この歳になってもせっせと新しい音樂を探し續ける動機は、 「聽いたこともないやうな音樂を聽きたい」といふ、至極單純なものである。
が、そんなものはさうさう見つからないし、さうでなくとも面白い音樂は山ほどリリースされる。 さうして普段聽くものは、「既に好きだとわかってゐる音樂で、少し新しいところがあるもの」ばかりになる。
といって、新しいところがないものは聽かないのかといふと、別にそんなことはない。 そんなことはないが、新しいところがないものはどうしても基準が高くなり、 わざわざ買って聽くには至らないものがほとんどだ。
その厳しい基準を易々と超えてきたのが The Heliocentrics だ。 初めて聽いたときに思った。あ、これはおれの好みにドンピシャぢゃないか、と。
The Heliocentrics の音樂ジャンルは、ざっくり云へばクラブ・ジャズである。
普段、おれはクラブ・ジャズはほとんど聽かない。 なぜって、大體どれもおんなじだからだ。 クラブ・ジャズはモダン・ジャズのやうにアドリブ重視ではなく、 ジャズ・ファンクやソウル・ジャズの流れに位置する、 ジャズの持つダンス・ミュージックとしての側面を強調した音樂なので、 はっきり云ってしまへば、音樂的な刺戟に乏しい。 好みの音樂ではあるんだけど、既に新しいものがほとんど生まれないジャンルだ。
そんな中で、The Heliocentrics を特別扱ひしてしまふのは、なんたってサイケだからである。
このサイケ具合! 最後のはうにちょろっと FZ の Willie the Pimp のリフが入ってくるのも憎い。 え、ジミヘンですよね?みたいな曲もある。 まあ、これらはクラブ・ジャズといふよりかなりロック寄りだけど (Pretitleのサイケさとかもう最高)、 そもそも The Heliocentrics はコラボもののアルバムも多く、クラブ・ジャズ一邊倒ではない。 ヒップホップだってお手の物だ。
コラボの相手は實に澁く、エチオ・ジャズの創始者 Mulatu Astatke、 ペルシャやアフガニスタンといった中東の音樂とジャズを融合した Lloyd Miller、 Fela Kuti ばりのアフロビートを Fela Kuti よりシンプルに聽かせる Orlando Julius (しかもおれの大好きな JB の The Popcorn に入ってる曲のカヴァー!)なんて具合に、 名前だけは知られてる、正道からちょっと外れたジャズ・ミュージシャンばかり。 それでゐて、全部かっこいいんだからすごい。
昔、イタリアに Plastic といふレコード・レーベルがあって、 そこがちょこちょこサイケなジャズ・ファンクのコンピを出してくれてゐたので、 せっせと買ひ集めてゐたのだが、 The Heliocentrics は Plastic の中でもおれの好きだった曲ばかりを集めたやうなバンドなので、 このジャンルに對する欲望はもうすっかり滿足してしまった。 寧ろ、おれがなぜクラブ・ジャズにそれほどのめり込めないのかがわかってしまった。
足りないのは、サイケだったんだよ!!!
- アーティスト:Heliocentrics
- 発売日: 2020/09/11
- メディア: CD
- アーティスト:Heliocentrics
- 発売日: 2020/02/14
- メディア: CD