When the Music's Over

音樂の話とゲームの話

Two Fingers: s/t

ヒップホップといふジャンルの魅力がいまいち理解できない。

わかんないならわかんないでよくね?と濟ませられれば簡單でいいのだが、 さう割り切ることもできないから困る。 上に「いまいち」と書いた通り、いいなと思へるものもたまにあるのだ。

ヒップホップと同じく、おれがほぼ聽かないジャンルの一つに、HR/HM がある。 が、あっちは事情が違って、自分の好みがはっきりしてゐるから、まるで氣にならない。 おれが好きなのは、要するに初期 Black Sabbath か、その延長上にあるもの、 つまりスローテンポのストーナーだから、それ以外は完全に無視できる。

が、ヒップホップは何が好みなのか、自分でもさっぱりわからない。 ただ、あれだけファンがゐるのだし、ブラック・ミュージックだし (ブラック・ミュージックに對する根拠不明瞭な憧れのやうなものは、 20 世紀後半に生まれた音樂好きの多くが抱へてゐる氣がする)、 きっといいものだから理解できないのは自分の感覺が鈍いのだ、 といふちょっとした強迫観念に駆られてしまひ、 HR/HM のやうに無視を決め込むことができないのだ。 HR/HM は聽いてすぐ「だせー」と思ふのに對して、ヒップホップはそんなことないしね。

とはいへ、有名なヒップホップのアルバムにのめり込めたことはちっともない。 なんたって、おれの最も好きなアルバムは Kid Koala、Dynomite D と Wolfmother のリズム隊であった Chris Ross、Myles Heskett の 2 人が組んだ The Slew の 100% だ。

聽いてもらへればわかる通り、これはヒップホップといふにはちょっとハードロック色が強すぎる。 でも、スクラッチが入ってゐて、サンプリングを多用し、ラップまで入ってゐるのだから、 ヒップホップ以外に分類するのは不可能と云っていいだらう。 Run-D.M.C. の Walk This Way みたいのだってあるわけだし。

何が云ひたいかって、自分の好みはヒップホップの正道からは少し離れてゐるのではないか、といふことだ。 Flying Lotus のよさがわからなかったのはちょっと凹んだ。 いかにもおれが好きさうな音が散りばめられてゐるのに、 總體としてはよくわからないものにしか聞こえないってのはなんなんですかね。

しかし、正道から外れてるんぢゃないかと云ったって、 正道が好きでなければさうでないものに詳しくなるはずもないわけで、 さうなると、自分の好みに合ふものを探すのはますます困難になる。 そんな具合で、一體どういふものが自分の好きなヒップホップなのかがわからず、 ヒップホップは未だに「いまいち理解できない」ジャンルとしておれの心の中のしこりになってゐるのだ。

だから、新作 Fear in a Handful of Dust をリリースしたばかりの Amon Tobin がやってゐた Two Fingers もなんとなく敬遠してゐたのである。

でも、Amon Tobin は大好きだし、Kid Koala のレーベルメイトでもあるし (別に Ninja Tune は好きなレーベルぢゃないけど)、 もしかしたらいいかもしれない、といふ淡い期待を抱いて今さら聽いてみたのだ。

かああああああああっこええええええええええええええええ。

まあスクラッチ入ってないからヒップホップではないのかもしれん。 實際、bandcamp のタグに hip hop の文字はない。 でも、Big Dada の作品紹介ページには In Montreal they applied production techniques associated with UK styles like drum & bass to the template of hip hop. って書いてあるんだし、 そもそも Big Dada って Ninja Tune のヒップホップ專門サブレーベルみたいなもんだし、 これはヒップホップでええやろ!

いやあ、ホントね、Amon Tobin の天才を改めて感じましたね。

エレクトロニック・ミュージックは、決まった樂器構成を持たない音樂だ。 樂器をサンプリングした音もあれば、電子的に合成された音もあるし、 Amon Tobin も ISAM で使ったやうな自然音を採用することだってある。

それだけに、エレクトロニック・ミュージックには音の選択が他のジャンルより重要になる。 どんな音をどんなバランスで響かせるのかといった基本的なことはもちろんだが、 特に目立つのは「不要としか思へない音」をいかにうまく配置するか、だ。

Amon Tobin はさうした音を選ぶセンスが拔群に優れてゐる。 Two Fingers は Amon Tobin 名義のときと違ひ、 ドラムとベースの低音が強調された音作りだが、 それでゐてしっかり Amon Tobin らしさを感じる音になってゐるのがさすが。 いやあ、やっぱりいいヒップホップもあるんぢゃないか。

ただ、これを聽いてゐて思ふのは、 自分のヒップホップの好みはトラックメイカーに大きく左右されてゐるのではないか、といふこと。 しかも、普段ヒップホップやってない人間が作ったトラックのはうが好みっぽい。 それって、結局、ヒップホップ自體は好きでもなんでもないのでは…。

好みのヒップホップを探す旅はまだまだ續きさうである。

Two Fingers

Two Fingers

ISAM

ISAM

Fear in a Handful of Dust

Fear in a Handful of Dust