When the Music's Over

音樂の話とゲームの話

Unrailed!

最近ちっともゲームの記事を書いてゐないが、別にゲームしてないわけではない。 何やってたんだってーと、Unrailed! やってました。

Unrailed! は線路を敷いて列車を遠くまで進ませるゲーム。 線路は列車の一部であるクラフトワゴンで作る必要があり、線路の材料である木材と鐵は、 列車の進路を木と岩として塞いでゐるので、 ともかく木を伐採し、岩を切り崩して道を切り拓きつつ資材を集め、それを列車まで運んで線路を作り、その作った線路を次々と敷いていく、 なかなかに忙しいゲームである。

bot が用意されてゐるので一人で遊ぶことも可能だが、 基本的には友人たちと一緒に遊ぶのが前提で(bot が用意されたのは最近で、かつては一人だと遊べなかった)、 「あれやってくれ、こっちはそれやるから!」みたいな感じで役割を分擔して先を目指す樂しいゲームだ。

このゲームを初めて遊んだのはいつだったか steam で週末無料プレイをやってゐたときだが、 ちょっと前にどこかでセールしてゐたので買って友人と遊んでゐた。

が。

なんかですねえ、おれの物云ひが、ムカつくらしいんですよ。 それで友人は怒ってしまって、氣まずくなってこのゲームを一緒に遊んでくれなくなってしまった(他のゲームしたりはする)。 こっちとしてはそんなつもりがなく、それゆゑ自覺もないので直しやうがないのも困ったところだ。

ところで、おれが實績厨なのはこれまでのゲームの記事でも明らかだと思ふが、 このゲーム、實績達成率がめちゃくちゃ低いのである。 AStats といふ、實績厨御用達の統計サイトがあるのだが、 この Unrailed! の Achievement Master(全實績を解除すると取れる實績)を解除した人は、 おれを含めてたった 16 人しか登録されてゐない (プレイヤーとして登録されてゐるのは 955 人)。 steam でも、達成率は 0.1% と表示される。低すぎだろ!

これまでに達成した實績でレアなものといへば、例へば前に記事を書いて自慢した La-Mulana のものなんかがあるが、 あれだけ難しい La-Mulana でも、最低達成率は 0.5% だ。 0.1% がいかにヤバい數字かわかってもらへるだらうか。

まあ、これはカジュアルに友人と遊ぶゲームだから、 La-Mulana みたいに、 プレイヤーの多くがアクションガチ勢みたいなのと比べると、 母集團であるプレイヤー層に「實績への熱意」といふ點で大きな差があるのはわかる。

わかるけど、0.1% はそれにしたって低すぎる。 つまり、カジュアルに樂しむことももちろんできるが、マジでやるとけっこうな難易度のゲームでもある、ってことだ。

おれはもちろん全實績を取ったのだが(先述の理由があったので、一人で…)、實績を取るための情報が全然なくて(英語ですら!)、 實績についてのガイドは、ほとんど steam の實績ページで讀み取れる情報以上のものを提供してくれない。 基本的な攻略情報は、公式が用意してくれた @wiki がすごく充實してるのに!

といふわけで、ガイド書きましたよ。

このガイドが多くの人に役立って實績達成率が下がってしまふと、 おれが自慢できなくなってしまふのでちょっと悲しいが、 プロフィールの「最も稀な實績」欄がこのゲームの實績で埋め盡されてゐる状況も嬉しいものではないので、 多少はレア度が下がってくれればいいなあ、と思ふ(0.5% ぐらゐになれば理想的)。

Switch や PS でも發賣されてゐるから、そっちでプレイしてゐる人も役立ててくれれば幸ひ。

ちなみに、一人でやった所爲か、108 時間もかかりました…。

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Harry Bertoia: Sonambient

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音樂を意識的に聽き始めたのはティーンネイジャーの頃だが、 その時期はとにかく金がない。 なんせ、親からもらふ小遣ひしか金の當てがないわけで、 なぜかレンタルといふ發想がなかったおれは、 月々の小遣ひで買った少ないアルバムを何度も何度もしゃぶり盡すやうに聽いたものだ。

その貧乏性が未だに拔けず、買ったアルバムはしゃぶり盡したと思へるまで聽き込むのがこの歳になってもやめられない。 買ったアルバムは基本的にパソコンに取り込み、ローテーションを組んで順に再生してゐる。 そのため、家にゐる間はローテーションを守って何かしら音樂がかかってゐるのだが、 なんと昨年の 9 月に買ったものがまだローテーションから外れてゐない。 なにかって Celibidache の The Munich Years で、 これは 50 枚近く入ったボックスなので、まるまる再生すると 50 時間かかる。 一日 6 時間づつ聽いたとして、8 日はかかる計算で、 もちろんその後ほかに買ったアルバムもどんどん追加されていくから、 結局、このボックスを聽く囘數は 1 ヶ月に 1 囘なんてことになる。 これではしゃぶり盡すとは程遠く、だからずっとローテーションから外せなくなる。

そんな聽き方をしてゐるおれでも、ときには「あれを聽きたいぞ」と 特定の曲を聽きたくなる日はあって、大抵は數曲聽けば滿足なのだが、 たまに、「今日は××盡しでいかう」なんて日もあり、先日その欲求に引っかかったのが Harry Bertoita であった。

Harry Bertoia の名前をググって最初に出てくるのは Knoll Japan のサイトで、家具デザイナーとしての Harry Bertoia について書かれてゐる。 ベルトイアは、ひとつのシリーズしか家具をデザインしませんでしたとあるが、ジュエリーのデザインや繪畫インストラクターなんかもやってゐたらしい。

その、唯一のシリーズがワイヤーを使った椅子なのだけれども、どうも Bertoia といふ人は金屬加工に竝々ならぬ興味を持ってゐたやうで、 金屬を使った音響彫刻をいくつも作ってゐるのである。

音響彫刻とは、要するに音の出る彫刻作品で、金屬製のものはほとんどが大きな打樂器と云ってしまって差し支へないものばかりだ。 當の Bertoia もいくつものゴングを作ってゐる。

音響彫刻の面白いところは、美術館に展示されてゐる彫刻作品でありながら、觸ることが許されてゐる點だ。 なんたって、觸らないと音が出ないのだから、作品を味はふためには演奏してみるしかない。 普通、彫刻作品に觸ることは許可されてゐないから、 そのことだけとってみても、音響彫刻のちょっとした樂しみは傳はると思ふ。

Bertoia の變はったところは、その音響彫刻による演奏をわざわざ録音し、レコードにプレスしてゐたことだ。 自作自演といへば自分の作品を自分で演奏することだが、ふつう、「作品」とは「曲」のことであって、「樂器」ではない。 でも、Bertoia はそんな自作自演以外に呼びやうのないレコードを何枚も殘した。

それらのレコードは、當然プレス枚數も極小だったし、 レコード屋に賣られてゐるわけでもなかったので(ネット上に買へるサイトがあったやうに記憶してゐるが、どこだったか忘れてしまった)、 その存在すらほぼ知られてゐなかった。

それを、2016 年にまとめてリイシューしたのが、 Eleh をリリースするたびにおれから法外な送料を毟りとっていく Important Records である *1

で、やうやく日の目を見た Bertoia の音樂がどのやうなものだったのか。

せっかくだから、リリース當時の文章をいくつか見てみよう。

まづはディスク・ユニオン

前衛的な家具デザイナーでもあり画家でもあった鬼才 Harry Bertoia の Organum のような擦過金属音響作品アーカイブ 11 枚組 CD。 この音の正体は巨大な金属オブジェクト(CD ジャケットで確認できます)が醸し出す重厚な残響音。

引用者註:固有名詞がすべて大文字で書かれてゐたが、語頭のみ大文字に改めた。

續いて、どんなアルバムでも大傑作に見せる煽りの達人、京都のレコード屋 Meditations

内容はいわずものがな、ゴォォォーーーンと響くすさまじい深さ。

最後は、『ロック・マガジン』の創刊やヴァニティの設立で知られる音樂評論家、阿木譲さんのブログ

ペンシルベニアの森の納屋で、ハリーは、4 つの頭上のマイクロフォンおよび 1/4 インチテープレコーダを使って直観的なサウンドの実験を記録し、 1970 年に彼は最初の Sonambient LP をリリースした。これらの豊かな高調波を通して、 彼の彫刻でのトーンおよび純粋なゴングバートイアをパルス化されたこのボックスセットでの音響は、 サウンド・インスタレーションのように空間的で、ほんのわずかな空気の流れをも音響化されている。

はい。どんな音樂か傳はりました?

Meditations の煽りが一番やる氣なくて思はず笑ってしまふが(いつもはどれもこれも大名盤にしか思へない紹介文なのに、いわずも「の」がな、なんて衍字すらある!)、 ユニオンのも、阿木譲さんのも、正直、何云ってんだ?って感じ (そもそも、阿木譲さんの彼の彫刻でのトーンおよび純粋なゴングバートイアをパルス化されたこのボックスセットでの音響ってなんだよ)。

3 つを見てわかるのは、どれも「殘響音」だとか「響く」だとか「音響」だとか、とにかく響きのことしか書いてゐない點。 まあ、音響彫刻は樂器のやうなものとはいへ、音階が設定されてゐていろんな曲が演奏できる、といふわけではないから、 響きについてしか語ることがないのはわかる。 わかるんだけど、これだけ讀んでもどんな響きだかさっぱりわからん。

思ふに、Bertoia の特殊性は、その鳴り方にある。 最初のはうに、金屬製の音響彫刻はどれもでかい打樂器のやうなものと書いたが、 Bertoia の作品は、どれもあまり打樂器らしい響きではない。

最初に貼った動畫でもわかる通り、 Bertoia の彫刻は、一度鳴らせば、しばらく音が鳴り續ける構造をしてをり、 鐵琴やウィンドチャイムの延長にあるやうな音響彫刻とは一線を劃す。

實際、Bertoia の作品を聽けばわかるが、大抵のものは深遠な金屬ドローンである。

もちろん、普通のドローン作品のやうに、響きの追求のための厳密な調律などは全くされてをらず、 それゆゑ、音の調和や音波の干渉を樂しむことはできない。

Bertoia の作品で樂しめるのは、あくまで金屬の持續的な響きでしかない。 人によっては、これを音樂だと思ふことすらできないだらう。

しかし、阿木譲さんがサウンド・インスタレーションのように空間的で、ほんのわずかな空気の流れをも音響化されていると書いてゐる通り、 この特異な音響空間の記録は、立派に音樂であるとおれは思ふ。 Pauline Oliveros の Deep Listening による環境を利用した殘響音とはまた違った、樂器そのものによる殘響音。 草が風に靡く音を音樂的に聽くことができるやうに、 Bertoia の金屬彫刻が搖らぎ、触れ合ひ、そよぐことによって奏でられるさざめきに音樂の神秘を感じることも、さう難しくはあるまい。

これがなんと、今や bandcamp で聽きまくれるのだから、 少なくとも音樂を聽く環境に關しては、惠まれた世の中になったものだ。

*1:恨みがましく書いてしまったが、Eleh や Pauline Oliveros、Éliane Radigue あたりのリリースには感謝しかない。

Sun Ra

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このブログを始めた理由は、誰かに音樂やゲームの話を思ひ切りしたいと思っても、それができないからだ(特に音樂)。 要は己の欲求不滿を解消するためのもので、だから特にそれを通じて得られるものがあるとは思ってゐなかった。

が、なんとなくしか考へてゐなかったことを文章の形にしてみると、氣づかされることもある。 その 1 つが、新しいジャズのアルバムを聽く際の態度で、いくつかジャズの新譜についての感想を書いて氣づいたが、 おれは、ジャズの新譜を聽く際、大抵はそのアルバムに Sun Ra 要素を見出さうとしてしまってゐる。

別に Sun Ra 原理主義者といふほどではないので、Sun Ra 要素がないアルバムだって好きになるのだけれど、 Sun Ra 要素を強く感じるアルバムに出會ふと、さういふものにはすぐメロメロになってしまふ。 近年だと、Rob Mazurek の Exploding Star Orchestra とか Angel Bat Dawid なんかがさうだ。 Angel Bat Dawid は 2019 年のデビュー・アルバムを聽いたときから Sun Ra みが深いなと思ってゐたが、 この前のライヴ盤では 1 曲目が Sun Ra のカヴァーだった。

で、そのことに氣づいた上、bandcamp でけっこうな數の Sun Ra のアルバムが入手できるやうにもなったのだから、 せっかくだし Sun Ra の音樂について、紹介してみることにしたい。 尤も、既に bandcamp daily で Sun Ra については二度も特集が組まれてゐるので、 そちら(第 1 囘第 2 囘)から讀んでくれてもいいし、 日本語でも、アエリエルさんの「人生は野菜スープ」エレンコさんの「ジャズの名盤探検隊」なんかは、Sun Ra のアルバムを個別で紹介する記事も充実してゐる (し、どちらもおれのアホみたいな文章よりずっと素適な文章な)ので、 おれは Sun Ra の概觀を紹介するに留める。この程度を知っておけば、Sun Ra について知つたかぶりできるぞ!みたいな感じで。

さて、Sun Ra の名前ぐらゐは知ってゐるといふ人たちにとって、あるいは Sun Ra のことを初めて知った、といふ人たちにとって、 最初に Sun Ra の代表曲として意識されるのは、何を措いても Space is the Place であらう。

サックスによる五拍子とその他の四拍子によるポリリズムも印象的なこの曲は、 同年に撮影された唯一の Sun Ra 監督による映畫のタイトルにもなってゐるし、 ライヴでもさんざん演奏されてゐるから、確かに代表曲と云って間違ひない。 土星人を自稱する Sun Ra にとっては、タイトルも象徴的だ。 しかも上に貼ったものは、Sun Ra の多くのアルバムと違ひ、 ジャズ・ファンなら誰もが知ってゐる Impulse! から出てゐるから、猶のこと有名である。 Sun Ra の奏でるわけのわからんモーグの音や、Arkestra の面々によるフリーなアドリブの應酬も Sun Ra のパブリックイメージに合致するものだし。

ただ、これだけ聽いて Sun Ra を知った氣になってもらっては困るといふか、 Sun Ra ファンとしては、ほかにもいろんな曲があるんだといふことを知ってほしいんです。 まあ、Space is the PlaceImpulse! 版 は 代表曲がまとまった好盤だし、サントラ版 も ベスト盤と云っていい選曲になってゐて、どちらも絶對に買ふべきアルバムではあるんですけども。 特に前者は Lady Gaga や Yo La Tengo がカヴァーしてゐる Rocket Number Nine が入ってるので、 そっちで Sun Ra の存在を知った人には入りやすいかもしれないし。

初期のおすすめは、やっぱり代表曲 Enlightenment (なぜか bandcamp では Enlightment になってるけど、これまでのクレジット的にも、英語的にも Enlightenment が正しい、はず…)や Saturn の入った Jazz in Silhouette

代表曲と云ひつつ、Saturn はライヴで演奏されることは全然なく、 多分おれが持ってゐる數多のライヴ盤には、1 つも入ってゐない。 でもねえ、土星人ですから。この曲を聽かずしてどうすんのと。 録音が 1958~59 年なのもあって、フリー要素なし、輕快なバップが樂しめるのもポイントの 1 つ。 Sun Ra は Charlie Parker より年上で、Sun Ra としてデビューする前からジャズ界に長くゐた人だから、 かういふジャズだってたくさんやってゐるのだ。

初期なら、Sound Sun Pleasure もいい。 Thelonious Monk の大名曲 'Round Midnight で幕を開け(ライヴでもしょっちゅう演ってゐる)、 My Fair LadyI Could Have Danced All Night で幕を閉じる、 かなりポップなアルバム。なぜか Enlightenment も入ってゐる(先のものと同テイク)。

60 年代のアルバムは、どっぷりフリージャズのものが多いので、初心者には全くおすすめできない。 この時期で最も有名なのは天下の ESP から出た The Heliocentric Worlds of Sun Ra シリーズだらうが、 テーマすらないフリー・ジャズなので、Sun Ra の作曲が樂しめるわけでもなく、Sun Ra ファンのおれですらほぼ聽かない。 フリージャズならフリージャズで、Sun Ra 以外にいいのたくさんあるし、Sun Ra の魅力って曲の面白さも大きいから、 完全にフリーでやられるとしんどいのだ。

だから、60 年代のアルバムなら、BYG から出た The Solar​-​Myth Approach シリーズがいい。 歌姫 June Tyson もゐるし、vol. 1 には後年ライヴの定番曲になる They'll Come Back だって入ってゐる。 ジャケもかっこいいし(まあ、ESP のもジャケはかっこいいんだけど)。

それに對して、70 年代は Sun Ra の黄金期で、絞るのが難しいほど名盤だらけである。 が、まづはこれを聽いてほしい。

どうです、このすばらしさ。 この曲は、シングル I'm Gonna Unmask the Batman といふ曲の B 面としてリリースされた曲だが、 Sun Ra 以外の誰にこんなシンセが彈けようか。John Gilmore と Marshall Allen の 2 人が眞っ當に吹いてゐるのに、 Sun Ra のシンセはずっと調子外れだし、Danny Davis のドラムも程度の低いドラム・マシンを模してゐるやうなチープさ。 これこそ Sun Ra だ! いや、嘘です。かういふのもあるってだけで。

現在、この曲を聽くことができる名コンピ Singles は、 Sun Ra たちが他のアーティストのバッキングをやってゐた時代の曲なんかも網羅してゐるため、 Sun Ra のアルバムを追ふだけでは聽けない曲も多數あるし、 アルバムとは異なったヴァージョンが收録されてゐるものもある。 もちろん、先の The Perfect Man のやうに、ここでしか聽けないものも。 LP/CD だと 3 枚組でお値段も少し高くなってしまふが、 かつて Evidence から出てゐた 2 枚組のものより曲も増えてジャケもよくなり、 デジタルならたった 12 ユーロである。 最初に買ふものとしておすすめはしないが、Sun Ra に興味を持ち始めて、 もっと深く知りたいと思ったなら、期待に添ふものになってくれるだらう。

さて、上で紹介した Singles をリイシューしたのは Art Yard といふイギリスのレーベルなのだが、 21 世紀になってからの Sun Ra の再發/發掘について語るなら、まづはここといふぐらゐ、良質な Sun Ra 作品をリリースし續けてくれてゐる。 はっきり云ひますけど、Sun Ra 初心者を脱するには Art Yard から出てゐる Sun Ra を揃へることから考へるのがよろしい。 それぐらゐ、このレーベルが出すアルバムは外れがない。 なんたって、bandcamp で Sun Ra と検索して出てくる 2 つのアカウントのうち、 片方がオフィシャルなのは當然として、もう片方はこの Art Yard のものなのだ (最近は Sturt との共同リリースばかりなので、URI は sunrastrut になってゐるが)。

そんな Art Yard が Sun Ra リイシューの第一彈として出したのが、Disco 3000

タイトル曲がいきなりヤバいが、途中で Space is the Place も插入される、Sun Ra ならではの大コズミック・ジャズ繪卷。 このアルバムが再發されたときは、Sun Ra ってまだまだこんなのが眠ってたのか!と驚きましたよ。

ただ、このアルバムなんたって長い曲だらけだし、 フリージャズ要素もかなり強いから、最初に聽くべきアルバムではない。 Art Yard の選曲眼の確かさはよくわかるから、中級者向けだ。

第二彈としてリリースされた Media Dreams も 同時期のライヴだけあって、曲も演奏も充實してゐるが、 これも 2 枚組なので、全體的に長い。 Disco 3000 を樂しめるレヴェルに達してゐるなら、間違ひなくおすすめ。 この邊りのアルバムに魅力を感じないのであれば、Sun Ra とは縁がなかったと思ってよい。 それぐらゐ、この 2 作は Sun Ra らしさが濃縮されたアルバムだ。

ディスコ・ファンクな UFO が收録された On Jupiter は短めで初心者にもおすすめできたのだが…。 なんとオフィシャルのはうでボーナス・トラックつきのものがリリースされてしまった。 デジタルのみで LP や CD でのリリースはないが、ボーナス・トラックが UFO のライヴなので、 Art Yard 版を買ふ意味はほとんどなくなった。寧ろ、持ってても買ひ直しを考慮させられるほど。

The Antique Blacks も同じ運命を辿ったアルバムの 1 つで、 こちらはボーナス・トラックが追加されたわけではないが(寧ろ、Art Yard 版がかつての LP にボーナス・トラックを加へた形だった)、 なんと Art Yard のリリース後にマスターテープが發見され、 Art Yard 版では別れて收録されてゐた 3 曲が、本來意圖されてゐた通りの The Antique Blacks Suite として 1 曲にまとめられたものが公式からリリースされた。 1 曲目が Song No. 1 でなくなってしまったのは殘念だが、些細なことだ。 これまた、買ひ直し候補の 1 つになるので、今から買ふ人は公式からのデジタル音源を買ふのがいい。

まあ、買ひ直しといへば、Lanquidity は逆にこの度 Art Yard からリマスターされ、 本篇の曲をまるごと別ミックスでも收録してゐるため、今から買ふならそっち。 買ひ直し多くてハゲさう。

70 年代にはソロ・ピアノのアルバムも何枚かリリースされてゐる。 Sun Ra はハチャメチャにモーグを彈いてゐる印象も強いが、 眞っ當に演奏してゐるものもたくさんあり、 ソロ・ピアノものは、さうした Sun Ra の演奏者としての魅力を存分に味はふことができる。

ソロ・ピアノものはどれも味はひ深いが、 スタンダードをけっこうな割合で採りあげてゐるのが大きな特徴で、 上に貼った Over the Rainbow のほか、 St. Louis BluesTake the 'A' TrainDon't Blame MeSophisticated Lady なんかは好んで演奏されてゐる。

70 年代のライヴ盤はどれもこれもすばらしいが、 先の Art Yard から出てゐるもののやうに、長いものが多く、Sun Ra の魅力をわかりやすく傳へてくれるものが bandcamp にはまだあまりない。 まあ、これはそもそも Sun Ra のライヴ時間が長かったことに起因してゐるから、 bandcamp のアルバムが更に充實したところで、簡潔に Sun Ra の魅力が傳はるライヴ盤は出て來ないかもしれないが、 Love in Outer SpaceWe Travel the Spaceways のやうな この時期に定番となった代表曲が入ってゐるものは、一枚ぐらゐ持っておいてほしい。

その觀點でいくと、最晩年のライヴである Sun Ra at Inter​-​Media Arts, 1991 なんかはいいかもしれない。 80 年代以降の Sun Ra Arkestra の演奏は、それまでに比べるとずっと落ち着いた、それでゐて洗練されたものになってゐて、 まづ 1 曲 1 曲の演奏時間がそれほど長くないし、 響きも輕く、ポップだ。 聽きやすさでいへば、この時期のものがダントツである。

殘念ながら、勢ひや熱氣といった部分では、70 年代の録音に敵はないが、 それは逆に、自稱土星人といふ餘計な情報からくる先入觀を覆へすものであり、 Sun Ra を理解するには、かういふものから入るはうがいいのではないか、とすら思ふ。

Sun Ra は別に變な音樂ばかりやってゐたわけではない。 ほかで聽けないやうな特異な音樂をやってゐたことも事實ではあるし、 それは Sun Ra の大きな魅力でもあるのだけれど、 さうしたものは、Sun Ra および彼の Arkestra の面々が優れたジャズ・ミュージシャンであったことが大前提なのだ。

この記事が、さうした Sun Ra の魅力を誰かに傳へ、 enlightenment できたのであれば幸ひである。

7 songs of the Beatles

いつも讀んでゐるブログの最新記事が、 あんまり知らないうちに決める! ビートルズ好きな曲Top7といふものだったので、 それに肖って、おれも 7 曲選んでみた。 まあ、おれは普段 Rubber Soul 以降の The Beatles しか聽かないので、 どうしても時期が偏った選曲になるけども。

順位はつけられないので、以下のものは順不同である。

Taxman

まづはこれ、といふとこれを讀んだ友人からつっこみが入るかもしれない。

これは、7 曲の中で唯一、個人的な思ひ出に強く關係してゐる曲である。 なぜかって、大學時代にやってたコピーバンドで、初めてライヴしたときにやった 1 曲だから。 といふか、そのときに George による 2 拍目と 4 拍目に入るギターが間拔けで笑ってしまったからだ。

今はそんなこと思はないし、當時の己の見識の低さを恥ぢるとともに、 この曲を選んだ友人の慧眼に恐れ入るばかりだが(もう 1 曲は Across the Universe だったはず)、 當時まだまだイキったガキンチョでしかなかったおれは、 「リマスターされてないから」といふ理由で The Beatles をほとんど聽いたことがなく、 それで出てきた曲がこんなだったから、つい笑ってしまったんですね。いやはや、全く、若さとはバカさですよ。

かつては、サイケ好きとして Revolver といへば Tomorrow Never Knows だろ! と思ってゐたが(アルバム全部好きですけど)、今となっては、ちょっとこれ見よがしな氣がして、あまり好きではなくなってしまった。

そこへいくと、この Taxman のシンプルかつ力強い佇まひは全く色褪せない。 名曲!と云ふほどのものではないだらうが、きっとこの先の人生でもずっと忘れられない曲である。

The Ballad of John and Yoko

さて、ところで、先ほど書いた通り、おれがまだガキンチョだった頃には、 なんと The Beatles の音源はリマスターされてゐなかった (赤盤と青盤が 93 年にリマスターされてゐただけ!)。 その癖、Anthology 出したり、 リマスターもされてゐない The Beatles(俗に云ふホワイト・アルバム) 30 周年記念盤を出したり、 Yellow Submarine Songtrack 出したりで、 そんなのいいから正規アルバムを再發してくれよ!と思ってゐたものだ。

で、やうやくリマスターとして發賣されたのが、新しいベスト盤である 1 だった。

なんだあベスト盤かよ、とがっかりしたおれは、友人から借りるだけで濟ませたのだが(未だに持ってゐない)、 タイトル通り、チャートで 1 位になったシングル曲のみを集めたものなので、 はっきり云って、極上のポップスがずらり竝んでゐたわけだ。

それはもちろん、知ってゐる曲だらけでもあったといふことなんだけど、 この曲だけは知らなかった。

この曲が John Lennon と Paul McCartney の 2 人だけで演奏されてゐると知ったときは驚いたが、 Lennon と McCartney の 2 人がゐればそれでいいのでは?と思はされるぐらゐ、どのパートもすばらしい。

特に好きなのは Lennon の歌と McCartney のベースライン (このベースラインと Hound Dog Taylor の Taylor's Rock をくっつけた、ウルフルズの借金大王なんて曲もある)。 Chirst, you know It ain't easy って言葉の響きなんてもう。 續く They're going to crucify me もいい。 キリストを引き合ひに出した上で自分が磔にされるなんて歌詞はヤバいんぢゃないの?と Paul に云はれたらしいけど、 そんな話はどうだっていい。まさにその 2 つの單語、christ と crucify の響きがいいんですよ。 大體、おれは歌詞のことを全く氣にしないから、この曲はとにかく輕快な曲でしかないのだ。

Savoy Truffle

The Beatles は好きな曲が多いので、1 つ選ぶのは困難を極めるのだが、 取り敢へずこの曲にしておく。 Yer Blues 違ふんかい!とつっこみが入るかもしれないが、 あれは自分でやるのは樂しいけど、聽く分には別に…って曲なので (最初に書いたコピーバンド、ライヴで最後にやる曲はいつも Yer Blues だったのだ)。

期せずしてまた George Harrison の曲になってしまったが、George Harrison で The Beatles の曲といへば、 普通は While My Guitar Gently Weeps だ。

いや、もちろんあの曲も好きなんだけど、Savoy Truffle はね、 最初の Creeeeeeme tangerine and Montelimar って歌詞の響きが最高すぎるのよ。 あれで一氣にテンション上がるもの。豪華なホーン隊でソウル要素が入るのもいい。

それに、この曲も Taxman と一緒で、2 拍目と 4 拍目に「パッ、パッ」ってギターが入る曲なんだよね。 こっちはサビの部分だけだけど。 おれ、このリズム、好きなのかもしれん…。

この頃になると、The Beatles の曲も複雑なものがかなり多くなってきてゐて、 特に Lennon 主導の曲はへんてこなものだらけだ。

でも、この Savoy Truffle はさういったところのない、 シンプルに莫迦々々しい曲だ。ギターソロも、そんなんでいいの?って感じだし。

それでゐて、初期の曲ほどの單純さを感じさせないのは、 やっぱりサウンド・プロダクションが高度になってゐるからだと思ふ。 ホーン隊の音はあからさまに歪められてゐるし、控へ目なオルガンも、初期なら入ってゐなかったのではないか。 イントロの短すぎるドラムもこの曲の氛圍氣を補強してゐるし、細かいところを見れば、かなり凝った曲なのである。

さういふ、The Beatles のこの頃の成熟っぷりを傳へてくれるいい曲だと思ふ。 まあ、そんなだから好きな曲だらけなんですけどね、このアルバム。 2 枚組で、ちょっとまとまりに缺けるところも愛ほしい。 なんたって、この前までは Rubber SoulRevolver、 そしてあの Sgt. Peppers Lonely Hearts Club Band と、まとまりのいいアルバムが連續してるし。

You Won't See Me

Rubber Soul は The Beatles がそれまでのリバプールサウンドからの脱却を圖った初のアルバムで、 シンプルな曲が多くはあるが、多彩な魅力が發揮され始めてをり、The Beatles の變化を強く感じられるものになってゐる。

よく云へば、初期のシンプルさと後期の複雑さのいいとこ取りであり、惡く云へば中途半端なアルバム、と普通はなるのだらうが、 このアルバムに中途半端さを感じたことはない。それだけ、The Beatles の實力が確かなのだらう。

このアルバムも始めから終はりまで好きな曲だらけだが、どれか 1 曲なら、これだ。

アルバムの幕開けである Drive My Car もさうなのだけど、 Paul McCartney 主導の曲って、可愛らしさを持った曲が多い。 かういった、ストレートにキュートな曲調は、他のメンバーの曲にはない特色で、 おれが Paul の曲で好きなのは、さういった曲ばかりだ (逆に Yesterday とか Hey Jude みたいなのは苦手)。

You Won't See Me のすばらしさは何と云ってもそのメロディーラインで、 ポップソングのお手本と云ってしまっていいやうな、無駄なく要所を抑えた Paul ならではの見事なものになってゐる。

あーっ、この曲も 2 拍目と 4 拍目にギター入ってるやつぢゃねえか! マジかよ。意識してなかったわ…。 かういふことがあるから、The Beatles なんてわざわざおれが採りあげずとも語られまくってゐるものについて書いてみる意味もあるといふもの。 In My Life が好き!とか書いとけばよかった…。 いやまあ實際好きだけど、個人的に好きな曲となるとやっぱり外れますね、In My Life は。

Rain

Rain が好きになったのは、Todd Rundgren の 1976 年のアルバム Faithful に入ってゐたからだ。

Todd Rundgren の Faithful は前半がカヴァーで占められてゐる、ちょっと珍しいアルバムだ。 カヴァー・アルバムなら、1973 年に David Bowie も Pin Ups を出してゐるが、 Faithful のすごいところは、カヴァーではなく、完コピを目指してゐるところだ。 Good Vibrations のテルミンとか、あの時代にどうやったんだって思ふぐらゐ完璧である。

いやいや、プロなんだから完コピぢゃなく本人らしさを加へたカヴァーしなよ、と思ふ人もゐるだらう。

でも、Todd Rundgren がこれらの曲を收録した意圖は、さういったものではない。 これらの曲はこの姿であるべきだ、といふことを、わざわざ自分でそっくりに録音することで示したのだ。 Todd Rundgren が、音の流れだけでなく、音響に早くから注目してゐたことがわかる。

そのために選ばれた 6 曲のうち、2 曲が The Beatles の曲である。 もう 1 曲は Strawberry Fields Forever で、 まあこれは Penny Lane との兩 A 面シングルとして發表された曲だし、 誰もが知る名曲だから、選ばれるのはわかる。

でも、Rain はもともと Paperback Writer の B 面だった曲であり、 今でこそ簡單に聽けるが、76 年當時はシングルを集めたコンピ、Hey Jude ぐらゐでしか聽けなかったはずだ。

そんな曲を、わざわざ Todd Rundgren が、すばらしい録音の例としてコピーしてゐるのだから、 これはきっとすごい曲なんだ、と思ってゐた。

で、實際にこれは創意工夫に溢れた The Beatles にとっても劃期的な曲だったのである。

まづ、後に Tomorrow Never Knows でも使はれた逆囘轉が用ゐられてゐる。 あの何云ってんだかわからないアウトロだ(Todd Rundgren は逆囘轉を使はずにやってゐたけど)。

それに、テープ速度の變更も行はれてゐる。Ringo のドラムは遅くなってゐるし、John のヴォーカルは早くなってゐる (正確に云ふと、John のヴォーカルはテープを遅く囘轉させた状態で録音された)。 つまり、ドラムとヴォーカルは、もともとはあのテンポで録音されてゐない。 テープ速度の變更は、この曲の前にも In My Life のピアノソロに使はれてゐたが、 あれが非常にわかりやすいものであったのに對し、こちらは云はれなければ氣づかない程度のものだ。

細かいことを云ふと、ベースの音がしっかり前に出てゐるのも、Paul がオーバーダブしたからで、 この Rain といふ曲は、このあとの The Beatles が驅使するスタジオ技術の顏見せに當たる曲だったのだ。 なるほど、Todd Rundgren がこの曲を選んだのも納得である。

Revolution

シングル B 面曲といへば、これも好きだ。

The Beatles にこれの元になった Revolution 1Revolution 9 が收録されてゐるが (この 2 曲は、もともと 1 曲だったのが分割されたものである)、 Revolution 1 ではシングルとしてテンポが遅いからとの理由で、 この Revolution が録音された。

いやね、私、かういふひずんだギターでのブギ、大好きなんですよ。これぞブギ。 Nicky Hopkins のエレピもブルーズらしさを煽ってゐていい。

あと、ビデオでもわかるんだけど、終始テンションの高い Paul が可愛い。 作曲者の John よりずっとハイテンション。なんでだよ。

ハイハットをまるで叩かない大胆な Ringo のドラムもすごい。 Ringo にしかできないよ、こんなの。この曲にはこのドラムしかあり得ない。 Ringo のどたっとしたドラムがぴったり。

別に、音樂的にすごい曲では全然ない。でも、おれのフェティシズムをびしばし刺戟してくる。1 時間ぐらゐずっとこの曲でも全く飽きないよ。 實際、The Beatles の曲で一番たくさん聽いた曲だと思ふ。こんなに聽くやうになったのはここ 10 年ぐらゐだと思ふけど。

I Want You (She's So Heavy)

Abbey Road は一番好きなアルバムなので、1 曲選ぶのは至難である。 ズルをして The Long One と答へる手も考へたが、 それは結局ボツになったヴァージョンで、さうなると、あのメドレーから 1 曲だけ選ぶのは不可能だ。

となると、やっぱりこれしかない。

ほとんどタイトルに出てくる言葉だけをずっと繰り返す歌詞、その癖 8 分近くある長さ、 メロディをそっくりなぞるギター、タイトルに相應しいヘヴィなサウンド、モーグによるホワイトノイズ、そして唐突な終はり。 創意工夫とは正反對にあるやうな、單純で、ナンセンスな曲。

なのに、それがつまらない曲になるわけではないのが、音樂の面白いところだ。

まあ、The Beatles をよく知らない人に、これが The Beatles だよと聽かせたら、 その人はきっと The Beatles への興味を失ってしまふだらう曲ではある。 The Beatles のよさ、みたいなものはこの曲にはないからだ。 だってこれ、ほとんどドゥーム・ロックですよ。まだ Black Sabbath がデビューしてすらゐないのに!

もちろん、Black Sabbath ほどの重さはないけれど、 8 分もの長さを、繰り返しによって聽かせてしまへるのがかういった曲だ、と見拔いてゐたところがすごい。 この長さはこの曲だからいいのであり、Hey Jude のやうな繰り返しは退屈でしかない。 一般的な評價は壓倒的に Hey Jude のはうが高いけど、そんなにいいですかね、あの曲。

おっと、最後が惡口みたいになってしまった。 でも、The Beatles みたいなバンドで、好きな曲を擧げてみるといふのは面白い試みだと思ふ。 おれの選んだ 7 曲は、恐らくは多くの人の 7 曲には入らない曲だが、 だからといって、他の人が選ぶ 7 曲がどれも似たやうなものになるかといへば、そんなこともないやうな氣がする。

The Beatles にはそれだけいろんな名曲があるし、魅力を感じるポイントは人によって種々樣々だらう。 それは何も The Beatles に限ったことではないだらうが、さういふ部分を持っているかどうかが、 優れたバンドであるかどうかの、一つの分かれ目であるやうに思ふ。

あなたの 7 曲はどれになりますか?

clipping.

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わからんわからんと云ひながらもヒップホップ漁りをやめてゐないおれだが、 好きなアーティストが皆無、といふわけではない。

といふか、はっきり云ふと、ぶっちぎりで clipping. が好きなのだ。

ヒップホップに對する最も大きな不滿は、何度も書いてゐるやうに、バックトラックが適當すぎることだ。 4 小節だけ作ってずっとそれを繰り返し、その上で好き勝手しゃべりまくるスタイルばっかりで、 歌詞に全く頓着しないおれにとって、さういったものは音樂的にカスとしか思へない。 現代ヒップホップの帝王、Kendrick Lamar にすらさういふ曲はある。

どうせ 4 小節しか作らないなら、バックトラックなんてもっと自由でいいぢゃん、と思ってゐた頃に、clipping. と出會った。

いやもう衝撃でしたね。だって、バックトラックなんてなんでもいいぢゃんと思ってゐたおれの考へを、がっちり補強してくれるアーティストだったんだから。

例へば、デビュー作であるミックステープ midcity に收録されてるこれ。

交通量の多い道路で録音したの?と問ひたくなるバッキング、主役であるはずのラップに容赦なく被さるピー音、 そして、そのピー音がドローン的な電子音樂になって曲を支配する展開。 おいおいおいおい、こんなのがあったんなら早く知っておきたかったよ!

續く 1st album CLPPNG はノイズ作品と見紛ふ先のミックステープとは違ひ、 Sub Pop と契約しただけあって、しっかり作曲されたものばかりが竝ぶアルバムになってゐるのだが、 最後はこれだ。

曲名を見てピンときたあなた、音樂の教養ありますね(謎の上から目線)。 さう、これは John Cage 初のテープ音樂作品、電子音樂好きの基礎教養である。

である、けれども、だ。なんで電子音樂のクラシックをヒップホップ・アーティストがカヴァーしてんだよ?!??!!?!  なんで電子音樂にラップつけようと思ったの? アホなの? しかもそのラップも細切れぢゃねーか!  なにそんなトコまで忠實にカヴァーしてんだよ!!

2nd の Splendor & Misery は、音樂だけ聽く分には、まあ普通だ。 普通ったって、clipping. にとっての普通であって、そこらのヒップホップとは全然違ふけども、 こ、これぐらゐの音樂なら他ジャンルにはあるし…。

問題は、歌詞だ。

普段、歌詞なんて全く聽かないし、このアルバムだって何を云ってるかなんてほぼわかってゐないのだけど、 例へば、この曲を聽いてると、mothership だのなんだのって單語が出てきて、SF らしさを感じさせる (ちなみに、この曲には 「Kendrick の Control のヴァースを引用した」なんてラインも出てくる)。

で、これ、實際に SF のコンセプト・アルバムらしいんだけど、なんと、ヒューゴー賞にノミネートされてゐるのだ!(受賞には至らず)

SF に詳しくない人はヒューゴー賞なんて云ってもなんだかわからないだらうが、 SF 者にとって、ヒューゴー賞といへば、芥川賞だとか直木賞ぐらゐ權威ある賞である。 なんでそんなのにノミネートされてんの???????

ヒューゴー賞って音樂部門とかあったのかなあ、と思って調べてみたが、 音樂アルバムがヒューゴー賞にノミネートされたのは、1970 年の Jefferson Airplane による Blows Against the Empire 以來なのだ。 ほぼ半世紀ぶりぢゃねーか!

Kendrick Lamar は DAMN. でピュリッツァ賞を獲ってるけど、 もはや熱心とはいへない SF 者であるおれにとってすら、ヒューゴー賞ノミネートのはうがすごい(云ひすぎ)。 快擧ですよ快擧。

しかも、次にリリースしたシングル The Deep も 2018 年のヒューゴー賞にノミネートされてゐる。 なんだよそれ、わけわかんねーよ。

で、2019 年リリースの 3rd、There Existed an Addiction to Blood に先行して YouTube にアップされたこれ。

サムネのかぼちゃは何なの?って思ったら、これ John Carpenter の Halloween 意識してんのかよ!  Halloween はホラー映畫だけど、John Carpenter ったらやっぱ SF の人ですよね。 こいつら、かなりの SF 者なのでは…?

なんて思ってたら、2019 年に EP The Deep が發賣されてゐる。 その曲、2017 年にもシングルでリリースしてたぢゃん、と思ったのだが(こちらの EP は 2017 年のものに 2 曲追加されてゐる)、 なんと、Rivers Solomon といふ SF 作家が、2017 年の The Deep を基に同名の SF 小説を書き上げて短篇小説として發表したのである。 どうやら、それに合はせて再リリースされたやうだ。 そしてこの小説、なんとヒューゴー賞、ネビュラ賞にノミネートされた(ラムダ賞にもノミネートされ、これのみ受賞)。 clipping. の三人も、共作者としてばっちりクレジットされてゐる。すごすぎんだろ。

いや、いつもならね、歌詞の文學性は音樂の善し惡しに寄與しない!とか云ふんですけど、 SF 者として、これは見逃せねーわ。別にそれでおれの中での clipping. の音樂的價値が増減したりはしなかったけど、 あれですわ、最近憶えたばかりの英語で云ふなら、I used to be a fan, but when I knew their works were nominated for Hugo awards, I'm a whole air conditioner. ってやつですわ *1

音樂的には、「clipping. としては」といふ註釋をつけることなく普通と云ってもいいのではないか、ってぐらゐポップになったやうに思ふ。 未だにしっかりノイズ入ってたりもするけど、これなんかかなり眞っ當なヒップホップぢゃないですか?  まあ、アルバム最後の曲とかやべーけど… (Annea Lockwood のカヴァーで、なんとビデオクリップまである! 確かに、映像ないときつい曲でもあるけど…)。

昨年 6 月にリリースされたライヴ盤 Double Live は、clipping. にしかリリースできないであらうライヴ盤で、 ライヴ盤と云ひながら、まともに録音された作品ではない。

なぜなら、録音のために使はれたマイクが、トイレの中だったり、天井を走るパイプの中だったり、街路樹だったり、ローディーの服だったりにつけられたもので、 どう考へてもライヴを録音する配置ではない。觀客録音によるブートよりひどい。 アルバム全體を通して妙に音が遠いのはその所爲である。 さすがのおれでも買ふの躊躇して買ってないぞ…。 だって、こんなんですよ?

現在のところ最新アルバムである Visions of Bodies Being Burned では、なんとトラップの曲が入ってゐる。 最近はソロ活動も高く評價されてゐる Tortoise の Jeff Parker が參加してゐる曲だってある。 しかも Jeff Parker の無駄遣ひとしか思へない曲。 それでゐて、相變はらずノイズまみれの曲も竝んでゐる。

別に、clipping. だけが實驗的なヒップホップをやってるわけぢゃあないだらう。 おれが知らないだけで、ほかにも過激なヒップホップ・グループはあるのかもしれない。

ただ、clipping. の一つの強みは、MC の Daveed Diggs がうまいことだ。本業、役者なのに!

もちろん、ヒップホップのトップを走る人たちに比べれば、Daveed Diggs のラップが秀でてゐるわけではない。 音樂的にあれほど實驗的な clipping. ではあるが、ラップ自體に實驗的なところは全くないし、 それどころか、少し古いスタイルであるやうにすら思ふ。

でも、そこらのラッパーには引けを取らないし、早口っぷりもすばらしい。 特にいいのは、リズム感がいいことで、 あのえげつないバックトラックばかりの clipping. の音樂でもグルーヴを感じることができるのは、 Daveed Diggs のラップに依るところが大きいと思ふ。 先ほど、ラップとしては少し古いスタイルだと書いたが、バックトラックが先進的すぎるから、 逆にそのちょっとした古さ、普通さがうまくメリハリをつけることに役立ってゐる。 恐らく、意圖的にやってゐるだらう。

願はくば、コロナ禍が終はって、來日してもらひたいものだ。おれもかういふ、半分ぐらゐ MC の出番がないヒップホップのライヴ觀たいよ。

*1:もともとファンだったけど、大ファンになっちゃった!みたいな意味。fan が「ファン」と「扇風機」兩方の意味を持つことから、ファンを超えたファンならエアコンだろ!的なスラング

Dreadborne Drifters

ゲームの記事を全然書いてないんだけど、ゲームしてなかったわけぢゃない。

4 月に PoE 終はらせたあとは、seed generator ができた A Robot Named Fight! ばっかりやってまして、 どんぐらゐやってたかって、新しく始めたセーブデータの戰績がこんなことになるぐらゐ。 f:id:nomoneynohoney:20210805043306j:plain

total runs より victories のはうが多いといふ、意味のわからん状態。 新たに發見した spooky mode とか mirror mode もクリアした。 ホントは 0% クリアもできたんだけど、間違って restart 押してしまった所爲で seeded run になってしまって、戰績としては記録されなかった。 とかなので、ほぼやり盡くすぐらゐ A Robot Named Fight! やってました。 2 ~ 3 ヶ月ぐらゐずっと、1 日 2 ~ 3 囘 クリアしてたと思ふ。

で、その後に始めたのがサマセで 250 圓ほどで買った Dreadborne Drifters ってゲーム。

どんなゲームかもいまいちわからん儘に買ったんだけど、やってみたらこれがハクスラで、けっこうハマってしまった。

ただ、そりゃ賣れんわ、と思ふぐらゐ不親切(2 年も前に發賣されてるのに、未だレヴューが 30 件しかない)。 なんたって、ハクスラなのに、どうやれば效率よく強くなれるかがさっぱりわからないのだ。 ゲーム内でもほとんど説明なし。

仕方ないからフォーラムとか讀んで理解したんだけど、大事なことがゲーム内で全く説明されてない!

ちょっと腹が立ったので、ガイドを書いてしまった。

60 時間近くやったし、全實績とったし、ランキングでは 2 位になったぐらゐなので、 たぶん、このガイド讀めば效率のいいやり方は完璧にわかるはず。 まあ、そもそも買ふやつゐんのかって話なんですけど。

惡くはないゲームだったし、短い時間で遊べるので、暇つぶしにはいい。 セールなら買ってみてもいいんぢゃないですかね。

でも底は淺いので、ハクスラの癖に 100 時間單位で遊べたりはしない。 あまりに賣れてなくて可哀想なので、氣になった人は買ってやってください。

あ、ぼくはもう全實績とったんで、アンインストールして、今は Supraland やりてえなーと思ひつつ Survivalist: Invisible Strain にけっこうでかめのアップデートが來てしまったので、その中身を確認しながら飜譯作業してます。

bandcamp daily: May, 2021

はてなブログを始めてからそろそろ 3 年が經たうとしてゐるのだが、はてな運営からメールが來ることは稀で、 來たとしても「1 年前のこの記事を振り返ってみませんか?」とかいふ、何が目的なのかよくわからんメールばかりなのだが、 今日(日付の上では昨日)、久々にメールが來たと思ったら、それこそほぼ 3 年前の記事にはてなスターが 3 つついたよ!といふお知らせだった。

で、確認してみたんだけど…。

「ディスカホリックによる音楽夜話」 の hiroshi-gong さんやんけ!!!!!

おれは hiroshi-gong さんのブログの讀者ではなく、それは hiroshi-gong さんがかなりロック寄りの人だからなんだけど、 知らなかったバンドについてググったら hiroshi-gong さんのトコしか日本語の記事は引っかからなかった、みたいなことは何度もあったので、 ブログの存在は知ってたし、なんならちょいちょい參考にさせてもらってました。 そんな人からはてなスターもらへた上に、ふと氣づいたら讀者になってくださってもゐる!  こんな讀み辛いブログなのに…。すみません! ありがたうございます! 應援してます!

ちなみにスターもらったのは The Tower Recordings について書いたときのやつ。 タワレコ、最高ですよねえ~。

といったところで、bandcamp 5 月分のまとめ、やります。ちなみに、現在 8 月 3 日分までメモ書きしてあります。IZ Band がほしくてたまらないんだけど、送料で困り果ててるところ。

5 月 3 日の特集記事は The Best Video Game Music on Bandcamp: March/April 2021 FTL のサントラやってた Ben PruntySubnautica Below Zero のサントラもやってたとは知らなかった。Subnautica は違ふ人だったのに。まあ、Below Zero のはうは買ふ豫定もないのであんま興味ありませんが。

もう 1 つ氣になったのは RetroShooti, Vol. I のサントラ。何がってこのジャケだよ!

Nick Drake やん! Bryter Layter やん! 音樂は全然アシッド・フォークぢゃないみたいですけど。殘念。

5 月 5 日の特集は The Best Ambient Music on Bandcamp: April 2021。 アンビエントは大體スルーなんだけど(どれもこれも變はり映えしないから)、Lea Bertucci の A Visible Length of Light だけはなかなかよかった。

ただ、この人もさうだし、Sarah Davachi もさうだけど、曲が短い。最近はかういふので 40 分とかやらなくなったんですかね。 最低でも 20 分ぐらゐないと氣分がでろっとしてこないし、なんとなくポップな感じがして、いまいち買ふ氣になれないんだよなあ。 ドローンはアホみたいに長いはうが樂しい。

5 月 6 日の label profile はアルゼンチンの HiedraH Club de Baile の紹介。 アルゼンチンといへば、個人的には vlubä なんだけど(かつて CD-R で出まくってゐたわけわからんアルバムが bandcamp で多量に聽けるすごい時代になってしまった)、このレーベルはクラブ・ミュージックばっかり出してるレーベル。

中でも面白かったのはコンピ Bichote​-​k Bailable vol. 2 で、 獨特のリズム感によるダンス・ミュージックがいろいろ入ってゐて實に痛快。 日頃、もっと面白いリズムはないのか?と思ひながら音樂を探してゐるおれにはドンピシャ。もっとかういふコンピたくさん出してほしい。

5 月 7 日の album of the day は、McKinley Dixon のデビュー・アルバム For My Mama and Anyone Who Look Like Her の紹介(これ以前にもアルバムあるのに、なんでデビュー作扱ひされてるのかよくわからないが、レコード出るのが初めてだからかな?)。 これ、1 曲目から惚れ込んで、すぐさまレコード買ってしまった。juno で。

以前に比べると格段にヒップホップを聽くやうになったのだが、といってヒップホップ音痴が治ったわけではなく、 買ふのはどうしても、かういふソウル寄りのやつとか、clipping. みたいにあからさまに尖ったやつとかになってしまふ。 あれなんですよ、單にバックトラックちゃんと作ってくれよって話なんですよ。 このアルバムはバックトラックはめちゃしっかりしてるし、リズムも面白い。そりゃあ買っちゃひますよ。

ちなみに、2018 年のアルバム The Importance of Self Belief はなんと Name Your Price で買へるので、そちらもおすすめ。

5 月 11 日の特集は The Mutant Mythology of the i8i Collective と題した映像作家 i8i の特集。 映像作家の特集なので、それほど音樂に統一性があるわけでもないし、PV ってアルバム全曲のものを作ったりもしないから、 紹介されてるのがシングルだの EP だのばっかりだったりもして、いまいちなものばっかりだったんだけど、 Münki の n​*​gga_n_d_snw​.​wav だけは氣に入った。 なんでって、ノイズでヒップホップだから。

ただのノイズを聽く氣にはあんまりならないし(善し惡しの判斷が困難、といふか面倒)、ただのヒップホップを聽く氣にもならないんだけど、 兩方合はさったら別ですよ、ワハハ。Name Your Price なのもヨシ。

5 月 13 日は 6 月に新譜を出す Loraine James。 新譜のタイトルは Reflection

こんなゴリゴリの idm にヴォーカル載るのか!といふ衝撃。たまらねえ~。

ヴォーカルなしの曲もいいんだけど、ヴォーカル入ってるはうが現代的で實にすばらしい。 idm ってここまで來たんだ!と、勝手に明るい未来を見てしまふ。 でも、かうやってどんどん音樂が洗練されていく樣をリアルタイムで聽けるのって、すごく仕合せなことぢゃないですか?

5 月 14 日は Seven Essential Releases の日。 面白かったのは Giant Claw の Mirror Guide だが、これも買ふかと云はれると微妙なライン。買はないだらうなあ。同じ系統の Loraine James がすばらしすぎた。

5 月 14 日の Shortlist は The Shortlist, April 2021: Avant-Pop, Psychedelic Rock, Electro & More。 よかったのは Ixa の Mkultraviolet。 パンチの弱いヒップホップって珍しい。

このぼんやりとした感じを生じさせてゐる原因は何なのか。ドラムの音が全體的に弱いのはもちろん大きいだらうが、 別にちゃんとドラムの音が入ってる曲もあるのに、その曲もやっぱりぼんやりしてゐる。 入ってゐる音の量が少なかったり、間が長かったり、けっこういろんな要素でぼんやり感が釀成されてゐるのが面白い。

同じく 5 月 14 日の Seven Essential Releases でよかったのは Rosali の No Medium

何がいいって、ギターのサイケさ。最高。

音樂自體はよくある最近のフォーク・ロックでしかないのに、ギターの音がとにかくサイケ。 なんでこんなおれの好みを突く音出してくんの?

曲ではなく、音でフェティシズムをかきたててきたアルバム。曲はもう、ほんと普通で、どこにでもありさうな曲なのに、音が卑怯すぎる。 70 年代のサイケ・ロックが好きなら買はずにをられない傑作。

5 月 17 日の特集は Deeper Listening: An Introduction to Drone Composition。 持ってるやつばっかり!

5 月 20 日の features は Erika de Casier Sensational 發賣にあたってのインタヴュー。 これはまあ、普通に素適な現代ソウルでしたね。やっぱり、どうせポップス聽くならこれぐらゐ凝ったやつ聽きたい。 音のバランスとか、入れる音のチョイスとか、細やかな氣配りが見事。現代ポップスの質の高さを堪能できる。

5 月 21 日の seven essential releases はあたりがたくさん。

まづは Murcof の The Alias Sessions

Murcof、いいですよね。嫌味にならない程度の荘厳さを持ったテクノを作ることにかけて、Murcof 以上の人ってゐないんぢゃないか。 これの前って The Versailles Sessions だから、なんと 13 年ぶり!

正直、Murcof のことは忘れかけてゐたので、ここで見て驚いた。復活してくれて何より。またちょいちょいアルバム出してほしいもんです。 何年かに 1 枚でいいから。作るの大變さうだし。

ほかには、Jaimie Branch の FLY or DIE LIVE。 これはまあ、International Anthem からリリースのお知らせが來たと同時に買ひました。Fly or DieFly or Die II も色つきレコード買ひ逃してるから、今度こそはと思って…。 やっぱり、新譜のチェックって怠っちゃだめですよ。このブログを始めた頃は新譜のチェックサボりまくってたからなあ。ほしかったアルバム、いっぱいあるよ、くそ…。

Contour の Love Suite もなかなかよい。チルなソウル。 とはいへ、買ふかどうかは微妙なライン。バックトラックは面白いんだけど、歌に惹かれるものがないんだよな~。

5 月 25 日の features は Anna Webber の新作 Idiom の紹介。

これはもうめちゃくちゃよかった。今まで知らなかったことを悔いたレヴェル。

中身は、作曲と即興のライン上を漂ふジャズで、このライン取りが實に華麗。 といって難解なわけでもなく、ジャズとして普通にカッコいい。 ジャズってあんまり作曲能力で勝負してゐる人はゐないので(いま流行りの、いろんなジャンルを跨いだやうなジャズは別)、 かうも鮮やかな曲を作る人がゐるなんて想像もしてなかった。いいもの紹介してくれるよ、bandcamp は。ありがたやありがたや。

5 月 26 日の album of the day は Allison Russell のデビュー作 Outside Child の紹介。 いやでも、おれは全く知らなかったんだけど、この人、ググったらユニバーサルと契約してんですね。bandcamp daily でわざわざ採りあげるまでもないやうな…。 ちょっと古い感じはあるけど、ひねりのない王道のポップス。凝ったところとかがあるわけでもなく、すっと心に入ってくる感じ。なんとなく The Rolling Stones 思ひ出してしまったほど。別に似てないんだけど。

同じく 5 月 26 日の label profile は Trouble in Mind レーベルの紹介。 ロックは古いので充分、と思ってゐるので、これも見たときは「なんだロックか」って感じで適當に聽き流すつもりでしかなかったのだが、そんなおれにだっていくらかの弱點はあり、Trouble in Mind はズバッとそこをついてきた。

Sunwatchers の Oh Yeah? はインストもの(Sunwatchers は hiroshi-gong さんがたっぷり書いてた記憶があるので、そっち讀んでください)、 Lithics の Tower of Age はポスト・パンクで、 Writhing Squares の Chart for the Solution は宇宙音とサックスがふんだんに入ったクラウトだし、Matchess の Huizkol に到ってはドローンといふか、パルスものだ。 幅廣すぎでせう。

まあ、知らない音樂があったわけぢゃないから、どれも買ってないんですけど。どれかひとつなら、Writhing Squares かな。

5 月 27 日の features は Vernacular 特集。 正直、Vernacular って誰だよ?って思ひつつ開いたんですけど、Mourning [A] BLKstar の R. A. Washington が過去に參加してたジャズ・バンドなのか! 

The Little Bird が唯一のアルバムで、 CD-R でしかリリースされてなかったやつが遂にカセットでリイシューされたよ!って話らしい。なんでカセットだけなの…。CD-R よりはいいけど…。 Albert Ayler と Sonny Sharrock が合はさったやうなドロドロしたジャズ。R. A. Washington がこんなのやってたとは。

まあでも、これ買ふなら Mourning [A] BLKstar 揃へるかな。

5 月 27 日の album of the day は Spectacular Diagnostics の Natural Mechanics

Jet Set で買へるらしいんだけど検索しても出てこないのはどういふわけだ(5 月に検索したときもだし、未だに出てこない!)。ほしいんですけど!

中身は基本的にヒップホップなんだけど(インストもある)、宇宙音入りまくりでサイケなのが非常にいいし、どの曲も短いのにヴァリエーション豊か。 お洒落なジャズっぽかったりもするのに、大體宇宙音で臺無しなのが實におれ好み。

くっそー、Jet Set さん、早く仕入れてくださいよ。bandcamp では帶つきのやつ賣り切れになってますよ。頼みますよ、ホント。

5 月 28 日の album of the day は、なんと BBE からリリースされる David Bowie のカヴァー・アルバム、Modern Love

BBE はおれにとってジャズの發掘/再發レーベルなんだけど、こんなもんも出すのね。でも、David Bowie は元曲が好きすぎてだめだあ。

5 月 28 日の seven essential releasesで氣になったのは AKAI SOLO & Navy Blue の True Sky

これまたチルいヒップホップ。ただ、アルバムそのものより、ページの上部にある英譯されたマンガの一コマであらう You are one hundred years early!! が氣になって仕方ない。百年早いって、逐語譯して通じるんですかね…。

もう 1 枚、Morbo の ¿A quién le echamos la culpa? は、突然段ボールを想起させる。パンクに分類されるだらうことはわかるんだけど、チャカチャカした感じと、實は日本語なのでは?と疑ひたくなるヴォーカルがなんとも云へず突段っぽいのだ。このバンド、なんと 20 年も活動してゐるのに、これが 2nd らしい。こんなわけわからんアルバムなのに、日本では punk and destroyRecord Shop Base の 2 店舗に入荷してゐるのだから驚き。さういへば、Base で Kito Mizukumi Rouber いろいろ買はうと思ってるのに、未だに買ってないな…。

とまあ、こんなところで 5 月分は終はり!

bandcamp daily: April, 2021

bandcamp daily のまとめをやるぞ!と決めたくせに、 7 月になってもまだ 3 月分までしかまとめ記事を書けてゐない。 それどころか、bandcamp daily のチェックすらおざなりになりつつある。 いや、一應、ほとんどすべての記事を見てはゐるのだが、 毎日となると仕事みたいになって厭だし、 そもそも daily と謳ってる割に更新のない日がちょこちょこあるので、 ついついチェックをサボってしまふのだ。 今日も、たまってた分チェックするか!と思ったら、なんと半月もチェックをサボってゐたことが發覺してしまった。 己の怠惰さに呆れるばかりだが、まあ怠惰なのは今に始まったことでもなし、 その報ひは己の人生でたっぷり受けてゐてこれなのだから、これからも改まることはあるまい。

しかし、3 月分とまとめると多くなるから、といふ理由で分割したはずなのに、 改めて見ると 4 月分で心を惹かれたものはかなり少ない。

なんたって、メモしてある最初の記事は 4 月 12 日付の A Guide to the Extensive Musical Legacy of Mills College と題された Mills College の特集記事なのだが、 なんでこれをメモしてあるかって、ほとんど持ってるやつだからなのだ。 多量に持ってゐるくせに、Mills College がどんなところなのかはよくわかってゐないのだが、 どうも、おれが好んで買ってゐるアーティストたちが教鞭を執ってゐたやうですね。

この記事に列擧されてゐるもののうち、知らなかったもので、更に感嘆したのは "Blue" Gene Tyranny の Trust in Rock

いやもう、さすが Unseen World! 聽き始めてしばらくは、「なんだ、別に普通のロックぢゃん」と思ってゐたのだが、 最初の曲から 20 分もあるのだ。 20 分あるやうな曲調ぢゃないのに。

と思ってゐたら、いつの間にか、その普通のロックがミニマル・ミュージックに変貌していく。 でも、ホントにミニマルになるわけではない。普通のロックの儘、ミニマル化していくのだ。

これにはたまげましたね。こんな作り方をされたミニマルがあったとは。 どうせならレコードでほしいんだけど、送料が高すぎる…。 CD なら meditations で安く手に入るしなあ。

4 月 16 日の特集記事The Shortlist, March 2021: Gentle Jazz, Chill Rap, Lo-Fi Soul & Moreからよかったのはデビュー・アルバム 2 つ。

1 つ目は Figmore の Jumbo Street

ローファイなソウル。でもこれ、改めて聽くとどうってことないな。 なんでわざわざメモしておいたんだ。當事の自分に問ひたい。

もう 1 つは Korea Town Acid の Metamorphosis

ヒップホップ不感症のおれが珍しく氣に入ったアルバム。 まあ、ラップ入ってる曲の割合がそんなに高くないから氣に入っただけかもしれない。

4 月 23 日の特集 Essential Releases: Afrobeat, Avant-Garde Rap, Ambient Folk and More で紹介された Pink Siifu の Negro Deluxe は、その名の通り昨年リリースされた Negro のデラックス版。 なんと曲數が倍に膨れ上がってゐる。 フィジカルでのプレスがないのは寂しいけど、去年のやつ買ってなければ斷然お得。 去年のやつ買ってたとしても、まあ $14 ならそれほど痛手ではないかな。

4 月 27 日は今年 2 月に亡くなってしまった Ghédalia Tazartès の特集記事。 Tazartès はずっとクオリティ落とさず作品を作り續けてくれた人なので、亡くなってしまったのは悲しい。 しかし、この記事を見るまで知らなかったんだけど、旧譜はどれもこれも CD やレコードとジャケ違ふのね。

同じく 4 月 27 日の特集 The Best Experimental Music on Bandcamp: April 2021 で氣になったのは 2 つ。

1 つ目。Charmaine Lee の KNVF

すばらしい。最高。かういふのを求めてたんだ。

bandcamp の experimental 枠で紹介されるやつって、experimental とされてゐる割に、大人しいものが多いといふか、 いまいちピンと來ないのが多いんだけど、 これは懷かしい感じで實にいい。experimental として紹介されてゐるものに懷かしいは褒め言葉にならんだらうが。

でも、このアルバムは、例へば昔の大友良英が好きな人とかにはたまらんのではないか。 ターンテーブルものとかのあれですよ。

聲が入ってゐるのも個人的には評價ポイントで、昔からヴォイス・パフォーマンスもの大好きなんですよ、私。 最近、かういふ方向のやつちっとも聽いてなかったから、今でもかういふのがちゃんとリリースされること自體が喜ばしい。 單純におれがちっとも追へてゐないだけ、って話かもしれないが。

もう 1 つは Prolaps の Ultra Cycle Pt. 1: Vernal Birth

vol. 2 も出てて、それは 6 月の bandcamp daily で紹介されてゐたので、そっちも改めて紹介することになるかもしれない(未聽)。 かういふ、高速のぐちゃぐちゃなテクノ大好き。 もっとたくさん下品な音を入れてほしい。 そしておれの腦を切り裂いてほしい。 おれは腦味噌をズタズタに陵辱されたいんだ。

4 月 28 日の The Best Jazz on Bandcamp: April 2021 でよかったのは Malnoia の Hello Future

弦樂とジャズの融合、と bandcamp の解説文にはあるが、まあその通り。 それ以上のものがあるわけではないし、普段は軟弱と切り捨てる感じの音樂なんだが、 なんとなく氣に入ってしまった。やっぱバスクラ入ってるからかな。

4 月 28 日の album of the dayDawn Richards の Second Line のレヴュー。

あまりにジャケがダサいので、あんまり聽く氣になれなかったのだが、 ジャケだけで敬遠するのももったいないので聽いてみたら、いやあ、いいぢゃないですか。

EDM のタグがついてるけど、おれからしたら、こりゃあハウスだ。 確かに歌入ってるけど、普通にハウスとして聽ける。 ラップもあるが、全く氣にならない。 ハウスだけでなく、ソウルとしていい曲が入ってるのも嬉しい。 あとはジャケさへよければ…。 いや、でも逆にレコードで買ふ氣になれないから、ありがたいかもしれないな。 International Anthem のレコードとか、ジャケはかっこいいわ色ついてるわ bandcamp 限定だわで、おれから無駄な送料を吸ひまくってるもんな。くそ。 もっとジャケダサくして色も黒だけにしてくれ!

bandcamp daily: March, 2021

といふわけで、3 月分である。 4 月分もまとめるつもりだったが、3 月分だけでけっこうな量になったので、 以降は 1 ヶ月毎にまとめて紹介することにしたい。

量が多くなったとは書いたが、3 月の前半は不作で、 これといって耳に殘るものはなかった。

3 月で初めて氣になったのが、3 月 15 日の album of the day で紹介された DJ Black Low の Uwami だ。

音、リズムともに實にアフリカらしいのだが、上物は Plastikman が使ひさうな輕いポコポコした音を選んでゐるのが面白い。 スクエアなリズムの上に乘せれば簡單にテクノとして成立してしまひさうなのに、 凝ったリズムがテクノの枠に囘收することを妨げ、獨特の音像を作り上げてゐる。 ちょっと前までのアフリカの音樂は、 いかにもチープで、後進國であることを感じさせるものが多かったが、 近年はアフリカの獨自性を保持しつつ、音の響き自體も現代的になってきてをり、 面白い音樂がどんどん生まれてゐる。 いろんな音樂が聽けて嬉しい限りだ。

3 月 17 日の album of the day で紹介された Jane Inc の Number One は、 ディスコ風味のポップスで、普段ならちょっと聽いて閉じてしまう類のものだ。

にも拘はらず、これを取り上げるのは、あまりに間拔けな音が多量に入ってゐるからである。

いや、實際、あらゆる音が洗練されるこの現代において、 こんなアホな音が滿載の音樂はありさうでなかなかありませんよ。

音自體は間拔け極まりないが、當然ながら曲はしっかりしてゐて、 音を選べば、ドリーム・ポップの名作になるのでは?とすら思はされる。

まあでも、ドリーム・ポップなら、こんなのはごろごろ轉がってますからね。 敢へてこの音を使ったことが、あまり類を見ないアルバムになってゐる所以であり、 ただのドリームポップだったら絶對買ひませんね。 ドリーム・ポップ、好きぢゃないし。

3 月 22 日の album of the day では Guedra Guedra كدرة كدرة のデビュー作 Vexillology が紹介された。

Guerda Guerda はモロッコの人だが、これまたモロッコ音樂と云はれて想像するやうな典型的な音樂を、 現代的なものにアップデートしたものがこのアルバムにはぎっしり詰まってゐる。

おれは古い人間なので、 モロッコなんて云はれるとどうしたって Brian Jones の The Pipes of Pan at Joujouka を想起してしまふのだが、 このアルバムで聽ける音樂は、間違ひなくさういったモロッコの傳統的な音樂で構成されてゐるのに、 リズムの扱ひを現代的にすることで、「傳統」といふ言葉から避けがたく想像される古臭さを拂底してゐる。

かういった、傳統的な音樂を取り込んだ音樂が、これまでになかったわけではない。 が、さういったものはそれこそ Said の云ふ「オリエンタリズム」感溢れるものばかりで、 根本的なところで、北半球の匂ひが拭ひ難くこびりついてゐた。 Muslimgauze なんかがその典型だ(Muslimgauze は Muslimgauze で好きですけども)。

でも、最近は實際にその國の人たちが、自分たちで自分たちの傳統をアップデートしたものがたくさんリリースされるやうになった。 オリエンタリズムを一概に惡いと云ふつもりはないが、 まあ、それはもうたくさんあるので、 傳統を知る當人たちによるアップデートをもっと聽いてみたいといふのが正直なところだ。

3 月 24 日の album of the day で紹介されてゐた El Michels Affair の Yeti Season はなんとも形容し難いアルバム。

El Michels Affair でググると「インストファンクバンド」と書かれた商品ページがいくつか引っかかるのだが、 インストファンクを期待して聽いた人は、すぐ閉じてしまふのではないか。

ググって引っかかる言葉の中には cinematic soul といふものもあるが、 こちらのはうがいくらか正しく El Michels Affair の音樂を形容しているかもしれない。

とはいへ、クラブ受けがよささうなイタリア映畫のサントラなんかではなく、 インド映畫のサントラに入ってさうな、所謂ボリウッド的なものばかり。 ファンク要素どこっすか?

しかし、この氣の拔けたジャケと音樂はなんとなく癖になる。 買ふかどうかは微妙なラインだが、ほかではあまり聽けない珍しい音樂であるのは確か。

El Michels Affair よりストレートにファンク要素を感じられるのが 3 月 25日の album of the day で紹介された Izy のデビュー・アルバム Irene

ギター、ベース、ドラムのシンプルなスリー・ピース・バンドだが、 3 人全員によるコーラスも大袈裟でないのが新鮮だし、 ソウルとしての新しさはないものの、 曲はどれもストレートなソウルで、 凝ったものばかりの昨今のソウルの中にあって、 清涼劑のやうに爽やかにソウルの魅力を届けてくれる。 飽きずに何度も聽ける名盤。これからの季節にもちょうどいい感じ。

まさか Pharoah Sanders が Floating Points とアルバムを作るとは思はなかったが、 やっぱり話題になるんですね。3 月 26日の album of the day でばっちり紹介されてゐた。

ただまあ、Floating Points って、あんまり好きぢゃないんですよね。 いや、好きぢゃないって云ふと語弊がある。 惡くはないけど、別に好みぢゃないといふか…。 だって、別に新しいとこなくないですか?

そんなわけで、Pharoah Sanders と組んだこれも聽いてはみたけど、うーん。 何度も繰り返し出てくるテーマっぽいのは大したことないし、 音樂的には完全にアンビエントで好みから外れまくりだし(もっとテクノしてくれていいのに!)、 わざわざ London Symphony Orchestra まで迎へてご苦勞なことだとは思ふが、 たったこれだけのために LSO 雇ったの?と問ひたくなる。 ともすれば莊嚴と云へさうな音樂なので、名盤扱ひされる氣がしてならないが、 Pharoah Sanders らしさはあっても Pharoah Sanders のよさは出てないし、 Floating Points と LSO はらしさすらなく、がっかりさせられたアルバムだった。

3 月 29 日の記事 The Best Dance 12” Singles on Bandcamp: Feburary/March 2021 で紹介されてゐた Natalie Slade の Control Remixes は、聽いたときにちょっとした驚きがあった。 リミックスって、テクノっぽくなるのばっかりぢゃないですか。 なのに、それにあまりにヴォーカルがマッチしてゐたので、こりゃすごいなと思ったんだけど、 オリジナル版 を聽いてみたら、なんだもともとさういふ音樂なんぢゃないか。

といって、さっきの Pharoah のアルバムみたいにがっかりしたわけではなく、 寧ろオリジナル版のすばらしさに感嘆した。 すごくないですか、このアルバム?

昨年のリリースなので、ググると ele-king の記事なんかも引っかかる。 つまり、おれが情弱だったってことですね。 普段はあんまり氣にしないけど、このアルバムはもっと早く知っておきたかった。くそ。

で、このアルバム、プロデュースはなんと Hiatus Kaiyote のキーボード奏者 Simon Mavin。 ベーシストの Paul Bender も何曲かベース彈いてをり、なるほど先進的な音樂になってるのも納得。 デビュー作なのに豪華だな、と思ったけど、 冷静に考へたら Hiatus Kaiyote だってまだ 2 枚しかアルバム出してないんだった(もうすぐ 3 枚目出るけど)。

收録されてゐる曲のタイプは多岐に亘るが、 それらすべてをソウルとしか云へない氛圍氣に仕上げてしまふ Natalie Slade のヴォーカルが何よりすごい。 バッキングだけならソウルとは思へない曲だらけなのに、Natalie Slade のヴォーカルがあると完璧にソウルになってしまふのだ。 このアルバムを聽いて以來、ソウルの本質って何なんだらうと考へさせられることが多くなったほど。

このアルバムそれ自體もすばらしいが、 今後のソウル・ミュージックの發展を期待させてくれる點も嬉しい。 いやあ、優れたソウルのアルバムがたくさんリリースされてありがたいことですな。

3 月 29 日の album of the daySpeaker Music の Soul​-​Making Theodicy の紹介だった。

昨年リリースのアルバム Black Nationalist Sonic Weaponry は かなり話題になったアルバムで、 おれも初めて聽いたときは、昔の Autechre を髣髴とさせる脱臼した感じのリズムにグッときたものだが、 殘念ながら、このアルバム、何度も聽きまくってると飽きてくるんですよ。ワンパターンだから。

で、今囘の EP Soul​-​Making Theodicy でその思ひは一層強くなってしまった。 こいつ、このリズムしか作れねえのか?

先ほど、昔の Autechre みたいと書いたが、Autechre は同じリズムの曲を作るなんてことはしなかった。 いろんな方法でわれわれをガクガクさせてくれたし、 最近はまた新たな地平を切り拓きつつある(昨年の SignPlus の音の擴がり!)。

なのに、Speaker Music は昨年のアルバムも今囘の EP もずーっと同じリズム。 最初は新鮮だけど、それだけなんだよなあ。 かっこいいよ。かっこいいけど、同じことばっかやられましても…。

3 月 30 日の album of the day では The Alchemist がプロデュースした Armand Hammer の新作 Haram が紹介された。

去年の Shrines から一年も經ってないのにもう新作!

ヒップホップらしからぬ、抑制の利いたグルーヴ感のないクールなバッキングが特徴的な Armand Hammer だが、 このアルバムもさうした空氣は健在で、とにかく主張がうるさく、その所爲なのかバッキングが適當なものの多い凡百のヒップホップと違ひ、 ぼけーっと聽いてゐて苦にならないのがいい。 逆に、ヒップホップ聽きてえ!といふ欲望を滿たしてはくれないかもしれないが、個人的には全然あり。 普段からヒップホップ聽きてえ!と思ふことがほとんどない人間です故。

3 月分はこんなとこかな。前半はいまいちだったけど、後半にいいアルバムがたくさんあったので滿足。 4 月分以降はまた今度。 こんだけ拔粹してるにも拘はらず、量が多すぎてまとめるのも一苦勞なんです…。 メモばかりがどんどん増えていく日々。

Willem Breuker Kollektief

前囘の記事の最初に Chris McGregor's Brotherhood of Breath のことを書いた際、 大勢で明るいフリージャズをやってゐるバンドが好きだ、と書いた。 オランダの即興集團 Willem Breuker Kollektief (以下、WBK)もさうしたバンドのひとつである。

上に貼ったのは、恐らく 2004 年に來日し、SuperDeluxe で行はれたライヴの映像である (動畫に全く詳しい情報が書いてゐないため推測だが、 何度も足を運んだ SuperDeluxe を見間違へるとは思へない)。 歌入りの曲はライヴでは珍しくないが、 WBK の全體的なレパートリーの中では少ないはうなので、 この映像だけで WBK ってこんなバンドなのね、と判斷されると困るが、 この莫迦々々しくも愛らしい空氣は、まさに WBK のものであり、おれはこの映像が大好きなのである (もともとは Hunger! といふアルバムに收録された曲で、1922 年に書かれた曲のカヴァー)。

唐突に WBK のことを書く氣になったのは、2017 年に發賣されたボックスが、なぜかセールになってゐたからだ。 11 枚組で 50 ユーロ! 日本なら送料込みで 75 ユーロほどだ。およそ 1 萬圓ぐらゐ。安い!

このボックス、廃盤が多い(上に廃盤でないものも日本にはちっとも入荷してこない)ために入手が容易とは云へない WBK の音源をどかっと入手できるだけでなく、 既發表、未發表の曲を織り交ぜた上、リマスターまで施されてゐる、なんともお買得なボックスだ。

と云っても、WBK のことを知らない人にとって、いきなりボックスを買ふのはハードルが高いだらう。

幸ひにして、WBK の映像は公式にたくさんアップロードされてをり、 YouTube の彼らのチャンネルから簡單に見ることができる。 WBK のことをよく知らないなら、最初はこのドキュメンタリーなんかはいかがだらうか。

WBK が、他のフリージャズのバンドと違ふのは、 ジャズばっかりやってゐるわけではないといふところ。

上のドキュメンタリーでも Gershwin の Rhapsody in Blue や Satie の Parade を演奏してゐるし、 Leroy Anderson の The Typewriter のカヴァーが入ったアルバムもある。

オランダのフリージャズと云へば、Misha Mengelberg と Han Bennink の 2 人が有名で、 Willem Breuker の知名度はどうしても一段落ちる。 Misha Mengelberg と Han Bennink の 2 人はなんといっても Eric Dolphy の Last Date に參加してゐるのがでかいし、 ICP Orchestra だけでなく、Derek Bailey を始めとするインプロヴァイザーたちとの共演も多い。

翻って、Willem Breuker は ICP の創立メンバーの 1 人であるにも拘はらず、 早々に ICP と袂を分かち、その後はずっとほぼ Kollektief 一筋。 作品も自身の BVHaast からのリリースばかりだし、 音樂性も ICP に比べて惡く云へば中途半端だ。

ただ、中途半端といふのはフリージャズだとかインプロヴィゼーションといった視點から見た場合の話であって、 Breuker がライヴでやってゐた、演劇性の強い音樂といふ枠で捉へれば、 中途半端さを感じるやうなことはないし、それが WBK の魅力でもある。 それに、だからといって即興演奏が蔑ろにされてゐるわけでもなく、 寧ろ Willem Breuker は即興演奏に厳しい人だった (どこのインタヴューで讀んだのか忘れてしまったが、そんな話をしてゐるインタヴューを讀んだことがある)。

ICP Orchestra のアルバムも樂しいが、WBK のアルバムはもっと樂しい。 ジャズのことなんて知らなくても樂しめる WBK、この機會に聽いてみてはいかが?