまりにきつすぎてそこで積んぢゃってますが。

switch でも出てますよ!!!!(特定個人に向けたメッセージ)


Kenshi

early access もので遊んだのは KenshiFactorio の 2 つ。

Kenshi はニコニコ動画で話題になったため、 日本ではかなりの知名度を得たやうだが、 おれがこのゲームを知ったのはそれよりもだいぶ前で、 友人が唐突に「これ面白さう」とリンクを寄越したのである。慧眼だ。

で、その頃からずっと早くセールになれセールになれと祈り續けてゐたのだが、 これが全然セールしないのである。 それが、6 月に 20% オフになったので、これを逃してはならん!とやうやく購入に至った。

最初にプレイしたときは驚いた。 こっちがクソ弱なのである。 道を歩いてゐると盗賊に襲はれるのだが、 盗賊なんて雑魚ぢゃないですか、普通のゲームでは。 もうボッコボコにやられんの。 だからコソコソ見つからないやうに行動するんだが、 よく見てみると、その盗賊どもは野犬に襲はれて殺されまくったりしてるわけ。 世紀末怖すぎだろ!

https://steamuserimages-a.akamaihd.net/ugc/949580065049417867/7F94AAA77FE1AF623733146D611925E7D9473FBB/

と、そんな北斗の拳もかくやたる世界で生き延びるゲームなのだが、 レベルの上昇具合が緩やかといふのか、 盗賊をボコれるレベルぐらゐまではすぐ成長するが (戦闘はほぼオートだが、武術レベルを上げると飛び蹴りするやうになったりと藝が細かい)、 さうするとまた上位の盗賊だの忍者集団だのが現れ、 それを殺せるやうになると今度はレイシスト騎士団が現れ、 レイシスト騎士団をボコれるやうになるとアイアンスパイダーに四肢切断される、といふ有樣。

とにかくどんどん上位の敵が出てくるのだが、 そいつらを倒すために拠点を作り、 仲間を雇用し(これまた最初はクソ雑魚)、 採掘し、研究を進め、武器や防具を作成し、 ときには麻薬を賣りさばいて金を稼ぐ。 さういった繰り返しで、自分の集団を強くしていく過程がとても樂しい。

仲間が強くなれば探索できる場所も増え、探索が進めばできることも増える。 移動が常に徒歩なので、そこそこ廣大な Kenshi の世界を隅から隅まで巡るには けっこうな時間がかかる。 おれが購入した頃はまだマップの全域が開放されてはゐなかったが、 去る 12 月に遂に正式リリースとともにマップ全域が開放された。

正式リリース直前ぐらゐから、正式リリースが來るまで寢かせておかう、 と思ってそれ以来未だにプレイしてゐないが、今年また遊びたいゲームの 1 つである。


Factorio

Factorio は、一言で云ってしまへば、 ロケットを打ち上げるために、ひたすら研究を進める といふゲームなのだが、研究を進めるための材料を工場で制作するために、 いかに効率的なラインを構築するかといふことに否が應でも注力させられる。

が、やってゐるうちに、最終目標であったロケットの打ち上げはおまけになる。 どうすればラインがすっきりするか、どう配置すれば機能的か、 そんなことばかりを考へるやうになり、一分でいくつロケットを飛ばせるか、 といふ領域になってくる。 もちろん、ゲームとしてはとっくにクリアされた状態だ。

動畫を検索する、といふ当たり前の方法でも他人の工場を見ることはできるが、 Factorio にはブループリントといふ機能があり、 なんとこれは他人の工場・ラインを自分のゲームにまるまるコピーできてしまふ。 他人の發想を氣輕に試せる、といふのは非常にでかい。 初心者のうちは考へ附かないやうなことでも、 他人の完成品をコピーしてきてためつすがめつすることで理解を深められる。 そしてそれが、自分の工場を洗練する。

と、かう書けばわかるとほり、これは終はりのないゲームである。 やり始めるといつの間にか空が明るくなってゐる、といふのを何度も經驗してゐるので、 たまにしかやらないのだが、やり始めるといつもとまらなくなってしまふ。 危険なゲームである。


Dungeon of the Endless

Dungeon of the Endless も面白かった。

未知の惑星に宇宙船が不時着して閉じ込められてしまったため、 最上階へと進み、宇宙船から脱出する、といふのが目的のゲームである。

ローグライク + タワーディフェンスのやうな紹介をされてゐることが多いのだが、 個人的にこれはターン制のストラテジだと思ってゐる。 デベロッパの Amplitude Studios は Endless シリーズをほかにも出してゐるのだが、 Endless SpaceEndless Legend もゴリゴリのストラテジである。 さういふデベロッパの作ったゲームなのだから、 ストラテジ要素が強くて当たり前なのだ。

ターン制であるといふのは、部屋を開けるといふ動作が 1 ターンに相当するからだ。 部屋を開けることで設備に應じたリソースが蓄積され、敵の出現判定がなされる。 その敵を倒し、設備の設置などこちらの行動を終へたところで、また部屋を開ける。 完全にターン制ストラテジぢゃないですか。

ローグライクと云はれることもあるやうに、 ダンジョン(といふか宇宙船)の構造はランダムだし、 出てくるアイテムもランダム。

ゲームの肝となるのは灯りで、灯りの點いてゐる部屋からは敵が出ない。 だから、敵と遭はずに安全に進めるには灯りをマメに燈せばいいのだが、 もちろん電力には限りがあるため、どこを點けてどこを消すかの取捨選擇を迫られる。 さうして、限られたリソースをやりくりし、敵の群れを潛りぬけてゴールを目指すわけだ。

使用キャラによって得意分野が違ふため、さうした部分でも戦略的にならざるを得ない。 トレイラーではめちゃくちゃスピーディーに進めてゐるが、 實際に自分でやってみると、考へなくてはならないことが多く、 一部屋開けるたびにうんうん唸ることになるので、いざ始めるとかなり時間がかかる。

マルチでもできるので、役割分担してやいのやいの進めるのが樂しい。 ちなみに、難易度は too easy と easy しかない。つまり、easy とはいふものの…。


Kingsway

最後はやはりガイドを書くまでやってしまったゲーム、Kingsway を紹介して終はらう。

ゲームをグラフィックで敬遠する層には絶對に選ばれないゲームだが、 これも騙されたと思ってプレイしてほしいゲームの 1 つ。

中身はローグライクで、畫面左側から迫ってくる闇に追ひつかれないやうにしつつ、 自キャラを強化し、ラスボスを倒すのが一應の目的となる。

が、この特殊すぎるガワがゲームに大きな特徴を与えている。

動畫を見ればわかるとほり、とにかくクリッククリッククリック、と 畫面クリックを強要されるゲームなのだが、 狭い畫面に窓が重なったり、窓が搖れ動いたりと、 思ったやうにクリックができないのである。

ゲームの難易度を決める要因といふのはいろいろある。 しかし、わざと不便な UI を用意することで難易度を調整する、 といふ試みをしたのはこのゲームぐらゐではないか。

古臭いグラフィックも、この古臭い UI にマッチしてゐて、 昔からパソコンを使ってゐる人はそれだけでも樂しめるだらう。 それでゐて、ゲームバランスはしっかり計算されてゐて、 ローグライクと云はれるだけのバラエティに富んだ育て方ができるし、 油斷するとすぐ死ぬシビアさもある。

安っぽいゲームだし、實際に値段も安いが、値段以上に遊べることは保証する。


2018 年に遊んだゲームで思ひ出深かったのはこれぐらゐ。 今年遊びたいゲームは For the King(遊びたすぎて買って配りまくってゐるが、未だに誰も遊んでくれない)、 Kenshi の續き、Into the Breach(もらったのにやってない)あたり。 Tangledeep ももらったからやりたい。 なんか switch 版がえらく好調らしいね。

未發賣のものでは、ToeJam & Earl: Back in the Groove!(はよ出せ)、 Risk of Rain 2Katana ZERO、 セールが來たら買ひたいのは Sunset OverdriveReturn of the Obra Dinn の 2 つ。

積んでる中だと Undertale だの RimWorld だの Oxygen not Included だの Kerbal Space Program だのを崩したくはあるけど、 一年ぢゃ無理だよなあ。

Battle Chef BrigadeDead CellsHaydeeHollow KnightHylicsLISAMy Time at PortiaSynthetikWestardo もやりたい。

Epic でもらった SubnauticaAxiom Verge もやんなきゃ。

やりたいゲームだらけだあ。 と云ひつつ、今日も今日とて Path of ExileSolar Settlers を起動するおれなのであった。

Eleh

ドローンといふ言葉が人口に膾炙して久しい。 誰もが知るやうになったドローンとは、宙を飛び囘る小型機械のことだが、 おれにとって、ドローンとはずっと昔から音を長く引き伸ばす音樂のことであった。

ドローンとは、そもそも蜂の羽音のことである。 蜂に由來するのが無人航空機であり、 羽音に由來するのが音樂のはうだ。

とはいへ、實際の蜂の羽音といふのは、それほど大きなものではない。 持續的で忌々しい羽音といへばやはり蚊や蠅である。 少し昆蟲について学べばわかることだが、 蚊や蠅は羽が 2 枚しかなく、後翅は 退化したのだか進化したのだか知らないが、 平均棍と呼ばれるものに變化してしまってゐて、 これを持つ双翅目に屬する昆蟲が不快な音を出す。

翻って、ドローンといふのは、大抵は音の響きの氣持ちよさを探求したものである。 ジャンル名が蚊や蠅の出す羽音といふ意味でないのはたまたまであらうが、 喜ばしいことだ (蚊を意味するモスキート音が、若者を街から追ひ拂ふための 不快な音に當てられてゐるのだから、たまたまといふわけではないのかもしれない)。

さて、しかし、一口にドローンと云ってもいろいろなものがある。 おれはそれを、「軟派なドローン」と「硬派なドローン」とに大別してゐる。

何が軟派で何が硬派なのか、といふことは 少し文脈は異なるが、Jim O'Rourke がわかりやすく語ってゐるので、それを引用しておかう。

ようするに、本当に多くのアンビエントの作品がメジャー・セブンス・コードで、 ハーモニーが重要視されているものばかり ──つまりどうやってそれでハーモニーを生みだすかを考えているものばかりだったわけです。 あとは、メジャー・ナインスもすごく多い。 パーフェクト・フィフス以外では、アンビエント・ミュージックのなかで、 このふたつがハーモニーをかたちづくるもので、 それをつかってどうやってハーモニーを作るかが、アンビエントの問題だというわけです!  私としてはむしろ、倍音に近いものを生みだしたかったので、ハーモニーは欲しくありませんでした。 ドローン風のやり方の場合、本当に問題になるのは倍音で、ハーモニーではないからです ──とはいえ、こういうことは制作を進めながらその場で気づいていったことですけどね。 interview with Jim O’Rourke 私は音楽を楽しみのために作っているわけではありません(笑)

ここで O'Rourke が云ってゐる「どうやってそれでハーモニーを生みだすかを考えているもの」 のことを、おれは「軟派なドローン」と呼んでゐるが、 O'Rourke はそれをドローンと看做してすらゐない。

ハーモニーを重視するドローンは、極めて退屈である。 平均律といふ、どうしたって調和しやうのない調律を疑ひもせず、 既知の安易なコードを響かせることに腐心するのみで、 音への探究心などは微塵もない。

例へば、おれが唾棄すべきユニットだと思ってゐる Stars of the Lid なんかが、その典型である。

The Tired Sounds of Stars of the Lid とはよく云ったもので、 ありふれた、實に退屈なアンビエント・ドローンである。

しかし、おれが「硬派なドローン」と呼ぶやうなドローンが發表されることはどんどん減り、 新譜が出たとしても、昔からドローンをやってゐた人間の出すもの、 といふ状況が長く續いてゐた。

Eleh のデビューは、さうした「硬派なドローン」が 細々と命脈を保つのみになって久しい、2006 年のことだった。

Eleh のデビューアルバムは鮮烈であった。

この色氣のなさ!  ぶっきらぼうで、愛想がなく、 聽きたいやつだけが聽けばよい、 と云ってゐるかのやうな突き放し方。 これがドローンである。

幾何學的な模樣のジャケットも、 音樂の硬質さに合ってゐて趣深い。

そんな Eleh のデビューは、 ドローン業界では大きなインパクトがあった、と思ふ。 事實、デビューからしばらくの間は、 アルバムが發表されるや否や賣り切れる、 といふ状況が續いてゐたし、 一時期はプレミア価格で中古が取引されてゐた。

Eleh は、デビューから一貫して、 電子音によるこのやうな素っ氣ない音樂を發表し續けてきた。 これが硬派でなくて、何が硬派か。

しかし、そんな Eleh も近年はアルバムの發表ペースが落ちたし、 デビューして數年はアナログでのリリースに拘ってゐたが、 今は CD や bandcamp で買ふこともできるやうになった。

古くからの Eleh ファンとして、 さうした在り方は寂しくもあるが、 そもそも、ドローンなどといふのは バリエーションに富んだ音樂ではない。

Eleh はもう、やるべきことをほぼやってしまったのであって、 リリースが少なくなってしまったり、 マスターテープを賣るなどといった奇策に出たりするのは、 やむないことだと思ふ。

それでもなほ、Eleh はドローンの歴史において記憶されるべき存在である。 Eleh を知ったときの歡びは今でも忘れやうがないし、 これまでのリリースが色褪せたわけでもない。

Eleh よりあと、新たなドローン作品を出すやうなユニットは出てきてゐないが、 もしさうしたものが出てきたとしても、おれは Eleh に敬意を拂ひ續けるだらう。

Eleh: Magnetics - 1/4" Master Tape

Eleh といふ、ドローンユニットがゐる。 實のところ、一人でやってゐるのか複数人なのか、それすらわからない。

近年はさほどでもないが、デビューした 2006 年から 2009 年頃にかけては飛ぶ鳥を落とす勢いで、 發表したアルバムは即座に賣り切れ、プレミアが付くといふ有樣だった。

かくいふおれも、Eleh のアルバムは總て持ってゐるどころか、 初期のアルバムは 500 枚のうち最初の 100 枚のみジャケの色が違ふ、 などといふことがあったので、両バージョンを所持してゐるぐらゐには 熱心な Eleh のファンである (尤も、最近のリリースは通常盤すら迷った擧げ句に義理で買ふやうな感じだが)。

さて、その Eleh が久しぶりにフルアルバムを出すといふメールが 發賣元の Important Records(アメリカのレーベルだから仕方ないとはいへ、 送料がアホみたいにかかる)から來たのだが、 2017 年に出た Home Age の續篇とともに、 Magnetics 1/4 master tape なるものをリリースすると 書かれてゐた。

なんでも、長いレコーディングを短く分けたものらしく、 同じものは一つとして存在しないらしい。 しかも、お値段たったの $30 である。 プレスされたレコードではなく、 オリジナルのマスターテープの價格としては破格だらう。

で、まさかと思ってサイトを確認しに行ったら、 本當にマスターテープが賣られてゐる。 いやいやいや、この時代に、アナログのマスターテープて。 誰が再生できんねん、そんなもん。

うちの祖父母の家にオープンリールの再生装置はあるが、 それで再生可能なのかだうかすらわからない。

恐らく、日本で五指に入るほどの Eleh ファンのおれだが (そもそも 5 人ゐるのか?)、さすがにこれは買へない。 買ったところで再生できる環境を生きてゐる間に整へられるとはとても思へないからだ (このためだけに、再生装置を用意するか?)。

Eleh のレコード、最近はいつもどおり 500 枚プレスしても賣れ殘ってゐることがままあり、 かつてほどの人氣はなくなってしまったんだなあ、と寂しく感じてはゐたが、 だからといって、こんなリリースをすることはあるまい。 着いてこられるやつだけ來い、といふことだらうか。

いや~、ちょっと無理っす。

Eleh のデビュー當時のインパクトについては、また稿を改めて書かう。

Eleh - Magnetics - 1/4" Master Tape

Hotline Miami

PoE をやりすぎて右手首が腱鞘炎の兆候を訴へてきてゐるので、 ゲームを封印するためにこちらを更新しよう。

Hotline Miami といふ、數年前のゲームがある。 何を隱さう、おれはこのゲームが大好きである。 まあ、買って全實績を取るまでやった後はやってゐないが。 今や日本語にも對應してゐるらしい。

なぜそんな微妙に古いゲームのことを今さら書くのか、と云はれれば、 自分のブログを眺めてゐて、 さういへば、このブログの毒々しい配色は Hotline Miami から パクったものなのだ、といふことを明かにしてゐなかったな、と 氣づいたからだ。

動物のお面をかぶって敵がゐる施設に乘り込み、見つからないやうにしつつ ミッションを達成する、といふのが基本的なゲームの流れである。 動物のお面を被るのは、ストーリー的には正体を隱すためだが、 ゲーム的には、それぞれの動物によって特殊能力がつくやうになってゐる。 殘機の概念は存在せず、R を押せばそのステージの最初からすぐにやり直せる。

すぐにリトライできるし、 ステルスアクションとしてのゲーム性も高く、 ストーリーも曖昧な部分が多く考察を煽るもので (發賣後はいろいろな考察が見られたものだ)、 Hotline Miami はとても高い評価を受けた。

が、お子様にはおすすめできないゲームである。 ゲーム自體が 2D アクションであることに加え、 ファミコン時代のゲームと見紛ふやうなドット絵で舞臺設定も 1989 年。 敵を倒すといへば聞こえはいいが、 相手がギャングであるとはいへ、人の家や店などに不法侵入して 判然としない理由で人殺ししまくるのだから、 どうしたって頽廢的な氛圍氣になる。

しかし、その氛圍氣が實にすばらしい。 古臭いネオンを思はせる毒々しい配色も、 顔を隱すためとはいへ動物のマスクといふ珍奇な手段を採るところも、 チープだと勘違ひされることの多いドット絵も、 總てがうまく絡み合ひ、このゲーム獨特の氛圍氣を獲得することに成功してゐる。

何よりすばらしいのは、その音樂である。 おれは自分の好きな音樂を聽きたいので、 ゲームの BGM といふのは、氣に入ったものでない限りオフにしてしまふことが多い。 だから、ゲームのサントラなどにはほとんど興味がないのだ。 そんなおれをして、このゲームはレコードでわざわざサントラを購入させるに至ったのである。

参加している中で有名人は Sun Araw ぐらゐだが、 ここで現代アメリカサイケデリア・ダブの筆頭 Sun Araw を起用するセンスはさすがである。 スタート画面で流れる曲が Sun Araw の Horse Steppin' なので、 この曲は何度も何度も聽くことになるが、 Sun Araw らしくぼんやりとしたサイケなので、押しつけがましい不快感はないし、 それでゐて、頭を Hotline Miami のモードに一發で切り替へてくれる。

ステージ攻略中の音樂でひときは印象に殘るのは M.O.O.N. の Hydrogen だらうか。 獨立してこれだけ聽くと、音色もきっちり現代的だし、 古臭いイメージはないのだが、 ゲーム内で聽くと特に高音がチープに感じられ、非常にゲームの氛圍氣とマッチするのが不思議である。 ファミコンやスーパーファミコン時代のゲーム音樂のやうに、 音の限られたものにしか聞こえなくなってしまふのだ。

Jasper Byrne の Hotline も、 ゲームタイトルを冠するに相應しい filthy な傑作である。 底の方でブイブイ蠢くベースと、下品なシンセ音。 Hotline Miami のケバく荒廢した空氣を見事に體現してゐる。

しかし、最も好きなのは、壓倒的に Coconuts の Silver Lights だ。 これこそがサイケだ、と聲を大にして云ひたい。 さう、ギターにはファズである。 ファズをかけて垂れ流すだけでよいのだ、サイケなんて。

いや、もちろん、この音を出すにはそんな單純なものでなかったのはわかる。 だが、この曲の餘分な要素の少なさは、 さういふ單純さに身を溺れさせたくなる欲望を喚起するのだ。 この甘く爛れた空間にずっと耽溺してゐたい、と思はせることが、 何よりのサイケな証である。 よくぞこんな曲を見つけてきてくれた、 とゲーム開發者に喝采を送りたい。

Hotline Miami は、そのゲーム性だけでなく、 氛圍氣と音樂でゲームの世界に沒入させてくれる傑作である。 定價ですら 980 円とお安いが、セール時には 250 円になる。 あと數時間で steam の年末年始セールも始まるし、 氣になった方は騙されたと思ってやってみてほしい。

ZNRchive

6 月ごろに ReR Megacorp に豫約注文した ZNRchive box がやうやく届いた (一度、受け取りそびれて英國に送り返されてしまった)。

限定版は 6 月上旬で受付締切とのことだったので、 8 月發賣のこのボックスを 6 月に頼んだのだが、 discogs を見るとこちらは限定ナンバー入り、と書いてあった。

しかし、箱を見る限りナンバーは入ってゐない。 どういふことなんだ、受け取り損ねた所爲で おれのは限定仕樣ぢゃないものが來たのか? などと思ってゐたら (冷静に考へれば、5 枚組なのは限定版と日本盤のみだから、 ちゃんと 5 枚入ってゐたおれのものが限定仕樣でないことはあり得ないのだが)、 最後のおまけディスクを挟んでゐる簡素な紙の中に 手書きで 143/175 と書いてあった。 そして、その番号の下に、 なんとおれの名前が書かれてゐるではないか!

ZNR(Z と R の意)の Z たる Hector Zazou はもう亡くなってゐるし、 R の Joseph Racaille もまさかこんな作業をしたとは思へないから、 恐らくこれを書いたのはレーベルオーナーの Chris Cutler ではないか。 だったとしたら、それはそれで嬉しい。

いやいや、一人でレーベルやってるわけぢゃないでしょさすがに、 と思はれるだらうが、さう思ってしまふ根拠が一つだけあるのだ。 といふのも、送られてきた段ボール箱の中に緩衝材代はりとして Chris Cutler 宛の、内側にプチプチのついた封筒が入ってゐたのである。 住所丸ばれである。 こんなものを緩衝材代はりに入れてしまふのは本人以外あるまい。

それにしても、再發送が申しわけなくてセールしてた CD を 10 枚追加で頼んだのだが、 夏も今囘の注文も送料を一切請求されてゐない。 それでも届いたのだから、ReR は海外でも送料を取らない方針なのだらうか。 セール品は 1 枚 5 ポンドといふ大變な安値だったので、 送料までサービスとなると確実に赤字だと思ふのだが…。

いやあ、しかし、早速聽いてみたが、やはり ZNR はいいねえ。

ZNRchive Box (4-CD-Box+Booklet)

ZNRchive Box (4-CD-Box+Booklet)