When the Music's Over

音樂の話とゲームの話

Beck

1 つ前の記事で、Beck の名前を出したので、Beck について書かう。

おれは、Beck が大好きだった(ハンドルネームを Beck の曲からとるほどに)。 さう、過去形だ。

今の Beck は、とてもつまらないアーティストになってしまった。 The Sugarcubes を聽いてゐなかったおれにとって、 Beck はいつも Björk と對比される存在だった。 どちらも 1993 年にデビューし、 ちょうどおれが同時代の音樂を聽き始めた頃に傑作を出したソロ・アーティストとして。

でも、1999 年の Midnight Vultures 以降、 Beck のアルバムはどんどんつまらないものになっていった。 彼のアルバムにあるのは、どこかで聽いたことがあるやうなもの、 既に自身でやったものの延長、さういったものばかりで、 新しい世界を見せ續けてくれる Björk とは違ひ、 出涸らしみたいな歌手になってしまった。

メジャーデビュー作の Mellow Gold は、 オルタナティヴ・ロックとヒップホップが何の違和感もなしに同居したアルバムだった。 そんなことができるのかと、時代の先進性に感嘆したものだ。 當時、白人でヒップホップといへば Beastie Boys だったわけだが、 派手でハードな Beastie Boys と違ひ、Beck のヒップホップは實にスマートだった。

メジャー第 2 作の Odelay はもっと衝撃的だった。 こいつ、オタクぢゃねえか!

おれは當時、Beck などの同時代の音樂をあまり聽かず、 昔のロックやジャズを好んで聽いてゐたので、 Odelay もリアルタイムで聽いたのではない。

おれが Odelay を聽いたのは、 ちょうど Them の The "Angry" Young Them!Them Again のリマスターが出た頃だったのだ。

いやあ、驚きましたね。 遂にリマスター出たか!と喜んで聽いてた曲が、 少し前にリリースされたアルバムからも聞こえてくるんだもの。 Them 以外にも、60 年代や 70 年代のロックおよびソウルからたっぷりサンプリングされてゐる。

いやまあ、ソウルはわかりますよ。定番だしね。 でも、Van Morrison がゐた、といふことでしか知られてゐない Them みたいなバンドの曲を、 リマスターもされる前からサンプリングに使ふやつがゐるとは思はなかった。

だから、なんて云ふんですかね、シンパシーってんですか。 ああ、こいつは同年代のほとんどの人間が見向きもしない古い音樂を嬉々として漁り、 それを使って曲を作っちゃふやうなやつなんだ、と。 それってもう完全にオタクぢゃないか、と。

次の Mutations もすばらしかった。 今でも、Beck のアルバムではこれが一番好きだ。

もともと、Beck はインディーレーベルからアンチ・フォーク作品を何枚も出してゐたわけだが、 アンチ・フォークってのは名前にアンチとついてはゐるものの、 その實、フォークの原點に帰らう!といった音樂だから、 シンプルかつ極めてローファイで、メジャーで出せるやうな代物ではない。 それを、器用にメジャー向けに装飾して出したのが、Mutations なのだ。

この Mutations が出たのは 1998 年末。 その數ヶ月後に再発され始めたものがある。 Mutantes(ムタンチス、と讀む)のアルバムだ。

當時、おれはラウンジ音樂にハマってゐて、 渋谷のさういった音樂ばかりを扱ふレコード店を贔屓にしてゐた (もう店の名前は忘れてしまったが、毎年大晦日に全品半額セールをやるので、友人と一緒に買い漁ったものだ)。

Mutantes の再発はそこで知ったもので、 Jardim Elétrico の氣持ち惡いジャケを見て一發で氣に入ってしまった。 買ってみたらこれが大當たり。 そこからトロピカリアに進んで Caetano Veloso に触れたりもしたのだが、 Mutantes は Veloso なんかよりずっと卑近で、サイケで、わかりやすかった。

ところで、Beck だ。 もう一度、アルバム・タイトルを見てほしい。 Mutations。 しかも、アルバムからの 3 枚目のシングルにもなった曲のタイトルは、Tropicalia だ (Veloso のカヴァーではない)。 なんてこった。Beck はまた、おれが再発で聽く音樂を先取りしてゐたのか。

でも、Beck が面白かったのはそこまでだ。 その後、彼がリマスターを先取った衝撃を與へてくれることはなかったし、 音樂的に新しいことをやったりもしなかった。

才能に溢れてゐたアーティストが、 つまらない音樂を量産するだけのアーティストになってしまふなんてのは珍しいことではない。 でもやっぱり、殘念だ。 Beck ぐらゐうまくオタク要素を昇華したアーティストには未だに出會へてゐないのだから。

Mellow Gold

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ODELAY

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Mutations

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