When the Music's Over

音樂の話とゲームの話

Buddy Boy Hawkins

以前、壺ゲーについて書いたときにちらっと名前を舉げた The Rise & Fall of Paramount Records といふシリーズもののコンピレーション・アルバムがある。

アルバム、とは書いたもののその實これは Paramount Records の歴史を詰め込んだボックスで、 vol. 1 と 2 の 2 つが出てゐるのだが、どちらもなんとレコード 6 枚組である。 しかも、レコードに收められてゐるのは厳選された曲だけで、 附屬の USB にはなんと 800 曲もの曲が入ってゐる。 vol. 1 と 2 合はせて 1600 曲だ。

Paramount Records は戰前のレコード・レーベルで、 1917 年に設立され、世界恐慌の煽りを受ける形で 1932 年に新規録音が行はれなくなり、1935 年に閉鎖された。 當然、マスターは殘ってをらず、屑鐵として賣られたり川に沈められたりしたらしい (マスターが沈んでゐるといふ川に飛び込んで探した人やテレビ番組もあったさうだが、どちらも失敗に終はってゐる)。

その時代に存在した唯一のレーベルといふわけでもないのに Paramount が有名なのは、 race music を大々的に賣り出したレーベルだったからである。 race music といふのは要するに黒人音楽のことだ。 Paramount が race music を扱ひ始めた 1922 年から録音をやめる 1932 年までの間、 アメリカでリリースされた race music の 1/4 は Paramount からのものだったといふ。

例へば、Blind Lemon Jefferson や Skip James、Charley Patton なんかがレコーディングしたレーベルと云へば、 ブルーズを少しかじったことがある人ならその偉大さがわかるだらう。

さて、この Paramount にレコーディングしたブルーズ・ミュージシャンの一人に、Buddy Boy Hawkins といふ人がゐる。 1927 年から 1929 年の 3 年間に 12 曲を録音しただけなのだが、 そのうち最初に録音された 2 曲、Shaggy Dog BluesNumber Three Blues がそっくりなのだ。 いや、これ同じ曲だろ…。

まあ、同じ曲を名前を變へて録音するぐらゐ、大したことではない。 歌詞だって違ふし、何より自分の曲なのだ。 そんなことに、いちいち難癖をつけるつもりはない。

この曲について言及した理由は、Paramount のコンピを垂れ流してゐる際に、 この 2 曲がかかるといちいち頭の中で引っかかってしまふからだ。 なんで引っかかんのかって、聽くたびに別の曲が頭をよぎるからである。 これだ。

これ、作曲者 Danny Kirwan(手前でギター彈いてるはう)名義になってんだけど、完全にパクリですよね?  特に Peter Green の彈いてるフレーズは、Shaggy Dog Blues のシャウトからパクったのが丸わかり。

いやまあ、ブルーズのパクリといへば、 タイトルから何からパクった上で作曲者名だけ自分たちにするといふ豪快すぎる無茶をやって訴へられた Led Zeppelin のはうがひどいが、 よくもまあこんな古いところからパクったなって驚いちゃったよ。 尤も、Blind Lemon Jefferson みたいな有名人のゐたレーベルではあるし、 それなりに有名だったのかも知れないが。

でもなあ、ヒットを飛ばした上に 100 トラックほども録音した Blind Lemon Jefferson に比べて、 たった 12 トラックしか録音してない Buddy Boy Hawkins なんて人、どの程度知られてゐたのか…。 と思ったら、1968 年に Number Three Blues が入ったコンピ出てんのね。 なるほど、ここからパクったのか。 Fleetwood Mac が録音したのも、まさに 1968 ~ 69 年だし。 あれ、でも、Shaggy Dog Blues はどうやって知ったんだ?  1959 年に Blind Lemon Jefferson との split シングルが出てるから、これかな?

まあ、別にパクリだ!と騷ぎたいわけではないからその邊りの細かい事情はいい。 この記事を書いた理由は、Buddy Boy Hawkins の曲がかかるたびに、 いちいち「あっ、これなんだっけ、Fleetwood Mac がやってたよな」 と思っていちいち調べるのがいい加減アホらしいからだ。 要するに、個人的な備忘録である。 なんたって、曲名でググっても Fleetwood Mac に言及してるのはほぼ皆無だから (海外の掲示板で言及してる人が 1 人ゐた、とかその程度)、 「確か、Then Play On に入ってたやうな…」 といふ自分の曖昧な記憶を頼りにするしかないレヴェルなのだ。

しかし、こんなものをリイシューしてしまふなんて、Third Man Records は本當にすごい。 過去の録音をリイシューして出すレーベルは Third Man に限らないが、 Paramount みたいなでかいレーベルの音源を復刻する場合、 普通は厳選したものだけを出すものだ。

それを、USB であるとはいへ、1600 曲も出してしまふなんて、ほとんど狂氣の沙汰だ。 權利關係をクリアするだけでも一苦勞だらうに。 もちろん、それだけに中身は玉石混淆と云へなくもないが、 下手くそなものはひとつもない。

まあ、1600 曲もあるので、 ほとんどの曲は記憶に殘らないのだが、 垂れ流してゐるだけで獨特の氛圍氣に浸ることはできるし、 中にはぐっと心を鷲掴みにしてくるものもある。 個人的に好きなのはこの邊。

何がいいのか自分でもわからない。 どうってことないカントリーだし、 コーラスが綺麗といふわけでもない。 でも、なんですかね、この素朴な感じが歌によくマッチしてゐるといふか、 切なくっていいんだよねえ。

これなんかも、コンピに入ってる他の曲と何がそんなに違ふんだ、 と云はれたら全くわからないんだが、妙に心に殘る。 伴奏なんか、このコンピに入ってる曲の中でも群を拔いてシンプルで飾り氣も何もないのだが。

中にはかういふ有名な曲もある。 まあ、有名なのは Little Richard のヴァージョンと、 せいぜいが Louis Jordan のヴァージョンぐらゐで、 この曲の、恐らく最も早い録音であるこれはほとんど知られてゐない。 元のこれは實にスイングしてゐて全くジャズなわけだが、 Little Richard はよくもまああそこまでロックンロールにしたものだ。 どちらもピアノ主体なのに、印象はまるで違ふものなあ。

え、vol. 1 の話ばっかりぢゃないかって?  いやあ、vol. 2 は Skip James と Charley Patton のクオリティが高すぎるといふか、 「おっこれいいな」って思ふと大概その 2 人なんで、外の印象がどうしても薄くなっちゃって…。 こんなふうに 2 人のすごさを認識することになるとは思ひませんでしたね。