When the Music's Over

音樂の話とゲームの話

Willem Breuker Kollektief

前囘の記事の最初に Chris McGregor's Brotherhood of Breath のことを書いた際、 大勢で明るいフリージャズをやってゐるバンドが好きだ、と書いた。 オランダの即興集團 Willem Breuker Kollektief (以下、WBK)もさうしたバンドのひとつである。

上に貼ったのは、恐らく 2004 年に來日し、SuperDeluxe で行はれたライヴの映像である (動畫に全く詳しい情報が書いてゐないため推測だが、 何度も足を運んだ SuperDeluxe を見間違へるとは思へない)。 歌入りの曲はライヴでは珍しくないが、 WBK の全體的なレパートリーの中では少ないはうなので、 この映像だけで WBK ってこんなバンドなのね、と判斷されると困るが、 この莫迦々々しくも愛らしい空氣は、まさに WBK のものであり、おれはこの映像が大好きなのである (もともとは Hunger! といふアルバムに收録された曲で、1922 年に書かれた曲のカヴァー)。

唐突に WBK のことを書く氣になったのは、2017 年に發賣されたボックスが、なぜかセールになってゐたからだ。 11 枚組で 50 ユーロ! 日本なら送料込みで 75 ユーロほどだ。およそ 1 萬圓ぐらゐ。安い!

このボックス、廃盤が多い(上に廃盤でないものも日本にはちっとも入荷してこない)ために入手が容易とは云へない WBK の音源をどかっと入手できるだけでなく、 既發表、未發表の曲を織り交ぜた上、リマスターまで施されてゐる、なんともお買得なボックスだ。

と云っても、WBK のことを知らない人にとって、いきなりボックスを買ふのはハードルが高いだらう。

幸ひにして、WBK の映像は公式にたくさんアップロードされてをり、 YouTube の彼らのチャンネルから簡單に見ることができる。 WBK のことをよく知らないなら、最初はこのドキュメンタリーなんかはいかがだらうか。

WBK が、他のフリージャズのバンドと違ふのは、 ジャズばっかりやってゐるわけではないといふところ。

上のドキュメンタリーでも Gershwin の Rhapsody in Blue や Satie の Parade を演奏してゐるし、 Leroy Anderson の The Typewriter のカヴァーが入ったアルバムもある。

オランダのフリージャズと云へば、Misha Mengelberg と Han Bennink の 2 人が有名で、 Willem Breuker の知名度はどうしても一段落ちる。 Misha Mengelberg と Han Bennink の 2 人はなんといっても Eric Dolphy の Last Date に參加してゐるのがでかいし、 ICP Orchestra だけでなく、Derek Bailey を始めとするインプロヴァイザーたちとの共演も多い。

翻って、Willem Breuker は ICP の創立メンバーの 1 人であるにも拘はらず、 早々に ICP と袂を分かち、その後はずっとほぼ Kollektief 一筋。 作品も自身の BVHaast からのリリースばかりだし、 音樂性も ICP に比べて惡く云へば中途半端だ。

ただ、中途半端といふのはフリージャズだとかインプロヴィゼーションといった視點から見た場合の話であって、 Breuker がライヴでやってゐた、演劇性の強い音樂といふ枠で捉へれば、 中途半端さを感じるやうなことはないし、それが WBK の魅力でもある。 それに、だからといって即興演奏が蔑ろにされてゐるわけでもなく、 寧ろ Willem Breuker は即興演奏に厳しい人だった (どこのインタヴューで讀んだのか忘れてしまったが、そんな話をしてゐるインタヴューを讀んだことがある)。

ICP Orchestra のアルバムも樂しいが、WBK のアルバムはもっと樂しい。 ジャズのことなんて知らなくても樂しめる WBK、この機會に聽いてみてはいかが?