When the Music's Over

音樂の話とゲームの話

bandcamp daily: November, 2021

11 月 2 日の label profile は Peverelist が運營する livity sound の紹介。なんでも 10 周年らしい。

で、10 周年を記念して Molten Mirrors - A Decade of Livity Sound といふコンピがリリースされてゐるのだが、うーむ。 惡くはないんだけど、めちゃくちゃいいといふわけでもない。

紹介されてゐる中で唯一よかったのは、DJ Plead の Going for It。 トライバルなリズムがずるい。 こんなもんかっこいいに決まってんだよなあ。 シンセの使ひ方もうまく、EP といはず LP をリリースしてほしい。 この EP もまる 1 年前のものだし、新しいのできてないんですか。

11 月 2 日の album of the dayFrank y Sus Inquietos の 同名アルバム の紹介。

ラテンものの再發は興味ないなあ、と思ひつつも聽いてみたら、なんかこいつら、リズムの感覺がちょっとおかしい。 別に變拍子だったりするわけではないのだが、 え、そこで區切っちゃふの?みたいなところでブツブツ區切る。 普通のリズムとの違ひはほんの僅かだし、 恐らく本人たちもそれを賣りにしてはゐないだらう。 でも、その僅かな違和感が積み重なって、實に奇妙な印象を與へてくる。 かういふ普通とは違ふ秩序、好き。

11 月 2 日の best experimental は珍しくいいものが多かったが、買ってもいいなと思へるのは Robert Curgenven の Beyond Enclosures だけ。

このアルバムは、大作が竝んでゐるのも魅力のひとつだが、ドローンなのがやはり一番の魅力。 disc 1 と 3 のオルガンを主體としたドローンもいいし、2 枚目のオシレーター主體のものもいい。 どちらもおれの好きな色氣のない硬派なドローン。 やっぱドローンはこれぐらいヴォリュームないとね。

ところで、best experimental のチェック中に知ったんだけど、C.C.C.C. の 1stTest Tube FantasyAmplified Crystal II の3 作がリイシューされてたんですね。 それどころか、C.C.C.C. の専門店なんてものまである。

昔なら飛びついてたと思ふが、ノイズからは離れてしまったので、見送りかなあ。 Esplendor Geométrico の EG-140 周年記念盤 が リリースされるらしいが、これも買はない。 まあ、Esplendor Geométrico は昔からいまいち好みぢゃなくて 1 枚も買ってないんだけど。

11 月 2 日の lists は Miles Davis が The Prestige 時代のアルバム紹介 Miles Davis の有名なアルバムのほとんどは Columbia 時代のものであり、 Prestige 時代で有名なのは所謂マラソン・セッションと Bag's Groove ぐらゐのものだ。 それ以外のものもあるよって紹介なんだけど、まだまだ數が少なくて、わざわざここから聽かんでも、としか思へない内容。 初心者向けではないし、マニアは bandcamp を覗くまでもなく持ってゐるだらう。 誰に向けた記事なのかわからんなあ。一應あるから紹介しとくね、程度のものにしかなってゐない。

11 月 3 日の best contemporary classical は、ポスト・クラシカルなんかも全然ない、がっつり現代音樂の紹介だったんだけど、どれもこれもピンとこない。 好きなジャンルだったり、誰かがいいと云ってたやつだったり、さういふ外部の要素がないとピンとくるやつを見つけるのは難しい。 要するに、おれが權威主義者だってことですね。いかんなあ。

11 月 4 日付 lists のタイトル Plug and Play: Music Created For Video Game Cartridges を見たとき、 その直前の記事が植松伸夫の音樂を特集したものだったので、 まーたゲーム音樂の特集か。bandcamp daily のスタッフにゲーム好きがゐるのか? でも、やってないゲームのサントラ聽いてもなあ、とか思ってたんです。

違った。よくタイトルを見てほしい。music created for video game cartridges なのだ。 さう。ここで紹介されてゐる音樂は、どれも物理カートリッジに收録されることを前提として作られてゐる。 スーファミのカセットPC エンジンの CD-ROM2ゲームボーイのカセット(なんとエミュでも再生できるやうに、無料で zip も落とせる!)、 ゲームボーイアドバンスのカセット(なぜかカセットテープおよび VHS でも販賣)、 メガドライブのカセット3.5 インチフロッピー、 極めつけはコモドール 64 のカートリッジ

VHS、CD-ROM2、3.5 インチフロッピーあたりは、まあわからなくもない。 百歩讓って任天堂のカセットもなんとかなるかもしれない。 でも、メガドライブのカセットだのコモドール 64 のカートリッジだのは、どうやって新規に製造するんだよ!  工場が動いてゐるとは思へないんだが、ガワだけ中古のソフトから引っぺがして、中身の基盤は自作とかでいけるんだらうか。 メガドライブのやつはピンクのケースで、明らかに中古ソフトを流用した感じではないけども…。 スーファミのも赤いカートリッジ版が賣られてるしなあ(もちろん賣り切れ)。

紹介されてゐる中でもぶっちぎりでヤバいのは、最初に名前を舉げられてゐる remute。 スーファミのカセットや CD-ROM2 だけでなく、時代の遺物ミニディスクだの、 PC エンジンのカードだの、ゲームボーイのカセット、VHS、3.5 インチフロッピーなど 現代では再生するのがまづ困難な物理媒体でのリリースが山ほどある。 なにこれ、全部ハンブルクでは生産可能なの?

音樂のはうは、當然メディアに引っ張られるので、 Trominal Hello_World! なんかはゲームボーイサウンド丸出しでキュートだし、 mikeyeldey の the album for Sega Genesis は セガっぽさの表現がうまくて興味深いんだけど、 CD-ROM2 のやつとか、3.5 インチフロッピーのやつなんかは普通。

そもそも、これらは實際にカセットなりなんなりを實機に插して、 畫面を見ながら自分で操作するのも込みで樂しむものであらうから (bandcamp の記事タイトルだって、plug & play だし)、bandcamp で音だけ聽いても仕方ない。 Trominal Hello_World! だけはエミュレータ用のデータも配布されてゐるから、 實際に畫面がどんなふうになるのかも樂しめるが、ほかはさうはいかず殘念。 しかし、面白いことする人たちがゐるもんですねえ。世界は廣い。

11 月 5 日の seven essential releases は久々にちゃんと 7 枚紹介されてゐた。まあ、よかったのは 1 枚だけですけど。

その 1 枚は Cities Aviv の The Crashing Sound of How It Goes。 なにがおもろいって、ヒップホップ批評みたいになってるヒップホップなこと。 ヒップホップなんて適當にループさせときゃいいんだよ!と云はんばかりのやけっぱちな短いループの多用、 しかも曲の途中でいきなりループの材料が全く別の曲になったりもする。 ラップも、最近はリズムにかっちり合はせないスタイルがヒップだから!とでも云ひたいのか、 リズミに合はせる氣なし。 それら全部が、「ヒップホップはこの程度のものだと思はれてゐる」といふ茶化しだったり、 「でも、さうぢゃねえんだよなあ」といふ可能性の提示だったりして、實に批評的。 Fxck Rxp なんて名前のレーベルから出すだけあるな、って感じ。

ちなみに、Fxck Rxp のページから買ふより、 アーティスト本人のページから買ったはうが安いし(デジタル音源の價格)、 Fxck Rxp では聽ける曲が限られてゐるのに、本人のページだと全曲聽ける。 ってわけで、本人のはう貼っておきますね。

11 月 5 日の big ups は Courtney Barnett のお氣に入り紹介で、 うわー、ロックの人だ、どうでもいいなあと思ひつつもチェックしてゐたら、 Les Filles de Illighadad といふグループの Eghass Malan ってアルバムに聞き覺えがあったので慌ててチェック。

といっても、このグループのことを知ってゐたわけではない。 おれが知ってゐたのは、このギターである。 このギター、おれの大好きな Abba Gargando のギターと同じぢゃん!と思ったのだ *1

で、調べてみたら、やはりドンピシャ。 トゥアレグ族のギターはみんなこんならしい。まじかよ。 しかも、Les Filles de Illighadad、Abba Gargando ともに Sahel Sounds からリリースされてゐる。 え~、Sahel Sounds って今をときめく(?) Mdou Moctar が Matador に移籍する前にゐたレーベルぢゃん。 ギターヒーローに興味ないなーってんでスルーしてたけど、急いでチェックしないと…。

幸ひ、Sahel Sounds は無料のサンプラーを 3 枚も出してくれてゐるので、 まづはそれを聽いて、好きなアーティストを探さうと思ふ (3 枚のサンプラーのどれにも Abba Gargando が入ってないのが氣になるが…)。 くそー、big ups も侮れねえな。 ま、ほかに紹介されてたやつはどうでもよかったんですけどね。 唯一、Tropical Fuck Storm ってバンドがちょっと面白かったぐらゐ。 Mdou Moctar は、うーん、惡かないし、人氣あるのもわかるんだけど、おれの好みぢゃないんだよなあ。 でも、云はれてみれば確かにたまに Abba Gargando っぽいフレーズ出てくるわ。

11 月 8 日の best soul で紹介されてゐたアルバムはどれも良質だったが、 特によかったのは Kallitechnis の Because It Feels GoodBeMyFiasco の Where I Left You。 なんでって、どっちもベースが派手に動く曲があったから。 ただまあ、買ふかって云はれたら買はない。どっちも普通の音樂だし。 ストリーミングでこれ流れてきたら嬉しいだらうなって程度。 試聽が難しくなくなって買ふもののハードル上がってる氣がしたけど、 冷静に考へたら、おれが昔から贔屓にしてゐるレコ屋 SoundOhm は大抵のものを試聽させてくれてゐた。 道理で、使ふ金額が昔から變はってないはずだ…。

11 月 8 日の album of the day は New Age Doom と今年 8 月に亡くなった Lee Perry とのアルバム Lee "Scratch" Perry's Guide to the Universe の紹介。 バンド名とタイトルが表す通り、宇宙音まみれのドゥームメタルなのだが、Lee Perry の無駄遣ひにしか思へない。 もしかして、これが Lee Perry の遺作になるんですか?  まあ、おれはジャマイカの音樂のよさがほぼ理解できず、Lee Perry も何度聽いてもよさがわからなかったから別にいいんだけどさ。

11 月 8 日の scene report は an introduction to Cascadia psych と題されたカスカディア・サイケの紹介。 いや、そもそもカスカディアってなんだよ。 どうも記事によるとサンフランシスコ以北、アラスカまでのあたりまででまとまって獨立しよう!って運動らしい。 全然知らなかったそんなの。

で、サイケのメッカたるサンフランシスコを微妙に外れたカスカディアでの音樂ですが…。 まあ、うん、サイケデリック・ロックですね、としか云ひやうがない。 ジミヘンの曲からバンド名をとったと思しき Sky Cries Mary は懷かしい感じの王道サイケ・ロック、 フリーク・フォーク系の Rose City Band、 クラウトっぽさを持った Abronia、 ラリった音が多い廃人系 The Lavender Flu などなど、 なかなかヴァリエーションに富んだサイケが紹介されてゐるが、わざわざ買ふほどではないかなあ。

11 月 10 日の features は「いかにして Robin Hatch は世界最大のアナログシンセをマスターしたか」 といふインタヴュー記事。 ここでいふ世界最大のアナログシンセとは、 Malcolm Cecil と Robert Margouleff が組み上げ、 Stevie Wonder が 70 年代に入って發表した 4 枚の大名盤、 Music of My MindTalking BookInnervisionsFulfillingness’ First Finale を制作したときに使った、 TONTO (The Original New Timbral Orchestra) のことだ。

で、そのシンセを使って作られたアルバム T.O.N.T.O. が紹介されてるんだけど…。 めっちゃふつー。面白いところは特になし。がっかり。 Stevie Wonder と比べるのは酷だが、それにしたってつまんねーわ。

11 月 11 日の features は Eric Dolphy 特集。 といっても、bandcamp には Dolphy はたった 3 枚しかない

Dolphy が最高なのは云ふまでもないが、この 3 枚ならやっぱり Musical Prophet。 このアルバムのことは、前に Mingus のライヴ盤について書いたときにちらっと触れたが (ちょうど發賣直前だった)、 大友良英が「Dolphy の中では變なアルバム」と紹介してゐた ConversationsIron Man に加へ、 當時のセッションで未發表だったもの(つまり沒になったテイク)が收録されてゐる。 Dolphy のアルバムとしては、マイナーな部類の 2 枚である。 プロデューサーはジミヘンの編集盤を粗製濫造したことでも有名な Alan Douglas。 この人、ジミヘン界隈では評判惡いけど、ジャズ・プロデューサーとしては Bill Evans & Jim Hall の名盤 Undercurrent を手掛けたりもしてる人なんですよね。

發賣元はジャズの再發・發掘に定評のある Resonance Records。 このレーベルは Jack DeJohnette がゐた頃の Bill Evans Trio の發掘なんかもしてくれてゐて (Some Other TimeAnother TimeLive at Ronnie Scott's の 3 枚)、 古いジャズのファンにとっては足を向けて寝られない存在である。 これからも良質な再發と發掘、お願ひします!

11 月 11 日の lists は The Road to Radiohead's “Kid A” と題された、 Radiohead の Kid A mnesia 發賣記念記事。

リストに舉げられてゐるのは以下。

Cluster と Alice Coltrane 以外は持ってますね…。あ、Björk も Homogenic は好きぢゃないから持ってないか。 まあ、有名なアルバムばっかりだもんね。Mingus と Alice Coltrane はなんでこれなのかよくわからんけど。

11 月 11 日は best jazz の記事も。

初めに紹介されてゐる Linda Fredriksson の Juniper は、 ちょっとだけ聽いて普通だな、とスルーするつもりだったのだが、 タイトル曲のベースがなかなか面白く、じっくり聽いてみることにした。 それで氣づいたのだが、これ、We Jazz Records からのリリースだ。 We Jazz Records といへば、先月ユニオンのアウトレットで見つけた Koma Saxo を出してるレーベル。 先日も、Self Koma といふ曲がリリースされたばかり。 このレーベルのことはまだフォローしてなかったから氣づかなかった。フォローしとかう。

肝心の Linda Fredriksson は買はないだらう。 惡くはないんだけど、クレジットに modular synth だの field recordings だの moog だのと書いてあるのに、 さういふ要素がちっとも前面に出てこないんだもん。 もっとお上品さを捨ててシンセまみれにしてくれ!

續く Thiago França の The Importance of Being Espetacular は、こんなこと云ったらアホみたいだが、ブラジルっぽいお祭り感のあるジャズ。 いろんなヴォーカリストをゲストに迎へてゐたり、ジャケもかはいかったりといいアルバムなんだけど、 個人的な好みとしては、もっともっと彈けるやうな陽氣さがほしいところ。

Mary Halvorson の新譜 は ピアニスト Sylvie Courvoisier とのデュオ。 1 曲しか聽かせてもらへないが、あまりに完璧な現代ジャズっぷりに溜息が漏れる。 アヴァンギャルド・ジャズの魅力が、綺麗に拔粹されてゐる。すごい。

寡聞にして挾間美帆といふアーティストについては知らなかったのだが、 ここで紹介されてゐる新作 Imaginary Visions のわかりやすさ!  おれは普段、ジャズを聽くときに曲の善し惡しはあまり問題にしない。 そもそも、聽くのは大抵フリージャズだから、おれの好きな氛圍氣で押し切ってくれればそれでいいのだ。 でも、このアルバムはビッグ・バンドでありながら、各人のソロもうまくハマってゐるし、 それを支へる曲が實に見事だ。 レコードでほしいとまでは思はないが、いろんな人に勧めたくなってしまふアルバム。

Phelan Burgoyne の Yazgol は、Paul Motian が作曲した曲で、これまで録音されたことがなかったものを演奏した、ちょっと變はったアルバム。 何が變はってるって、Paul Motian(モチアンと表記されることが多いが、どう考へたってモーシャンで、 實際におれがニューヨークで見たときもモーシャンと紹介されてゐた)といったら全盛期の Bill Evans Trio を支へたドラマーである。 そんな人の作曲作品って、マニアックすぎる。 驚くのはピアノ曲がけっこう多いこと。 多彩な曲が入っててなかなか面白いが、まあ、買ふかって云はれたら…。

Gabriel Zucker の Leftover Beats from the Edges of Time は、ESP から出てます!と云へば事足りさうな、非常に ESP らしい奇妙なジャズ。 とはいへ、昔の ESP ほどの怪しさは全くなく、ブラッシュアップされたアヴァン・ジャズで、 綺麗にまとまってゐる。 多くのジャズ・マニアは在りし日の ESP をよく知ってゐるはずだから、この程度だとちょっと殘念に思ふかも。 まあ、ESP もモダンになったってことですね。

11 月 12 日の seven essential releases でよかったのは 1 枚。 DøøF の NCL​-​DøøFus 2 : SWAMP PHONK ってやつ。 7 枚中ヒップホップはこれだけだったのに、その 1 枚しかいいと思へるものがないとは…。ロック不感症がひどい。 でもね、氣づいちゃったんですよ。 bandcamp って、まあ他のサービスでもさうだらうけど、 アルバムとかにアクセスすると、最下部に「××が好きな人におススメ」ってのがいくつか表示されるんです。 ここに、自分の好きなアルバムが表示されないやつは、まあ外れなんですよ、やっぱり。 DøøF のこれは、Pink Siifu と McKinley Dixon が表示されてたから、まあそりゃおれにとっては當たりだよなって。

とはいへ、内容はおれがあまり聽かない、サンプリングが多用されたヒップホップ。 いやあ、でも、サンプリング對象がいいっすわ。 4 曲目とか元ネタ持ってますよ(なんだっけ?)。

11 月 12 日の shortlist は 10 月に出たいろんなデビュー作品の紹介。

Buffalo Nichols のデビュー作 は、再生した瞬間、 おっ、Jack Rose の再來か?!と期待したが、歌が入っててがっかり。ギターだけでいいのに…。

Lady Blackbird のデビュー作 Black Acid Soul は そもそもアルバムタイトルがかっこいいし、ジャケはどう見ても Black Sabbath の Master of Reality だしで期待したが、 これまた期待はずれ。アシッドどこ? Black Sabbath 要素は? ただの上品なジャズ・ヴォーカルものぢゃん…。

11 月 15 日の scene report は Inside Tokyo's Genreless Rave Underground ってことで、 東京のアーティストばかりが紹介されてるんだけど、全然知らねえ!  一番驚いたのはこれ。

こんなのが bandcamp daily で紹介されるとは…。懷深ぇ~。 ほかのもそこそこ面白かった。まあ、自分ぢゃ買はないんですけどね。

11 月 16 日の features は The Story of the First Electronic Pop Record Ever Made と題された、Tom Dissevelt & Kid Baltan による The Fascinating World of Electronic Music の紹介。

このアルバム、なんと 1959 年に發表されたアルバムなのだが、 first electronic pop record の名に恥ぢない、非常に先驅的なアルバムである。

なんたって、1959 年の電子音樂といへば、Karlheinz Stockhausen があの Kontakte を作曲してゐた時期。 つまり、電子音樂は現代音樂の最前線で、いろんな作家がこぞって自分の夢想した音をリアライズすることに血眼になってゐた頃だ。

だから、電子音樂をポップなものに使はうなんて思ってゐたのは極少數。 pop electronic music といへば、ディズニーのエレクトリカルパレードの元曲でも有名な Jean-Jacques Perrey がゐるが、 彼がその曲を書いたのは、1960 年代末だから、このアルバムはそれより 10 年も早い。

それでゐて、以後のポップな電子音樂──モンドだったりライブラリだったりと云はれるやうな音樂──のほとんどは、ここで素描されてゐる。 モンド好きなら外せない歴史的傑作。

11 月 22 日の features 1 つ目は Michael Vincent Waller の紹介

なんでも、最新作 Classic$ でモダンクラシックとトラップを融合した、 とのことなんだけど、 いや、まあ、確かに、さうとしか云へない作品ではあるよ。 でもなあ…。

ヒップホップ歴の淺いおれが云ふのは生意氣かもしれないが、 この程度のもの、別に新しさないんだよなあ…。 The Arditti Quartet と Saul Williams が共演した NGH WHT とか、 10 年前の作品ですよ。

それ以外のアルバムもいくらか紹介されてゐるが、 こちらは完全にモダンクラシック。 ジャケ寫を Phill Niblock が撮ってゐたり、 ライナーノーツを “Blue” Gene Tyranny が書いてゐたりして豪華だが、 音樂的には、まあ、ふつー。

11 月 22 日 2 つ目の features は The Rich Legacy of Philadelphia Free Jazz ってことで、フィラデルフィアのフリージャズ紹介、と云ひたいところだが、別にフリーでないものもある。

まあ、Henry Grimes とか Sunny Murray とか Sun Ra とか、 最初のはうで紹介されてゐるのは、フリージャズ好きなら知らぬ人はゐないやうな有名人。 ただまあ、Sun Ra はともかく、Henry Grimes と Sunny Murray は、 Cecil Taylor や Albert Ayler のバンドにゐた(しかも最もよく知られてゐる時期に)のがすごいんであって、 本人たちのリーダー作は別に…。

それ以外に紹介されてる中で、Khan Jamal、Arpeggio Jazz Ensemble、Byard Lancaster の 3 者は、 まあスピリチュアル・ジャズに分類してよからう。 Khan Jamal のは 1984 年のアルバムで、Byard Lancaster のは 92 年だか 95 年だかに出たやつの再發、 Arpeggio Jazz Ensemble のアルバムは今年リリースされたばかり。

スピリチュアル・ジャズらしい洒落た空氣を持ってゐるのは Khan Jamal と Arpeggio Jazz Ensemble だが、 個人的に面白かったのは Byard Lancaster。 一應、スピリチュアル・ジャズってことにしたけど、 いろんなタイプのジャズが入ってゐるのがいい。 最初と最後の曲みたいなトライバルなものもあれば、 サックスのみの曲や、お祭りっぽいもの、 もちろんスピリチュアル・ジャズも入ってゐるし、 ギターの入ったジャズ・ロックっぽい曲まである。 複數のバンドをランダム再生してゐるやうな感じがあり、ストリーミング隆盛の現代っぽさすら感じる(20 年も前のアルバムなのに!)。

最後の 2 枚は完全にフリージャズで、どちらもおれの大好きなバンド Irreversible Entanglements のメンバーによるもの。 1 枚はサックス奏者 Keir Neuringer による Ceremonies Out of the Air で、 サックス 1 本でのライヴを録音したものらしい。 Irreversible Entanglements みたいな躍動感があるわけでもなし、これは人を選びますね…。 おれは、要らないかな…。

もう 1 枚は Moor Mother の Circuit City。 まあこれ、バックも Irreversible Entanglements のメンバー全員 + αによって演奏されてゐるので、 實質 Irreversible Entanglements のアルバムみたいなもんである。 今年の頭に試聽したらめちゃくちゃよかったのですぐさまユニオンに注文した記憶があるが、 發賣日は 2020 年 9 月 25 日になってるな…。おかしい。そんな早くから聽けた憶えはないんだが…。

11 月 23 日の label profile は、オーストラリアの Longform Editions の紹介。

Longform Editions は實に bandcamp らしいレーベルで、 リリースはどれもデジタルのみ、 しかも 1 つのコンセプトを基に複數のアーティストに 1 曲づつ提供してもらひ、 それをどれも 1 つ $4(AUD) で賣るといふ形を續けてゐるレーベルだ。

コンセプトごとにジャケットが統一されてゐるので、 どれがどのシリーズなのかはすぐわかる。 人選もかなり幅廣く、Richard Youngs がゐたり、Sun Araw がゐたり、Angel Bat David がゐたりする。 11 月 22 日に紹介されてゐた Michael Vincent Waller の名前もあるし、GY!BE の Efrim Manuel Menuck もゐる。 日本人も何人かリリースしてゐるが、最新シリーズだと石橋英子の名前がある。

てか、この記事のお蔭で Longform Editions のリリースをいろいろ聽いてたんだけど、 Bitchin Bajas、Sun Ra のカヴァーアルバム出すんですね。 ジャケがウルトラかっこいいし、カセットでほしいところだが、送料がたけえ。 Drag City からのリリースだし、tobira records とかユニオンとかに入荷すれば買はう。

11 月 24 日の lists は、Black Friday 及びホリデーシーズンが近づいてきたってことで (お蔭で bandcamp からちょいちょいクーポンのお知らせが來る)、 Jazz for the Holidays

ホリデー向けのジャズってなんだよ、と思ったら、 要するにクリスマスの曲とかをやってるだけ。 つつつつまんねえ~。 いつもジャズ特集のときは、つい長々と書いてしまふのに、これは書くこと全くなし。 ほしいものもなし!

そんなことより、Black Friday のちょうど翌週の金曜が bandcamp friday なので、 レーベルの送ってきてくれるクーポンが bandcamp friday を迎へる直前に期限切れになってしまふことのはうが氣になる。 拂ふ側としては氣持ちの差でしかないが、 bandcamp にはどうせ「今すぐ買はなきゃ!」みたいなやつ買ふときにさんざん貢いでゐるのだから、 いつ買ってもいいなと思へるやつはなるべく bandcamp friday に買ってあげて、 アーティストなりレーベルなりにちょっとでも多く金が行ってほしいんですよ。 今のところ、bandcamp friday でも有効なコード送ってきたのは superpang だけだあ。

11 月最終週はろくな記事がなかったが、中でも San Francisco Ain't Dead にはがっかり。 サイケ發祥の地サン・フランシスコとあって、サイケ・ロックばかりが紹介されてゐるのだが、 どれもこれも、Galaxy 500 やりたいんだなとか、Yo La Tengo やりたいんだなとか、The Velvet Underground やりたいんだなとか、 My Bloody Valentine やりたいんだなとか、そんなのばっか。 これで ain't dead って云はれても困る。ゾンビだらけぢゃん。

しかし、best hip-hop すらいいの何もないとは…(JPEGMafia 除く)。 まあ、今月も節約するつもりだったのに週に 1 萬づつぐらゐ買ひ物してしまった感じがあるので、ほしいものが増えないのはありがたくもあるが、 おれの懷事情なんて考慮しないで、もっと面白い音樂をバカスカ紹介してくれていいのよ?

あ、11 月の bandcamp daily で全く取り上げられなかったけど、 個人的には superpang がリリース 100 枚(全部デジタルだから「枚」といふ數詞は適切ではないかもしれない)を記念して 11 月 10 日からおよそ 2 日に 1 曲の割合で無料の作品を發表し續けてゐるのは是非とも扱ってやってほしかった。 ほんとは今週末の bandcamp friday でまとめて買ふつもりだったんだけど (上に書いた通り、クーポンが發行されてゐたので)、 Black Friday に半額クーポン發行するもんだから、それにつられて買っちゃったよ。 久々に Evol なんて買ってしまった。 Evol の音樂、どれもこれもクソ(褒め言葉)みたいなやつだから普段は買はずに濟ませてるのになあ。

*1:この記事をアップしてすぐ、なぜか唐突に bandcamp にレコードの在庫が追加された。超名盤。買へ。