When the Music's Over

音樂の話とゲームの話

Mike Patton

ヴォーカルといふのは殘酷なパートだ。 聲質だとか音域だとか、自分にはどうにもならない部分が根幹になってゐて、 それなのに、あるいはそれゆゑに、最も目立つ位置にゐる。

反面、他の樂器に比べ練習量が少なくても人前に立つことを許されてをり、 少なくともここ 50 年ほどのポピュラー音樂は、歌が入ってゐるのが當たり前になってゐて、 技倆や才能に優れてゐない人間がヴォーカリストを務めることは珍しくもなんともない。

だからおれは、さういふ無批判な歌の入ってゐる音樂にはほぼ興味がなくなってしまった。 こちらだって金と時間を費やすのだから、つまらないものは聽きたくないのだ。

そんな偏屈なおれが愛してやまないヴォーカリストの一人が、Mike Patton である。 このブログはゲームの記事を讀みに來てるんで音樂はわかんないっす、 といふ人でも大抵のスチマーなら Mike Patton の聲は知ってゐる。 この人だからだ。

これのどこがヴォーカリストやねん、と思はれたかもしれない (2K の The Darkness II で The Darkness の聲やってるのも Mike Patton)。 でも、Mike Patton は實際にかういふことをやってゐる人だ。 例へば、John Zorn とやってる、通称 Moonchild Trio のこれ。

いや待って。讀むのをやめないで。 かういふ紹介の仕方は Mike Patton にフェアぢゃなかった。 なんたって、Mike Patton の活動で最も知られてゐるのは間違ひなく Faith No More である。 おれはメタルが餘り好きではないので、Faith No More もほぼ聽かないのだが、 Faith No More でなくたって、Mike Patton が普通に唄ってゐる曲はたくさんある。

かあああっこいいいいいいいいいいいいいいいいい。

失禮。 この曲、舊は Jacques Brel といふフランスのシャンソン歌手による曲だが、 この演奏の下敷きになってゐるのは Scott Walker(今年春に亡くなってしまった、合掌) のヴァージョン。 ソロデビューシングルだっただけあって、Scott Walker のヴァージョンもすばらしいのだが、 あの Scott Walker の卓拔した聲に對して、Mike Patton も全く引けを取ってゐないのがすごい。 Mr. Bungle 時代の盟友 Trey Spruance 率ゐる Secret Chiefs 3(この曲は Traditionalists 名義)の演奏も見事。 ひたすらにうっとりさせてくれる Scott Walker。 歌詞の内容に應じて唄ひ方を變化させる Mike Patton。 甲乙つけられませんよ。 もちろん、Scott Walker のヴァージョンあっての Mike Patton ヴァージョンではあるけども (とはいへ、Mike Patton は後半をフランス語で唄ってゐるから、 Scott Walker だけでなく、オリジナルの Jacques Brel も參考にしたのは間違ひない)。

Mike Patton の殘念なところは、重い曲や變な曲が多いことだ。 Faith No More や近年の Dead Cross はどっちもかなりメタル色が強いし、 Fantômas や Mr. Bungle は變な曲だらけ。 John Zorn との諸作については語る必要もあるまい。

いやね、音樂として聽く分には、變な曲のはうが好きだよ。 Mr. Bungle とか John Zorn とのやつはよく聽くしね。 で! も! Mike Patton の歌ももっと堪能したいの!!!

こんなおれの欲求をばっちり滿たしてくれるアルバムが、1 つだけある。 Mondo Cane だ。

Mondo Cane はイタリア人女性と結婚して Mike Patton がイタリアに住んでゐた頃に知った、 イタリアの少し古めの歌謠曲のカヴァーで構成されたアルバムである。 したがって、變な曲が入り込む餘地はなく、Mike Patton の歌を味はひ盡くせるのだ。

これがもう、超名盤(ステージに痰を吐くのはいただけないが)。 歌もののアルバムといふ觀點なら、人生でトップ 10 に入るぐらゐ好きだ。 Jackie もさうだったけど、もっとどんどんカヴァーやってほしい。 Serge Gainsbourg の Ford Mustang もよかったし、 John Zorn とやった The Big Gundown での Morricone のカヴァーも秀逸だった。

Mike Patton のできることが幅廣すぎて音樂もそれに應じたいろんなものが發表されるのは嬉しくもあるんだけど、 ああいふの、耳が忙しすぎるんだよ。 Mike Patton の歌だけに集中して聽くことができない。 その點、カヴァーなら曲のはうには餘り集中しないで濟む。

あと、イタリア語ってのがいいんですよ。 イタリアのチンピラの親分みたいな見た目の Mike Patton にぴったりの言語だと思ふ (全くどうでもいい話だが、おれは Mike Patton の容姿も大好きである)。 實に樣になってゐると思ひませんか?

一應、Mike Patton 自身のレーベル Ipecac から普通の歌ものもリリースされてはゐる。 ちょっと前に出た Jean-Claude Vannier(Gainsbourg の Histoire de Melody Nelson のアレンジをしたことで有名なフランスの作曲家) との共作 Corpse Flower とかね。 でも、全然足りない!! もっと普通の歌のアルバム出して!!!!  オルタナティヴ系に比べて、普通に唄ってるやつの比率が少なすぎるんですよ!!!!!  おれは、もっと Mike Patton だけの魅力を前面に出したアルバムが聽きたいの!!!!!

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