When the Music's Over

音樂の話とゲームの話

bandcamp daily: March, 2021

といふわけで、3 月分である。 4 月分もまとめるつもりだったが、3 月分だけでけっこうな量になったので、 以降は 1 ヶ月毎にまとめて紹介することにしたい。

量が多くなったとは書いたが、3 月の前半は不作で、 これといって耳に殘るものはなかった。

3 月で初めて氣になったのが、3 月 15 日の album of the day で紹介された DJ Black Low の Uwami だ。

音、リズムともに實にアフリカらしいのだが、上物は Plastikman が使ひさうな輕いポコポコした音を選んでゐるのが面白い。 スクエアなリズムの上に乘せれば簡單にテクノとして成立してしまひさうなのに、 凝ったリズムがテクノの枠に囘收することを妨げ、獨特の音像を作り上げてゐる。 ちょっと前までのアフリカの音樂は、 いかにもチープで、後進國であることを感じさせるものが多かったが、 近年はアフリカの獨自性を保持しつつ、音の響き自體も現代的になってきてをり、 面白い音樂がどんどん生まれてゐる。 いろんな音樂が聽けて嬉しい限りだ。

3 月 17 日の album of the day で紹介された Jane Inc の Number One は、 ディスコ風味のポップスで、普段ならちょっと聽いて閉じてしまう類のものだ。

にも拘はらず、これを取り上げるのは、あまりに間拔けな音が多量に入ってゐるからである。

いや、實際、あらゆる音が洗練されるこの現代において、 こんなアホな音が滿載の音樂はありさうでなかなかありませんよ。

音自體は間拔け極まりないが、當然ながら曲はしっかりしてゐて、 音を選べば、ドリーム・ポップの名作になるのでは?とすら思はされる。

まあでも、ドリーム・ポップなら、こんなのはごろごろ轉がってますからね。 敢へてこの音を使ったことが、あまり類を見ないアルバムになってゐる所以であり、 ただのドリームポップだったら絶對買ひませんね。 ドリーム・ポップ、好きぢゃないし。

3 月 22 日の album of the day では Guedra Guedra كدرة كدرة のデビュー作 Vexillology が紹介された。

Guerda Guerda はモロッコの人だが、これまたモロッコ音樂と云はれて想像するやうな典型的な音樂を、 現代的なものにアップデートしたものがこのアルバムにはぎっしり詰まってゐる。

おれは古い人間なので、 モロッコなんて云はれるとどうしたって Brian Jones の The Pipes of Pan at Joujouka を想起してしまふのだが、 このアルバムで聽ける音樂は、間違ひなくさういったモロッコの傳統的な音樂で構成されてゐるのに、 リズムの扱ひを現代的にすることで、「傳統」といふ言葉から避けがたく想像される古臭さを拂底してゐる。

かういった、傳統的な音樂を取り込んだ音樂が、これまでになかったわけではない。 が、さういったものはそれこそ Said の云ふ「オリエンタリズム」感溢れるものばかりで、 根本的なところで、北半球の匂ひが拭ひ難くこびりついてゐた。 Muslimgauze なんかがその典型だ(Muslimgauze は Muslimgauze で好きですけども)。

でも、最近は實際にその國の人たちが、自分たちで自分たちの傳統をアップデートしたものがたくさんリリースされるやうになった。 オリエンタリズムを一概に惡いと云ふつもりはないが、 まあ、それはもうたくさんあるので、 傳統を知る當人たちによるアップデートをもっと聽いてみたいといふのが正直なところだ。

3 月 24 日の album of the day で紹介されてゐた El Michels Affair の Yeti Season はなんとも形容し難いアルバム。

El Michels Affair でググると「インストファンクバンド」と書かれた商品ページがいくつか引っかかるのだが、 インストファンクを期待して聽いた人は、すぐ閉じてしまふのではないか。

ググって引っかかる言葉の中には cinematic soul といふものもあるが、 こちらのはうがいくらか正しく El Michels Affair の音樂を形容しているかもしれない。

とはいへ、クラブ受けがよささうなイタリア映畫のサントラなんかではなく、 インド映畫のサントラに入ってさうな、所謂ボリウッド的なものばかり。 ファンク要素どこっすか?

しかし、この氣の拔けたジャケと音樂はなんとなく癖になる。 買ふかどうかは微妙なラインだが、ほかではあまり聽けない珍しい音樂であるのは確か。

El Michels Affair よりストレートにファンク要素を感じられるのが 3 月 25日の album of the day で紹介された Izy のデビュー・アルバム Irene

ギター、ベース、ドラムのシンプルなスリー・ピース・バンドだが、 3 人全員によるコーラスも大袈裟でないのが新鮮だし、 ソウルとしての新しさはないものの、 曲はどれもストレートなソウルで、 凝ったものばかりの昨今のソウルの中にあって、 清涼劑のやうに爽やかにソウルの魅力を届けてくれる。 飽きずに何度も聽ける名盤。これからの季節にもちょうどいい感じ。

まさか Pharoah Sanders が Floating Points とアルバムを作るとは思はなかったが、 やっぱり話題になるんですね。3 月 26日の album of the day でばっちり紹介されてゐた。

ただまあ、Floating Points って、あんまり好きぢゃないんですよね。 いや、好きぢゃないって云ふと語弊がある。 惡くはないけど、別に好みぢゃないといふか…。 だって、別に新しいとこなくないですか?

そんなわけで、Pharoah Sanders と組んだこれも聽いてはみたけど、うーん。 何度も繰り返し出てくるテーマっぽいのは大したことないし、 音樂的には完全にアンビエントで好みから外れまくりだし(もっとテクノしてくれていいのに!)、 わざわざ London Symphony Orchestra まで迎へてご苦勞なことだとは思ふが、 たったこれだけのために LSO 雇ったの?と問ひたくなる。 ともすれば莊嚴と云へさうな音樂なので、名盤扱ひされる氣がしてならないが、 Pharoah Sanders らしさはあっても Pharoah Sanders のよさは出てないし、 Floating Points と LSO はらしさすらなく、がっかりさせられたアルバムだった。

3 月 29 日の記事 The Best Dance 12” Singles on Bandcamp: Feburary/March 2021 で紹介されてゐた Natalie Slade の Control Remixes は、聽いたときにちょっとした驚きがあった。 リミックスって、テクノっぽくなるのばっかりぢゃないですか。 なのに、それにあまりにヴォーカルがマッチしてゐたので、こりゃすごいなと思ったんだけど、 オリジナル版 を聽いてみたら、なんだもともとさういふ音樂なんぢゃないか。

といって、さっきの Pharoah のアルバムみたいにがっかりしたわけではなく、 寧ろオリジナル版のすばらしさに感嘆した。 すごくないですか、このアルバム?

昨年のリリースなので、ググると ele-king の記事なんかも引っかかる。 つまり、おれが情弱だったってことですね。 普段はあんまり氣にしないけど、このアルバムはもっと早く知っておきたかった。くそ。

で、このアルバム、プロデュースはなんと Hiatus Kaiyote のキーボード奏者 Simon Mavin。 ベーシストの Paul Bender も何曲かベース彈いてをり、なるほど先進的な音樂になってるのも納得。 デビュー作なのに豪華だな、と思ったけど、 冷静に考へたら Hiatus Kaiyote だってまだ 2 枚しかアルバム出してないんだった(もうすぐ 3 枚目出るけど)。

收録されてゐる曲のタイプは多岐に亘るが、 それらすべてをソウルとしか云へない氛圍氣に仕上げてしまふ Natalie Slade のヴォーカルが何よりすごい。 バッキングだけならソウルとは思へない曲だらけなのに、Natalie Slade のヴォーカルがあると完璧にソウルになってしまふのだ。 このアルバムを聽いて以來、ソウルの本質って何なんだらうと考へさせられることが多くなったほど。

このアルバムそれ自體もすばらしいが、 今後のソウル・ミュージックの發展を期待させてくれる點も嬉しい。 いやあ、優れたソウルのアルバムがたくさんリリースされてありがたいことですな。

3 月 29 日の album of the daySpeaker Music の Soul​-​Making Theodicy の紹介だった。

昨年リリースのアルバム Black Nationalist Sonic Weaponry は かなり話題になったアルバムで、 おれも初めて聽いたときは、昔の Autechre を髣髴とさせる脱臼した感じのリズムにグッときたものだが、 殘念ながら、このアルバム、何度も聽きまくってると飽きてくるんですよ。ワンパターンだから。

で、今囘の EP Soul​-​Making Theodicy でその思ひは一層強くなってしまった。 こいつ、このリズムしか作れねえのか?

先ほど、昔の Autechre みたいと書いたが、Autechre は同じリズムの曲を作るなんてことはしなかった。 いろんな方法でわれわれをガクガクさせてくれたし、 最近はまた新たな地平を切り拓きつつある(昨年の SignPlus の音の擴がり!)。

なのに、Speaker Music は昨年のアルバムも今囘の EP もずーっと同じリズム。 最初は新鮮だけど、それだけなんだよなあ。 かっこいいよ。かっこいいけど、同じことばっかやられましても…。

3 月 30 日の album of the day では The Alchemist がプロデュースした Armand Hammer の新作 Haram が紹介された。

去年の Shrines から一年も經ってないのにもう新作!

ヒップホップらしからぬ、抑制の利いたグルーヴ感のないクールなバッキングが特徴的な Armand Hammer だが、 このアルバムもさうした空氣は健在で、とにかく主張がうるさく、その所爲なのかバッキングが適當なものの多い凡百のヒップホップと違ひ、 ぼけーっと聽いてゐて苦にならないのがいい。 逆に、ヒップホップ聽きてえ!といふ欲望を滿たしてはくれないかもしれないが、個人的には全然あり。 普段からヒップホップ聽きてえ!と思ふことがほとんどない人間です故。

3 月分はこんなとこかな。前半はいまいちだったけど、後半にいいアルバムがたくさんあったので滿足。 4 月分以降はまた今度。 こんだけ拔粹してるにも拘はらず、量が多すぎてまとめるのも一苦勞なんです…。 メモばかりがどんどん増えていく日々。