When the Music's Over

音樂の話とゲームの話

jaimie branch

去る 8 月 22 日、jaimie branch が亡くなった。39 歳だったらしい。 夭逝といふ言葉が相應しい、才能に溢れたミュージシャンだった。

jaimie branch がミュージシャンとしてデビューしたのは 2006 年頃だが、 彼女の名前が知られたのは、2017 年に Fly or Die をソロ名義で出してからだ (それまではバンドの一員として演奏者のところにクレジットがあっただけで、 自分の名前を前面に出したアルバムはこれが初)。

リリース元はシカゴの International Anthem で、 branch はこのほかに FLY or DIE II (2019)FLY or DIE LIVE (2021) の計 3 作を自身の名義でリリースしてゐる。

それ以外の近年のリリースとしては、やはり International Anthem から Jason Nazary とのデュオ Anteloper で Kudu (2018)Tour Beats vol. 1 (2020)Pink Dolphins (2022) の 3 作がある。

まあ、Anteloper は電子音 + トランペット + ドラムといふ、 Chicago Underground Duo と丸被りの構成で、 正直 Chicago Underground Duo のはうが壓倒的にいいのだが、 ソロ名義のはうはジャズ史に殘る傑作なので、 ジャズ好きを自稱する人間なら、須らく聽くべきだ。

jaimie branch のカルテットは、編成がちょっと變だ。 ベース(Jason Ajemian)、ドラム(Chad Taylor、Chicago Underground Duo の!)はともかくとして、 もう一人がチェロ(1st は Tomeka Reid、以降は Lester St. Louis)なのである。

そもそもチェロがジャズどころかポピュラー・ミュージックであまり使はれることのない樂器だが、 違和感は全くないどころか、 このカルテットはこの 4 人でベスト、とまで思はされてしまふのだから見事だ (Tomeka Reid がリーダーの Tomeka Reid Quartet も チェロ、ベース、ギター、ドラムといふ、やはりちょっと變はった編成だが、 このカルテットもめちゃくちゃかっこいい──しかも、ギターはなんと Mary Halvorson!)。

バンド編成以外で特徴的なのは、 やはり jaimie branch がヴォーカルを務める曲があることだらう。

全體を見れば、ヴォーカルの入った曲は多くない。 それでも、それらの曲が印象に殘るのは、 それが叫びであり、禱りであるからだ。

最初に貼った jaimie branch の寫眞を見てほしい。 あの寫眞の彼女のスタイルは、ジャズミュージシャンといふより、ヒップホップアーティストやパンクロッカーである。 やってゐる音樂こそジャズだが、精神的にはパンクやヒップホップに近いのだらう。 尤も、フリージャズだってかつては黒人の公民權運動と連動した、社會的なムーヴメントだったわけだが。

jaimie branch の音樂には、さういふ、弱者を鼓舞する響きがある。 鼓舞、などといふと偉さうに聞こえるかもしれないので、 聯帶と云ったはうがいいかもしれない。

ただ、ここで敢へて鼓舞といふ言葉を使ったのは、 jaimie branch の音樂が、どことなく Albert Ayler を思はせるものだからだ。

Ayler の音樂は、まさしく鼓舞であった。 單純なフレーズと明るさを持った、行進曲のやうな Ayler の樂曲群は、 恐らく Ayler が軍樂隊に所屬してゐた影響が大きいのだと思ふが、 行進曲っぽさが全くない jaimie branch の曲も、 單純なテーマを何度も繰り返す構成のものが多く、 そこがそこはかとない Ayler らしさを感じさせるのだ。

殘念ながら、jaimie branch は Albert Ayler と同じく、若くして亡くなってしまった。 今後、どんな音樂を作ってくれるのか樂しみにしてゐたアーティストの一人だったので、 彼女の死はとても悲しい。 おれの好きなアーティストは既に亡くなってゐたり、 たっぷり作品を出してくれてゐたりするアーティストばかりなので、 jaimie branch のやうな、まだまだこれからといった感じの人は貴重だった。 安らかに眠れ、と云ふのが適切なのはわかってゐるが、 なんかの間違ひで黄泉がへってきてくれんもんかなあ。

合掌。