When the Music's Over

音樂の話とゲームの話

Led Zeppelin: Houses of the Holy

齢を重ねると好みが變はる、といふのは往々にしてあるもので、顕著なのは味覺だが、聽覺にもさうした變化は訪れるらしい。

このブログのタイトルにしてゐる The Doors When the Music's Over なんかは、 初めて聽いたときから今に至るまで、The Doors の曲の中で不動のトップをおれの中で堅持してゐるが、 さういふのは少數派である。 そもそも、昔は好きだったが、もはや興味がなくなってしまったといふバンド(あるいはアルバム)だって多い。

そんな中、The Doors と同じく、10 代の頃から聽き續けてゐる Led Zeppelin だが、 今でも聽くアルバムといふのはだいぶ減ってしまった。 In throught the Out DoorPresence などは全くと云っていいほど聽かないし (Presence は、この先偏愛することになるのではないか、 といふ豫感めいたものを覺えはするが)、 初期作品でも昔はよく聽いた III なんか今やちっともだ。

だが、ずっと聽き續けているアルバムもある。 それが Houses of the Holy だ。

初期のブルーズ・ロックを基本とした路線が前作 IV で 誰もが認める完成を見せ、新しい方向性を見せた作品。 このアルバムの一般的な位置づけはさうなってゐる。

が、このアルバムで示されたやうなバラエティが他のアルバムでうまく結実したことはない。 Physical Graffiti は過去のアウトテイクをいくつも使ってゐる所爲で 水増し感が否めないし、Presence は傑作だが豊かさで及ばない。 出涸らしの In through the Out Door においては、何をか言はんや、だ。

10 代の頃は The Song Remains the SameThe Rain Song が最高だと思ってゐた。 アルバムの幕開けに相應しい爽快な疾走感と透明感を持つ曲から、 一転してしっとりと、それでゐて雄大かつドラマチックな曲につながる樣に完全に參ってゐた。

若い頃であったから、人並みにギターが好きだったのである。 今やギターといふ樂器に魅力を感じることはほとんどなくなってしまったが、 ロックといへばやはりエレキギターであり、これは当時のおれにとってもさうであった。 そんなおれにとって、この 2 曲は静と動という ギターの魅力の両側面を余すところなく味ははせてくれる、 これ以上ない曲だったのだ。

20 代は、The Crunge から No Quarter までの 4 曲 ――特に夢中になったのは The Crunge――だ。

踊ってなんぼのファンクなのに、素直に 4 拍子にしない厭らしさ。 當時はちょうど AutechreConfield といふ 世にも氣持ち惡いアルバムが發表された頃で (このアルバムについては、また別の機會に詳しく書きたい)、 この、テクノのくせに踊ると脱臼しさうになるアルバムを聽き狂っていたので、 さうした妙ちきりんなものに殊更惹かれた、といふのもあるかもしれない。

だが、Autechre があれだけガクガクであるのにテクノらしさを保持してゐるのと違ひ、 Led Zeppelin のこの曲にはファンクらしさ、いや、黒さがまるでなかった。 恐らく、似せようとすらしてゐないだらう。 そのくせ、JB の適当な歌詞はパクるバランス感覺。

アルバム B 面に收録されてゐる D'yer Mak'er *1 も タイトルやリズムは完全にレゲエだが、やはりレゲエとは云へない。

The Rolling Stones のように、流行りものがあるとすぐそれを採り入れ、 なんとなくそれっぽいものに仕上げてしまふものもゐるが、 Led Zeppelin はさういふバンドではなかった。

確かに、初期のブルーズを主体としてゐた頃にはさうであったかもしれない。 しかし、少なくとも Houses of the Holy の頃の Led Zeppelin は さうしたものをジョークとして、軽く消化してみせるだけの力を持ってゐた (これを書いてゐてようやく得心したが、だからおれは Kashmir が あまり好きではないのだな。ガチでやられても困る)。

この頃、おれが首っ丈だったのは John Paul Jones であった (もちろん今でも大好きだが)。 餓鬼の頃は、ベースなどといふ樂器に注視なんぞしない。 同年代の The Who ほどわかりやすく目立ってゐれば別だが、 さうでもない限り、地味な扱ひを受ける樂器である。

だが、John Paul Jones の演奏は、どれもこれもすばらしい。 流麗なキーボードもいいが、ベースの腕は際立ってゐる。 例へば、2nd に收められた Thank You を 聽いてみるがよい。 この曲のベースをしっかり聽いて猶 John Paul Jones のすごさに氣附かぬやつは阿呆だ。

一人だけ Motown から来たんぢゃないか、と思へるほどの躍動感。 今でも Led Zeppelin といふバンドを聽き續けてゐられるのは 眞っ黒けにソウルフルな John Paul Jones と ロックドラムの體現者たる John Bonham といふ 不世出の天才演奏者 2 人の存在があってのことだと思ふ。

30 代も終わらんとしてゐる今は、Over the Hills and Far AwayThe Ocean ばかり聽いてゐる。

Over the Hills and Far Away は、 バラエティに富むこのアルバムにおいて、最も初期の空氣を保った曲であらう。 派手さはないが、落ち着いた氛圍氣でこれ見よがしなところもない佳曲だ。

The Ocean は今や Led Zeppelin で最も好きな曲である。

この曲の魅力は、何と云っても John Bonham のドラムだ。 もともとパワフルな John Bonham のドラムが、 この曲では溜めに溜められた上で放出される。 重くドタドタっとした音なのに、氣持ちよくてたまらない。 こんなドラムが叩けるのは、John Bonham の外にはいない。

同じやうに溜めのたっぷり効いたドラムが聽きたければ、 Physical Graffiti に收録されてゐる In My Time of Dying がよい (John Paul Jones のベースなら II にとどめを剳す)。 The Ocean とともに、 現在おれの中で Led Zeppelin 好きな曲ランク 1 位を争ふ、 録音されたことに感謝を捧げても惜しくないレベルのすさまじい曲だ。

恥ずかしながら、おれは John Bonham の天才に氣附くのに 15 年ほどかかった。 ロックドラムの大半は、Keith Moon のやうな破天荒な例外を除けば 型にはまった大層つまらないもので、 魅力を感じることなどなかったのだ。 今でも、ロックのライブで演じられるドラムソロほど退屈な音樂はないとすら思ってゐる。

そんなおれが、一體どんなきっかけで John Bonham のドラムのすばらしさに氣附いたのか、 これは自分でも全くわからない。 なんだかわからぬ間に虜になってゐた。 だから、何がそんなにすばらしいのかも、いまいちわかっていない。 おれにわかるのは、John Bonham のドラムが只管にかっこいいものであって、 これこそがロックなのだらう、といふことだけだ。

40 代になったおれが、どの曲を好きになってゐるかはわからない。 今さら Jimmy Page や Robert Plant の魅力に改めて氣附くなどといふこともなささうである。 しかし、おれが Led Zeppelin を聽き續けてゐるだらうことだけはわかる。 なぜなら、Led Zeppelin ほどロックといふ音樂を 見事に結晶させたバンドは、今のところ外にないからだ。

Houses of the Holy [REMASTERED ORIGINAL1CD]

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  • アーティスト:Led Zeppelin
  • 発売日: 2014/10/28
  • メディア: CD

Led Zeppelin 2 [REMASTERED ORIGINAL1CD]

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  • アーティスト:Led Zeppelin
  • 発売日: 2014/06/04
  • メディア: CD

PHYSICAL GRAFFITI [REMASTERED ORIGINAL 2CD]

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  • アーティスト:Led Zeppelin
  • 発売日: 2015/02/24
  • メディア: CD

*1:did you make her の略だが、これはもちろん、斷固としてジャメイカと發音すべきである。