When the Music's Over

音樂の話とゲームの話

Hotline Miami

PoE をやりすぎて右手首が腱鞘炎の兆候を訴へてきてゐるので、 ゲームを封印するためにこちらを更新しよう。

Hotline Miami といふ、數年前のゲームがある。 何を隱さう、おれはこのゲームが大好きである。 まあ、買って全實績を取るまでやった後はやってゐないが。 今や日本語にも對應してゐるらしい。

なぜそんな微妙に古いゲームのことを今さら書くのか、と云はれれば、 自分のブログを眺めてゐて、 さういへば、このブログの毒々しい配色は Hotline Miami から パクったものなのだ、といふことを明かにしてゐなかったな、と 氣づいたからだ。

動物のお面をかぶって敵がゐる施設に乘り込み、見つからないやうにしつつ ミッションを達成する、といふのが基本的なゲームの流れである。 動物のお面を被るのは、ストーリー的には正体を隱すためだが、 ゲーム的には、それぞれの動物によって特殊能力がつくやうになってゐる。 殘機の概念は存在せず、R を押せばそのステージの最初からすぐにやり直せる。

すぐにリトライできるし、 ステルスアクションとしてのゲーム性も高く、 ストーリーも曖昧な部分が多く考察を煽るもので (發賣後はいろいろな考察が見られたものだ)、 Hotline Miami はとても高い評価を受けた。

が、お子様にはおすすめできないゲームである。 ゲーム自體が 2D アクションであることに加え、 ファミコン時代のゲームと見紛ふやうなドット絵で舞臺設定も 1989 年。 敵を倒すといへば聞こえはいいが、 相手がギャングであるとはいへ、人の家や店などに不法侵入して 判然としない理由で人殺ししまくるのだから、 どうしたって頽廢的な氛圍氣になる。

しかし、その氛圍氣が實にすばらしい。 古臭いネオンを思はせる毒々しい配色も、 顔を隱すためとはいへ動物のマスクといふ珍奇な手段を採るところも、 チープだと勘違ひされることの多いドット絵も、 總てがうまく絡み合ひ、このゲーム獨特の氛圍氣を獲得することに成功してゐる。

何よりすばらしいのは、その音樂である。 おれは自分の好きな音樂を聽きたいので、 ゲームの BGM といふのは、氣に入ったものでない限りオフにしてしまふことが多い。 だから、ゲームのサントラなどにはほとんど興味がないのだ。 そんなおれをして、このゲームはレコードでわざわざサントラを購入させるに至ったのである。

参加している中で有名人は Sun Araw ぐらゐだが、 ここで現代アメリカサイケデリア・ダブの筆頭 Sun Araw を起用するセンスはさすがである。 スタート画面で流れる曲が Sun Araw の Horse Steppin' なので、 この曲は何度も何度も聽くことになるが、 Sun Araw らしくぼんやりとしたサイケなので、押しつけがましい不快感はないし、 それでゐて、頭を Hotline Miami のモードに一發で切り替へてくれる。

ステージ攻略中の音樂でひときは印象に殘るのは M.O.O.N. の Hydrogen だらうか。 獨立してこれだけ聽くと、音色もきっちり現代的だし、 古臭いイメージはないのだが、 ゲーム内で聽くと特に高音がチープに感じられ、非常にゲームの氛圍氣とマッチするのが不思議である。 ファミコンやスーパーファミコン時代のゲーム音樂のやうに、 音の限られたものにしか聞こえなくなってしまふのだ。

Jasper Byrne の Hotline も、 ゲームタイトルを冠するに相應しい filthy な傑作である。 底の方でブイブイ蠢くベースと、下品なシンセ音。 Hotline Miami のケバく荒廢した空氣を見事に體現してゐる。

しかし、最も好きなのは、壓倒的に Coconuts の Silver Lights だ。 これこそがサイケだ、と聲を大にして云ひたい。 さう、ギターにはファズである。 ファズをかけて垂れ流すだけでよいのだ、サイケなんて。

いや、もちろん、この音を出すにはそんな單純なものでなかったのはわかる。 だが、この曲の餘分な要素の少なさは、 さういふ單純さに身を溺れさせたくなる欲望を喚起するのだ。 この甘く爛れた空間にずっと耽溺してゐたい、と思はせることが、 何よりのサイケな証である。 よくぞこんな曲を見つけてきてくれた、 とゲーム開發者に喝采を送りたい。

Hotline Miami は、そのゲーム性だけでなく、 氛圍氣と音樂でゲームの世界に沒入させてくれる傑作である。 定價ですら 980 円とお安いが、セール時には 250 円になる。 あと數時間で steam の年末年始セールも始まるし、 氣になった方は騙されたと思ってやってみてほしい。