When the Music's Over

音樂の話とゲームの話

Suicide

疫病の第二波が來るだの來ないだのと騷がしい今日この頃だが、 もし假に自分が死ぬやうなことがあったら、 葬式ではこの曲を流してほしい。

まあ、さすがに Suicide のオリジナル・ヴァージョンだとドラムマシンの音が間拔けすぎるので、 Neneh Cherry & the Thing のヴァージョンにでもしてもらひたい。 Suicide は Suicide によって演奏されてゐる必要がそれほどない稀有なバンドだからだ。

實際、Suicide の曲はえらくシンプルである。 彼らはパンクに分類されてゐるが、 Sex Pistols のやうな猥雑さとは無縁で、 「ロックはシンプルなもんだろ! ホーン隊とかストリングスとか入れてんぢゃねえ!」といふ、 パンクの主張に合致する形態だからパンク扱ひされてゐるだけなのではないか、とすら思ふ (パンクといふ語が一般的になる前から自稱してゐた、との説もあるが)。

なんたって、ドラムマシン、Martin Rev による安っぽいシンセ、Alan Vega のヴォーカル、 たったこれだけが、Suicide の音樂を形作ってゐるのだ。

シンプルなのはバンド形態だけではない。 例へば、上に舉げた超名曲 Dream Baby Dream は、 G、C、D の 3 つのコードが繰り返されるだけの曲だ。 Dream Baby Dream は 2nd に收録されてゐるが、 1st に入ってゐる Cheree もやはり G、C、D の 3 つのコードだけでできてゐる。

編成もコードもシンプルで、ほとんど骨組みのみのやうに思へる Suicide の音樂は、 だからこそ、逆に音樂の持つ力強さを傳へてくれる。

實際、冒頭にも書いたが、Suicide の曲は Suicide によって演奏される必然性があまりない。 もちろん、やる氣なさげな Alan Vega のヴォーカルも、 曲に最低限の花を添へる Martin Rev のシンセも Suicide には缺かせない。 でもそれは、Suicide といふバンドにとっての話で、 Suicide の曲に Suicide が必要かと問はれれば、別にそんなことはないのだ。

それは、例へば Bruce Springsteen による Dream Baby Dream を聽けばわかる。

個人的に、これはだいぶ大仰で、神祕的ですらあるから、あんまり好きなヴァージョンではない。

しかし、これが Suicide の曲が持つ力を存分に引き出したものであることに、異議を唱へるつもりはない。 飾り付けが變はっても、根幹にあるのは Suicide であり、 根幹に Suicide があっても、飾り付けによって大きく味はひの變はる音樂、 それこそが、Suicide のすごさなのだ。

殘念ながら、さうした Suicide のシンプルな魅力に氣づいてゐる人は多くない。 Alan Vega の特徴的なヴォーカルや、Martin Rev のスマートかつ攻撃的なシンセもいいのだが、 彼ら 2 人が、非常に優れたソングライターであること、 そしてそれが、この録音全盛時代にあって、 演奏者どころか樂器すら違ってもそのよさを保持するであらう強度を持った曲であることは、 もっともっと知られていいと思ふ。 定番のコード進行ってすげえんだな、といふことを改めて思ひ知りますよ。

Suicide [12 inch Analog]

Suicide [12 inch Analog]

  • アーティスト:Suicide
  • 発売日: 2019/10/04
  • メディア: LP Record
Second Album

Second Album

  • アーティスト:Suicide
  • 発売日: 1999/05/04
  • メディア: CD